お嬢様がGBNにいるわけないだろう! 作:プラ板の削りカス
私が飛ばされたのは、確か三つだったか四つだったかあるフィールドの、森林地帯だった。
他のダイバーがどれぐらい周囲に潜んでいるのかを即座に把握しづらいのは若干不便だけど、それは相手にとっても同じことだ。
ゼロシステムを索敵に回して周囲の状況を把握することから始めようかと思ったけど、こんな初っ端、しかも自分が放り出された場所もわからない状況で仕掛けてくる可能性は低いだろう。
「ちっ……ミノフスキー粒子が濃いわね」
しかもレーダーの類はほとんど当てにならないときた。
隠れ潜むのは趣味じゃないし、森を焼き払って敵を炙り出してみるか?
いや、それも性急すぎる。
レイドボスがどこかにいる以上、ダイバーたちに対するアクションは必ず起きる。
そしてダイバーたちのリアクションもまた然りだ。
爆発音であったり、悲鳴であったり、怒号であったり。それなら、集音センサーで拾って待てばいいか?
いや、今回のレイドボスがどんな仕様かも告知されていない以上は、混乱が起きたところに飛び込んでいくのが、誰と戦うにしても一番手っ取り早い。
だったら──出し惜しんでる場合じゃないよなあ!
敵も味方もレーダーが潰れてるこの状況で索敵ができるっていうのはそれだけで最高のアドになる。
もったいつけていかにもな理屈を組み立てて……そんなのは、私らしくない。
もっと刹那的に、もっとこの瞬間だけに意識を向けて、剥き出しでぶっ飛ぶ。
それが、私の──ヤエザクラ・ツミキの本懐だろうがよ!
「ゼロシステム、索敵モード! さて……最初の獲物はどこの誰かしら?」
ゼロシステムがレーダーとして機能してくれたおかげで、周囲の状況は完璧に把握できた。
まず、森林地帯に配置されたレイドボスは、アプサラスⅢだ。
それも三体、超絶強化された個体がエリア内を徘徊している。
幸いなのかそうでないのか、私がいるエリアにはいなかったけどね。
それはともかく、カチコミをかけるなら手近なエリアで戦闘を行なっていると思しきアプサラスⅢに行くのか、それともここで息を潜めているダイバーの寝首を掻くか。
どっちの方が面白くなりそうかしら、状況を動かすって意味ではレイドボスの頭をカチ割りに行った方が確実だろうけど。
『見つけたぜ、「鬼狩りのバーバリアン」! テメェの首には賞金がかかってんだ、ここで会ったが百年目ェ!』
「レディを見るなり蛮族呼ばわりとは随分とご挨拶だなぁ! そういうキミはジョナサン・ジョースターってか!?」
闇討ちをかけてきた金色のリボーンズガンダムのGNビームサーベルを、腰部に増設したバルバトスアダプトのスラスターユニットから引き抜いた小太刀で受け止めて、私は改めて確信を得る。
ユリカさんが言っていた「課題」の存在と、それはもうとっくに解決したということを。
小太刀を格納して、今度は大太刀を引き抜く。こんなの、森の中で振り回すような得物じゃない?
だったら、邪魔な樹木ごと断ち切ればいいだけの話だ。
「想定通り5分以内にお嬢様を完璧に見つけ出した。これより援護する」
「キョウ、ナイスタイミングよ!」
『ムラサメ改……? はっ、そんな貧弱な量産型でなにができる! それにこっちはなあ!』
金色のリボーンズガンダムは、キョウのムラサメ改「スピアヘッド」が撃ち放ったミサイルに対して、防御を選んだようだった。
腕部のGNドライヴをエクシアリペアⅡのように展開することで、GNフィールドを発生させ、弾幕を遮断する。
へえ、結構凝った造り込みじゃない。
でも、キョウは良くも悪くも完璧主義者だから、基本的に無駄な行動をしない。
相手が疑似太陽炉搭載機なら、GNフィールドという奥の手を積んでいることぐらいは想定しているはずだ。
つまり、今──あの金ピカのリボガンは、ミサイルを避けられずに足を止めているということに他ならない。
「──今ッ!」
『なっ……!?』
対ビームコーティングが施されている大太刀を横薙ぎに振るい、周囲の大木を巻き込んで金ピカのリボガンを、私はGNフィールドの上から両断していた。
ユリカさんが出してくれた「課題」。
それは、私の交戦距離が基本的に近いのに、格闘火力に乏しいことだった。
基本的にはルカもフィアも、武装の構成は射撃寄りだ。
キョウが加入するまではピケストが遊撃手として格闘戦も担当してくれていたけど、問題はそのピケストが抜けた穴を完全には埋められていない状態で戦おうとしていたことだった。
ビームサーベルで斬り結ぶのも、悪い選択肢じゃない。
だけど、今みたいにバリア持ちの敵だとか、それこそ今回のレイドボスみたいなデカブツを相手にするなら、長物はあった方が有利だ。
だから、ユリカさんは自分のコレクションからバルバトスアダプトを託してくれたのだろう。
それを証明してくれたという意味では、金ピカのリボガンには感謝せねばなるまい。
いや、しなくていいか。
前世で故郷のサイド7を何回も焼き払われた相手だし。発生1Fで三体のガガを出してくるんじゃないよ。
天誅だ天誅。天もリボガンは親の仇だから見つけ次第殺せって言ったんだ。
「完璧な連携だ、お嬢様。しかしまだ改善の余地があるから、レポートの作成と提出を」
「それはミッション終わってからでもできるでしょうが、こっからが本番よ……!」
私は全体チャットで流れた「ダイバー:ミキが参加ダイバーを撃破! サバイバルポイント獲得!」という通知を一瞥して、唇の端を吊り上げた。
そう、誰かが誰かをキルし、サバイバルポイントが貯まったことが全体チャットで通知される以上──否が応でも状況は動き出す。
たまらないわね、私を狙う殺気、あるいは逃げ惑うダイバー、そして負けじと他のやつらを狙い始めるダイバー。
状況は一層ヒリつき、混沌としてきたのだから。
†
わたし──ダイバーネーム「マリン」こと、ツキシマ・マリンは、高難度の洗礼を浴びせかけられとった。
「ひぃ……ひぃ……なんでわたしを狙ってくるん……? このミッション、理屈上は逃げ回っとればクリアできるはずやのに……」
「アプサラスⅢを倒そうにも、硬いし他のダイバーからの横槍が入るのだわ……これが高難度……」
「せやかて、他のダイバーを蹴落として生き残ろうとするなんておかしいやん……皆で協力して逃げ回ればええのに」
カノンちゃんが「これなのだわ! Cランク昇格記念にサバイバルミッション! 挑戦なのだわー!」って張り切ってたからわたしも止めるに止められず、参加してから、書かれていた「高難度」の文字に気づいたときには全てが遅かったんよ。
敵は硬いし周りのダイバーは皆ピリピリしとるし、かといってレイドボスにはこっちの攻撃が通用してる気がせーへんし……
そんなこんなで必死に逃げ回って、補給物資があるポイントまで辿り着けたってところやった。
「ごめんなさいなのだわ、マリンさん……」
「カノンちゃんが謝ることあらへんよ……皆凶暴すぎるんよ……」
強いていうなら、一番最初にサバイバルポイントを獲得した──つまりは他のダイバーをキルしたことが通知されて、「やってええんやな」って空気になってもうたことが悪い。
あれから状況は一気に最悪な方向に転がり出していった。
とりあえずは、耐久値やエネルギーや弾薬を回復するためにも、補給物資を回収しようとした、ときやった。
「きゃあっ!」
「カノンちゃん!」
『ひ、ひひ……お前たち、ポイントだろ? ポイント置いてけよ、ポイント、なあ』
あれは──「機動戦士Vガンダム」に登場する小型モビルスーツ、ゲドラフや。
アインラッドの六連装ミサイルポッドから放たれた攻撃が、カノンちゃんのΞガンダムに増設されたファンネルコンテナと誘爆を起こしてもうた。
ど、どうすればいいん!? わたしはもうほとんどエネルギーも弾薬も残っとらんし、ガンダム・レヴィアタンもボロボロや。
こんなとき、カノンちゃんを助けられるぐらい格好よくて強かったら、よかったんやけどな。
悲しいし悔しいけど、わたしはあのゲドラフのダイバーが言ってる通り、他の人からすれば「ポイント」に過ぎないんや。
……あかんなぁ。楽しくやっていきたい、弱いなら弱いなりにGBNを楽しみたいだけなのに、いつも現実が立ちはだかってくるんよ。
『ひ、ひひ……ひひひひ……ポイント……ポイント……』
「今の攻撃でセンサーがまずいのだわ……これは、万事休すなのだわ……」
『ヒヒャーッ!!!!』
「させへんよ!」
右腕が脱落しているΞガンダムを庇うように、わたしはゲドラフがアインラッドから放ったビームの射線上に立った。
耐久値は心許ないけど、パッシブスキルのナノラミネートアーマーがあるから、盾ぐらいにはなる。
わたしは──弱いから、ええんや。
でも、これから強くなれるカノンちゃんに、嫌な思いはしてほしくない。
だから。
こんなハイエナ野郎にやられることなんてないんや!
「マリンさん……」
「あかんなぁ、こんなことしかできひんで……ごめんな、カノンちゃん」
「そんなことないのだわ、マリンさん!」
『ヒヒャーッ、茶番はいいからさっさとポイントに変われよぉ!!!! ひひ!!!!』
ナノラミネートアーマーが照射ビームで溶けていき、耐久値もジリジリと削られて爆散を待つばかりだった、刹那。
『手負いの相手をハイエナキルするのは戦術的には合理的ね、だけど……みみっちいな! ケツの穴が小せぇんだよ!!!!』
『ヒヒャァーッ!?』
ゲドラフが横一文字に切り裂かれて、爆発四散した。
び、ビームシールドとアインラッドの上から?
あのゲドラフを? 一撃で?
『ふぅ、そろそろレイドボスに喧嘩売ってもいい頃合いかしらね、キョウ』
『レイドボスの迎撃に出ているダイバーも増えてきた。完璧な頃合いだ、お嬢様』
一体誰がこんなことを。
わたしが呆然としてる間に姿を現したのは、ムラサメ改の改造機を随伴した、テレビ版のウイングガンダムゼロのカスタムモデルやった。
噂は聞いたことがある。確か、「獄炎のオーガ」を再起不能に追いやったダイバーで、マナーは最悪も最悪、ドブの底やけど実力は超一流とかいう。
『ああ、そこの補給物資なら使っていいわよ。私たちは特に消耗してないから』
「お、おおきに……」
「感謝するのだわ、えっと……」
『私はミキ、別に覚えなくてもいいわ。でも……最高にいいガッツだったわよ、あんたたち!』
『キョウだ。完璧に覚える必要は同じく、ない』
「そ、そうなのだわ! 私はカノン、助けられた恩はいつか必ず返すのだわー!」
スラスターを噴射して飛び去っていく、ミキとキョウと名乗ったダイバーたちに、カノンちゃんが補給物資を展開しながら手を振った。
そうや、ミキ。
最初に戦場を動かした、「鬼狩りのバーバリアン」。
「敵わんなあ、ほんま」
「マリンさん?」
「なんでもあらへんよ、カノンちゃん」
強さばかりがGBNの全てじゃない。改めて、今の自分の信条を胸に問う。
多分、あの人たちがわたしたちに手を貸してくれたんは、ただの気まぐれやとはわかってる。
でも、強さばかりが全てじゃないと証明してくれたんは、わたしのちっぽけな勇気でもたまには役に立つことを認めてくれたんは、あの人のせいだし、あの人のおかげでもあるから──どんな顔をしていいか、わからなくなってまうなあ。ほんまに。
蟷螂の斧、しかしその蟷螂が人間であったなら、紛れもなく王の器であっただろう──
※「真莉藻」様作「ガンプラバトルがクソ雑魚でもGBNで遊びたい」より「マリン」さんと「カノン」ちゃんをゲスト出演させていただいております、この場を借りて感謝いたします!