お嬢様がGBNにいるわけないだろう!   作:プラ板の削りカス

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【悲報】お嬢様、再び身バレの危機

 その後、リクくんたちは一週間で完成させたヴォアチュール・リュミエール搭載型シャトルを使って、タイムアップまで残り6分──実に、クリアタイム24分という余裕を持ってロータス・チャレンジをクリアしたそうだった。

 ヴォアチュール・リュミエール搭載シャトルという切り札に、ダブルオースカイとロードアストレイダブルリベイクの開発前倒しがあっても容易にはクリアさせてくれない辺り、ロータス卿の信念も大したものだ。

 私たちもたまにはああいう困難なミッションに挑んでみるのも悪くないかな、と、昼下がりにダイバーギアを横見しながら勉強していたときだった。

 

『失礼します、お嬢様』

 

 折り目正しく、3回ドアがノックされ、ピケストの声が聞こえてくる。

 ダイバーギアを慌てて机にしまい込んで、私はぴしゃりと自分の頬を叩いて気合いを入れた。

 最近、お嬢様モードになるには、自分の中でスイッチを入れる必要が出てきたのは、GBN漬けの弊害だろうか。さしたる問題ではないからいいんだけど。

 

「入っていいわ、ピケスト」

『ありがとうございます、緊急のご用事でございまして、馳せ参じました』

 

 緊急の用事?

 クソ親父は家を留守にしてることがほとんどだからまさかそれ絡みの案件ではないだろうけど……いや、でも、可能性は十分ある。

 ピケストが珍しく私の前で真剣に仕事モードになっているのが証拠といってもいいだろう。

 

「失礼いたします。入ります、お嬢様」

「ええ……どうしたの、ピケスト? 午後のティータイムにはまだ少し早くてよ?」

「先ほど、旦那様が帰国され、お嬢様のことをお呼びでございます」

 

 うわー、嫌な予感ドンピシャだった。

 もしかして、私がGBNで遊び散らかしているのがバレたとか?

 いやいや、頭が昭和時代どころか石器時代で止まっているあのクソ親父がインターネット文化なんてものに、ましてやその中でも比較的ディープなオンラインゲームに触れているとは考えづらい。

 

 そうなってくると、十中八九、求められているのは「籠の鳥」としての、「未来の社交界の花」としての、お嬢様としての私ということになるだろう。

 じゃあ外交案件かー。

 うちの会社、石油を扱ってるから中東とのパイプが太いのよね。実際はあっちの王族の機嫌を損ねないようにへらへらゴマ擦ってるだけだけども。

 

「大方お嬢様の予想通りだとは愚考しますが、今回は旦那様の口より直接言い伝えるとのことで、私もなにも聞かされておりません」

「なるほど……最優先事項ということね。ありがとう、ピケスト。それで、お父様はどちらに?」

「自室にいらっしゃいます。案内いたします、お嬢様」

「感謝するわ、ピケスト」

 

 うおー、仕事みたいなもんだから仕方ないとはいえ、外行きの猫をバリバリに被っているピケストとお嬢様モードで会話してると、背筋が痒くなってくる。

 多分、ピケストも似たようなこと考えてるだろうけど。

 お嬢様モードの私は、ピケストにとって最高に「退屈」らしいから。

 

 ぼんやり頭の片隅にそんなことを浮かべつつ、ピケストに案内されてクソ親父の自室まで到着すると、私はドアを3回折り目正しく叩いた。

 

「失礼します、お父様。ツミキでございます」

『入れ』

「ありがとうございます」

 

 何ヶ月ぶりに聞いたかわからないクソ親父の肉声は、相変わらず家族の情なんて欠片も感じられないぐらい事務的なものだった。

 本当に私がこの家で期待されているのが「跡継ぎを産むこと」だけなのがよくわかる。

 ふざけんじゃねえよ頭昭和時代がよ。私にも私の人生ってものがあるってのに。

 

「お久しぶりでございます、お父様。お会いできる日を待ち遠しく思っておりましたわ」

「前置きはいい。本題から話す」

「……はい」

 

 クソがよ。

 あの息苦しい「学園」を出たあとは、絶対こいつの言いなりになんかなってやらない──心に固く誓いながら、私は笑顔の鉄仮面を纏う。

 よかったなクソ親父、この仮面がなければ今すぐに貴様を殴り殺していたところだぞ。

 

「明日、八重桜石油の取引先で、最も偉大にして高貴な方々がこの家を訪問されることが決まった」

「……急なお話でございますね」

 

 石油の貿易会社やってるうちの中で最も偉大で高貴な方々、となると、やっぱり中東の王族かぁ。

 小さい頃に会ったことはあるらしいけど、全然覚えてないのよね。

 主にクソ親父やその関係者から直々に虐待紛いの詰め込み教育受けてたせいだけど。

 

「ああ、急な話だ。私も戸惑っているが……今回の会食には、妻ではなくお前の存在を所望している」

「私、ですか?」

「そうだ。王家の方々の興味をいかにしてお前が惹いたのかはどうでもよいが、これは八重桜石油にとって大きなビジネスチャンスになる」

 

 ははーん、なるほど。

 理由はよくわからないけど、中東の王族が私のことを気に入ってくれたから、ここでゴマ擦っておけば将来の嫁ぎ先候補にもなるし、そうなれば石油供給のパイプは約束されたようなものだってか。

 ふざけんじゃねえよクソ親父、それにどこの馬の骨とも知れないロリコン王族がよ、私はまだ15の生娘なんだぞ。

 

 クソッ、できることなら全力で回避したい。

 だけど、クソ親父直々の命令ということもあって、ピケストも手出しできない領域だから困ってしまう。

 しゃーないかぁ。気は全っ然進まないけど、会食とやらに顔を出してやることにしますか。

 

「承知いたしました。淑女の務めは格式高いヤエザクラの家の繁栄を願い、誠心誠意奉仕すること……ましてや、高貴なお方との会食のご機会をいただけたとなれば、このツミキも本望でございます」

「当然だ。明日までにピケストに支度を整えてもらう、いいか、貴様は絶対に出しゃばった真似をするなよ。これは大きなビジネスチャンスなのだからな」

「……承知しております、お父様」

「わかっているなら出ていけ、勉強も芸事も決して怠るなよ」

「……はい」

 

 死ねぇーっ!!!!

 心の中で盛大に中指を立てながら、叫ぶ。

 こいつは人のことをなんだと思ってるんだ、お母様が立場上強く出られないから、どれだけ影で泣いてると思っているんだ。

 

 なにが淑女の務めだ、知ったことじゃねえよ。

 バーカ潰れろ八重桜石油。

 いやでも潰れたら潰れたで困るんだよな、仮にも日本を代表する石油インフラの大企業なわけだし。厄介すぎる。

 

 私は盛大に不満を抱えながら、それを一ミリたりとも表に出すことなく、完璧な所作と笑顔を取り繕って、クソ親父の部屋を後にした。

 今夜のGBNはいっそう激しくやるしかない……と、思ったけど、そんな暇ないわよね。

 はー、王族の歓待なんて本当にかったるい。どこから私のことを知ったのかしらね。

 

 

 

 

 

 

「アルジェ家のお方とのお目通りが叶ったのだ、皆の者、首を垂れて歓迎せよ!」

 

 クソ親父の命令で、私たちを含めた家にいる人間一同が深々と頭を下げて、東京の一等地に乗り付けてきたクソデカいリムジンバスを出迎える。

 うおでっか、車内に車も収納できるタイプのリムジンバスじゃん、これ。

 ちらりと視線を上げて様子を伺うと、中東の王族とやらがボディガードに囲まれて降車してくる様子が伺えた。

 

 だけど、頭を下げてるせいもあって顔はよく見えない。

 ちくしょう、ロリコン野郎がどんなツラしてやがるのか拝んでおきたかったのによ。

 どうせ偽シャフリヤールみたいなツラしてるんだろうけどな、と内心で中指を立てていたときだった。

 

「やあ、今日は我々を食事に招いてくれて、感謝しているよ。ヤエザクラ・コウゾウ!」

「リュック様におかれましても、ご健勝のほど、なによりでございます! このような機会をいただけて恐悦至極、今日は娘のツミキもいることですから、心ゆくまでお寛ぎください!」

 

 クソ親父がぺこぺこ頭下げて必死にゴマ擦ってらぁ。家の中でしかイキリ散らせない内弁慶にはいい気味だ。

 ……でも、なんか今聞き覚えのある単語が聞こえた気がするのよね。

 アルジェ家に、それに、リュックって──

 

「パトリックも喜んでいますよ、コウゾウ。さ、パトリック、前へ」

「はい」

 

 うぃーん、と、電動のなにかが作動する音が聞こえた。

 ちらりと視線を向けると、そこにいたのは。

 電動車椅子に乗った褐色肌に金髪の少年だった。そして、私はこの子に見覚えがあった。

 

(パトリックって……パルくんのリアルでの名前じゃねえか!!!! じゃあリュックってもしかしなくても、必然的にシャフリヤールさんじゃん!!!!)

 

「ヤエザクラ家の皆様、今日は会食の機会を設けていただきありがとうございます。それで……ツミキさんはどちらにいらっしゃるのでしょうか?」

「はっ、パトリック様、愚女(ぐじょ)ならこちらに! ツミキ、アルジェ家の御二方に挨拶しなさい」

「本日は遠路はるばるヤエザクラ家にお越しいただき、ありがとうございますわ。まだ、このような場に出る機会は少なく未熟な身ではございますが……精一杯、お務めをはたせるように努力いたします」

 

 顔を上げ、カーテシーを添えて一礼する。

 うん、一瞬顔を上げたときに見えたけど、完全にシャフリさんとパルくんのリアルの姿だったよね。

 あれ、もしかしなくてもこれ、私詰んだっぽい案件?

 

 お前んとこの娘がGBNで暴れ散らかしてたけどどうしてくれんの? とか言われたら完全に立つ瀬がない。

 でも、シャフリさんが私にどうやって気づいたんだろう、接点なんて欠片もなかったはずだし──あっ。

 ……この前のロータス・チャレンジ対策委員会のときにバッチリ顔合わせてたじゃん。やべえ、完全に終わった。

 

「やあ、会いたかったよツミキくん。こちらでの君は随分とお淑やかで可憐なのだね」

「……お、お褒めいただき光栄でございますわ、おほほほ……」

「それじゃあ、案内してくれるかな、コウゾウ。なにを隠そう、私たちも今日を楽しみにしていたんだ」

「ははっ! ピケスト、今すぐにご案内を!」

「承知いたしました、旦那様」

 

 ピケストがちらりと私の方を振り返ってから、クソ親父に続く形でシャフリさんとパルくんをエスコートする。

 あの目は、間違いなく笑っていた。

 これからおもしれーことになるぞ、と。

 

 冗談じゃないわよ、なんで私が二度も身バレの危機に晒されなきゃいけないのよ!




Q.パルくんはどうやって日本に来たの?

A.高速船
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