お嬢様がGBNにいるわけないだろう!   作:プラ板の削りカス

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【速報】お嬢様、許される

「先程は大変お見苦しい姿をお目に入れてしまい、申し訳ございませんでした」

「そ、そんな! 僕は……貴方に感謝しています、ピケスト。だって……もう、僕の中に恐れはありませんから。代わりに教えてください! 僕は今、どうしてか胸が張り裂けそうなほどに高鳴っている……! どうして、でしょうか」

「それが、悦びというものでございます。私も……パルヴィーズ様が初めてです。お嬢様の世界を垣間見たような気がいたします……」

 

 頬を赤らめて問いかけるパルくんに対して、ピケストはどこか恍惚を隠しきれない様子で答える。

 いいなー、ピケストのあんな表情、私も初めて見たし、なにより見ている私も軽くイっちゃいそうなぐらいにアツいバトルだったから。

 そうね、悦び。パルくんは自分の殻を破って、ピケストも知らなかった世界の一端を垣間見るということができたのだから、得るものはとても大きかったんじゃないかしら。

 

 さて、問題は。

 

「……ルカ、フィア、遺言とかある?」

「ございませんわ、ミキ。わたくしはミキと共に逝けるのであれば、本望ですから♡」

「ええっ!? ルカがミキを元気づけたときはあんな風にやっていたじゃないか! あれが『応援』っていうものじゃないのかい!?」

 

 シャフリさんの前で盛大に粗相をやらかしたことなのよね。

 ルカはいつも通りで、フィアはあわあわと小さな手を振って「そんなつもりじゃなかった」と否定しているけど、そんなつもりじゃなかった、は大概の場合通用しないのよ。

 ツカサくんに至っては本格的に他人のフリしてるし。二度目の人生、短かったなー。

 

「……顔を上げたまえよ、ミキくん」

「……も、申し開きはしないわ。私は自分の気持ちに正直に、パルくんを叱咤激励しただけだもの!」

「震えながら言っても説得力がないんじゃないかい? 結論から述べるなら、私は全く怒っていないよ」

「えっ?」

「むしろ、喜びで打ち震えているほどだ。パトリックが全力で作ったガンプラへの愛を見せてくれただけでなく、過去を乗り越えることができたんだ。差し引きで君たちの粗相は見なかったことにするのも、やぶさかではないよ」

 

 シャフリさんは、「でも二度目はないよ」とばかりに苦笑しながら、差し引きで私たちのやらかしを帳消しにしてくれたようだ。

 それだけ、パルくんのことを深く想っているってことなんだろうなあ。

 王位継承権とか家族とか、そういうしがらみを抜きにして、純粋に一人の人間として、ビルダーとしてパルくんのことを見ているみたいだった。

 

「あ、ありがとうございます……おほほほ……」

「それに、パトリックの戦いだけでなく、想像もできなかったものを目にできたからね」

「シャフリさんが、想像もできなかったもの?」

「フィアくんのことさ。まさか、電子生命体などというものが存在していて、君たちが非合法な手段を使ったとはいえ、それを現実にサルベージまでしたんだ。度肝を抜かれたと言ってもいいね」

 

 シャフリさんはまだかたかた震えてるフィアを一瞥して、今度は含みもなにもなく、純粋に楽しそうな笑顔を浮かべた。

 

「ぼ、ぼくかい?」

「その通りさ。まさか、君たちが私に黙ってここまでビルドイマジネーションを刺激されることをやっていただなんて、思いもしなかったからね」

「まー、大っぴらにはできないことですからね」

 

 少なくとも難航しているらしいイヴのモビルドール完成までは、表沙汰にするつもりはなかった。

 なぜなら、事後承諾で私はELダイバー問題を強引に解決しようとしているからだ。

 世界に対しては、理屈や信念、愛だけじゃ通らないことは嫌というほど知っている。

 

 だから、黙らせるだけの、納得させるだけの圧倒的な「証拠」を見せる必要があるのよね。

 少なくともフィアとサラちゃんとイヴが実際に生きて動いて、泣いて笑ってて、かつGBNのサーバーに全く迷惑をかけない存在であることを見せてやれば、頭のお堅い連中も黙らざるを得ない。

 それでもゴネてくるなら、私にも考えはあるつもりだ。

 

「正直なところ、私は君たち『レディビルド』を過小評価していたようだね。そこについてはすまなかったよ」

「いやいや、シャフリさんが謝る必要なんてどこにもないですって!」

「その通りですわ、シャフリヤール様。わたくしたちは……ただ、わたくしたちが最高に気持ちよくなるためだけに生きている。それだけですもの♡」

 

 言ってしまえばそうなんだけど、言い方ってもんがあるでしょうがこの刹那主義者。

 でも、気持ちよくなければ意味がないのは事実だ。

 転生者としての責務? 原作知識? そんなものは私にとってはおまけに過ぎない。

 

 バッドエンドってのは最悪に気持ちよくなくて、完璧なハッピーエンドでこそ、絶頂できる。

 それこそが全てでしょうが。

 だから、私たちは気持ちよくなって、世界はちょっとだけいい方向に進む。それしか、私が望むことなんて、ない。

 

「ふふ……ははは! いや、失礼。君たちはユニークだ。これだけの悪巧みを、ただ自分が満足するためだけに繰り広げる……それもまた、愛だね。エゴという名の、強烈な自己愛」

「自分が自分を愛してやらなきゃ、なんも始まらないでしょうが」

「正論だね、ミキくん。そこで私は、君に一つ取引を持ちかけようと思うんだ」

 

 シャフリさんが指を鳴らすと、リムジンバスに同乗していたボディガードの人がやってきて、懐から一枚の紙と万年筆を取り出した。

 ……取引?

 八重桜石油にとってプラスになるんだったら結果オーライかもしれないけど、でもそれだとクソ親父が調子に乗るから嫌なのよね。

 

「そう身構えなくていい。今回私が持ちかける提案は、八重桜石油ではなく、『ヤエザクラ・ツミキとシロガネ・ルルカを私とパトリックのビジネスパートナーとして認定し、活動を支援する』ことだからね」

「マジぃ?」

 

 そんな都合のいい話があるわけ……いや目の前にあるわ。

 私とルカが、個人としてシャフリさんとパルくんと手を組めたとなれば、暗澹としていた「学園」を卒業したあとの未来もなんとかなりそうだ。

 私としては盛大に大歓迎なんだけど、シャフリさん的にメリットとかなんかあるのかしら。

 

「もちろん、条件はつけさせてもらう。これはあくまで君たちをビジネスパートナーと見込んでの取引だからね」

「承知したわ。それで、取引の条件ってのは?」

「私もELダイバー問題に関わらせてもらうことさ。聞けば、ELダイバーというのはこれから増えていくのだろう? だとしたら、後ろ盾があるに越したことはない。それに……私も、君たちの悪巧みに、苛烈な愛に加担して、気持ちよくなりたいのだよ」

 

 いたずらな笑みを浮かべて、シャフリさんは自分の名前と契約の条件をさらさらと紙に記入して、私に提示してきた。

 マジか。

 すげぇなこの人。下手したら世界全体を敵に回すかもしれないってのに、ロックな(エゴ)を貫こうとしているなんて。

 

 私もちょっとシャフリさんを過小評価しすぎてたのかもしれない。

 器がいくらなんでもデカすぎる。

 これが生まれながらの王族ってやつか。

 

「わかった、私は……契約に異存はないわ。ルカはどう?」

「まあ、まあまあまあまあ! まさか、シャフリヤール様も、パルヴィーズ様もわたくしたちのセッションに交わりたいだなんて、願ってもないことですわ、ミキ! ビジネス云々は正直どうでもいいですけれど……これからもずっと、わたくしに気持ちいい世界を見せてくださいね?」

 

 ったく、こんなときぐらいおべんちゃらの一つも言いなさいよ。

 でも、この偽らない強烈なエゴこそが、退屈を嫌い、快楽だけを求めて生きる姿こそがルカという女の子なのだ。

 なーんでこんな子と仲良くなっちゃったかな、本当。でも……仕方ないわよね、お互い、そういうどうしようもない部分を好きになっちゃったんだから。

 

「では、決まりだね。ミキくん、ルカくん、契約書にサインを」

 

 2枚契約書を作ったシャフリさんは、それらを私たちに満面の笑みで差し出してきた。

 私たちもまた、躊躇うことなく笑顔でサインを書いた。

 上等じゃない、これから、シャフリさんのことも、ルカのことももっと気持ちよくして、この世界に私の生き様を見せつけてやるんだから!

 

「兄さん」

「おや、パトリックは反対かい?」

「いえ、それは問題ではなく……さっきから、なんだか、ピケストさんと話したくて仕方ないのに、顔をまともに見られなくて……失礼じゃないかなって……」

 

 わーお。

 パルくんは顔を赤らめてシャフリさんに懺悔でもするようにぼそりと語りかける。流石の私も、こうなるのは流石に予想外だった。

 なんてことしてんのよ腐れメイド。王族の、それも王位継承権第一位の少年のいたいけな心を盗んでいくんじゃないわよ。

 

「ふふふ、安心してください、お嬢様」

「なにも安心できる要素がないわね」

「見事なほどの塩対応でこのピケストはきずついてないてしまいそうです、えんえん」

「こいつ……まあいいわ、あんたにもあんたの人生ってもんがあるでしょ。いつまでも私に仕えてるってのも筋違いだし」

「なんていうことを仰るのですか。このピケストは、生涯お嬢様一筋と決めておりますのに……ですが、そうですね。私も悪巧みをしてみるのも悪くないかもしれませんね」

「東京湾で魚と友達になるか、サハラ砂漠でラクダに逃げられないようにね」

 

 まだまだ無自覚に頬を赤らめているパルくんと、それを微笑ましく見守っているシャフリさんと、盛大に気ぶってるルカと、なにも知らないフィア。

 それと、全力で他人のフリを続行してるツカサくん。

 もうこうなったら、皆まとめて引っ掻き回して、最高の闇鍋を作ってやるしかないじゃない、全く。




腐れメイドは大変なものを盗んでいきました、パルくんの心です
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