お嬢様がGBNにいるわけないだろう! 作:プラ板の削りカス
「ヒロトに、そんな事情が……」
かくかくしかじかというわけで、私はヒナタちゃんへの事情説明という名の申し開きをしていた。
「概ねそんな感じよ、電子生命体……ELダイバーに関して、今はどうしても表沙汰にはできないから口を閉ざしてもらう必要があったってわけ。だから、ヒロトくんの責任というより、私の責任ね。ごめんなさい、ヒナタちゃん」
「い、いえ! ツミキさんが謝ることじゃないですよ、私が勘違いしてただけなので!」
わかってくれたのは本当に助かった。
GBN周りの細々とした事情については理解が追いついてないだろうけど、その辺は理解できてなくても問題ないし。
要するに、ツカサくんが言ってたみたいに論より証拠ってことで、イヴとフィアを見てもらったことで、納得がいったのだろう。
「お姉様、この世界でもお会いできる日を待っていたよ!」
「私も、この世界に来られるのをずっと待ってた! フィアも、今はいないけどサラも、これからもよろしくね?」
「もちろんさ、お姉様! 次にGBNで出会ったときは、ぼくと一曲……セッションしてくれないかい?」
「あはは、バトルは自信がないけど……ヒロトにいっぱい教えてもらうから、頑張ってみるね!」
現実でも対面を果たしたイヴとフィアのファーストELダイバー姉妹が手を繋いで戯れているよ、可愛いね。
ここにサラちゃんが不在なのが悔やまれるけど、ビルドダイバーズの皆もせっかくの夏休みだからってことで各々エンジョイしてるだろうし、水を差すのも違うわよね。
しかし、ガンプラバトルかぁ。イヴのモビルドールがプラネッツシステムに対応してるってことは、事実上ヒロトくんが持ち込めるアーマーが4つになったってことなのよね。
戦略の幅もかなり広がって、いいんじゃないかしら。
ボリュームがめちゃくちゃにあるイヴの髪の毛と干渉しないようにバックパック取り付けられるようにしたのとか、めっちゃ頑張ったんだろうなー。
なんて、友達のガンプラに関心してる場合でもない。この前、ロミカとのGPDで私のウイングガンダム・フェアリアルは大破しちゃったわけだし、後継機も考えないと。
「本当、やることが多いわね」
「ですが、それだけ充実しているということです。以前のような退屈と無縁の生活……わたくしはミキと一緒にいられて、本当に潤っていますわ」
「嬉しいこと言ってくれるじゃない」
「事実ですもの♡」
隣に立っていたルカが、頬を赤らめ、てれてれと俯く。
そうね、私もルカと出会ったことで退屈極まりなかった「お嬢様」の檻から解き放たれたわけだし、とっても感謝している。
ルカも新機体の構想があるみたいだから、久しぶりに「学園」の旧音楽室でバチバチにぶつかり合うのも悪くないわね。
「あ、あの、ツミキさん!」
「どうしたの、ヒナタちゃん?」
そんなことを頭の片隅に浮かべて苦笑していると、ヒナタちゃんがなにやら真剣な目をして、私の名前を呼んだ。
「ここにいる皆って、GBNで繋がってるんですよね!?」
「んー……厳密にはGBNだけの繋がりってわけじゃないけど、概ねそう、が答えになるかしら」
なんなら、ツカサくんと知り合ったのはGPDがきっかけだし、本人も完堕ちしてるとはいえ、GBNに魂売ったわけじゃないって言ってハロボディを貫いてるわけだし。
ちらりと横目で見ると、ツカサくんが小さく頷いていた。すっかりビルドダイバーズの皆とも馴染んで完堕ちしてるくせに、このツンデレめ。
それはともかく、私の曖昧な答えに、ヒナタちゃんは少しだけ小首を傾げながらも、言葉を続ける。
「だったら……私もGBN、やってみたいです! ヒロトと一緒に!」
「ヒナタ……」
「ガンプラバトルをやりてェってんなら歓迎するけどよ、お前……ガンプラ持ってんのか? ヒロトは仮にもGBNのトップフォース、つまりは一番強いチーム、AVALONの一員だ。友達同士だからって、一緒にプレイするにはちょっとばかり厳しいぞ」
腕を組んだツカサくんが、ヒナタちゃんを見据えて諭すように言った。
ここでちくちく言葉が出てこないのがツカサくんの善性というか、根っこが悪人でないことの証明みたいなものよね。
でも、意訳するならツカサくんの言葉は、「ヒロトくんと一緒にGBNをやるなら、トップフォースのAVALONに入れるぐらいのガンプラ作りとバトルの腕前が必要になる」ということでもある。
そして、それは全くもって事実だった。
なにも、ヒナタちゃんだけじゃない。
モビルドールを獲得したイヴも、ヒロトくんにガンプラバトルを教えてもらうなら、AVALONに自分がELダイバーだってことを明かした上で身を立てなきゃいけないわけだし。
「そうなんですか……ヒロトが頑張ってることは知ってたけど、まさかGBNで一番強い人たちと一緒だったなんて……」
ヒナタちゃんはしゅん、と落ち込んで、俯きながら人差し指同士を突き合わせた。
まあそうよね。初心者がいきなりAVALON入りを目指すのは、はっきり言ってあまりにも厳しい。無理だと言い換えたっていい。
ヒロトくんだって相応に努力した結果認められて、それだけ頑張っても副隊長には就任できていないぐらい、トップフォースの壁は厚いのだから。
「その件なんだけど……俺、AVALONを抜けようと思ってるんです」
「ヒロトくん?」
「お前、本当にいいのか?」
「まあ、なんて刹那的で素敵な決断! 潔さは殿方の美徳ですわ、ヒロト様♡」
「……俺、今までは、これといった目的もなく、GBNでバトルしてました。AVALONに入ったのも、イヴに『仲間を作れ』って言われたからで」
「ヒロト……」
ヒロトくんが拳を握りしめて独白した言葉に、イヴが少しだけ申し訳なさそうな視線を送る。
そうよね、今までイヴは終活をしてたわけで、ヒロトくんに、自分がいなくなってもGBNを楽しんでもらえるように、あれこれと裏で無茶なことをしていたわけなのだから。
でも、そんな心配はもう、どこにもない。こうして、イヴは無事に消滅の運命を乗り越えて、この現実世界に降り立ったわけだから。
「だから、今ならわかるんです。イヴが俺に……『仲間』を、友達を作れって言ってたのは、イヴがいなくなっても俺がGBNを続けられるように、配慮してもらってたんだって。そうだろ、イヴ?」
「……うん。ごめんね、ヒロト」
「いいんだ。ミキさんが、そんな未来は変えてくれたから。だから……俺は、ミキさんやツカサさんたちみたいに、自分の力で仲間を、友達を作って、GBNを楽しみたい。AVALONの皆にもよくしてもらったから、申し訳ないところはあるけど……それでも俺は、ようやくスタートラインに立てた気がするんです」
言うじゃない、ヒロトくん。
でも、責任とか負い目とか、そんなつまんないものに縛られる必要はもうどこにもない。
チャンピオンだって、事情を話せば理解してくれるはずだ。
「だから……ヒナタに、これを預ける。俺と一緒にGBNをやろう、ヒナタ」
「これって、コアガンダム……? ヒロトが大切にしてたのに、いいの? イヴさんとの思い出のガンプラじゃないの?」
ヒロトくんは腰のガンプラホルダーから、コアガンダムを取り出すと、ヒナタちゃんへと躊躇いなく差し出した。
まるでプロポーズみたいに。
大切なものを譲り渡すだけの覚悟。そうよね、ヒロトくんはヒナタちゃんのことも大事に思っているからこそよね。
「……実は、イヴのモビルドール作りで行き詰まってたときに、色々考えてたんだ。俺は、イヴとこの先どうしたいかって。だから……ってわけじゃないけど、俺の想いを込めて作ったコアガンダムを、ヒナタに受け取ってほしい。メンテナンスの方法とかは、俺が教えるから」
「ヒロト……」
「イヴ、勝手に決めてごめん。でも」
「ううん、わかってる。ヒロトが、ヒナタさんを大事に思ってるって。コアガンダムも、ちゃんと納得してるよ」
「イヴ……」
「それに、新しい鼓動がヒロトを待ってる。ふふっ、私にガンプラで隠し事はできないよ?」
イヴは、ヒロトくんへと無邪気に微笑みかけた。
新しい鼓動──ってことは、まさか。
ヒロトくんはしてやられた、とばかりに苦笑すると、腰につけていたもう一つのガンプラホルダーから、ガンプラを取り出して、GPDの筐体に置いた。
「イヴには敵わないな……これが、俺の新しいコアガンダムだよ。イヴとヒナタと一緒に、GBNをやるために作ったんだ」
「ヒロト……」
「とっても素敵……その子も、早くGBNに行きたいって、私たちと一緒にあの空を飛びたいって、言ってる」
ヒロトくんが取り出したのは、コアガンダムⅡだった。
まさか、こんな理由で前倒しが起きるなんて思っていなかったから、呆然とするしかなかったけど。
でも──意識が戻ってくると同時に、私の中でもメラメラと熱が滾ってくる。
負けてられない。
クソ親父の枷からも解き放たれた今、ルカとフィアと一緒に、私もGBNを思いっきり楽しみたい。
ツカサくんもなんだかんだでこの熱に当てられているのか、腕を組んだまま頻りに頷いていた。
「いいじゃない! やりましょ、最高に楽しくて気持ちいいこと!」
「……ありがとうございます、ミキさん」
「いつか、ヒロト様が作られたフォースと矛を交えるその日を、楽しみにしていますわ」
「ルカさんも……ありがとうございます」
ヒロトくんは、もう重い荷物も十字架も背負わなくていい。解放されたかのように穏やかな笑みを浮かべて、小さく頭を下げるその姿は、なんだか年頃の男の子、って感じだった。
「門出の祝いってわけじゃねェが、持ってけ、ヒロト」
「ツカサさん……?」
「そいつがあれば、テメェの家でもイヴにプラネットコーティングを充填できる。一緒に暮らせるってことだ」
「ツカサ……」
「別にテメェの気持ちとかを考えたわけじゃねえ、これ以上俺の隠れ家に住人が増えるのが落ちつかねぇだけだ、イヴ」
「うん……ありがとう! これからは、ずっとずっと、
イヴは、大きな瞳に涙を湛えながら、大輪の花みたいな笑顔を咲かせてヒロトくんへと語りかけた。
「わ、私だってヒロトとずっと一緒だもん! だから、ガンプラバトルのこともガンプラのことも、教えてね、ヒロト!」
ヒナタちゃんも、負けじとヒロトくんに声を張り上げる。
いやー乱世乱世。
ヒロトくんはここからが大変そうだけど、今が楽しいならそれでいいか。
「改めてよろしく、イヴもヒナタも。二人が……俺にとっては、翼だから」
……ヒロトくんの言葉選びは、なんか後々の死亡フラグになりそうで、ちょっとだけ不安になったけど。
お前たちが俺の翼だ!