お嬢様がGBNにいるわけないだろう! 作:プラ板の削りカス
『冗談じゃねえ、なんだあの化け物!?』
『レイドボスよりあれから逃げろ!』
『いいや面白そうだ、「行く」ねッ!』
『こっちはこっちでレイドボスの攻略が進んでないんだ、誰か手を貸してくれ!』
俺──クガ・ヒロトが配置されたエリアは、全エリアの中でも動向が穏やかな砂漠地帯のはずだった。
強化されたレイドボスも、他のエリアに投入されたものに比べれば、砂中に潜航してビッグアーム・ユニットで握り潰してくる以外は多少まとも──まとも? だし、ダイバー同士の戦いも頻度が少ない。
これなら、砂嵐を傘に、ある程度隠れ潜んでいれば、余計なリソースを消費することなく生き残れる。
そう思っていた時期が、俺にもあった。
今や砂漠地帯は阿鼻叫喚の地獄絵図だ。
幸い、ヒナタとイヴとは逸れずにスポーンできたから運が良かったのかもしれないけど、今は地上も空中も逃げ場がない。
「ねえヒロト、どうすればいいのかな?」
「私のヒロトならわかってるよね、コアガンダムⅡもそう言ってるし!」
「……」
「……」
急に無言になって微笑み合うのはやめてほしい。切実に。
胃に悪いんだ。
俺としては頼むからヒナタもイヴも仲良くしてほしいんだけど、本人たちに直接言っても「仲良くしてるよ?」と返されたんだから、どうしていいのか。お手上げだ。
「……とにかく、ミキさんとルカさんの戦いには巻き込まれないようにしよう。あれならまだ、素直な行動しかしないレイドボスの方が対処は楽だ」
「わかった、あの蜘蛛みたいなガンプラを狙えばいいんだよね?」
「いや、あそこに大岩がある。物陰に隠れて様子を伺おう。とにかくレイドボスから逃げるにしろ倒すにしろ、俺たち三人だけじゃ心許ない」
俺はヴィーナスアーマーに騎乗させているコアガンダムⅡを降下させて、大岩の陰に隠れるよう、二人へと促した。
「ふふっ、了解! 砂漠の景色もいいものだったけど……私も、私のヒロトと一緒にガンプラバトルしてみたかったから!」
「そうだね、私のヒロトとは初めてだもんね、イヴちゃんは」
「……」
「……」
誰か。
胃薬を。
くれ。
「それはともかく、あのボスはバリアとか持ってないんだよね?」
「ああ、事前にデータを集めてたけど、動きが素早いのと攻撃力が強化されているだけで、特にバリアはないみたいだ」
「それなら、ヒナタのニアムーンとヒロトのヴィートルーで砲撃戦に出るのが確実かな? 私のネプテイトアーマーはあんまり戦闘向きじゃないし」
「そうだな……イヴの言う通りかもしれない。なんにしてもまずは様子を見て──」
砂嵐とミノフスキー粒子の濃さは、レイドボスにもデバフをかけているようで、遠くで戦っているダイバーたちとの戦闘にかまけて、俺たちの存在にはまだ気づいていないようだった。
だけど、安堵したのも束の間、今度は上空からなにかが猛スピードで接近してくるアラートが明滅する。
コアチェンジは間に合わない。なら、多少火力が心許なくても、スプレーガンで。
「わわっ、待ってください! 撃たないでください!」
「……君は?」
「ヒロト、あのガンプラ、ミキとルカと戦ってた!」
「本当だ……損傷がひどいけど、大丈夫?」
ヒナタのコアガンダムが降ってきたガンプラ──確か、ゼクスヴァルキランダーとかいう名前のSDに近寄って、接触回線で呼びかける。
ゼクスヴァルキランダーの損傷は酷いもので、羽根のようなパーツは片翼が大破していて、手持ちの武器と思しき剣と盾もボロボロだ。
それでも、スピッツェシュヴァートビームホーンが移植されている、冠のような頭部アンテナだけは破損していない。
「はい、なんとか……うう、悔しいなぁ。ミキさんとルカさんだけならなんとかなったけど、フィアさんとシナノちゃんに、キョウちゃんまで合流されると、練度と数の差でやられてしまって……」
「……あの二人と知り合いなのか?」
「はい。と、いうことはあなたも?」
「……まあ、なんていうか、恩人みたいなものというか、でも、簡単には認めたくないというか……」
「なるほど! お二人のライバルなんですね! ここで会ったのもなにかの縁です、一緒にレイドボスを攻略しませんか? あっ、僕はパルヴィーズです!」
なんかすごい勢いで捲し立ててきたな。
ミキさんとルカさんの知り合いなら、間接的に俺の知り合い、ということにもなるのだろうか。
こっちとしてはとにかく手数を集めなければいけないから、一緒に戦ってくれるならなんでもいいんだけど。
「……俺はヒロト。よろしく」
「はい、ヒロトさん!」
レッドアラートが明滅しているゼクスヴァルキランダーのコックピットで、元気そうにパル、と名乗った男の子が目を輝かせる。
これで四人か。
見たところ今のゼクスヴァルキランダーは必殺の一撃以外は頼りにならなそうだし、役割としてはフィニッシャー──あと必要なのは、敵の攻撃を引きつけるタンクと、前衛型の遊撃手といったところだろうか。
「おわあああああ!?」
「ったくもう、攻撃力が強化されてるんだから、迂闊に突っ込むなって言ってたでしょ!?」
「お前を守るためだから仕方ねえだろ、ミミ!」
「……っ!!!!」
……考えている傍から、ボスの攻撃を受け止めたんだと思われる機体が、盾を構えたまま、もう一機を背中に隠すような姿勢で後ずさってきた。
なるほど、あのイージスガンダムをベースにしたガンプラ、レイドボスの攻撃を受けても大した損傷を負っていない辺り、タンクとしてはかなり頼れるだろう。
ここは、彼らにも協力を持ちかけた方がいいはずだ。
「……あの、すみません」
「おっ? もしかしてミミを庇った俺の勇姿を見込んでのスカウトか? へへっ、俺はカザミ! 今はミミと一緒に流れのタンクをやってるぜ!」
「自惚れるんじゃないわよ、ったくもう! あたしはミミ。見たところ協力した方が得しそうだし、あたしたちで手を組まない?」
話が早い相手で助かった。
カザミと名乗った男の方は多少よくわからないことを言ってたけど、まあミキさんとルカさんに比べれば普通な方だ。
ミミ、と名乗った女の子は合理的思考ができる方みたいだし、組むメリットは大きい。
「わかった。俺はヒロト。それじゃあカザミとミミが前衛として攻撃──」
「私を忘れているとは、育児放棄じゃないのか、パパ」
「うわあああああああ!?!?!?」
ぬっ、と後ろから生えてきたモビルドールの姿は、忘れられるはずがない。
俺の娘を自称する──ツカサさん曰く、本当に俺とイヴの因子から生まれたらしい──ELダイバー、メイだ。
ただでさえイヴとヒナタの間で板挟みになっているのに、勘弁してほしい。
「しかし、叔父から作ってもらったウォドムポッドの外装を破壊するほどの火力を持ったレイドボスとは。少し油断したな」
「おっ、なんだ? そっちのあんたもヒロトの知り合いなのか?」
「知り合いじゃ──」
「娘だ」
吐いていいか。
いやダメだけど。
胃がキリキリと急速に締め付けられるような痛みを訴えかけてくる。
「……な、なんだかよくわからねえけどよ、お前も大変なんだな、ヒロト……」
「夫婦になるって、大変だものね……」
「……ありがとう、カザミ。ミミ。可能ならメイを連れて前線でレイドボスの攻撃を引きつけてきてほしい」
「む、私の役目は遊撃か……わかった、パパもママも見ている手前、もう失敗はできないな」
「頑張ってね、メイ!」
「ありがとう、ママ」
もう、殺してくれ。
胃が万力で締め付けられるどころか捻じ切られるように痛む。
俺は、まだ。まだ、イヴとヒナタのことでさえ半ば受け止めきれていないんだぞ。
「大丈夫だよ、ヒロト」
「ヒナタ……」
「事実と真実は時々食い違うものだから」
「ヒナタ?」
微笑んでいるけど、なんだか不穏なものを感じずにはいられなかった。
俺は、どうすればいいんだ。
誰か教えてほしい、切実に。
「……コアチェンジ、ドッキング・ゴー……」
捻じ切られる寸前の胃を抑えながら、コアガンダムⅡにヴィーナスアーマーを装着して、俺は目の前の出来事から目を逸らすように、レイドボスへとやり場のない感情の矛先を向ける。
そんな俺の感情を置き去りにして、作戦はびっくりするぐらい順調に進んでいった。
ああ、うん。レイドボスならパルのゼクスカリバーで無事に荼毘に付したよ。
R.I.P