お嬢様がGBNにいるわけないだろう! 作:プラ板の削りカス
フィアのビートνガンダムも塗装とトップコートが終わって、いよいよデビュー戦を控えていた私たちは、迷っていた。
私とルカとピケストが暴れ散らかすだけで、大概の相手はなんとかなるという自信はある。
でも、それではフィアをキャリーしているだけで、実力と自信を正しく身につけさせる方法にはならないからだ。
「ねえ、なんかいい感じにフィアの経験が積めて、私とルカも気持ちよくなれるイベントとかあったりしない?」
GBNのロビーに置いてあるベンチに腰掛けて、私はルカとピケスト、そして正規のダイバーとしてログインしたフィアにぐでーっとした姿勢で問いかけていた。
「そう簡単に見つかるのであればお嬢様やルカ様が既に嗅ぎつけて見つけているでしょう、怠惰なのはよろしくありませんよ」
「普段胡乱なことしか言ってないのに、急に正論で人を殴るのやめない?」
ピケストのナチュラルボーンちくちく言葉には慣れてきたつもりだけど、流石に正論で殴られたら、私だって頭に血が上るわよ。
でもそうなのよねぇ、私のセンサーに引っかかるものならルカだってとっくに見つけてるだろうし、かといって今更NPDを相手にしたって萎えるだけだし。
対人戦の喜びを知ってしまった人類は、もうアーケードモードに戻れないのだ。
「初心者も上級者も等しくクリア条件が設けられていて、かつ、わたくしたちが退屈しないイベント……難しいですわね」
「ミッションとか探せばあるのかもしれないけど、触ったことないからなあ……」
私たちがやってきたのは軒並みフォース戦とかマスダイバー狩りとかそんな感じだし。
果たして無数にあるとされるGBNのミッションに、フィアの特訓にもなって、私たちを満足させるだけのものはあるのか。
などと頭を悩ませていたときだった。
「それならば、明日に開催される無双ロワイヤルミッションはどうだ? 『レディビルド』」
通りすがりのダイバーが声をかけてきた。
無双ロワイヤルミッションねえ、なんか食い合わせ悪そうな悪魔合体だなあ、と正直、気乗りしないまま顔を上げると。
そこにいたのは、銀髪に銀の鎧という騎士のような出立ちをした男──ダイバーネーム「シド」こと、シドウ・マサキその人だった。
やべー、原作で洗脳悪堕ちしてたクマに異様に詳しい人じゃん。
放っておくとこの人もエルドラからの呼びかけに応えて破滅フラグを踏んでしまうんだよなあ。
それこそエサに釣られて檻に入れられたクマの如く。
「今、クマのことを考えていなかったか」
「えっ怖」
なんで心読んでくるんだこいつ。
ニュータイプか?
前世で煽りにしか使われなかった哀しき定形文を思い返して勝手に思い出し怒りが発動しそうになっていると、クマサキくんは唐突に口火を切って、語り始めた。
「君たち『レディビルド』はさながら人里に降りたヒグマだ、生まれながらに強くあるが故に弱者に手を差し伸べるのが難しく、また自身の欲求にも貪欲な姿はまさしくヒグマの生態と重なる部分がある。しかし人里を荒らすのにも飽きてきたなら、山に帰ってみるのも一つの手かもしれない……現実のヒグマはそんな風に考えられないが、君たちには考える力がある」
「人のことナチュラルにヒグマ扱いするのやめてくれます?」
「あらあら、ユニークで面白い殿方ですわね」
「つまり──無双ロワイヤルミッションは、新しく打ち出されたイベントだ。規定時間内にNPDをどれだけ多く狩れるかという無双ミッションと、規定時間内に他のダイバーから生き残れるかというサバイバルミッションの要素を掛け合わせている。俺ももちろん参加するつもりだ」
クマのくだりはなんだったんだよ。
ただ、なるほど。
クマサキくんの言いたいことは読めてきた。
「それって、つまり……?」
「簡単な話だ。NPDを倒した数に応じて、ダイバーを倒したときのポイントも増える。つまりNPDを相手に練習しつつ、対人戦の動きも学べる、小熊が狩りを学ぶときのように、今の君たちに向いたミッションだということだ」
だからいちいち挟まれるクマの例えはなんなんだよ。
ピケストも笑いそうになるのを堪えてるんじゃあないよ。
私は呆れ半分といった様子でクマサキくんの解説を聞いていたけど、言っていることは確かに今の「レディビルド」が求めている条件とピッタリだ。
ただ脱落したらそこで終わり、ではなく、NPDを倒した数という加点要素と、加点ポイントを横取りして対人戦に誘導する線を敷いた、いいイベントなのに違いはない。
無双ロワイヤルミッション、悪くないじゃないか。
私たちはいつも通り手当たり次第に襲いかかってくる敵とダンスを踊ればいいだけだし、フィアは対NPDで練習にもなる。
「……ってか、そんな美味しいイベントあったのに告知とかしてないの?」
「君たちが運営からのお知らせを読んでいないだけだと思う」
「そういえばそうでしたわね、ブレイクデカール騒ぎも一段落した今、運営の細々としたアプデ報告とかはどうでもいいですから」
「ぼくはメッセージボックスの開け方がわからなくて……」
「開ける意味がないので開けておりません」
こ、こいつら。
まあ、私も運営からのお知らせなんて読む前にゴミ箱に放り捨ててたけどさあ。
それにしたってフォース4人全員がこの有様では、クマサキくんが私たちを人里に降りてきたヒグマ扱いするのも無理はなかった。文明の利器を全く使いこなせていない。
「今回の無双ロワイヤルミッションは名だたるダイバーたちがエントリーを決め込んでいる。締め切りは今日の23時59分までだから早めにカウンターで申し込んでくるといい」
「待って!」
それだけ告げて、クマサキくんが踵を返した刹那、私は思わず叫んでいた。
「……どうかしたのか? まさか、エントリーの仕方がわからないとか」
「もしドラゴンみたいなNPDからミッションへの参加を持ちかけられたら、必ず私たちかチャンピオンに相談しなさい。それだけよ」
クマサキくんは確かに強かった。
強かったが故に──1人で、なまじいいところまで行けてしまったから、原作の悲劇を辿ることになったのだ。
だから、私は釘を刺したかったのだ。ヒロトくんたちと違って、そこまで深い関わりがあるわけじゃないから、どこまで信用してくれるかはわからないけど。
「よくわからないが、肝に銘じておく。それでは」
よかった。
信頼してくれているわけではないんだろうけど、記憶の片隅ぐらいには留めていてくれそうだ。
2年後なんて先のことはわからないし、その頃にはクマサキくんも忘れてるかもしれないけど、これが今、未来に打てる精一杯の布石だった。
†
「戦いのテーマパークに来たみたいだぜ、テンション上がるなぁー!!!!」
エントリーを済ませた私たちは、翌日早速無双ロワイヤルミッションに参加していた。
有象無象のNPDを蹴散らしてポイントを適当に稼ぎながら、ハイエナ狙いで釣られてきた連中もボコしてポイントの肥やしにする。
うーん、完璧すぎるサイクルだ。永久機関が出来上がってしまったわね。
「あらあら、あらあらあらあら? ポイントをたくさん持っているわたくしたちをお狙いに? でしたらあまりにも考えが浅はかだなぁこの短小がよぉ! 実力に自信がないからテメェらみてーなのは闇討ちハイエナなんてつまんねえことするんだよ!」
おお、ルカも絶好調だ。
クロー・アームで捕縛したマラサイを大木に叩きつけて、ビーム・サーベルをコックピットに突き立てていた。南無。
肝心のフィアは、NPD相手とはいえ、初心者とは思えない動きで着々とポイントを貯めつつある。
「これがガンプラで戦うっていう感覚……なんだかお腹の下がきゅんって疼くみたいだ……! 行けっ、フィン・ファンネル!」
「ご安心くださいフィア様、なにかございましたらこのピケストがお守りいたしますので。おっとハイエナにドラゴンズブレスと」
戦いに夢中になっているフィアを狙っていたハイエナのガンダムピクシーが、ピケストのヴィシャスが放ったドラゴンズブレスに森ごと焼き殺される。
可哀想に。
物陰に隠れてステルスキルを露骨に狙いすぎるからそうなるんだけどね。
「なるほどね、クマサキくんが言ってたのはこういう仕様か……!」
ポイントを多く保有しているダイバーの位置は、参加している全てのダイバーに共有されるようになる。
現在ぶっちぎりでトップを走っているのは、私たちだけじゃなく、クマサキくんやヒロトくんといった錚々たる面々が軒を連ねていた。
っていうかヒロトくんこの無双ロワイヤルミッションに参加してたんだ。多分マーズフォーの実戦テストでもしてるのかな。
それは会って戦えばわかることだ。
手当たり次第に敵を倒していけば、そのうち順当に勝ち上がってきたヒロトくんやクマサキくんとは戦えることだろう。
だからまずは目の前に立ちはだかるNPDの群れにも、背後から私たちを狙ってくる不届者にもご退場いただかなければ──などと、呑気なことを考えていた、刹那。
ぞくり、と背筋が粟立つ。
そして、どくん、と心臓が強く跳ねる。
来る。とてつもなく──強烈ななにかが。
『見つけたぜ……「レディビルド」ォォォォォ!!!!』
咆哮と共に、漆黒の機影がNPDを蒸発させて、私たちに襲いかかってきた。
あの孤独なsilhouetteは……!?