お嬢様がGBNにいるわけないだろう! 作:プラ板の削りカス
私──アマツガ・ロミカにはちょっとだけ、ううん、結構人と変わったところがある。
自慢なんかじゃない。
むしろ、この「変わったところ」のせいで人生の大半を損してきたのだから。
平たくいえばそれは、「いろんな人やものの声が聞こえてしまう」ことなんだけど、どうやらそれはGBNでは機能しないようだった。
だから、ほっとした。
アクティブユーザーが2000万人もいるゲームの中で、ダイバーやガンプラの声が聞こえてきたら、私の思考回路はすぐにキャパシティオーバーを起こして、パンクしてしまうだろうから。
それに、「声」が聞こえない世界というのがどんなものなのか知らなかった私に、「当たり前」の世界がどんなものなのかを教えてくれたという意味では、ミキさんやルカさんに感謝しないといけない。
なんて、感慨に浸っている時間は、今のところ残念なことにないのだけど。
軍事基地エリアに飛ばされた私は、ミナカともはぐれる形で、ひとりぼっちでの戦いを強いられていた。
それにしても、初心者に厳しいなぁ。
……GBN初心者がいきなりこんなミッションに挑むものじゃないといわれれば、それはそうなんだけど。
でも、Cランクに上がるまでの戦いで、私の愛機こと「ローゼン・シニスタ」のクセや長所はわかっているつもりだ。
「行って……ソードビット!」
私は追ってきた相手に向けてソードビットを射出して、牽制と可能であればダメージを狙う。
ソードビットを利用したオールレンジ攻撃──ミキさんが「対面拒否型」と呼んでいた戦術が、今のところ私には合っていたし、実際にこの戦い方をした方が勝率もよかった。
だけど、それ一本じゃ勝てないことも、これまでの戦いでよくわかっている。
『む、無駄だど……オデのコルレルは成形からくる肉厚をギリギリまで削り込んで軽量化を図ってるど、生半可なオールレンジ攻撃は通用しないど』
今戦っている、「コルレル」というらしい細身のガンプラを使っているふくよかなダイバーは、敵ながら華麗な足捌きでソードビットの乱撃を掻い潜ると、私に向けて肉薄してきた。
武装はビームナイフ一本。頭部バルカンすらない、本当に身軽さだけを武器にした潔い武装構成だ。
そしてこの人は、タイムアップが迫りつつある今の今まで、ナイフ一本で生き残ってきたということになる。
運に恵まれただけの私とは違う、本当の実力者。
可変式のガンブレードをブレードモードで展開し、私は先に打って出ることにした。
薙ぎ払いからの連携で、避けた先に攻撃を置いておく。これなら、いけるはずだ。
──だけど。
『せ、攻めるばかりがガンプラバトルではないど……相手の動きを観察して、攻撃を取りやめる勇気も必要なんだど……!』
「回避に転じた!?」
コルレルは初撃を回避すると、宙返りをして本命の二撃目をも回避してから、私の後隙を見てビームナイフを突き立てようと再びクロスレンジに飛び込んできた。
ソードビットが戻ってくるまではまだ時間がある。
あのコルレルならきっと、私が頼りにしているソードビットを回収する前に仕留め切ろうとしてくるだろう。
『お、お前の考えていることを当ててやるんだど……! 「ソードビットが戻ってくるまでの時間を稼ぐ」……! そうはさせないど!』
「……っ、強い……!」
ローゼン・シニスタはツカサさん曰く、内部フレームはかなり頑強に作られているらしいけど、表面装甲はそこまででもないらしい。
むしろ、軽量化のために軽い素材が使われているから、正面から攻撃を受けるタイプではない、とも釘を刺されている。
ツカサさんの言葉通り、ローゼン・シニスタの左肩にビームナイフが突き刺さって、関節部が誘爆を起こしたことで左腕そのものが脱落してしまう。
「きゃあっ……!」
『そのガンプラ……ただ倒すには惜しい完成度だど、だけど、ダイバーの腕が伴っていないのは……残念だど』
「それ、でも!」
幸い、ソードビットが戻ってくるまでの時間は稼げた。
あとはタイムアップまで、ソードビットのバリア機能を利用した遅延戦術をとれば、生き残れる目はあるかもしれない。
だけど、そんな戦い方は……ミキさんに、「ダッセェなぁぁぁぁ!」と言われてしまうから。
「……」
『まだ、攻めに転じる気概がある……その心意気には敬意を表するど』
「ダサい戦いは、私のお友達が最も嫌いなものなので」
『いい友達だど……だけど、オデのナイフ捌きを破ることはできないど!』
覚悟を決めて、回収したソードビットを対空させた、刹那。
『ちょっと待ったああああ!!!!』
通信ウィンドウに知らない顔が割り込んできたかと思えば、ビームサーベルがビームブーメランのように横回転しながら、私たちの間に割って入ってくる。
『なんだど、戦いに水を差すんじゃないど』
『それどころじゃねえんだよこっちはァ!!!!』
『こ、こいつ……! オデのデータにあるど、お前は、†黒薔──』
高機動型ジェガンを改造したのであろうガンプラと使い手は、コルレルを凄まじい剣捌きの下に、一撃で倒してしまった。
私はただ、唖然とする他になかった。
強い。それも圧倒的に。
『はぁ、はぁ……そこのお前! お前……そのガンプラ、「ローゼン・シニスタ」か!? レプリカじゃないよな!?』
「……は、はあ……私が中古ショップで買ったものがレプリカでなければ……」
『よかった……やっと会えた……!』
「やっと?」
『俺は……デンケン。そのガンプラの元の持ち主なんだよ……』
息を切らしながら、コルレルを倒したダイバー、デンケンさんは懐かしさと気恥ずかしさと焦りが綯い交ぜになった表情を、私に向けてくる。
『ちょっとダーリン、他の女に声かけるなんてどんな了見よ!』
『だから俺はお前の彼氏じゃねえよ、エミ! とにもかくにも……今の持ち主であるあんたと話がしたい、まずは、名前を教えてくれないか!?』
今まではハイパージャマーとミラージュコロイドで姿を消していたのであろうガンダムデスサイズヘルを操る赤髪にツインテールのダイバー、「エミ」さんの言葉を一蹴して、デンケンさんは凄まじい形相で詰め寄ってくるのだった。
†
私──クレダ・ユニにはちょっとした夢があった。
お友達と一緒にGBNを楽しみたい。
ささやかなものかもしれないけれど、そんな、小さな夢すら、マスダイバーに踏み躙られてしまって、しばらくGBNからは離れていたのだけど。
『朗報だ、ユニ。マスダイバーは殲滅されて、ブレイクデカールを使用していたダイバーは全員晒し首になったよ』
お父さんが教えてくれたことで、一念発起して復帰したGBNには本当にマスダイバーの姿はなくて、私と同じようにGBNから離れていたお友達も、戻ってきてくれた。
楽しかった。
最初は大好きなガンプラが、仮想空間での出来事とはいえ、傷を負うのが怖かったし、耐え難かったけど、負ける度に「次はこうやって勝とう」という気持ちが湧いてきて。
今では全員、初心者の登竜門と呼ばれているCランクを超えることができている。
だから、今回の高難度サバイバルミッションに参加したのは、一種の挑戦みたいなものだった。
今の私にどこまでできるか。今の私たちが、どこまでGBNを──苦しいことも含めて、楽しめるか。
護衛をつけようとしてくれたお父さんの提案を振り切って、私は、お友達と一緒にこのミッションへと飛び込んだ。
開始地点がランダムになるという仕様だったから、一緒に戦えるかはわからなかったけど、幸いにも私たちは近くに配置されていたらしくて、すぐに合流することができた。
おかげで、タイムアップが近づいている今も、こうして全員で生き残ることができている。
「ふぅ……ユニちゃん、近くに敵影はありません。皆、近くの施設で一旦弾薬の補給をしますか?」
「陸軍としては海軍の提案に賛成であるです」
「えーっ!? 私たち陸軍だったんですか?」
「ミームを擦って滑り倒したときが一番つらい……ナポレオンの辞書にも書かれている……」
お友達──リカちゃんたちが、賑やかに言葉を交わし合っていても、敵が近づいてこない辺り、本当にもうこのミッションの終わりは近いのだろう。
軍事基地エリアには、チャンピオンが配置されているという情報をリカちゃん経由で受け取っていたから、当然だけど。
そんなわけで私たち、フォース「ごーあへっど!」は一息つくことができていた。
「それにしても、もう制限時間ですか〜、もっと楽しみたかったです」
「ジャベ子、アカツゲーに狙われて逃げ回ってたのによく言う……」
「それはそれ、これはこれです!」
「なんせチャンピオンが来てくれて、一撃で倒してしまいましたからね」
「あれはもう人間じゃねーです、暴力という言葉が服を着て歩いてるです」
「ラヴィもアヤナミンの言葉に同意する……」
ジャベ子ことノゾミちゃん、アヤナミンことミナミちゃん、そしてラヴィちゃんも、なんだか少ししんみりしている。
でも、まだ戦いは終わったわけじゃない。
油断していると後ろから……なんて。
かくいう私も気を緩めて、歩哨として補給しているリカちゃんたちを見守っていたときだった。
特段敵襲があったとか、そういうのじゃない。
私たちが使っている補給ポイントに、降り立つ機体があったのだ。
『やあ、ユニくん。GBNは楽しめているかい』
「チャンピオン……! はい、おかげさまで……チャンピオンが、マスダイバーを殲滅してくれたおかげです!」
チャンピオンのは、小破している機体を休めようと着陸して、五つあるうち補給ポイントの、空いている一つにAGEⅡマグナムを駐機させて、コックピットを降りてきた。
周りはほとんど敵ばかりな環境なのに、こんな堂々とした振る舞い──格好いいなぁ。
私も周囲を警戒しつつ、ウィンダムの肩から下にペイルライダーの腕部を装備した愛機を降りて、チャンピオンへと駆け寄っていく。
「ははっ、それならなによりだ。でも、マスダイバーを殲滅できたのは、僕だけの功績ではないんだ」
「……と、申しますと?」
「……あまり名前を出したくはないが、『レディビルド』の協力が大きい」
「ああ……」
チャンピオンが苦虫を噛み潰したような顔をして名前を挙げた、「レディビルド」についての噂は私も聞いている。
負けたら中指を立てて煽られるとか、一回戦ったら再起不能になるまでボコボコにされるとか、逆にそれが癖になるとか……あんまりいい噂じゃないけど。色んな意味で。
でも、聞いた話だと、「レディビルド」が関心を集めているのは確かだった。お父さんも、最近はなんだかリアルでもGBNでも忙しそうにしてたし。
「それはともかく……ユニくんがGBNを楽しめているようで、僕も嬉しいよ。今度お父上に会ったときの土産話にもなる」
「もう……私はもう、ただのダイバーですよ。あなたという頂を目指す」
「よくぞ言ってくれた。しかし、祭りの後というのは寂しいものだね」
制限時間は既に1分を切っていて、ハイエナ狙いのダイバーも諦めて安全なところに退避している頃合いだった。
安心するにはまだ早いけど、チャンピオンも気を抜くことがあるんだと思うと、なんだかちょっと意外だ。
海に面した軍事基地に、一筋の磯風が吹き抜けていく。戦いは終わった──理屈の上ではそうでないけれど、心へ訴えかけてくるように。
「でも、またすぐに次のお祭りが始まります」
「そうだね……この世界が、GBNが続く限り」
チャンピオンは、私に微笑みかけながら呟いた。
きっとGBNが続く限り、頂点の座を譲るつもりはないのだろう。
それでも。
「さっきも言いましたけど……私たちも、チャレンジャーで終わるつもりはありません」
「わかっているとも、だから」
──どこまでも、その足で踏み締め、行くといい。
私たちは「ごーあへっど!」。
チャンピオンに言われたように、「レディビルド」が流星のように駆け抜けているように。
どこまでも踏み締め、進んでいくのだ。
形は違えど、共に未来への一歩
※「笑う男」様の「『GHC』活動記録」よりユニちゃんたちをゲスト出演させていただいております。この場を借りて感謝申し上げます。