お嬢様がGBNにいるわけないだろう! 作:プラ板の削りカス
「楽しい会食だったよ。ところでツミキくんにはご学友がいると聞いたけれど、彼女の予定は空いているのかい?」
「い、今確認いたします、リュック様! おいピケスト、ルルカくんの予定はどうなっている!」
「確認いたしました。ご用件をお伝えし、今からこちらに参られると」
「……だ、そうです。まさかツミキに学友がいることをご存知だとは、流石の聡明さで……」
うわー、手揉みしながら謙ってるよこのクソ親父。
見てる方としてはいい気味だけどさ。
でも、リュック様ことシャフリさんがなんで私とルカに興味持ってんのかが全然わかんなくて、こっちは心臓が爆発しそうでそれどころじゃないんだよなぁ!
「よければツミキくんとご学友に、この国を案内してもらいたいんだ。パトリックにも豊かな景色を見せてあげたいからね。頼めるかい、コウゾウ?」
「でしたら、この私が──」
「私はツミキくんとご学友に頼みたいんだ」
「は、ははっ……かしこまりました。ツミキ、ご学友共々、リュック様とパトリック様に失礼のないように。ピケスト、運転は任せたぞ」
「……仰せのままに。お父様」
「かしこまりました、旦那様」
やべー、なんでシャフリさんが私とルカにこだわってるのか全然わかんない。
心当たりはたくさんあるけどさぁ!
もしかして東京湾の底を観光してこいとかそういう話? あれ、私詰んでね?
ピケストが一瞬ちらりとこっちを向いて「これから最高におもしれー祭りが始まりますよお嬢様」みたいな顔してたけど、冗談じゃない。
さっきからパルくんが一言も喋ってないのも気になるところなのよね。
私は確かにGBNで言い訳できないぐらい色々やらかしてるけど、誓ってパルくんにだけは迷惑かけてないはずなんだけどなあ!
「それではピケストくん、ツミキくん、私たちを案内してくれたまえ」
「承知いたしました、リュック様。パトリック様。お嬢様、エスコートをお願いいたします」
「ええ、喜んで」
キリキリと胃が痛むのを我慢しながら、私は笑顔の仮面を被る。
やり残したことはたくさんあるし本当に死にたくないんだけど、石油王の逆鱗に触れていたなら私とルカが魚の餌になってしまうことは確定事項なんだよね。
うーん、せめて遺書くらい書かせてほしかったなあ。
†
「パトリックのためにリムジンバスを用意してくれて助かるよ、ツミキくん……いや、ここではあの堅物の邪魔も入らないから、ミキくん、と呼ぶべきかな?」
ヤエザクラ家が所有しているリムジンバスに乗ったシャフリさんとパルくん、そしてやってきたルカの三人と向き合いながら、私はだらだらと冷や汗を垂れ流していた。
「ど、どうか命だけは……命だけはご勘弁ください……ほら、ルカも謝って! 心当たりなら死ぬほどあるでしょ!」
「わたくしはミキと一緒に死ねるなら本望ですわ♡」
「バカがよ」
やり残したこととかねーのかお前は。
どれだけ刹那的な快楽主義者なんだこいつ。
でもまあ、それがルカという女の子だから仕方ないんだけどさ。
「ははは、なかなか面白い誤解をしているようだけど、私が今回ミキくんの家を訪ねたのは、パトリックの件でね」
「パトリック様の、ですか?」
「パルヴィーズ。それがパトリックのGBNでの名前だよ。そうだろう?」
「は、はい! 今日は『レディビルド』の皆様にお会いしたく、日本を訪れたんです!」
ガチガチに肩の力が入った挨拶だった。
さっきからパルくんが黙っていたのは、どうやら緊張していただけのようだ。
それはともかく、なんでパルくんが私たちなんかに会いたがるんだろう。原作だとミッションも受けてなければ対人戦もしたことがない初心者で、空に対してトラウマを持ってるのは知ってるけどさ、私たち関係ないじゃん。
「ええ、と。ご質問をしてもよろしいでしょうか?」
「畏まらなくていいさ。ここではGBNの『シャフリヤール』と『パルヴィーズ』として対等にいこうじゃないか。それで、ミキくんはなにを聞きたいんだい?」
「……わかりました、シャフリさん。えっと、正直に言いますと、パルくんが私たちに興味を持ってくれた理由がわからなくて」
多分、シャフリさん経由で私たちの話が伝わったんだろうけど、レディビルドの武勇伝なんて、ろくでもないものしかない。
それでパルくんが興味を持つとは、とても思えなかった。
まさか私たちのファンです、なんてことは宝くじの一等が当たる確率より低いだろうし。
「それはパトリックの口から語ってもらった方がいいね、パトリック」
「は、はい! えっと……僕は、自分の殻を破りたいんです!」
「……と、申しますと?」
ルカが小首を傾げて、パルくんに問いかける。
「実は、僕……剥き出しの自分を貫かれている『レディビルド』の皆さんのファンなんです。あんな風に、自由に空を飛んで、どんな相手にも果敢に戦って……僕も、そうなりたい」
……宝くじの一等が当たっちまったよ。
えー、まさかパルくんが私たちのファンだとは思わなかった。
アンチなら数えるのもめんどくさいぐらいいるけど、誰かにファンって明言されたのも初めてだし、私たちに憧れる要素なんてどこにもないと思うけど、パルくんの純真さを踏み躙るわけにもいかないし。
「あ、あまり立派なものじゃないわよ? 戦いのときは昂ってついああなっちゃうっていうか……」
「ミキ、謙遜する必要はないとシャフリヤールさんは仰っていたでしょう? 剥き出しの闘争本能、刹那の快楽に身を任せるのがわたくしたちの本性。それは決して否定してはいけないものですわ♡」
うっ。
ルカに笑顔で釘を刺された。
いや、違うんだよ。ついつい暗黒面が目覚めちゃうだけなんだよ──なんて、自分を偽り続けても、いいことなんてないか。
「……そうよ、あれが私たちの本性。憧れる要素なんてどこにもないわ」
「心に自由であることが、ガンプラと向き合う上で最も重要なことだって、兄さんからは教わってます」
「心に……」
「はい、だから、ミキさん。ルカさん。ピケストさん。ここにはいないですけど、フィアさんも……どうか僕に、空を飛ばせてください!」
パルくんは、小さく頭を下げて叫んだ。
う、うわあああああ!
一番解決が難しい問題きちゃったよこれー! 原作だと追い詰められた先で覚醒してたけど、私たちを参考にして空飛びたいって、出資者は無理難題を仰りすぎでしょ!
「……わ、私たちで、いいの……?」
「お願いします、これは皆さんにしか頼めないことなんです!」
パルくんは必死になってお願いしてくるけど、どうしたものかなこれ。
ただ単にGBNでパルくんに「皮被ってんじゃねえぞちゃんと剥きやがれ包茎野郎! イチモツおっ勃てて飛ぶんだよ! テメェが空を大好きだって気持ちに従ってよ!」みたいなことを言ったら即座に打ち首は確定している。
シャフリさんがさっきからにこにこ笑ってるのが怖すぎるのよ。
「……でしたら、このピケストに案がございます」
車を運転しながら、ピケストが小さく呟いた。
えー、なんか嫌な予感しかしないけど、私たちの中である意味一番冷静なのがピケストだ。
ここは日頃からの信頼……信頼? に従って、任せてみるのも悪くはないか。
「先に申し上げておきますが、私の治療は荒療治でございます。パルヴィーズ様、貴方に大切なガンプラを傷つける覚悟はございますか?」
「っ! モルジアーナ、を……」
「ないのでしたら、お嬢様たちから存分に罵倒してもらい、勇気を出すのが一番かと思われますが」
「さりげなく私を東京湾の底に沈めようとするんじゃないわよ腐れメイド」
「……モルジアーナ」
パルくんが、自分のガンプラ──ヴァルキランダーを「モルジアーナ」と呼んで大切にしているのは知っての通りだろう。
それぐらい大切なガンプラを傷つけるような荒療治に、車の行き先──まさか、ピケストが考えているのは。
私はごくり、と生唾を飲み込んだ。
「さあ、パルヴィーズ様、選択のときでございます。貴方が取るべき道は二つに一つ……一つは優しくお嬢様たちに慰めてもらうこと。もう一つは、この私と共に『真実』へ立ち向かうことでございます」
さりげなくクロスボーンガンダムの名言引用してんじゃないわよ腐れメイド。
でも、ピケストのやりたいことはわかった。
ピケストは、パルくんをGPDに誘おうとしているんだ。
次回、ピケストvsパルくん