お嬢様がGBNにいるわけないだろう! 作:プラ板の削りカス
「……で、新しいELダイバーが生まれちまったってわけか」
私からことのあらましを聞いたツカサくんは、案の定とでもいうべきか、頭を抱えて作業机に突っ伏していた。
でも仕方ないじゃない、生まれちゃったものは生まれちゃったんだから。
まさか、人間に限らずELダイバーの「想い」もまた誕生因子としてのトリガーになるなんて、私も思っていなかったけどさぁ。
『そういうことだ。詳細はママから聞いた。よろしく頼む、ツカサ』
「テメェのせいでヒロトが生きた心地してなさそうな顔だけどな?」
主にヒナタちゃんから凄まじい視線を向けられているヒロトくんは、胃の辺りを押さえて脂汗をダラダラと垂れ流していた。
いやー乱世乱世。
イヴはGPD筐体の上にちょこんと腰掛けてフィアと嬉しそうに談笑しているから余計に修羅場感がすごい。
「でも、流石にこの倉庫にあるサーバーだけで4人のELダイバーのデータを管理するのは難しいんじゃないかな」
「まァな……コーイチの言う通りだ。正直、メイの誕生は俺たちにとっても想定外だった」
3人分のサーバーは用意してあるが、もう1人となると数が足りねェ──ツカサくんは、倉庫に保管されているサーバーを一瞥して、小さく溜息をつく。
そうよねぇ、流石に物理的な問題に関しては解決しようがないというか、そもそもこの倉庫も所有者不明のまま使い続けているからその辺の問題もあるのよね。
これからELダイバーが増えていくことを考えると、サーバーを増設したとしても物理的にキャパオーバーを起こしかねない。
私たちが微妙に悲嘆な空気に包まれていたときだった。
車のエンジン音が遠くから迫ってくる。
あれは、もしかして。
「置いてけぼりとはひどいではないか、ミキくん。私もビジネスパートナーとしてELダイバー関連の事案には関わらせてもらう約束だっただろう?」
「シャフリさん!」
それは、紛れもなくシャフリさんが乗っていたリムジンだった。
やべー、連絡するの忘れてたわ。
メイちゃんがとんでもない理由で誕生したもんだから、完全に意識がすっ飛んでいたのよね。
「事案についてはピケストから聞かせてもらったよ。なにやら面白いことがあったと、嬉々として報告してくれたものでね」
「あの腐れメイド、相変わらず情報収集能力高いな……」
どうやらパルくんと蜜月を過ごしている間も、メイド時代のスキルはフル活用しているらしくてなによりだった。
便りがないのは元気の証とはいうけど、やっぱりこういう形でピケストが新天地で元気にしているという話を聞くと、なんだか嬉しくなってくる。
まあ今回はピケストのおかげで首の皮一枚で繋がってくれたから感謝しないといけないわけだけどね。
「君たちの抱えている問題……サーバーの不足と倉庫のキャパシティと所有権なら、すぐにでも解決できるけど、いかがかな?」
「マジかよ、流石だな」
「それほどでもないよ、ツカサくん。しかし、この倉庫を改装するに当たって一つだけ問題がある」
シャフリさんは人差し指を立てて、口元にそっと添える。
優雅な仕草で、王族〜って感じだ。
それはともかく、残された問題というのは、間違いなくあれだろう。
「倉庫の改修に当たって、当面のサーバーの避難先……ですよね?」
「その通りだよ、コーイチくん。移設先を私が探すこともできるけど、あまり大事にはしたくないのだろう?」
「それは……まあ」
ELダイバーのデータをぶっこ抜いてることに関しては、どういう理屈かはわからないけどルカのおかげで今のところお咎めなしだけど、あんまりこの倉庫で活動してることが世間様にバレたらどうなるかはわからない。
シャフリさんのオイルマネーで大規模なデータセンターを買収なんてことをしたら、そこから足がつきかねない。
かといって、生半可なキャパの場所ではこれからも増え続けるであろうELダイバーのデータを保存、管理するのは難しいから、痛し痒しといったところだった。
「あの……その問題でしたら、解決可能ですよ?」
私たちがどうしたものかと頭を悩ませていると、ルカが小首を傾げて言い放った。
マジで?
データぶっこ抜きが今のところ無罪放免になっているだけでもすごいのに、サーバーの一時的な移設場所まで確保できるとか、こいつの家の権力どうなってんだ。
「わたくしのお姉様が、中々人目につかないところにあるガンプラバーを営んでおりまして……GPDも扱っていますから、サーバーの移設先としては妥当ではないかと」
「流石ね、ルカ! でも、お姉さんにこの話が漏れても大丈夫なの?」
「はい。姉はあまり他人に関心がない方なので」
似たもの同士だなー、とは思っても言わなかった。
ルカも面白いことがあるからっていう理由で私たちに関わってくれてるだけで、根本的にはELダイバーがどうとか、GBNがどうとか、関心はないっぽいし。
それでも、大歓迎だ。私だって、動いている理由の根本は、「自分が気持ちよくなるため」だし。
「ならば、ルカくんの案で決まりのようだね。それと、メイくんの後見人は誰が務めるつもりだい?」
「うーん……流石に、ヒロトくんへこれ以上負担をかけるわけにはいかないわよね」
現状、イヴと同居していてヒナタちゃんとも半分ぐらいは同居しているような状態に、自認がヒロトくんとイヴの娘な状態のメイちゃんまで放り込んだら、修羅場どころの騒ぎじゃないし。
それに、モビルドールを作る負担のことも考えたら、ヒロトくんが心労で倒れてしまいかねない。
半分ぐらいはイヴが始めた物語だし、ヒロトくんもそこに関わってるけど、心労で倒れて病院に搬送されるのは流石に気の毒がすぎるし。
「ならば、私が後見人を務めさせていただくとしよう。ちょうど、メイくんを見ていて閃いたアイデアもあることだからね」
『む……? 私を引き取ってくれるのは、パパではないのか?』
「ヒロトくんは色々と手が塞がっているからね。私では不満かい、メイくん?」
『私を定期的にパパとママに会わせてくれるのなら、特に不満はない。しかし……』
「しかし?」
『……これは、もしかしたらネグレクトというものではないのか?』
真顔でなんてことを言い出すの、メイちゃん。
飲み物を口に含んでいなくて本当によかった。
大体どこで覚えてきたんだそんな物騒な言葉。ネグレクトじゃないでしょ、ちゃんとGBNではヒロトくんたちが面倒見てくれるし。
「そんなことはないさ。ただ、ヒロトくんは学生なんだ。彼にも事情がある。娘ならそれを慮ってあげるのも、愛というものではないかな?」
『……なるほど、理解した。パパは学生で忙しいのだな。では、よろしく頼む。伯父さん』
「……伯父さん……」
あ、シャフリさんに微妙なダメージ入ってる。
この世界のメイちゃんはちくちく言葉標準搭載で困るわね。
原作でも結構容赦のないマジレスしてた印象あるけど。
「おい、ルカ。本当にテメェのお姉様とやらは信頼できるんだよな?」
「人間という意味ではあまり信頼できませんが……GPDに執着するあまり、実家を飛び出してバーを開いているといえば、ツカサ様には伝わるかと」
「……なるほどな。そいつを持ち出されたら俺は黙るしかねぇ。コーイチはどうだ?」
「……うーん、ルカくんのお姉さんなんだから、悪い人ではないと思う。信用していいんじゃないかな」
「なら、決まりね。ルカ、シャフリさん、よろしく頼むわよ」
にっ、と不敵に笑って、私はルカとシャフリさんに目配せをした。
「はい、喜んで♡」
「……ふふっ、傷ついてなどいないさ。それはともかく、初めての共同ビジネスだ。よろしく頼むよ、ミキくん」
二人と手を取り合って、約束を交わす。
楽しみね。この倉庫がどうなるのかも、ルカのお姉さんと会うのも。
そして──メイちゃんが、この世界に、現実世界にやってくるのも。