お嬢様がGBNにいるわけないだろう!   作:プラ板の削りカス

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【悲報】イヴ、ヤンデレる

 私──イヴが、モビルドールとして現実(こっち)の世界にやってきて、大体一ヶ月とちょっと。

 ヒロトの家で暮らすことになって、オサムさんとユリコさんは最初こそ戸惑っていたけど、すぐに私のことを受け入れてくれた。

 特に、物語を描いて生計を立てているオサムさんからすると、私の存在は、いるだけでイマジネーションを掻き立てられるものらしくて、気に入ってもらえたのは嬉しかったなあ。

 

 ユリコさんも優しい性格で、ヒロトのお母さんらしいなって、微笑ましい気持ちになった。

 ヒナタもよく、ご両親の帰りが遅いが遅いときは、ユリコさんと一緒に晩御飯を作っていたりして、なんだかとっても満たされた気分だった。

 ……私のモビルドールを作るためだったとはいえ、ヒロトのお部屋に大量の、際どい感じの美少女プラモが飾られてるのはちょっとどうかと思うけど。

 

 でも、嬉しいな。

 裏を返せばそれは、ヒロトが私のマテリアルボディを作るために、それだけの情熱を注いでくれたってことなのだから。

 だから、実質私はヒロトの娘でもありヒロトの大事な人でもある──最初のうちは、そんな風に舞い上がっていた。

 

 だけど、やっぱりヒロトと私の間には生き物としての壁があるのだと、思い知らされてしまうことがあって。

 ……どうしようかなぁ、なんて。

 柄にもなく、考えてしまう。

 

 ユリコさんに見せてもらったアルバムに写っていた、幼い頃のヒロトは、それはもうとても可愛くて可愛くて仕方なかった。

 ヒナタが一緒に写っている写真も多くて、本当に二人は小さい頃から仲良くしてきたんだなって、思い知らされたなあ。

 そして、このまま時間が経てば、ヒロトとヒナタはオサムさんとユリコさんみたいに結婚して、二人の間に子供を設けるのかなって、そう考えると……なんだか、ひどく胸が痛んで。

 

 わかっている。

 本当は私は、ミキがいなければ、ヒロトに爪痕を残して消えるだけの運命を辿っていて、現実での再会を果たすことはなかったということぐらい。

 だから、こうしてヒロトと会えて、一緒に暮らせているだけで十分幸せなのだから、これ以上の高望みをしちゃいけないんだって。でも。

 

「……いいなぁ」

 

 子供の頃のヒロトを見ていると、胸がなんだかぽかぽかしてきて、同時に少しだけ切なくなってくる。

 私も──私も、なにか形あるものをヒロトとの間に残したい。

 わがままで、不可能な願いなのは十分に承知している。それでも──このままじゃ、ヒロトと同じ人間である、ヒナタを、羨んでしまうから。

 

 この世界に神様がいるのなら。

 どうか、このわがままでどうしようもない女の子の願いを、拾い上げてはくれないでしょうか。

 ヒロトが帰ってくるまで、一人ぼっちの部屋で、私は願い続けていた。

 

 

 

 

 

 

「すみません、ミキさん。ルカさん。イベントの予行演習を手伝ってもらって」

「全然大丈夫よ! それに、ヒナタちゃんの専用アーマーもいい出来じゃない!」

「ありがとうございます、ミキさん。ヒロトと一緒に、頑張って作ったんですよ!」

 

 ある日、私はヒロトくんに呼び出されて、今度開催される大規模イベント──要するに、サバイバルミッションをさらに高難度化させたものの予行演習として、クリエイトミッションの手伝いをしていた。

 ヒロトくんはどうやらAVALONを穏便に脱退できたらしく、見慣れたポンチョ姿の旅人みたいなダイバールックに変わっている。

 ヒナタちゃんの方も、ヒロトくんから色々と手取り足取り教わったのか、初心者とは思えないほどの腕前を見せてくれた。

 

「しかし凄いわね、このニアムーンガンダムって。ムーンガンダムのサイコ・プレートを弓に見立てるなんて、イカした発想じゃない」

「……ありがとうございます。思いついたのは、俺じゃなくてヒナタですけど」

「そんなに謙遜しなくていいわよ。ところで、イヴは元気?」

 

 私は、ルカと和やかに談笑しているイヴへ、ちらりと視線を向けつつヒロトくんに問いかける。

 まだモビルドールの姿を公にするわけにはいかないから、ということでイヴはバトルに参加していない。

 ストレスとか溜まってたりしないのかしら、と心配になってのお節介だった。

 

「……それが、最近なんだか上の空で。俺がなに聞いても、大丈夫の一点張りで……」

「ふむふむ……それは深刻ね」

 

 まさか現実世界での暮らしがお気に召さなかった、とかはないだろうけど。

 でも、イヴは原作からして自分の中にマイナスな感情を抱え込んでしまうタイプだから、後々の火種にならないとも限らない。

 そうなれば、多少強引だけども、本人に聞いて本音を引き摺り出す他にあるまい。

 

「ルカ、イヴ、ちょっといいかしら?」

「なんでしょう、ミキ?」

「ミキさん、どうかした?」

 

 表情に翳りとかは見えないけど、確かにイヴは心なしか元気がなさそうに見え──なくもないような、あるような。

 

「最近、悩んでることとかあったりしない? ヒロトくんも結構シャイだから、中々表に出せないでしょ?」

「あはは、そんな。悩んでることなんて……」

「いいえ、イヴさん。先ほども言ったでしょう? ご自分の気持ちに、『好き』という気持ちに正直になることが大切なのだと。せっかくなのですから、ぶちまけて差し上げましょう♡」

 

 お、おう。

 なんかよっぽど鬱憤が溜まっていたらしい。

 ルカとなにを話しているのやら、と呑気に構えていたけど、事態は思ったより深刻そうだった。

 

「ルカさん……」

「自分の『好き』を偽って生きていくことほど、つらいことはございませんわ。ですから、自分で自分を窒息させてしまう前に叫ぶのです」

「ありがとう。それじゃあ、言うね……?」

 

 私たちが固唾を飲んで見守る中、イヴはすぅ、と小さく息を吸い込んだ。

 

「ヒロト! あのね、私……ヒロトとの子供がほしいの!」

 

 今、飲み物を口に含んでなかったことだけが幸いだった。

 なんてことを仰るんですかイヴさん。

 いやまあ、確かに電子生命体のイヴと、人間のヒロトくんとの間には子供を設けることは不可能だと断言できるけど。

 

「い、イヴ?」

「オサムさんとユリコさんに小さい頃のヒロトの写真を見せてもらってから、ずっと……羨ましいなって、そう思ってたの。でも、私は人間じゃなくてELダイバーだから……ありがとう。聞いてくれて」

 

 イヴは、ヒロトくんへと悲しげに微笑みかける。

 なるほどね。

 ヒナタちゃんとヒロトくんが将来結婚して子供を設けたら、本格的に自分の異物感が際立ってしまう──と、不安になっちゃったのだろう。

 

 付け加えるなら、ヒロトくんが今のところイヴを選ぶのかヒナタちゃんを選ぶのかはっきりしてないのもあって、余計に心配になっちゃったのだと。

 うーん、イヴには消えてほしくない一心で頑張ってきたけど、これ半分ぐらいは私の責任でもあるんじゃなかろうか。

 でも、子供がほしいって願いばかりは叶えてあげられないからどうしたものか──と、思い悩んでいたときだった。

 

「あれは……光?」

 

 一人だけいい空気を吸っていたルカが、小首を傾げて呟いた。

 なんの光?

 私もつられて、ルカの視線の先へと首を捻ると、そこには確かに淡い蒼色の輝きが瞬いていて──

 

 蒼い光は、ぱあっ、と一際強く瞬いたかと思えば、すぐに収縮して、やがて一つの形を作り上げていった。

 そして、光が去った後に、あったものとは。

 思わず息を呑んでしまう長く艶のある黒髪に、エメラルドグリーンの瞳。間違いない、この子は。

 

「む……ここは……? 知らない場所だ。しかし、わかる。そうか、私は生まれたのか」

 

 間違いなく、メイちゃんだった。

 メイちゃんはぱちぱちと何度か瞬きをすると、クールな表情を形作って、ヒロトくんとヒナタちゃんと、イヴの間に割って入っていく。

 新たなELダイバーが誕生する瞬間を見届けたことで、どこか呆然としていた3人をじっ、と見つめると、メイちゃんは小さく息を吸い込んで。

 

「わかった。私は……ママの願いで生まれてきたのだな」

「っ!」

「つまり、ママの想い人である人間が、パパ」

「……えっ?」

「子供とはそういうものなのだろう? だから、認知してほしい。パパ」

 

 とんでもない爆弾発言をぶちかまして、メイちゃんはこの世に産声を上げた。

 ルカはおもしれーもん見つけた、とばかりにキラキラとアメジストの瞳を輝かせていたけど。

 私は、唖然とするほかになかった。

 

 まさかこんな理由でメイちゃんが生まれてくるなんて、予想できるかーっ!




メイちゃん爆誕
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