お嬢様がGBNにいるわけないだろう! 作:プラ板の削りカス
「義もなんもないけど戦いたいから助太刀するわよ、リクくん!」
『その声……あのときのお姉さん!』
さて、格好よくビームサーベルを引き抜いてオーガと対峙したのはいいとして、こいつの嗅覚に私は反応するのだろうか。
『なんだ? 邪魔するんじゃねえ、女ァ! 俺は今コイツと戦ってんだ!』
『そうです、この人は……強い! いくらあのときのお姉さんでも!』
どうやら私はオーガのジャッジだとアウトオブ眼中ってことらしい。
まあそりゃそうか、俺ガンプラ作って暴れ散らかしているような
理屈はわかった。でも
「まさか私にビビってんのか?」
『……なんだと?』
「テメェの小粒なキ◯タマは小娘一人見ただけで縮み上がってんのか、って聞いてんだよ包茎ショタチ◯野郎! 得意のオ◯ニーロールプレイは威勢と口だけか? この腰抜けがよ!」
びしっと中指を立てて、私はオーガを挑発した。
『お、お姉さん……?』
『ねえ、リク……ほーけー……ってなに?』
『さ、サラは知らなくていいことだよ!』
通信ウィンドウ越しにリクサラがイチャイチャしているね、尊いね。
問題はオーガの方だけど、ここまで言われてノってこないはずはない。
なぜなら、バトルジャンキーという人種は「雑魚」と「ビビり」のレッテルを貼られることがなによりも嫌いだからだ。
ついでに前世のゲーセンやらで培ったロックな罵倒も加えてやったから、効果は抜群だろう。
さあ、来いよオーガ! ロールプレイなんか捨ててかかってこい!
ここからはフリースタイルのセッションだ、レスバは反論しないやつの負け、ノってこないならテメェは永遠にビビリの敗北者だからな!
『……今、オレを腰抜けと抜かしたか?』
「は? 事実を申し上げただけなんだけど?」
『……女ァ! 上等だ、そこまで喰われてぇなら、骨も残さず喰いちぎってやる! 鬼トランザム!』
オーガ刃-Xのヒトツメ鬼を思わせるバイザーが下がり、全身が赤熱化する。
さあ、ここからが至上の地獄だぞ。
私は背後に急接近してきて、荒々しく振り下ろされたヒートソードを、挨拶代わりに盾でパリィした。
「動きが単調なんだよ単細胞!」
『ほざけぇッ!』
オーガは、パリィによって生まれた後隙を鬼トランザムの推進力で強引にかき消して、更なる一撃を加えようとしてくる。
当然それも想定済みだから、私はマシンキャノンの応射という極めて塩な対応で返した。
速度が上がるということは、物体にぶつかったときの衝撃も増すということだ。
ヒートソードを盾にするのはいいけど、一瞬遅かった。
オーガ刃-Xの装甲に弾痕が穿たれ、動きが止まる。
じゃあここからは、私がリズムを握らせてもらうとしよう。
「おらぁっ!」
『ぐっ……!?』
オーガ刃-Xの脚はベースとなったGN-XⅣより太くなってはいるけど、足首の接続部はいつものボールジョイントとポリキャップだ。
つまり細い軸をピンポイントで蹴ってやれば、転ぶとまではいわなくとも、姿勢を軽く崩してやることはできる。
ゆらり、と微かに傾いたオーガ刃-Xに向けて深く一歩を踏み込んで、私はビームサーベルを一閃した。
『女ァ……ッ!』
ちっ、左腕の一本は持っていきたかったけど、上手く姿勢制御して頭部の半分を犠牲にすることで武器を守りやがった。
脳筋みたいなダイバールックとロールプレイしてるくせに、こいつ妙に頭が回るんだよな。
だからこそ、唆るんだけどなあ!
『これ以上好き勝手にはさせねぇ……どっちが喰う側かを教えてやらァ!』
「いいねぇ、ノってきたじゃない!」
とは言ったものの、強引にバトルの主導権を取り戻そうと荒れ狂うオーガの剣閃は、嵐のように激しく、パリィするのが精一杯だ。
このまま鬼トランザムの効果終了時間まで耐え続けて、ガス欠になったところを狙う手段もあるといえばある。
だけど──それじゃ、面白くねぇだろ!
「シールドと左腕ぐらい、くれてやるよ!」
『テメェ、懐に飛び込んで……!』
「甘ぇんだよ考えが、死ななきゃ安いんだよぉッ!!!!」
先に手札を切ったのは私だった。
ヒートソードのラッシュをあえて正面から受けることで左腕と胴体の一部は持っていかれたけど、推進力で強引に突き進む。
右手に握っているのは熱々の最大出力ビームサーベル、こいつをテメェのコックピットに呑み込んでもらおうじゃないか!
右半身を刺し貫かれたオーガ刃-Xが大きく姿勢をぐらり、と揺らがせたものの、致命の一撃には至らなかったようだった。
死に瀕してなお、残された左腕に握ったヒートソードでこっちを脳天からかち割ろうというその心意気や見事という他にない。
だけど、どっかの赤い人が言っていたように、戦いとは二手三手先を読んで行うものだ。
相手のペースに踊らされて即興の策を立てなきゃいけなくなった時点で、バトルはほとんど詰んでいるといっていい。
『オオオオオオッ!!!!』
「最っ高だなぁ! 軽くイっちゃいそうだった! だけど──結局チンパンに勝つのはいつの時代も徹底したマジレスなんだよなぁ!」
残っていたマシンキャノンの弾を、刃が届くより早くゼロ距離で全弾発射。
いかにオーガ刃-Xの装甲が原型機より分厚くなってようと、右半身に大穴が空いている状態では、豆鉄砲も致命傷になる。
穿ち貫く弾丸の雨に晒されたことで、とうとうオーガの剣は私の頭上で止まって、機体が爆散した。
『なッ……オレが……負けた……?』
「ふふ……はははは! 喰ってやったぜ、テメェの
中指を立てて、宣言する。
汗が凄いし、心臓が破裂しそうなほどにバクバクと拍動している。今、私は最高に「生きて」いるんだ。
まるで、ライブで一曲演奏したときのように──ルルカと初めてガンプラバトルをやったとき以来の高揚感が、私の脳内でよくない汁をドバドバと、大量に分泌していた。
あー、脳がめっちゃばちばちする。
お腹の下の辺りがきゅんきゅん疼いて止まらない。
本当に軽くイったわ、これ。
†
俺──ミカミ・リクの目の前に広がっていたのは、とても信じられない光景だった。
俺が全力を出しても届かなかったあのオーガを、お姉さんがねじ伏せてしまったのだ。
あんな、お互いの身体を食いちぎり合うようなバトルを見たのは初めてだった。
こんなの、ガンプラバトルじゃない。
俺の目指しているチャンピオンは、暴言なんて吐かないし、いつだって冷静に、だけど心の内側は熱く、格好良く戦っていた。
だけど、オーガが負けたのは紛れもない現実で、オーガを倒したのは、口が悪いお姉さんで。
「リク……?」
「あ、ごめん……サラ……」
あんなの。
あんなの、本当ならお互いの「好き」をぶつけ合うための、ガンプラバトルじゃないはずなのに。
どういうわけか俺の脳裏には中指を立てて暴言を吐くお姉さんの凶暴な表情が焼き付いて離れなかった。
今日のスペシャリテは少年の脳の直火焼きローストですわ