お嬢様がGBNにいるわけないだろう! 作:プラ板の削りカス
無事にヒメちゃんとユッキーくんが和解できてよかったと、二人でさらにグスタフ・カールをブラッシュアップするため、ビルダールームに駆け込んでいったのを、私が見送っていたときだった。
「あの、ミキさん。ちょっといいですか?」
「ん、どうしたの? モモちゃん」
なんだか物憂げな表情をしたモモちゃんが、私に呼びかけてきた。
いつも元気いっぱいなモモちゃんにしては珍しい──というか、はっきりいって異常事態だ。
原作でも悩みとかとは無縁だったモモちゃんがこんな顔をするなんて、いったいなにがあったのやら。
「その……ミキさん、ユッキーがヒメちゃんのこと怒ったのは知ってますよね?」
「ええ。ついさっき解決したみたいだけど……」
「それ自体はよかったんですけど、そもそもユッキーがあんなに怒るのって、珍しくないですか?」
モモちゃんは俯き気味に小首を傾げて問いかけてくる。
確かに、言われてみればそうだ。
ユッキーくんだって人間なのだから、地雷の一つや二つあるのが当たり前だけど、あそこまで激しく怒るというか……なんだか苛立っていたように見えたのは、よく考えたら珍しい。
「そうね、今は解決したみたいだけど……余裕がないって感じだったわね」
「そうなんです! 実はその、最近……リクくんとユッキー、あんまり上手くいってないっていうか……私も、ちょっと上手くやれてないんです、GBN」
思ったより深刻な話だった。
まさか、モモちゃんとユッキーくんがGBNを楽しめていないなんて、一体なにがあったのだろう。
リクくんはまたプレイルームでGBNに潜ったみたいだし、本人に確かめようにも今は無理だ。
ロミカに聞けば一発でわかるんだろうけど、あんまりこういうことにあの子の力を使わせるのはよくないから、モモちゃんから、さらに事情を聞くしかない。
「それって……リクくんが理由だったりする?」
逆に考えれば、リクくんがいない今だからこそ、モモちゃんは私たちに悩みを打ち明けてきたのだとも取れる。
リクくんが一体なにをしたのかは想像もつかないけど。
でも、それはそれとして見当の付け方としては間違っていないだろう。
「……実は……」
「あちゃー、これまたどうして? リクくん、最近なんか上手くいってないの?」
さっき見たリクくんはいつもと変わらずに元気な顔をしているから、悩みなんてないものかと思っていたけど、どうにも違うらしい。
それに、ユッキーくんとモモちゃんと上手くいってないなんて、相当大きな問題だ。
聡明なリクくんが、自分で自分の抱える問題を把握していないとも思えないけど。
「実は、最近……リクくん、バトルしかやってないんです」
「ふむ?」
「前はフェスに参加したり、普通のミッションとかもやってたんですけど、夏休みにタイガさんと戦って勝ってから、なにかに取り憑かれたみたいにフォース戦や個人でのフリーバトルとか、ミッションにしたって、バトランダム・ミッションみたいな実質対フォース戦しかやらなくなっちゃって……私、ちょっと息が詰まっちゃって」
ふむふむなるほど。
タイガさんこと、タイガーウルフさんに勝ったっていうのは多分、原作でいう龍虎祭のことだろう。
原作だと大人気ない戦い方でタイガーウルフさんが勝利を収めていたけど、どうやら私が介入したバタフライエフェクトで、微妙に原作とズレた結果になってしまったらしい。
そして、そこから取り憑かれたようにバトルにのめり込むようになっていったと。
なるほどね、大体わかった。
今のリクくんが抱えている問題が。
「好きなことをしていらっしゃるのですから、それでよいのでは?」
「よくないのよ、ルカ。好きなことを楽しんでるってだけなら私だってなにも反対しないわ、でも、逆に考えなさい。ルカのこと考えないで、私だけが好きなことしてて勝手に気持ちよくなってたら、ルカはどう思う?」
「でしたら、わたくしは間違いなくフォースを抜けさせていただきますわね」
「そういうことよ」
「……なるほど。理解いたしましたわ」
オンゲに求めることなんて、究極的には自己満足だ。そこに間違いはない。
でも、仲間がいる以上は仲間も巻き込んで、互いに気持ちよくなってこそ、本当に自分が満足できる。
つまり、独りよがりに気持ちよくなっているだけのオ◯ニーショーを披露してちゃダメでしょ、という話だった。
「最近のリクくん、変わっちゃって……私たちがナデシコアスロンに出よう、っていっても、『バトルで勝つ方が俺たちには大事だから』って」
「そうね、モモちゃん。勝利の栄光に魅入られちゃったのね、リクくんは」
「えっと……ミキさん、つまり?」
「リクくんの中では、勝ち負け関係なくバトルを楽しみたいんじゃなくて、勝つことが義務になっちゃってる。理由はわからないけど……タイガーウルフさんに勝っちゃったから、もっと上に行きたいって、焦ってるのかもしれないわね」
なまじ格上に勝ってしまうと、自分はやれるんだ、いけるんだって気持ちが前に出ちゃって、自信がつく一方で、「負けたら、本当の自分は大したことないんじゃないか」って不安が、付き纏うようになる。
結局のところ、勝敗なんてものは運も絡んでくるのだから、一回の勝ち負けが全てを決めるわけじゃない。
でも、今のリクくんの気持ちは痛いほどわかる。前世で私がEXVSやってたときも、似たような症状に陥ったことがあるから。
「それなら、私たちに任せて。モモちゃん」
「ミキさん……」
「私たち全員が気持ちよくなれる解決策を──リクくんへの処方箋を、出してあげるから。ルカも、あんた最近不完全燃焼でしょ? ここらで大暴れするわよ」
「まあ♡ 流石は私のミキですわ、こんなこともあろうかと、実は新しいガンプラを作っていたのです♡」
ルカは恥じらうように頬を赤く染めてはにかむと、腰のガンプラホルダーを私たちに曝け出した。
ガンプラホルダーからでは見えないけど、前のイカロス・ユニットよりも横幅が心なしか小さくなってるような気がしないでもない。
楽しみね、ルカがどんな新機体を見せてくれるのか。
「そ、それならシナノも……シナノも、参加してみたいのです!」
それまではロミカと一緒にガンダムベースのショッピングブース巡りをしていたシナノちゃんが、中身がパンパンに詰まった袋を手に、とてとてと駆け寄ってくる。
「シナノちゃん?」
「シナノは……ずっと一人でガンプラバトルをしていました。だから、その。この機会に、言ってみたかったのです! 足は引っ張りません! どうか、シナノを『レディビルド』に加えていただけないでしょうか……!?」
興奮と緊張が入り混じった表情で、シナノちゃんは私とルカに訴えかけてきた。
「私は大歓迎なんだけど……その、いいの?」
「なにが、でしょうか?」
「私たちのGBNでの評判、概ね最悪に近いんだけど……」
「まあ、ミキ。そのような瑣末なことを気にしてらっしゃるなんて……『レディビルド』は元々わたくしたちが気持ちよくなるためだけのフォースでしょう? でしたら、そこにシナノさんが交わりたいと仰ってくれたのですから。共に気持ちよくなるのが筋というものでは?」
ルカにしては珍しい正論パンチだった。
ルカはシナノちゃんの手を取ってキラキラと目を輝かせてるし、もう、反対する理由なんてどこにもなくなっちゃったじゃない。
それに、シナノちゃんだって承知の上で加入を申請してきたんだろうし。だったら。
「最高に気持ちよくなる覚悟はできてる? シナノちゃん?」
「はい……シナノは、どうなっても構わないのです!」
「素敵ですわ♡ その刹那に全てを費やす覚悟と命の煌めき……ああ、たまりません♡」
「その意気よ! 歓迎するわね、シナノちゃん!」
「はい! ありがとうございます、なのです!」
シナノちゃんの加入はイレギュラーだったけど、これで戦術の幅も広がるというものだ。
待ってなさいよリクくん。
義務感なんてどこかに吹っ飛んじゃうぐらい、最高に気持ちよく、楽しくバトルさせてあげるんだから。