お嬢様がGBNにいるわけないだろう!   作:プラ板の削りカス

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【悲報】ヒナタ、ヤンデレる

 私──ムカイ・ヒナタには一つの心配事がある。

 最近、幼馴染のヒロトが部屋にこもってばっかりで、学校に行くときもなんだか寝てないみたいで目の下に隈が浮いているし、たまにぶつぶつと「俺のイヴはこんなんじゃない……」とか呟いていたりするのが、心配で仕方なかった。

 それに、なんだか私のことも避けてるような気がして、放課後は一緒にガンダムベースまで行ってたのに、最近は全然誘ってくれなくなった。

 

 ……寂しいよ、ヒロト。

 だから、私は決心した。

 ヒロトがこそこそとなにをしているのか、見極めようと。

 

 だからこっそり後をつけて、ヒロトの動向を見守っていたんだけど、明らかに最近のヒロトはおかしかった。

 普段なら絶対に行かないような、ガンプラじゃなくて、際どい格好をした女の子のプラモデルをメインに取り扱っているお店に出入りしていたり、目つきが悪くて怖そうな人と一緒にファミレスに入っていったり。

 これは、明らかに異常事態だ。危険なことだ。

 

 だから、ヒロトを私が元に戻さなきゃ。

 いつもみたいにGBNのことで私に微笑みかけてくれるようなヒロトに。

 そして、今日は絶好の機会だった。

 

 ヒロトがとうとう、「やっと完成した……!」って部屋の中で呟いてたのを私はドア越しに聞いていたから。

 ここ最近、ヒロトがずっと作っていたのはどう考えてもガンプラじゃない。

 それに、通話で誰かとどこかに行くみたいなことを言っていたのも聞いた。

 

 ……ヒロトに悪いことを吹き込んだ人たちを探さなきゃ。

 そして、元のヒロトに戻ってもらわなきゃ。

 悲しいよ、寂しいよ、ヒロト。いつも一緒にいたはずの私を仲間外れにしなきゃいけないぐらい大切なことなの? 違うよね?

 

 だから、見極めなきゃ。

 ヒロトになにが起きてるのかを。

 イヴって人が、誰なのかを。

 

 

 

 

 

 

「ようやく完成したのか、ヒロト」

「はい、時間はかかりましたけど……これが俺の思う理想のイヴです」

 

 まだ、魂の宿っていないモビルドールをGPDのスキャン台の上に置いて、ヒロトくんは憑き物が落ちたように笑った。

 わー、目の下に浮いてる隈がすごいことになってるし、かなり苦戦したんだろうなぁ。

 ガンプラ組めるから美プラも組めるとは限らないし、ましてや髪の毛が長くてボリュームのあるイヴの姿を、フルスクラッチに近い工程で再現しなきゃいけないんだから、そりゃ大変よね。

 

「……ミキさんも、ありがとうございます。イヴが、GBNに起きてたバグを1人で取り込んで解決しようとしていたなんて、知らなかったから」

「いいのよ、あのままじゃイヴは間違いなく限界を迎えてたし。なによりバッドエンドは私が気持ちよくない。それだけだから」

「……ありがとうございます」

『ごめんね、ヒロト。心配かけて』

 

 通話機能で、GBNのロビーに待機してもらっているイヴが、少しだけ申し訳なさそうに苦笑する。

 イヴって可愛くて儚げで大人しそうな顔してるけど、「こうだ」と決めたら絶対に曲げないしやり通す頑迷さとでもいうべきものがあるのよね。

 それは確かに美点かもしれない。でも、原作ではイヴの決意が、ヒロトくんの大好きなGBNや妹のサラを守りたいという気持ちが、悲劇の引き金となってしまったのだから、やるせないのよね。

 

「よく見るとこいつは……ウーンドウォートを参考にしてやがるな?」

「……ツカサさんにはわかっちゃいますか」

「ウーンドウォートを……?」

 

 美プラとして構造が破綻してないのに、あの無茶苦茶な換装システムを取り込んでいる出来は、本当に凄まじいとしかいいようがない。

 でも、どうしてかしら。

 別に、モビルドールとしてはウーンドウォートを参考にする必要なんて全くないのに。むしろそのせいで作るのに苦労してたんじゃ?

 

「はい。プラネッツシステムをせっかくだからイヴにも使ってもらいたいと思って……そのおかげでこんなに時間がかかってしまったけど」

「そっか、プラネッツシステム! でもいい発想じゃない!」

 

 なるほど、手足を折りたたんでアーマーを接続するようにできてるのか。

 腕部分は折りたたんでから専用のサブアームを取り付ける必要があるけど、足部分は折り畳むだけでプラネッツシステムの脚アーマーを接続できるように作ってあった。

 流石ね、ヒロトくん。これで、今あるかどうかはわからないけど……ネプテイトアーマーをイヴに装備させてあげることもできるし。

 

「ありがとうございます、ミキさん」

「これで今いるELダイバーのサルベージは全員終了か。長ぇ道のりだったな」

「そうね。でも、まだ終わったわけじゃないわ」

 

 むしろこれからが始まりといえる。

 原作ではイヴが転生した姿がメイちゃんだったけど、この世界でもなんらかのイレギュラーで生まれてこないとは限らないし。

 それに、外伝設定が生きてるなら2年後で確か65人近いELダイバーが生まれることになるわけだし、まだまだ私たちは入り口に立ったに過ぎない。

 

「ったくよ、ミキ。テメェと会ってから……退屈はしてねェ。それどころか、GPD時代の思い出が次々と蘇ってきやがる。今もGPDは死んでねぇ、生きてるんだって、実感しちまう……おかしいよな。今思えば、八つ当たりでGBNを破壊しようとしていた俺がお子様みてぇだ」

「実際お子様じゃない。GPDもGBNも両立できるのに、繋げるのに、目ぇ曇らせちゃって」

「はっ、ガキがナマ言いやがる。それじゃサルベージ始めんぞ、ヒロト」

「……お願いします」

 

 コーイチさん不在でも、サラちゃんのサルベージでコツを掴んだのか、ツカサくんはビルドデカールの準備やサルベージの準備を1人でテキパキと進めていた。

 しかし、これで私も、ようやく一つ夢が叶ったといえるわね。

 原作では消滅する運命だったイヴが生き残って、ヒロトくんと一緒にGBNを楽しんでくれる。

 

 でも、これでハッピーエンドってわけじゃない。

 さっきもいったように、私たちはまだ入り口に立ったに過ぎないのだから。

 ゲームやアニメなら、エンドロールの後にピリオドが打たれて終わるけど、私や、ルカや、ヒロトくんたちがこの世界で「人間」として生きている限り、人生は続くものなのだ。

 

「サルベージを始める……って言いてェとこだがよ」

「どうしたのよ、ツカサくん? まさかシステムに不具合とか?」

「いや……違ェ。さっきから視線を感じる。誰かに見られてるかもしれねェ」

「……それは一大事ね」

 

 ピケストがいたなら、簡単に気づいていたことなんだろうけど、生憎彼女は休暇中だ。

 リナさんも、今は車の警護に当たってるし。

 でも、どうやって? 友達以外には誰にも教えてないはずなのに、どうしてこの倉庫のことがわかったのかしら。

 

「サルベージは一旦中止だ……おい! 見てんのはわかってんだ、コソコソしてねぇで出てきやがれ!」

 

 ツカサくんが、微かに開いている扉の向こうへと叫ぶ。

 こういうとき、弱気になっちゃダメなのよね。もしELダイバーのことをどこかの誰かに勘づかれていたとしても、強気に構えないといけない。

 私たちは確かに悪いことはしているけれど、道に背いたことはしていないのだから。

 

「ご、ごめんなさい!」

「ヒナタ!?」

 

 すると、ドアを開けて姿を現したのは、ヒロトくんの幼馴染であり原作での正妻ポジションこと、ヒナタちゃんだった。

 えっ? ヒナタちゃんと私の接点ってなくない?

 本当にどうしてここがわかったのだろうか。まさか、ヒロトくんをストーキングしてたとかならリナさんが気づいてるだろうし。

 

「で、でも! 隠れていけないことをしてるのはよくないです! ヒロトが……ヒロトが、えっちなプラモデルに興味を持ったのは、あなたたちのせいですよね!?」

 

 ヒナタちゃんは瞳を潤ませながらも、びしっと人差し指を突きつけて、私たちへと宣言した。

 えー。

 なんか盛大に誤解されてる気がする。それにえっちなプラモって。

 

 確かに美プラの大半は際どい格好してるけど、それはイヴのモビルドールを作るために必要なミキシング素材であって……そうだよね、ヒロトくん?

 と、横を向くと、ヒロトくんは、原作じゃ浮かべたことのないぐらいに気まずそうな表情でダラダラと冷や汗を垂れ流していた。

 ……ヒロトくん?

 

「違うんだ、ヒナタ。あれは参考資料で……!」

「じゃあ、なんで私を仲間外れにしたの? ヒロトは困ってるとき、私に相談してくれたよね? 私、なにかしちゃった? それとも、この人たちに変なことを吹き込まれたの?」

 

 おかしい。

 ヒナタちゃんの煌めく太陽みたいな瞳から、ハイライトさんが失踪していらっしゃる。

 シチュエーションがシチュエーションなら、ジャパニーズヤンデレソードを装備していてもおかしくないぐらいの「凄み」があった。

 

「それは……その、GBNでのことで、秘密にしなきゃいけないことだから……」

「ふーん……私に秘密でえっちなプラモデルをいっぱい作ってたことが、GBNでの秘密?」

「違う、誤解だ。誤解なんだ、ヒナタ」

 

 ヒロトくんは律儀な性格だから、多分私との約束を守って、ELダイバー関連のことは誰にも話さないでいてくれたのだろう。

 で、それが拗れに拗れて今に至ると。

 ……あれ、これ私のせい?

 

「お、落ち着いて? 私たちは確かにヒロトくんに今やってることを秘密にしてほしいって言ったけど、決していかがわしいこととかじゃないの」

「……よく見たら、可愛い女の子も……やっぱりヒロトは……!」

「違う、ミキさんとルカさんは俺の友達で」

「友達なのに、私に黙ってたの?」

 

 うっ、こうなると完全に話が通じない。

 ツカサくんは呆れたような顔でサルベージの続行に戻ってるし、ルカに至ってはなんかおもしれーもん見つけた、みたいに目を輝かせてるし。

 この場にピケストがいなくて本当によかった。あの腐れメイドなら確実に火元へガソリン注ぎにいくだろうし。

 

「おい、ヒナタとかいったな」

「はい、なんですか? 不良のお兄さん」

「不良……まァいい。百聞は一見にしかず、って知ってるか? 乗りかかった船だ、ヒロトがなにをしようとしていたかをテメェも見届ければ、考え変わるだろうよ」

「……わかりました」

 

 よかった。

 ツカサくんがなんとか丸く収めてくれた。

 ヒナタちゃんが原作通りのいい子ってこともあるんだろうけど……それ以前に無印ビルドダイバーズ時点だとまだヒナタちゃんも15歳の中学生だから、多少余裕がなくて当然だ。

 

 それを見落としていた自分が情けない。

 

『じゃあ、サルベージをお願い。ツカサ』

「任せとけ、イヴ。テメェはフィアとサラがやったようにログアウトゲートに立てばいい。ルカ、手伝え」

「承知いたしました♡」

 

 バックアップ要員としてルカを配置した上で、ツカサくんはサルベージを開始する。

 ヒナタちゃんも、ヒロトくんも、今は禍根を忘れて、食い入るようにその光景を見つめていた。

 事前に抜き取って、GPDにバックアップしてあるイヴのパーソナルデータと今ログアウトした情報をビルドデカールに転送、そして。

 

「わぁ……こっちの世界では初めましてだね、ヒロト!」

「イヴ……!」

「会いたかった……ずっと、本物の星空の下で。これから、よろしくね?」

 

 ヒロトくんの努力の結晶であるモビルドールに、イヴの魂は無事に宿ってくれた。

 ヒナタちゃんはなにが起きたのかわからなくて目を白黒させていたけど、無理もないわよね。

 こうなったら、ヒナタちゃんも私たちの「お友達」としてこの計画に巻き込むことにしよう。

 

 もう原作を大きく外れて世界が進んでいる以上、なんとでもなるはずだって感じだし。




ハローワールド、イヴ
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