お嬢様がGBNにいるわけないだろう! 作:プラ板の削りカス
「つ、ツミキ! お、お前……なにをした……? なぜお前個人がリュック様とパトリック様のビジネスパートナーとしての契約を……?」
家に帰って契約書を突きつけてやったら、普段は偉ぶってイキリ散らしてるクソ親父は、盛大に椅子からひっくり返って尻込みしていた。
はははは。ざまぁないぜ。
いやー痛快愉快。そうよね、今まで雑に扱ってきた娘がこの家の生殺与奪の権を握っちゃったわけだからね。
ピケストに至ってはもう隠すこともなく笑いを堪えているし、他の使用人たちは顔を青ざめさせている。
ああもう、たまんないわね!
別に今までの復讐とか家を潰したいとかその辺はどうでもよくて、これでコソコソ隠れなくても、ルカと私が大っぴらにガンプラ趣味を堪能できるってことが!
「私はなにもしておりません。ただ、淑女としての務めを果たし、それがリュック様とパトリック様のお眼鏡に適っただけですわ、お父様」
「う、ううっ……い、言え! どんな手段を使った!? いや、それはどうでもいい! ツミキ、その契約を今すぐ八重桜石油という法人を相手にするように書き換えなさい! リュック様とパトリック様の許可を得て!」
「……わかってねえなぁ」
「は……?」
「テメェにはもう私に命令する権利はねえんだよクソ親父! 私が今の今までどれだけ自分を殺して生きてきたと思ってやがる!? 頭昭和時代なテメェにはわかんねえだろうなぁ、ゴマを擦ることしか脳のないこの玉無し野郎! 私はなぁ、勝ち取ったんだよ! そしてやろうと思えばこの契約書を紙切れにしてヤエザクラの家を潰すこともできる! この意味はわかるよなぁ!?」
私は中指を突き立てて、クソ親父に、腹の底から宣言した。
すぐ後ろではピケストがヘドバンしてる。相変わらず煽り能力高ぇなこの腐れメイド。
これでヤエザクラ家の中でのくだらねー格付け決定戦は大番狂わせで、私が一番になったってことだ。
「き、貴様……今まで育ててやった恩を……!」
「私を育ててくれたのはお母様とピケストだ! 今まで散々家事や育児を女に丸投げしといて、都合のいいときだけ父親面してんじゃねえよ!!!!」
「う、うっ……!」
「でもこの世界に産んでくれたことは感謝してるぜ、契約書を紙切れにしたくなきゃ、あとはわかるよなぁ?」
「ぐ、ぐぬぬ……わ、わかった……お前に、ヤエザクラ家の未来は任せた……」
死ぬほど苦虫を噛み潰したような顔してんなぁ、もっと笑えよクソ親父殿。
結果的にはテメェが散々願ってやまないヤエザクラ家の繁栄は約束されたようなもんなんだからよぉ。
もっとも、それはテメェの見下してる庶民の遊びと小娘の力で成し遂げられたことだけどな!
「おやおや? おやおやおやおや? クソ上司……いえ、旦那様、ツミキ『様』に対してあまりにもその態度は失礼ではないでしょうか?」
「下女風情が調子に乗るな! 俺はヤエザクラ家の当主で、八重桜石油のCEOだぞ!」
「ひどい言葉でございます、このピケストはひどく傷ついてしまいました。えんえん。なのでパトリック様に慰めてもらいますね」
「頭でもおかしくなったか!? たかがメイド風情が……!」
『あ、あの、ピケストさん! こんばんは! まさか、ピケストさんから電話をくれるなんて……それで、ぼ、僕になにか御用ですか!?』
ダイバーギアのビデオ通話機能を利用して、ピケストはクソ親父に、今丸々買い取ったらしい日本の五つ星ホテルに滞在しているパルくんのリアルの姿を映し出してみせた。
うわ、また椅子からひっくり返ってやがる。
ざまぁねえなあ! もっともパルくんがどうにもピケストへ恋しちゃったのは私の首も飛びかねない問題だから諸刃の剣なんだけど!
「はい、パトリック様。実は先ほど締結していただいたビジネスパートナー協定の件につきまして、旦那様が──」
「うわああああ! やめろ、それだけはやめてくれ!!!! 悪かった、俺が悪かった!!!! ツミキ、ピケスト、謝る! 謝るから、それだけは!!!!」
『……よくわからないですけど、貴方はピケストさんにひどいことをしたんですね、コウゾウ』
「ひっ!?」
『ピケストさんは僕の恩人で……とても、とても大切な人です。この意味は、わかりますね?』
「あああああああ……」
このクソ親父、失禁してやがる。
いい気味だ。これでお母様の無念も少しは晴らせたことだろう。
まあ、つまんなかったけどね。なんていうか三流の悪党の命乞いって感じで、ルカとガンプラバトルをしているときのような高揚感は全然続かなかった。
まるで早漏だな、クソ親父がよ。
少なくとも、パルくんにまで睨まれたことで発言権は完全に失われたといってもいい。
本人からしたらなにが起こってるかわからないまま権力の座から突然引き摺り下ろされたってとこは一ミリぐらい可哀想な気がしないでもないけど。
「顔を上げてください、お父様。私はなにも難しいことは要求いたしません」
「ほ、本当か……?」
「ええ。ただ──私たちのやることに、なにも口を出すな。それと、お母様に土下座で謝ってこい」
「……っ……! わ、わかりました……っ!」
漏らしたズボンをそのまま脱ぐこともせず、クソ親父はお母様へと、床に頭を擦り付けて土下座した。
はいこれで終了。
それにしても、仕方ないとはいえパルくんにはひでぇものを見せてしまったわね。
あとでピケストを1日、独り占めする権利でもプレゼントしようかしら。
あの目は絶対恋してる目だし。
もっとも、ピケストがどう思っているかはわからないけど……少なからず悪い気はしてなさそうだし。
「……私が、パトリック様の大切な人……」
ちらりと横目で様子を伺ったけど、さぞかしニヤニヤしてるんだろうなと思ったら、思ったより真顔でピケストは俯いていた。
それも、顔を真っ赤にして。
えっ。明日、槍でも降るの?
「ピケスト」
「はい、お嬢様」
「あなた、もしかしてパルくんに惚れた?」
「っ!? ま、全くもってそのような事はございません。そもそも私はツミキお嬢様一筋でお仕えする、クールビューティーなパーフェクトメイドで……」
「なら、露骨にこっちを見ようとしないのはどうしてかしら?」
「……それは、今のお嬢様が烈日のように眩しいからで」
『えっ……あっ、ピケスト、さん? ピケストさんが、僕を……?』
「っ!!!!」
ピケストは、首まで真っ赤になってぽろぽろと涙をこぼし始めた。
そうよね、まだパルくんとの通話切ってないからこの辺完全に筒抜けだったのよね。
普段は私を振ったら音の鳴るオモチャとして弄んでくれた分、ちょっと仕返ししてやろうかしら。
「パルくんはどう? ピケストのこと、気に入った?」
『……は、はい……僕は、その……初めてなんです、こんな感覚。女の人を見て、胸がドキドキするなんて。生まれて、初めてで。だから、ピケストさんが酷いことをされているって聞いたときは、とっても許せなかった』
「それはね、『好き』ってことなのよ。二種類あるうちの一つ。ね、ピケスト?」
「お、お戯れを……っ!」
顔を真っ赤にして目を逸らして涙こぼしながら必死に強がっちゃってまあ。
ピケストにこんな乙女な一面が眠ってるなんて、全く予想もしてなかったけど。
なんだ、おもしれー女じゃないこいつ。普段からトンチキなことばっかしてると思ったら、胡乱な仮面の下にはこんなに純情でウブな心を隠していたなんてよぉ。
『そんな……ピケストさんは、僕のことが……嫌い、ですか……?』
「そ、そのようなことは! し、しかし私は一介のメイドで……スラムで家族の存在も知らずに育った身! パトリック様の高貴な御身には決して……!」
『そんなの、関係ない!』
「ッ!?」
『ミキさんが教えてくれました。心を剥き出しにすることが大事だって……だから、僕は! ピケストさんを一生大事にします! そのためなら……この身にある王の資格さえ捨てたって構わない! ピケストさん、僕を……僕を好きになってください!』
「……あ、あっ……う、うぅ……」
やるじゃない、パルくん。
男として一皮も二皮も剥けたわね。
そしておめでとう、ピケスト。あんたにも家族と呼べる存在がそのうちできるかもしれないわね。
国際問題を考えたら頭痛くなってきそうだけど、今夜ぐらいは見なかったことにしても許されるはずだろう。
胃痛部分はクソ親父に丸投げするって手もあるからね。
使えるものは使う。過ち過ち、気に病め、大人でも。
「わ、私に……家族が……? 私が……家族を……? ぱ、パトリック様と……? そ、そんな……お、恐れ多い……」
『僕は、ピケストさんの前ではただの「パルヴィーズ」です。どうか、お手を』
「……あ、あぁ……っ……薄汚れたこの手が、ゆ、赦されるの、なら……」
ビデオ通話の向こうから手を差し伸べたパルくんと、震えながらも応えたピケストの手が、画面越しに重なり合う。
「パトリック様……いえ、パルヴィーズ様……お慕い申し上げます……不束で、不躾な女ではございますが」
『ありがとう、ピケストさん。僕も……貴女のことが、大好きです』
ひゅーひゅー、カップル成立、それもシンデレラカップルじゃない。
こりゃあピケストに長期休暇あげちゃわないとね。
私もちょうど、ウイングガンダム・フェアリアルの後継機作ろうかなーとかぼんやり考えていたことだし、「学園」もそろそろ夏休みだし。
明日辺り、ルカを誘って避暑地にでも行ってみようかしら。
そんなことをぼんやり頭の片隅に浮かべながら、私はぽろぽろと涙をこぼしながらも、無邪気に微笑むピケストを一瞥した。
……ちょっとだけ、羨ましいわね。一人の女の子としては。
おねショタシンデレラ婚の未来へレディ・ゴー!