お嬢様がGBNにいるわけないだろう! 作:プラ板の削りカス
「うぅ、仕方ないとはいえ羨ましいなあ。ぼくばっかり置いてけぼりを喰らった気分だよ……」
GPD筐体の上でフィアがいじけたように体育座りをして、呟く。
茨城の中古屋でロミカがローゼン・シニスタ? とか言ってたガンプラを購入した翌日、私たちは例によっていつもツカサくんが秘密基地にしている倉庫へ集まっていた。
なんと今回はルカだけじゃなく、ロミカちゃんとミナカちゃんもいる。その代わり、コーイチさんはビルドダイバーズの皆と一緒にGBNやってるからいないけど。
「ごめんってフィア。その分新しい友達連れてきたから!」
「うぅ、ぼくの存在が表沙汰になると今はまずいってツカサに教えられたからいいけど……そこの金髪の子と銀髪の子が新しいお友達かい?」
フィアはゆっくり立ち上がって、オッドアイを白黒させているロミカちゃんとミナカちゃんに視線を向けた。
まあそうよね、美プラが自立して動いて喋ってたら普通は困惑するわよね。
やべー、なんも考えないで倉庫に連れてきたけど、2人にもELダイバー関連のこと説明しなきゃいけないのかな。
「か、かわいいーっ! なに、この子!? とってもかわいいよ、お姉ちゃん!」
きーん、と倉庫全体にハウリングしかねないクソデカボイスで、ミナカちゃんは叫んだ。
うーん、悪い子じゃないんだけどなあ。
軽く目を回しているフィアと、左右で色が違う瞳をキラキラと輝かせているミナカちゃんに視線を向けて、私は苦笑した。
「そ、そうね……ええ、と。ミキさん。このお方は?」
「フィアについては、語ると長くなるけどいい?」
「はい。むしろ、話してくださって嬉しいです」
「友達相手に隠し事なんかしてもいいことないでしょ」
ロミカにかくかくしかじかと、転生云々の話を抜きにして、今まで私たちがやってきたことを打ち明ける。
「電子生命体、ELダイバー……それに、アルジェ家のお方と……」
あまりにも突飛な話すぎて信じてもらえるかどうかは微妙かも、と思っていたら、ロミカは驚きこそしていたようだったけど、すんなりと話を受け入れてくれた。
論より証拠ってことで、フィアの存在を見て納得したのかしらね。
ミナカちゃんはよくわかってなさそうだったけど、フィアを猫可愛がりしてるからそれでよしとしておこう。
「おいうるせェぞミキ、人の隠れ家をティーパーティーの会場かなんかだと思ってやがんのか」
「新しいガンプラ仲間を呼んできただけよ。この前つけてあげた倉庫のエアコン取っ払うわよ?」
「……ちっ、これだから金持ちは。まァいい。で、戦えんのか、そいつらは」
奥の方でガンプラを組んでいたツカサくんは、値踏みするようにロミカちゃんとミナカちゃんに視線を向ける。
すると、なにかに気づいたかのように、かっ、と目を見開いて、ロミカちゃんへと歩み寄っていく。
一目惚れでもしたのかしらね。
「テメェ……そのガンプラを……『ローゼン・シニスタ』をどこで手に入れた?」
ロミカが手に持っていた刺々しいシルエットのガンプラを見て、ツカサくんは心から驚いたような表情を浮かべていた。
そっちかー。
……でも、あれ? GPDジャンキーのツカサくんが心当たりあるってことは、これもしかして厄ネタだったりする?
「ええ、と。茨城の中古店で……」
「中古屋か……それも、茨城となると、やっぱり、引退しちまってたんだな。あの『†黒薔薇ノ悪魔†』も……」
「ごめん、なんて?」
シリアスな空気を纏って呟いたのはいいけど、ツカサくんの口から飛び出てきた厨二ワードに、私は思わずツッコミを入れずにはいられなかった。
「知らねェのか、『†黒薔薇ノ悪魔†』ほど強烈なファイターは他にそうそういなかったぜ」
「そうなの? そんなに凄い人なんだ……ルカは知ってた?」
「いいえ? わたくしは別に過去の歴史に興味があるわけではないので……」
「そっか。で、ツカサくん。その『†黒薔薇ノ悪魔†』さんはどんなファイターだったの?」
私の問いへ、ツカサくんは即座に食いついてくるかと思いきや、困った様子で首を傾げていた。
「あァ……まず全国大会の常連で、俺も何回か戦ったことがある。だから腕前だけは確かなファイターだ」
「それって、人格面に問題があったってこと?」
確かに、ローゼン・シニスタのいかにも闇堕ちしたみたいな黒と紫のツートンカラーに、背中に刺々しく装備されたGNソードビットを見れば、邪悪な印象を受けなくもないけれど。
「いや? いいやつだったぜ。ただな、ちょっとばかり……これは見た方が早ェな、当時のhobby×hobbyで特集記事組まれてたから、持ってきてやる」
ツカサくんは私たちに告げると、作業机の下を漁って、一冊の雑誌を取り出してきた。
当時の思い出をアーカイブしておくなんて、よっぽどGPDに対する愛が深いのね、ツカサくんって。
原作知識はあるから知ってたけど、こうして実感を伴うと、ツカサくんたちもまたこの世界で「生きて」いるんだとしんみりした思いを抱かずにはいられなかった。
「……これが『†黒薔薇ノ悪魔†』だ」
表紙に写っていた、ローゼン・シニスタを手に決めポーズしている黒薔薇さんは、なんというか、その、非常に。
「まあまあ、センスが壊滅したファッションでいらっしゃいますね」
「思ってても言うなよ! 事実だけど!」
よっぽどのことがなければ他人に興味を持たないルカが、思わず苦笑してしまうほどに黒薔薇さんのファッションセンスは──一言でいうなら痛々しかった。
全身黒コーデに、襟を高く立てた黒のロングコート、そして黒革のブーツに加えて、当然の権利とばかりに黒い指ぬきグローブをしているだけでなく、バラの造花を口に咥え、クルーゼみてーな仮面をつけていた。
あの、なんか世界観違くない? なにこの痛いコスプレファイターは。
「……まァ、なんだ。見ての通りだ。だけどな、GPD末期まで精力的に活動をしてた貴重なファイターでもあった。ある日突然、煙のように消えちまったが……」
「きっと正気に戻られたのですね」
「なんてこというの、ルカ」
ピケストがいたら真っ先に言いそうなちくちく言葉を率先して吐いたルカを宥めつつ、私はロミカとミナカちゃんとフィアに視線を配る。
変な影響とか受けなければいいけど。
なんていうか、擁護するならGBNでもやろうと思えば似たコーデは作れるし、ロールプレイやってるダイバーも珍しくないから、時代が彼に追いついてなかったのかもしれない。
「この方が……ローゼン・シニスタの前の持ち主」
「そういうこった。ところでお前、ロミカとかいったな」
「はい。私はアマツガ・ロミカですけれど……」
「私は妹のアマツガ・ミナカだよー!」
「うるせぇ! 声のトーンなんとかなんねぇのかお前はよぉ!?」
ロミカの名乗りに合わせたミナカちゃんのクソデカボイスを受けて、ツカサくんは縋るように私へ視線を向けてきた。
あー、うん。
多分無理だと思う。その子天然だし。
「……とにかく。昔戦ったよしみとして、ビルダーとして、ローゼン・シニスタが関節クタクタで塗装も剥がれてる無惨な状態なのは納得いかねえ。ロミカ、お前にはこいつを修理してもらうぜ」
「修理……初心者の私に、できるでしょうか」
「関節の補修と部分塗装だけならそう難しくはねぇ、ったくよ……関節クタクタになるまで戦ってやがったのに」
ツカサくんは昔を懐かしむように苦笑しつつ、ロミカを作業机へとエスコートした。
確かにGPD末期まで続けていたファイターが、急にガンプラを手放しちゃうなんて、寂しいわよね。
でもその分、ロミカがいる。
リクくんが言っていたように、壊れたものは直して、繋げるから。
これだけの愛が詰まったガンプラを手放しちゃうなんて、惜しいだろうけど。
きっと、ロミカが道を繋いで、ローゼン・シニスタの持ち主である黒薔薇さんも、草葉の陰で喜んでくれていることだろう。
†
「……ざっとこんなもんか。初心者にしちゃ覚えがいいし、手際もいい。ミキのやつ、人を見る目に関しちゃ確かだな」
ツカサくんは、ロミカの手で修理を終えたローゼン・シニスタを見て満足げに呟いた。
当然よ。私が、海千山千の令嬢たちと、くだらない外面家柄マウントバトルを何回やってきたと思ってんのよ。
おかげである程度人を見る目には自信があるんだから。
「……ローゼン・シニスタは、戦いたがっています」
「あン? フィアみてぇなこと言いやがって……で、どうなんだ、フィア」
「うん。ローゼン・シニスタは今すぐ戦いたいって、ロミカの手で動かしてもらいたいって言ってるよ」
へー。ガンプラの声がわかるフィアが言うならそうなんだろうけど、ロミカもそういうのが聞こえちゃう体質なんだろうか。
無理に聞くことでもないから黙っておくけど。
それより、バトル。元全国大会常連のガンプラと戦えるのなら、やらずにはいられないわよね。
「ルカ」
「ええ、ミキ」
『最初はグー、じゃんけんぽん!』
ふっ、勝った。
初手でチョキを出すのは勝率的には悪手なのよ、ルカ。
そんなわけでロミカの対戦相手は私が務めることに決まった。
「ガンプラ、バトル……」
「GPDが怖ぇか、ロミカ。確かに今お前が修理して復元したローゼン・シニスタがぶっ壊れちまうかもしれねぇ、だが──」
「──本物の戦いが、そこにある」
ロミカは、豊かな胸にローゼン・シニスタを押し付けるように抱き寄せると、ツカサくんに言われるよりも先に、GPDの筐体へと歩み出た。
わかってるじゃない。
さあ、最高にロックで刹那的で、スリル満点の快楽に身を任せましょ!
†
「なん、だこの動き……ッ!?」
「ローゼン・シニスタが教えてくれる……どう戦いたいのか、どうしたいのか……だから、勝ちます! ミキさん!」
「上等! 勝利宣言にはまだ早ぇぜ……ロミカ!」
かくして始まったガンプラバトルは、あっという間に私が劣勢に追い込まれていた。
この子が本当に初心者なのか疑わしくなるほど、凄まじいマニューバに、ウイングガンダム・フェアリアルの機動力でも振り切れないし近づけないソードビットのマジレス。
対面拒否型のプレイヤーとして、恐ろしいほどにロミカは完成されていた。
「ダッセぇぇぇぇなぁぁぁぁ!? それで全力かよ!? わたくしから最高に絶頂できる機会を奪っておいて、そんな情けねぇ戦い方をするぐらいだったら、ガンプラバトルやめちまえこの不燃ゴミが!!!!」
「わかってるわよ!!!! 近づくのを拒否してくるんなら……強引に近づけばいい! リミッター解除!!!!」
私は、ウイングガンダム・フェアリアルの奥の手を切って、巧みなソードビット捌きでダメージを受けつつも、なんとか懐に飛び込むことには成功していた。
ルカに激励までしてもらったんだから、負けるわけにはいかない。
初心者が相手だろうと上級者が相手だろうと、私は決して手ぇ抜かないんだから!
「くる……右からはフェイント、背後に急制動で回り込んで!」
「なっ……読まれ、て……!?」
可変式ガンブレードの刃で私が繰り出した渾身の一撃を受け止めると、即座に遅れていたソードビットが合流して、フェアリアルを切り裂いていく。
クソッ、負けられるか。
負けてられるか!
「う・ご・け、ぇぇぇぇッ!」
全身に致命傷を負いながらも、ビームサーベルだけは死守していた私は、最後の抵抗として、ローゼン・シニスタのコックピットを貫くべく、大きく右腕を振りかぶった。
──しかし。
「奥の手を切ります、チェックメイトです、ミキさん!」
「やられる!?」
腰部から伸びるケーブルのようなパーツに接続されていた銃口がこっちを向いて、気づけば私のウイングガンダム・フェアリアルは光に飲まれていた。
『Battle Ended!』
『Winner:Player 1!』
うわー、言い訳のしようもないぐらいのボロ負けね。
しかも、相手には奥の手のトランザムも切らせていない。
本当にダサくて死にたくなってくるわ。死なないけど。
「こいつは驚いたぜ……お前、どこでこんな……? 俺を負かしたミキが相手だぞ……?」
ツカサくんも驚いた様子で、宇宙猫みたいな表情を浮かべていた。
ロミカはそれに対して、誇るわけでもなく驕るわけでもなく、ただ少しだけ、申し訳なさそうな表情を浮かべていた。
かといって、哀れみや同情は感じられない。一体この子は、なにを考えて──
「……ミキさん! ごめんなさい!」
「えっ!? なんで謝るのよ!? むしろ勝ったんだから私を好き放題煽る権利があるのに!」
「……私は、初めての友達である貴女に隠し事をしていました。私は……本当の力でミキさんに勝ったわけじゃない。私は……っ、人の心や、モノの想いを感じ取れるんです!」
ロミカは深々と頭を下げた。
なるほど、一種の読心能力持ち……ビルドファイターズの世界で例えるなら、アイラ・ユルキアイネンが一番近いんだろうか。
にわかには信じ難い話だったけど、実際にことごとく私の手を先回りして潰してきたのだから、納得がいく。
「どう戦えばいいのかも、どう戦いたいのかも、ローゼン・シニスタが教えてくれただけ……私は……ズルをして貴女に勝ってしまったんですっ!」
「すげぇじゃん、ロミカ!」
「……えっ!?」
「別にそれ、システムで不正してるわけじゃないんでしょ? だったらあんたの勝ちは勝ちよ。むしろゴリ押しばっかで動きが読まれていた私の方に非があるわけ。それにね」
「……そ、それに……?」
「超能力者の友達って、最高にイカしてるじゃない!」
負けたことそのものは悔しいけど、ようやく理解と納得がいって、ロミカが私に秘密を打ち明けてくれたことが、とっても嬉しくて。
私はひどくボロ負けしたっていうのに、親指を立てて笑っていた。
あークソッ、そっか。ロミカの独り言が多いのってそういうことだったのか。
「ミキ……さん……」
「でも次は私が勝つわ! 読まれても問題ないぐらいに立ち回りの精度を上げて! ローゼン・シニスタに勝てるぐらいの完成度のガンプラを作って! だからいつかまた、もっかいやりましょ、ロミカ!」
「……はいっ……!」
左右で色が違う瞳からぽろぽろと涙をこぼしながら、ロミカは憑き物が落ちたように笑って、ぎこちなく親指を立てた。
さて。
私はこれから、ルカとフィアに散々煽られることにしましょうかね。
バトルが絡まなければ常識的なツミキちゃんUC