お嬢様がGBNにいるわけないだろう! 作:プラ板の削りカス
フォース「MU DISH」の特徴らしい特徴といえば、ヒロトくんたちと戦っていたときの煙幕とジャミングを併用した奇襲戦術だったけど、あれはシチュエーションに合わせてそうした可能性が高い。
そもそも、原作初期とはいえ、ヒロトくんとメイちゃんとパルくんをまとめて相手取れるような猛者であるゴジョウさんが、私たちの戦術を知らないはずはないと見て間違いないだろう。
なんの因果か、戦いの舞台に選ばれたのはRe:RISEと同じ列車防衛戦のシチュエーション。
防衛対象の列車が通過するのを守るのが私たち「レディビルド」で、阻止するのが「MU DISH」というのもなかなか趣深い。
「敵は十中八九、こっちの出鼻を挫いてくると見ていいわね」
恐らく、原作で披露したジャミングとスモークの併用戦術を使ってくる可能性は高いけど、それにプラスアルファでなにかあると思っておいた方が精神的には楽だ。
私たちの戦術は、よくいえば相手の戦術を上から押し潰して有利を取るスタイルだけど、悪くいえばマンパワーに依存したゴリ押しでしかない。
ゴジョウさんぐらいの強者となれば、出鼻を挫こうと思ったら簡単に挫くことはできるだろう。
「考えられるのは……ビーム撹乱幕、でしょうか? ミキ」
「ええ、ルカ。ハウリングバスターライフルの一撃は戦況を一気に傾ける力があるけど、メタろうと思えばいくらでもメタれる」
ビーム撹乱幕に限らず、手段はいくらでもあると思っていいだろう。
そして、こういう状況で実弾武装に乏しいのが「レディビルド」の弱点だともいえた。
思いつく限りではピケストのドラゴンズブレスぐらいだろうか?
「お嬢様。では一つ、このピケストに秘策がございます」
「秘策?」
「敵が霧に紛れて、こちらの動きとお嬢様による戦況の撹乱を封じてくることは明らか。でしたら、この状況を逆手に取るのはいかがでございましょう」
「と、いうと?」
「ルカ様のイカロス・ユニットにはサイコ・ブレードが、そしてフィア様のビートνガンダムにはサイコ・フレームが搭載されております」
ははーん。
ピケストの提案は、考えてみれば目から鱗だった。
敵は完全に、ジャマーとスモークでこっちの目と耳を潰したと思い込んで作線を組み立ててくるだろう。
そこに一手、ビーム撹乱幕を添えればこっちの初動は完全に潰すことができる。
恐らく、切り込んでくるのはカザミくんとユウリさんでしょうね。
奇襲の本命はユウリさんで、カザミくんはあくまでも陽動のための囮だとして。
ミミちゃんという原作にいないイレギュラー要素がどう働くかは気になるけれど、私がもしゴジョウさんだったら、間違いなくサガリくんの護衛として配置するか、遊撃手として自由にさせておくかの二択を選ぶ。
半分どころか八割ぐらい不利な状況で、いかに早くサガリくんのIWACディンをどう潰すかが課題ではあるけど、そこはピケストの「秘策」を信じる他にない。
そうなると、身体を張って道化を演じなければいけないのは私か。いいじゃん、たまにはこういう頭を使った戦いも。
「では、作戦は決まりましたね」
「ええっ!? ミキ、今のでピケストがなにをするのかわかったのかい? ぼくにはさっぱり……」
「ふふふ、フィア様にはミッション当日にご説明いたしますので、今しばらくお待ちくださいませ」
フィアも戦闘民族として目覚めたけど、まだまだ素直で純真無垢な一面は抜けていない。
この作戦は、言い換えるのなら一発ネタだ。
タネが割れれば、容易に対策されてしまう。
しかし、誰も「そんなバカなことをやる」なんて思わないからこそ、有効手段として機能するのだ。
コロンブスの卵ってやつね。
要するに、蓋を開ければ大したことはないけど、最初に実行したやつが正義ってことよ。
さて、待っていなさいよ「MU DISH」。
明日のディナーは君たちに決めたのだから。
ゴジョウさんも、頭を使うのはいいけど、たまには理性を捨てて剥き出しの闘争本能でファイトするフィールドに飛び込んでみるのも悪くはないんじゃないかしら?
†
あたし──フカミ・ミミは、カザミことトリマチ・カザミの幼馴染だ。
昔からヒーロー願望が強くて、無茶ばっかりしていたのがカザミだったけど、GBNと、キャプテン・ジオンに出会ってからは、それは急速に悪化していった。
基礎がヘッタクソで、自分で作ったガンプラの特性も理解してないくせに、一丁前に最前線に飛び出て一人で戦況をひっくり返そうとしては、あたしたちのフォース……「MU DISH」に数え切れないぐらい迷惑をかけている。
だから、正直限界だと思っていた。
幼馴染のよしみで、腐れ縁があるから、それでもいつかは幼稚なヒーロー願望を捨てて、まともになってくれると思っていたけど。
爆炎の華が咲く戦場、攻撃目標の輸送列車はまだ到着していない状況なのに、戦況は混沌としていた。
「ど、どうなってんだ!? ハウリングバスターライフルはビーム撹乱幕で無効化して、こっちはジャミングで相手の通信もレーダーも無効化してるんだぞ!?」
あたしの後ろで、いつでも下がれるように待ちの姿勢で構えていたサガリが、情けない声を出す。
そう。
ゴジョウが考えた作戦は完璧だった。
敵は必ず、ハウリングバスターライフルの一撃であたしたちの気勢を削いで、そこから力押しで各個撃破にかかる。
実際、ビーム撹乱幕を展開しているのにもかかわらず引き金を引いた、相手のフォースリーダー……確かミキとかいう女の子は、威力が大幅に減衰したハウリングバスターライフルの一撃に驚いていたはずだ。
なのに、現状はあたしたちが劣勢に押し込まれている。
「なんでこっちの位置がバレてるのよ!? もしかして、ニュータイプだとでもいうの──きゃあっ!」
『美しい
相手の、ドラゴン形態に変形したN-EXTREMEガンダム・ヴィシャスの背に乗った量産型νガンダムが、ロングレンジ・フィン・ファンネルをビームサーベルモードで展開して、ユウリのバクゥ偵察型を串刺しにした。
まずい。
カザミのやつは嬉々として前線に突っ込んでいったけど、全くといっていいほど相手にされてない。
それはそうに決まってる。
射程が短いショットランサーとビームマシンガンに、短めの実体剣なんてアセンのガンプラが牽制に豆鉄砲をばら撒きながら突っ込んでいったところで、大した脅威にならないのは火を見るより明らかなのに。
だから、あたしは、あいつがジャスティスナイトを作るときにビームライフルじゃないにしてもなんか近距離に近づくまでの有効打を持てって耳が痛くなるぐらい言ったっていうのに、もう。
「サガリ、自分の身は自分で守れる!?」
「カザミのフォローに行くんだな、わかった! ゴジョウさんのところまで逃げて防衛ラインを下げる!」
だから、こんなときのために。
目立ちたがりで脳筋でどうしようもないあいつをフォローするために作った、この「ライトニングフリーダムガンダム」の機動力がある。
ユニバーサル・ブーストポッドに点火、一気にバーニアを噴射して、あたしはカザミが陽動されているとも知らずに剣を交えている戦場に割り込んでいく。
「どういう絡繰りであたしたちの作戦を破ったのかは知らないけど、そう簡単に、やらせやしないわよ!」
「ミミ! 下がってろ、お前じゃ危険すぎる! この窮地は俺が──この、ジャスティスナイトが引き受ける!」
「じゃああんたはもっと危険でしょうが! いいからあんたも下がってなさい、バスターライフルの威力は下がってても、ビームサーベルまでは無力化できないのよ!」
ユニバーサル・ブーストポッドに格納されているミサイルコンテナからミサイルをばら撒きつつ、私はカザミと剣を交えている、ミキのウイングガンダムに肉薄した。
ロングレンジ・ビームライフルは役に立たない。
だったら、最初から投棄して格闘戦を仕掛けるほかにない!
「これでぇっ!」
あたしは、敵に、フラッシュエッジG-3シールドブーメランを牽制として射出した。
ウイングガンダムの迎撃手段はマシンキャノンぐらいだ。
ビーム撹乱幕でバスターライフルと、銃の下に装備されているビームライフルが無効化されている今、擬似的に二対一を作れるこの武器から逃れるのは難しいだろう。
『ぬるいぬるいぬるいなぁぁぁぁッ! そうくるのは最初から読めてんだよ!!!!』
「こいつ……っ!?」
射出したフラッシュエッジG-3シールドブーメランを踏み台にして跳躍したミキのウイングガンダムが、大上段にビームサーベルを構えて斬りかかってくる。
なんとかもう片方のビームサーベルを逆手で引き抜いていなすことには成功したけど、代償としと体勢が崩れてしまった。
リカバーとして即座にヴァイパー3レールガンを放って牽制したけど、弾を切り払ってミキは肉薄してくる。
『味方のフォローに回ったつもりが被弾して負け筋を作るってのが一番くだらない展開なのよねぇ! さあミミちゃん、あんたはここからどう出るつもりなのかしら!?』
ミサイルは撃ち尽くした。レールガンもこの距離じゃ発生速度でマシンキャノンに撃ち負ける。
わかってる。
わかってるわよ、そんなこと。
カザミのバカを庇うために、あいつをフォローするために前に出て、あたしも結局被弾して、それをリカバーするためにゴジョウたちもなし崩し的に陣形を崩されて──それが、「MU DISH」の典型的な負けパターンだってことは。
負けるのは格好悪いとか、自分がヒーローみたいに活躍できない試合は本当の自分じゃないとか、中二病こじらせてるバカをいちいちフォローしてやる理由なんてどこにもない。
だから、さっさと見限るべきなんだ。たとえ、それが──
剣戟で押し負けたライトニングフリーダムの右腕が宙を舞う。
続く一撃が、メインモニターを破壊して視界にデバフをかけてくる。
うっ、接近戦を仕掛ける柄じゃないってのに、「鬼狩りのバーバリアン」は接近戦こそが本領だってわかってたのに、あたしは。
『こいつで終わりだ! 男のために尽くす甲斐甲斐しさには見るべきところがあったけど、それだけよねぇ! 男を見る目ぐらいは養ってから出直してきなぁ!』
──なによ、言われ放題じゃない。
でも、仕方ない。
事実なんだから。どれだけ見る目がないってわかってても、幼稚なヒーロー願望を捨てられないバカなやつだって理解してても、あたしは。
「この野郎ぉぉぉぉ!!!!」
「……っ、カザミ!?」
「守りに回るなんて、こんなの……こんなの本当の俺じゃねえ! でもな、俺にだって……俺にだって、幼馴染を助ける力ぐらいはあるはずなんだよ! そうだろ、ジャスティスナイト!?」
突如としてあたしとミキの間に割って入ってきたカザミが、ジャスティスナイトの一番の長所といっても過言じゃない、堅牢なシールドでミキの斬撃を受け止めた。
その後に続く大振りなガラティンロングソードの連撃は容易く回避されていたけど、それでもカザミはミキへと喰らいつくことをやめなかった。
まるで羽虫を払うように地面へ叩き落とされても、腕を捻られて関節ごともぎ取られても、カザミは絶対に抵抗を、やめなかった。
『無駄に硬いだけで食い出なんてなかったわね、そろそろ退屈なダンスも終わりよ』
「ち、ちくしょう……俺は……俺には……っ! なんで、なんで力が足りねえんだ! なんで、なんで……幼馴染を、大切な女を守る力でさえ、神様はくれなかったんだよおおおお!」
堅牢な盾もビームサーベルの乱舞によって切り刻まれて、左手を失い、あとはもうコックピットを貫かれるのを待つだけ、といったカザミの惨状は、見るに堪えないものだったけれど。
「やらせるかぁぁぁぁ!!!!」
『なっ……』
武装の全部が死んでいて、撃破されたも同然のあたしだって同じだ。
だけど。
だけど──体が先に動いてしまっていた。
しょうがないじゃない!
好きになった男の子がここまでバカにされて、ボコボコにされて!
それでも、あたしのためだと立ち上がってくれたんだから、ここであたしがなにもしないで籠の鳥のお姫様でいるわけにはいかないじゃない!
全力の体当たりが、ウイングガンダムの体勢を大きく揺らがせる。
本当にただ──それだけだった。
命を賭してあたしにできたことは、相手の体制を崩しただけ。でも。
「……ッ、う、うおおおおおっ!!!!」
カザミが残されていた右手で、逆手に持ったガラティンロングソードを、ミキのウイングガンダムへと、その胴体へと突き立てた。
だけど、その狙いは僅かにコックピットを逸れていて。
リミッターを解除したミキのウイングガンダムは、瞬く間にあたしたちを斬り捨てて、そのままゴジョウの元へと向かっていき、そのまま私たちを全滅させてしまった。
「……あーあ、また負けちまった。最高にカッコ悪りいな、俺……」
「……そんなこと、ないわ」
「……ミミ?」
「……あんた、チビだっていじめられてたあたしのこと……上級生から庇ってくれたじゃない。あのときのこと、思い出しちゃった」
……昔から、跳ねっ返りで、気が強くて。
そのせいで敵ばっかり作ってたあたしにとって。
いつだって助けに駆けつけてくれるカザミがヒーローだったってこと、思い出しちゃったじゃない。
「……でも、負けちまったぜ。俺たちは。あのときだってそうだ、俺は上級生に……」
「……いいのよ」
「ミミ……」
「……これから、もっと強くなって見返してやりましょ。あたしも、あんたも。今日は……負けちゃったけど、嬉しかったわ」
「……お、おう。そうだな!」
カザミは、いつだって崖っぷちで。
勝てもしない相手に挑みかかるけど、その度に負けてボコボコにされるけど、絶対に一歩も引くことはしない。
傷だらけで、最高に格好悪いけど格好いい、あたしのヒーローだった。
傷だらけの勲章