お嬢様がGBNにいるわけないだろう! 作:プラ板の削りカス
「や、やっとできた……こんなに大雑把な見た目なのに、なんでこんなにパーツ分割細かいのよ……これじゃ立体パズルじゃない……」
「完成おめでとうなのです、ヒメちゃん……と言いたいところなのですが、まだヒメちゃんはスタートラインに立ったに過ぎないのです」
「これで!?」
シナノちゃんにアドバイスをもらいながら作っていたヒメちゃんのグスタフ・カール00型はようやく素組みでの完成を迎えたようだった。
そして、ここからが本番だというシナノちゃんの言葉は、実に的を射ていた。
そうなのよね、苦労して手足2本ずつ作って胴体とガッチャンコさせて完成したかと思いきや、それをバラした上で塗装して、もう一回組み立てなきゃならないんだから。
ガンプラ作りは楽しいけど、たまにこう、ふとしたときにスン……って我に返ることが多々あるのもまた、事実だ。
別に全てのビルダーが必ず改造や全塗装をしないといけないなんて決まりはないけど、ヒメちゃんは今回、完成品を壊した禊の意味も込めてガンプラを作っている。
ならば、自分の手で塗装、改造して完成させるのは半ば絶対条件といっていい。
「萎えている場合ではございませんよ、クワジマさん。シナノさんが仰る通り、自らの自由な発想でイマジネーションを形にする、ここからが本番ですわ。そして……最も恍惚とできる時間です♡」
「シロガネ先輩……でも、ヒメは初心者で、どうしたらいいか……っていうか、特に手を加えなくても十分このガンプラは完成してるんじゃ……?」
「そうね、でも禊をすると決めたのはヒメちゃん自身でしょう? なら、腹括って必死に考えなさい。どうして前のガンプラでは負けてしまったのか、理想の自分ならどうしたかったのか」
ヒメちゃんを甘やかして、ヒントを与えることは、やろうと思えばいくらでもできる。
だけど、そんなことをしたところで、ヒメちゃんの禊にはならないし、成長にもつながらない。
自分が悩み苦しみ、葛藤した果てに思い浮かんだイメージを、自らの手で形にしない限り、他人の思いを踏み躙った過去に禊をすることなんて、とてもじゃないけどできやしないのだから。
「ヒメは、ビームとか、必殺技みたいなので格好良く敵を撃破したかったけど、実際は操作ももたついて、敵にやられたい放題で、それで頭に来て……」
「ふむふむなるほどなるほどなのです、それならヒメちゃんがこのグスタフ・カールを完成させたのは、きっと運命なのです」
「っていうと?」
「逆に考えるのです、回避が間に合わないのなら、受けてから反撃すればいいのです。これこそ
……なんて思ってたら、シナノちゃんが目をキラキラさせながらヒメちゃんに道を示しちゃった。
まあでも、仕方ないか。
それに、ヒメちゃんもヒメちゃんなりに自分の敗因はしっかり分析できてるみたいだし。
でも、タンク役を勧めるなんて、シナノちゃんもかなりの強者ね。
タンク役は、GBNのロールではある意味最も難しいビルドだという説もあって、それは概ね間違っていない。
中でも、敵の攻撃を避け続けて捌く回避型タンクと違って、ダメージを受けながらも、受けたダメージを上回る火力を出しつつ、味方の支援防御もしなきゃいけない前衛重装甲タンクは、茨の道なのだ。
だけど、ハマったときのリターンは相応にデカい。
ヘイトを一身に請け負う盾役が火力も出せるとなれば、それはもうクソゲーだ。
相手は苦虫を噛み潰したような顔で憤死するだろうし、自分は最高に絶頂できる、ハイリスクハイリターンでロックな選択肢。
でも、初心者のヒメちゃんにとってそれが本当に合った選択肢なのかどうかはわからない。
グスタフ・カールという機体との相性もいいかどうかも、実際に動かしてみないとわからないことだ。
だから、私は口を挟まない。ルカもロミカも同じで、ヒメちゃんが迷い、悩む姿をただ見守ることに徹していた。
「ヒメは、いろんなことを我慢してきたわ」
「ヒメちゃん……」
「わかってる……お父さんが、アパレルで成功してからはヒメのことなんて、さっぱり見てくれてないことも、この百合籠女子学園に入れてもらったのも、全部お父さん自身に箔をつけるためだけだって……!」
ヒメちゃんは、絞り出すような声で独白する。
ヒメちゃんが大好きだったお父さんは、きっと、事業が成長したことで得られた権力に取り憑かれて、変わってしまったのだろう。
財産というものは確かに大切だけど、人を容易に狂わせる魔力を持った代物だ。
「だから、我慢することには慣れてるの。耐えて耐えて……それでようやく反撃できるって、なんだか、ヒメみたい。ありがと、シナノ。ヒメはそのタンク? スタイルで行くわ」
「ヒメちゃん、それだけじゃないのです」
「……なによ?」
「我慢した後にようやく反撃できる、それだけじゃなく……『攻めの守勢』を活かせるのもタンク役の強みなのです。焦った相手を撃ち落としたときは、してやったり、なのですよ」
──だから、ヒメちゃんにはこれをプレゼントします。
シナノちゃんは小さく微笑むと、学生鞄の中にこっそりと忍ばせていた薄い箱を、ヒメちゃんへと手渡した。
あれは……ガンプラにも流用できる、同じ財団B製のカスタマイズウェポンセットね。
「なにこれ、ショットガン?」
「その通りなのです、近距離から中距離までレンジが拡大した、重ショと呼ばれてる武器なのです。代わりに連射性は落ちているのです……でも、一発の威力なら他の追随を許さないのです」
「結構、癖強い感じの武器なのね……でもいいわ、気に入った。あとは必殺ビームみたいなのも欲しいとこだけど……」
ヒメちゃんのイマジネーションは、シナノちゃんの補助輪を外れて回り始めてきたようだ。
ルカが積んでるキットの山を見て、それっぽい武器がないかどうか探している姿には、ちょっと感慨深いものを覚える。
そうそう、素体が完成してここからどうミキシングしていくかを考えてる時間が一番楽しいのよね。
「し、シロガネ先輩!」
「あら、どうされましたか?」
「この、エクストリームガンダム……? エクリプスフェースっていうの、もらっていいですか!?」
「構いませんわ。積まれているよりもミキシングの素材として使われた方が、ガンプラとしても本望ですもの」
「ありがとうございます!」
なるほど。
どうやら、ヒメちゃんはグスタフ・カールのバックパック左側──バズーカラックのところに、カルネージストライカーを装備することにしたようだった。
いいじゃない、ロマン砲搭載の前衛重装甲タンク。完成が楽しみになってきたわね。
†
明くる休日。
ヒメちゃんとシナノちゃんとも連絡先を交換した私たちは、リナさんにリムジンバスを出してもらって、ガンダムベース本店を訪れていた。
問題はヒメちゃんが謝りたいっていう相手がガンダムベースに来ているかどうかだけど、ベース通いするほどの常連だろうし、多分来てるでしょ。
「き、緊張してきた……」
「大丈夫です、ヒメちゃん。誠心誠意を込めてお伝えすれば、相手もわかってくれるはずです」
「アマツガ先輩……」
「ロミカでいいですよ、ヒメちゃん」
「でしたらわたくしも、ルカで構いませんわ。だってわたくしたち、もう水魚の交わりでしょう……?」
「シロガネ先ぱ……ううん、ルカ先輩まで……ありがとうございますっ!」
ヒメちゃんはぺこり、と頭を下げる。
他愛もない会話をしながら、ガンダムベースの自動ドアを潜ると、コーイチさんとナナミさんが品出しをしている姿が見えた。
コーイチさんも夏休みが終わっちゃって大変ね……とか思っちゃったけど、あの人大学通ってたっけ。
「やあ、ミキくん。ルカくん」
「ごきげんよう、コーイチさん」
「ごきげんよう」
「はは……似合ってるなあ、その仕草。本当にお嬢様なんだね、君たち。それに、後ろの子たちは新しい友達?」
「そんな感じね」
私が少し得意げな顔でロミカとシナノちゃんとヒメちゃんを手のひらで指し示すと、コーイチさんは、ヒメちゃんに目を向けて、驚いたように目を丸くした。
あれ、もしかして知り合い?
……というか、ガンダムベースの店員なんだからキレてガンプラぶっ壊した子なんて覚えていて当然だろう。ブラックリスト入りしていてもおかしくない。
「君は……」
「ご、ごめんなさいっ! でも、ヒメ……どうしても、あの人に謝りたくて……っ!」
「そっか。ユッキーくんなら今ちょうど、リクくんとモモちゃんと一緒にGBNをプレイしてる最中だから、終わったときに声をかけてね」
「は、はい! ありがとうございます!」
ヒメちゃんは、コーイチさんに何度も繰り返し頭を下げていた。
一方で私はというと、鳩が豆鉄砲を食ったような顔をしていた。
いや、怒られたってユッキーくんにかい。確かにさもありなんな話ではあるけどさぁ。
でも、確かにユッキーくんらしい。
コミュニケーション苦手な内気少年、みたいな顔をしているけど、結構言いたいことは相手を選ばずに言うタイプだからこそ、「学園」の制服を着ていたヒメちゃんにも物怖じしなかったのだろう。
単純に「学園」のことを知らないって線も考えられるけど。
「終わったようだね」
ぼんやりと他愛もないことを頭に浮かべて苦笑していると、GBNの筐体に灯っていた「使用中」のグリーンライトが消えて、私服のリクくんとユッキーくんが出てきた。
「あれ、ミキさんにルカさんだ! ガンダムベースで会うのは初めてですね!」
「ええ、久しぶりねリクくん。ところで、いきなり今日の本題なんだけど──」
私が仲介人になって、問題を軟着陸させようとヒメちゃんのことを紹介しようとしたときだった。
「ご、ごめんなさい!」
先走って飛び出したヒメちゃんが、ユッキーくんの前で深々と頭を下げる。
前に出すぎだからもうちょい下がっててくれると嬉しかったけど、まあずっと謝りたかったんだから仕方ない。
ここは臨機応変に私が後落ちに切り替えて──じゃなくて、アフターフォローに入る体勢に切り替えよう。
「きみはこの前の……ダメだよ、ガンプラに八つ当たりなんかしちゃ! 謝るなら僕じゃなくて、ガンプラを作った人とガンプラに謝って!」
「ユッキー、落ち着いて。この人も本気で反省してるから謝りにきたんだって」
「うーん……本当かなぁ?」
「あの……ヒメ、ユッキーくんに怒られてから、ずっと謝りたくて。それを、ミキ先輩にも言われて……自分で、ガンプラを作ってみたの」
おずおずと、慣れない手つきで腰のガンプラホルダーに手を伸ばして、ヒメちゃんは自分なりに作ったグスタフ・カールを取り出した。
「すっごく大変だった。途中で何度もやめたいって思っちゃった。でも……楽しかった。だからこそ、いろいろな思いが詰まってるガンプラを、八つ当たりで壊しちゃったことが申し訳なくて、ユッキーくんを怒らせちゃったのも、当然だって思って」
「グスタフ・カール00型……それも近距離戦に特化したカスタマイズ! 脚にリアクティブ・アーマーを増設してたり、ムーバブルシールドを補強して更に頑強にしてる!」
「ユッキーくん……?」
ヒメちゃんのガンプラをまじまじと見つめて、ユッキーくんはさっきまで不機嫌だったのが一転、キラキラと瞳を輝かせた。
「すごい! すごいよヒメちゃん! 初心者が作ったとは思えない出来だよ! それに背中のカルネージストライカーもいいアクセントになってる……ねえ、このグスタフ・カールを作るの、大変だったでしょ? なら、わかったよ。ヒメちゃんが本気で反省して、改心したんだって」
「っ、ユッキーくん……」
「なら、僕が決めることじゃないかもしれないけど……許すよ。次からはガンプラに八つ当たりなんかしちゃダメだからね!」
真っ直ぐすぎる言葉と熱意に、私のフォローはいらなかった。
「うん……っ! ヒメを叱ってくれてありがとう、ユッキーくん……!」
涙を潤ませた瞳をユッキーくんに向けるヒメちゃんの、憑き物が落ちたような表情が全てを物語っていた。
こいつらアオハルしたんだ!(n回目)