お嬢様がGBNにいるわけないだろう!   作:プラ板の削りカス

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【朗報】ルカの姉、話がわかる

 夜逃げのような形で、こそこそとサーバーとそこに保管されている膨大なデータを廃倉庫から持ち逃げした私たちは、都心の外れにひっそりと佇む商業ビルの前にやってきた。

 正確には地下へと続く階段の前に、だけど。

 それはともかく、ルカのお姉さんはどうやら、元々ライブハウスだった物件をそのまま買収してバーに改装したらしく、看板に古い時代の名残があった。

 

「確かにここじゃあんまりお客さん来ないのも納得ね……ライブハウス時代なら結構人が出入りしてたんだろうけど」

「お姉様はあまり他人と会いたがらない気質なもので……」

「商売向いてなくない?」

 

 ルカは少し恥ずかしげに語ったけど、人嫌いなのにバーを開くって、冗談抜きに、あまりにも向いてなさすぎる。

 でも、それがルカのお姉さんがやりたいことだったのだとしたら、私が口を挟む権利はどこにもない。

 むしろ、私たちの悪巧みに協力してくれる他人を、会ってもいないのにどうこう言う方が野暮というものだろう。

 

「それじゃ、機器類運び込むわよ! 落とさないよう慎重にね!」

「ったく、お嬢様ってのは人使いが荒ぇな……!」

「でも仕方ないよ、ツカサ。このサーバー、めちゃくちゃ重いし……」

「俺とイヴの……娘……」

 

 あっ、ヒロトくんがまだ正気に戻れていない。

 本当に大丈夫なのだろうかとは心配になるけど、多分大丈夫だと信じたい。ヒナタちゃんがさっきから無言のまま笑顔を向けているのが怖すぎるけど。

 一応、イヴとサラちゃんとフィアには、大丈夫だと思うけどGBNにログインしてもらっている。

 

 ELダイバーの生体データはビルドデカールに転送されてモビルドールに固着しているから、スタンドアロンで動けることは知っているけど、念のためだ。

 私とルカとヒナタちゃんは、サーバーを抱えた男子組3人をゆっくりと誘導するように、地下へと続く階段を降りていく。

 シャフリさんも一緒で、ボディガードの人に殿を務めてもらう形だった。

 

「助かるよ、ミキくん。東京は治安がいいと聞くけれど、どこに誰が潜んでいるかわからないからね」

「全くその通りだから油断ならないのよね……」

 

 普段は猫の子一匹通さない厳重なセキュリティが施されている「学園」に平然と出入りしていたピケストとリナさんの姿を思い返しながら、私は身を震わせる。

 身内だったから結果的にいいものの、あれが刺客とか私たちのことを快く思ってない連中の手先とかだったら、とっくに人生詰んでたわけで。

 ……そろそろ、ピケストの後任になるメイドも決まった頃かしら。リナさんが陰で見守ってくれてはいるけれど、流石に彼女一人に任せっきりなのはいくらなんでも負担が重すぎるし。

 

「つ、疲れた……」

「ったく、世話が焼けるぜ、ELダイバーってのは……」

「でも、最後まで面倒を見るのが俺たちの責務で、仕事ですから」

「テメェは真面目すぎんだよ、ヒロト。もう少し肩の力抜いとけ。ただでさえ修羅場ってんだからよ」

「……はい」

 

 きっと笑顔の仮面の下に様々な感情を押し込めているのであろうヒナタちゃんを一瞥して、ツカサくんはヒロトくんに囁いた。

 なんだかんだで、ツカサくんも色々と気を配ったりして、真面目すぎるんじゃないかしら。

 それがいいところだと思うから、指摘はしないけどね。

 

「さあ、ルカ! お姉さんに会いにいくわよ!」

「はい、ミキ。それでは開けますね」

 

 ルカは折り目正しくドアを3回ノックしてから、がちゃり、とアンティークな感じがする木戸を開いた。

 真っ先に感じたのは、アルコールとタバコの退廃的な匂いだった。

 それから少し遅れて、誰も客がいないカウンターの向こうでタバコを咥えてハイボールのグラスを揺らしている女の人が目に映る。

 

 ……綺麗な人だ。

 赤みがかかった髪の毛を、下側にセットしている私とは違って、頭の上の方でツーサイドアップにしてリボンで結んでいる、ルカと同じアメジストの瞳が印象的な女の人。

 お酒を飲んでるし、タバコを吸ってるから20歳は超えているんだろうけど、全然そうは見えないほどあどけなく、美しい顔だった。

 

「お久しぶりです、お姉様」

「ぁー……? あぁー、ルルカちゃん。お久しぶりですねぇ……いつの間に四人に増えたんですかぁー……? デスティニーガンダムspecⅡですねぇー……えへへぇー……」

 

 ダメだこの人、めちゃくちゃ酔っ払ってる。

 私たちの間に本当に大丈夫なのかオーラが漂い始めてきたけど、ルカは怯むことなくお姉さんへと近づいて。

 お嬢様らしからぬ、ダイナミックでバイオレンスな拳骨を、容赦なくお姉さんの頭へと叩き込んだ。

 

「もう、お姉様。お客様がいらっしゃっているのに、はしたないですわよ」

「お、おぉー……痛いですぅー……で、でもぉ、ルルカちゃんのおかげで酔いは覚めましたぁー……」

「でしたら、用件を聞いてあげてください」

 

 ルカのこめかみは、かすかに引き攣っていた。

 なにが起きても、いつもニコニコ笑っている印象の強いルカが、ここまで明確に感情を露わにするのは珍しい。

 まあ、気持ちはわからなくもないけど。

 

「ガンプラBAR、『Lys Blanc』へようこそぉ、わたしはぁ、店主のシロガネ・ユリカですぅ」

 

 タバコの火を消して、ルカのお姉さん改めてユリカさんは、甘ったるさとあどけなさが残る口調で名乗って、私たちに一礼した。

 換気扇をガンガンに回しているのに、タバコ臭さとアルコール臭さが取れていないのは色々と大丈夫なのかと正直不安になったけど、店内を見渡してみれば、疑念はすぐに崩壊した。

 結構な数のGPD筐体が本来客席がある場所には置いてあって、ショーケースの中にはとてつもなく出来がいいガンプラたちが整列している。

 

「こいつぁすげぇな、ガンプラのテーマパークだ」

「どの作品にも愛がこもっているね、マスターは相当な猛者と見たよ」

「すごい……HGUCメタスをベースにしてるけど、これはほとんどフルスクラッチじゃないか!」

「この初代ガンダム……素朴な作りではあるけど、とても作り込まれてる」

 

 男子組も、棚に並んでいるガンプラたちに視線が釘付けになっているようだった。

 

「えへへぇ、ありがとぅございますぅ。わたし、あんまり他人にガンプラ見せたこととかなかったのでぇ……それはともかくぅ、ご用件でしたよねぇ?」

「ああ。単刀直入に言うが、ここにGPD用のサーバーと機材一式を4つばかり置かせてほしい」

 

 ツカサくんは包み隠すことなく、ユリカさんに用件を提示した。

 ここで断られるようならそこまでだ、という覚悟がツカサくんの横顔からは見て取れる。

 虚無を煮詰めたような目でユリカさんを見ているルカが、なんでここまでお姉さんに嫌悪を向けているのかはわからなかったけど。

 

「いいですよぉ……?」

「ま、待ってください! そんな安請け合いしていいんですか!?」

「どうせぇ、お客さんなんて来ないからぁ……好きにしちゃってくださいねぇ? ルルカちゃんからなにか面白そうなことしてるって話は聞いてますしぃ」

 

 コーイチさんの疑問も一蹴して、ユリカさんは残っていたハイボールをぐびぐびと飲み干した。

 さっき飲み過ぎで怒られたことも秒で忘れているようだ。流石はルカのお姉さんとでもいうべきか、生き方が刹那主義を極めている。

 いや、これだけのガンプラがあってかつ現役で動いてるGPD筐体があるんだから、少し営業努力をすればお客さんはすぐに来そうなものだけど。

 

 ……でも、来ない方が今は好都合ではあるのよね。

 

「それなら、お言葉に甘えて今しばらくこのお店を貸切にさせていただくよ。売り上げ代金分に相当する賃料は支払うから、安心していただきたい、マスター」

「えぇー? お金までもらえるんですかぁ……? ふふふ、やったぁー……」

 

 ユリカさんは立ち上がると、フラフラとした千鳥足でシャフリさんに駆け寄って、ボディガードの人が用意した書類に、アル中特有のぐちゃぐちゃな字でサインした。

 これにて一件落着──ってわけじゃないんだろうけど、とりあえずはなんとかなった。

 ヒロトくん周りの修羅場はどうにもなってないけど、ヒナタちゃんも時間が経てばちゃんと感情を飲み込んでくれるはずだ。

 

 だから、今はこれでいい──と、私が安堵に胸を撫で下ろしたときだった。

 

「あぁー、そうだそうだぁ、ツミキちゃん、ですよねぇー……?」

「確かに私はツミキですけど……」

「いつもぉ、ルルカちゃんとぉ、一緒に遊んでくれてぇー、ありがとうございますねぇー……お礼にこれあげちゃいますぅー……」

 

 ユリカさんはふらふらと戻ったカウンターの下からHGサイズの箱を取り出すと、また千鳥足で私に駆け寄ってくる。

 

「これって……HGバルバトスアダプト!? いいんですか、こんなレアモノもらっちゃって……!」

「いいですよぉー……? 多分、ツミキちゃんが足りないって感じてるものの答えにもなりますからぁー……」

「えっ?」

「んふふー、答えは自分でぇ、探してくださいねぇー……?」

 

 意味ありげに含みのある言葉を呟くと、ユリカさんはカウンターに戻ると、突っ伏してすやすやと寝息を立て始めてしまった。

 

「申し訳ありません、ミキ。あのようにだらしのない姉で」

「いや……そこは全然大丈夫なんだけど……」

 

 私に足りないものって、なんだ?

 ライトニングゼロは、今できることを詰め込んだ私の最高傑作……といっても、多分過言じゃない。

 でも、ユリカさんはそれでも「足りない」と感じたからこそ、バルバトスアダプトを、解くべき「課題」と共に、私へプレゼントしてくれたのだろう。

 

 ……上等じゃない。

 私は、拳を強く握りしめる。

 きたる高難度サバイバルミッションに向けて、出された課題を絶対にクリアしてみせるんだから!




ユリカ姉は残念な美人です
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