お嬢様がGBNにいるわけないだろう! 作:プラ板の削りカス
「やっと終わったわね」
「違います、ようやく始まったのですわ、ミキ♡」
退屈な授業を完璧なお嬢様モードで捌き切って、私たちは待望の放課後を迎えていた。
ルカが言った通り、確かにこれは終わりではなく始まりね。
ロミカを旧音楽室に連れていくのも初めてだし、なによりこの窮屈な「学園」で同じガンプラをやっている同志が見つかるとは思わなかったし。
「ミキさんとルカさんがまさか旧校舎でガンプラバトルをしていたなんて……」
「ふふっ、旧校舎の建て替えに際してわたくしの家が資金を肩代わりしたので、当面好き勝手ができる、ということですわ。ロミカさん」
ロミカには昼休みにその辺の事情を洗いざらい話していたけど、未だに実感が湧いていないのか、どこかぽやぽやした様子で小首を傾げていた。
まあそりゃそうよね、盲点どころの話じゃないんだから。
他愛もないことを話しつつ、合流場所に指定してある、校舎前の噴水広場に向かうと、既にシナノちゃんとヒメちゃんはベンチに腰掛けて私たちを待っていたようだった。
「ごめんなさい。待たせてしまいましたわね」
「いえ、そのようなことはございません。改めて今朝はありがとうございました、ヤエザクラ様」
ベンチから立ち上がったシナノちゃんが、カーテシーを添えて一礼する。
律儀だなあ。私がただやりたくてやったことだってだけの話なのに。
一方でヒメちゃんは、ガチガチに緊張した様子で肩に力を入れて縮こまっていた。
「クワジマ様、そこまで緊張なさらないでください。私たちはこれから、いわば竹馬の友となるのですから」
「あっ、ありがとうございます……! でも、ヒメ、じゃなくて、わたくしは、その」
「家柄の問題を気に病む必要はございません。少なくとも……シナノ様は貴女の味方なのでしょう? ならば、私たちも味方ですわ」
お嬢様モードを解いていないのは、まだどこで誰が聞いているかわからないからだ。
くだんねー家柄マウント合戦に勝利するため、相手の弱みを四六時中探し回っている内偵みたいな生徒もいるって聞いたし。
それなら、逆にわからせてやればいい。
ヒメちゃんは、「私ほどの家格の人間が直々に親友だと認めた相手」なのだと。
家柄を気にするなと言っているのにこっちも家柄をフル活用しているのが切ないところだけど、使えるものは使えってのは、どっかの大佐の発言だし。
だからありがたく、クソ親父からぶんどった家名を使わせてもらっているのだ。
「……ありがとう、ございます」
「ふふっ、可愛らしいお方ですわね。それでは、乙女の園に参るといたしましょう」
私たちの後をつけてくる無礼な人間がいたとしても、ピケストの代わりに学園に潜入してくれているリナさんが簀巻きにしてくれることだろう。
そんなわけで私は、シナノちゃんとヒメちゃんの手を取って、旧校舎へと向かった。
さてさて、どうなることかしらね。
†
「が、ガンプラがたくさん……」
「それに、GPDの筐体もあるのです……」
魔改造された旧音楽室の現状を目の当たりにして、シナノちゃんとヒメちゃんはすっかり度肝を抜かれた様子だった。
まーそうよね。
普通は、超がつくお嬢様学校の一室に山積みのガンプラやらプラ板やらパテがあるとは思わないだろうし。
「あ゛ー、疲れた……」
「ヤエザクラ様?」
「ああ、いいのよシナノちゃんもヒメちゃんもここでは気を緩めて。完全防音だし、なんかあったらルカの家のメイドさんがなんとかしてくれるから」
ちょっと前まではピケストがその辺を担ってくれていたのよね、と考えるとなんだか寂しい気持ちになるけれど、我慢だ我慢。
それよりも、大事なのはヒメちゃんの事情の方だ。
どうして、バカにされるとわかっていて、ガンダムベースに行ったのか。それも、恐らくは護衛もつけず単身で。
「……そ、そうなの……あっ、その、そうなんですね!」
「敬語とかもいらないわよ。私のことはミキでいいわ、ヒメちゃん」
「はっ、はい! ミキ先輩!」
「それで、ヒメちゃんはどうして護衛もつけないでガンダムベースに行ったの? お嬢様界隈が、壁に耳あり障子に目ありって場所なのは、嫌というほど知ってるでしょ」
私は、空き教室からパチってきた学習椅子にどかっと腰掛けて、ヒメちゃんに問いかけた。
「うっ、それは、その……ミキ先輩の噂を聞いたからです」
「噂ぁ?」
「中東の王族の方々と個人でビジネスパートナー契約を結んだとか、ヤエザクラ家の次期当主に女性で初めて内定したとか……それに、メイドさんが王族の方と事実婚したとか……べ、別に探ったわけじゃなくて、うちはアパレル関係だから、石油業界の動向も聞こえてくるというか!」
ヒメちゃんは超早口になって捲し立てた。
あー、結構話題になってんのね、私たちのこと。
これといって表沙汰にしているつもりはなかったけど、やっぱり決定打になったのはパルくんとピケストの事実婚だろうか。今頃中東の某国も大騒ぎだろうし。
「それで……ヒメも、ガンプラバトルを始めれば……お父さんに恥をかかせないような結婚相手を見つけられるかなって……」
うーん、とてつもなく甘くて青い考えだ。
でも、ピケストが超シンデレラ婚を成し遂げちゃったものだから、なまじ可能性がないとは言い切れないのが怖いところだった。
でも、どんな理由であれ、ガンプラバトルに触れてくれたのなら、その時点でお仲間なのだから、丁寧に沼に沈めてあげないとねぇ!
「ちなみに、シナノとヒメちゃんはガンダムベースでお会いしたのです」
「そうだったの?」
「……最初は人生詰んだと思ったけど、はい」
「『学園』の制服でガンダムベースに来ていたら、バレバレなのですよ、ヒメちゃん」
いや変装とかしとらんのかい。
せっかくアパレルブランドの家に生まれたのにもったいない。
でも、きっとヒメちゃんのことだから、少しでもお嬢様らしく、ってことで見栄を張っちゃった可能性が高いわね。
「うっ……それは、ヒメがお父さんに変なことしてるって思われたくないから……」
「まあ、過ぎたことは仕方ないわ。これからはこのダイバーギアを使って、家からログインするといいわ」
私は旧音楽室に置いてある予備のダイバーギアをヒメちゃんとシナノちゃんに手渡して、気をつけるように促した。
なんていうか、今更感はあるけど。
さてさて、これで本題のガンプラ作りに入れるわね。
「あっ、あの! ミキ先輩!」
「どうしたの、ヒメちゃん?」
「……その、ヒメをガンダムベースに連れてってもらうことって、できますか」
「それは別に構わないけど……どうして?」
「謝りたい人がいるんです。ヒメ、八つ当たりで、フリマアプリで買った完成品のガンプラを壊しちゃって、その人に怒られちゃったから……」
うるうると大きな瞳に涙を溜めて、ヒメちゃんはの右手を掴んだ。
ははーん、なるほどね。
フリマアプリで値段の高い完成品を買ってもバトルに勝てなかったから、キレちゃったと。
「大体事情はわかったわ」
「なら……!」
「でも、そのためには自分で作ったガンプラが必要ね」
「自分で、作った……」
「ガンプラをどんなに苦労して人が作っているのか。その大変さと、完成したときの喜びを知らないまま謝ったって、誠意は伝わらないわ。幸いここには経験者が4人もいるんだし、なんとかなるわよ」
私は、不安がっているヒメちゃんに向けて親指を立てて微笑みかけた。
謝りたい相手とやらが誰なのかは知らないけど、八つ当たりでガンプラを壊した時点で、GBNのダイバーとしては印象最悪なことには間違いない。
しかも、自分で作ったわけじゃないガンプラなら尚更だ。だから、禊の意味も込めて、ヒメちゃんにはガンプラを作ってもらわなきゃいけない。
「わかりました、ミキ先輩! ヒメ……必ず自分だけのガンプラを作って、その人に謝ります!」
「その意気よ! せっかくだから、シナノちゃんに教えてもらったら?」
「えっ?」
「二人は同じ中等部だし……見たところ、シナノちゃんも相当『できる』ビルダーと見たわ」
ルカが積んでいるレアキットの山に視線を向けてぽわぽわしているシナノちゃんを横目で見つつ、私は不敵に笑った。
「シナノと……でも、ヒメのこと、シナノは……」
「シナノは全然気にしてないのですよ、ヒメちゃん」
「シナノ……」
「悪いことをして、謝ろうって思えたことが大事なのです。さあ、始めましょうヒメちゃん。少しでも早く、そのお方と和解できるように!」
小さな身体に見合わない激烈なパッションを滾らせて、シナノちゃんはヒメちゃんの手を取り、微笑みかける。
うーん、真っ直ぐで尊い友情ね。
ルカもおもしれーもん見つけた、とばかりに目を輝かせているし、ロミカもちょっと照れた様子だし。
「……ありがとう、シナノ。なんかオススメのガンプラとか、ある?」
「それなら、ヒメちゃんには、間違いなくこのグスタフ・カール00型がオススメなのです!!!!」
あっ。
ガノタの早口スイッチを押してしまったか、ヒメちゃんよ。
中学生にしてはかなり渋いチョイスに少し度肝を抜かれつつ、重装甲で耐えて相手に反撃する、いわゆる
ガノタに悪い人はいないがまともな人もいない