お嬢様がGBNにいるわけないだろう! 作:プラ板の削りカス
ツカサくんにエスコートされて、タクシーで無事に帰宅した翌日。
ルカがヘイズル改の修理待ちだったので、放課後は雑談がてらそれに付き合っていたけど、あのレベルで損傷したガンプラを流石に放課後の時間だけで修理するのは、彼女の腕前でも厳しかった。
いや、予備として積んであるヘイズル改からほとんどコンバートしてるから当たり前なんだけど。
「それではごきげんよう、ミキ」
「ええ、ごきげんよう。ルカ」
お互いに一礼して、学園を後にする。
流石に昨日の夜遊びは家族から怒られたから、今日ぐらいは真っ直ぐに帰宅しなければいけない。
ルカと遊んでいたというと家族が押し黙ったのは笑ったけどね。
お嬢様界隈は家のヒエラルキーでマウント合戦してるのが本当にしょうもない。
送迎車に乗って帰宅する傍ら、私が考えていたのは今後のことだった。
まず、ツカサくんとコンタクトを取って、ある程度いい方向に彼の心情を持っていけたのは大きい。
ブレイクデカールの販売にもちょっと消極的になったらしくて、LINEに「当面アストレイの修理に取り掛かるからブツの販売ができねえ、どうしてくれんだ」とツンデレメッセージが届いていたからね。
なんにせよ、これで少なくともイヴの寿命はちょっとだけ伸びたといえる。
私がその間にやるべきことは、ツカサくんの説得材料を集めることと、最低限GBNがサ終する未来を回避するために……なんかバグ問題を解決することだ。
ふ、ふふふ。
前世がガノタなだけの私になにができるかはわかんないけど。
でも、今の私にはルカという最強の相棒にして親友がいる。ダイバーギアの製造に一枚噛んでいるルカの力を借りれば、なんとかならないこともないはずだ。
他力本願? うるせえ。
使えるものは使うってフル・フロンタルも言っていただろうが。
ともかく、次にやるべきことを考えるのが、今、私のやるべきことだろう。
†
「ちっ、本当にシケてやがる」
家に帰ってから諸々を終えて、しぶしぶチュートリアルミッションを受けた私は、あまりの不完全燃焼っぷりに憤っていた。
棒立ち同然のリーオーNPDなんて、バスターライフルを使うまでもなく片付けられるんだよなあ。
面倒だから、3機まとめて消し飛ばしたけど。
それに、オーガを倒して以来、妙な噂を立てられてフリバに私を誘ってくる初心者狩りもいなくなっちゃったんだよね。
いや、妙な噂というか半分以上自業自得だからしょうがないといえばしょうがないんだけど。
GBNの運営はガバガバだけど、メッセージボックス開いたらしっかり注意喚起されてたし。
「不完全燃焼……」
そんなわけで私は、ウイングガンダムでディメンションを散策する旅に出ていた。
たまには気分転換としてバトル以外のことをするのも悪くはないだろう、と思ってのことだったけど。
正直クッソ退屈すぎて欠伸が出そうだった。
やっぱりガンプラはバトルさせてなんぼよ。
あまりにも暇だから、いくら罵倒しても心が傷まないマスダイバーでもおちょくって遊んでくるかな、と思ったけど、表向きは誰がマスダイバーなのかわからないのが厄介なんだよね。
随分と面倒なツールを作ってくれたものだよ、ツカサくんは。
青白い花が咲いている草原に機体を着陸させて、ストレージに収納してから私は地面を踏み締める。
草原を踏みつける感覚とかも結構リアルに再現されてて、作り込みすげー、とは感心するけど、やっぱりどこか物足りない。
バトルジャンキーはあの脳汁が溢れてくる感覚に取り憑かれているんだ──と、小さく欠伸をしたときだった。
「……なんの光?」
紫色の光が、湖畔から発せられる。
寝ぼけたことを言っていたけど、あれは。
私の想像が現実なら、最悪の未来に向けてのカウントダウンは秒読みになりつつあるということだ。
やがて、光の柱はすぅ、っと消えていったけど、私はなんとか観測したポイントまで辿り着いていた。
そして、目の当たりにしたのは。
美しい空色の瞳に、色素の薄いブロンド。まるで私たちが着ているような丈の長い衣服を身に纏った女の子──イヴの姿だった。
「……あなたは、誰?」
驚いて固まっている私を空色の瞳に映して、イヴは問いかけてきた。
それ以上、自分の身体にバグを取り込むのはやめろ。
咄嗟に言い放ちたくなる衝動を抑えて、私はロングスカートの裾を摘み上げ、カーテシーを添えて一礼する。
「失礼いたしましたわ。私は……ミキ。貴女のお名前をお聞きしても?」
「私は、イヴ。ところで……今の、見た?」
「……ええ、しかと拝見しましたわ」
今はブレイクデカールの流通こそ抑えられているけど、使用者が減ったわけではない。
バグが生み出され続けているという現実は、そして、イヴがそのために自己犠牲を果たしているという現実はそう簡単に変わらないのだ。
ぎり、と思わず拳を握り締める。
「あはは、見られちゃってたんだ。私もドジだなぁ……ねえ、ミキ」
「どうなされました?」
「……今見たことは、秘密にしてほしいの」
わざわざ言われなくても、ヒロトに伝えるつもりは毛頭ない。
だけど、これ以上イヴが犠牲になるのを黙って見過ごせと言われてはいそうですかと看過するのも我慢ならない。
そこで私は一つ、イヴに対して取引を持ちかけることにした。
「承知しましたわ。ですが……不躾なお願いではございますが、交換条件を受け入れてくださいますか?」
「交換条件……?」
「私は必ず貴女と貴女の愛するこの世界を助け出します。ですから、これ以上──大切な人を悲しませるのはおやめください」
要するに、今のは黙っててやるから、勝手にバグフィックスをするのをやめろということだ。
とはいっても、ツカサくんが改心するのを期待するのと、未知数な、ルカのソフトウェアエンジニア力に賭けるか、そして私という、原作にいなかったイレギュラーがどう立ち回るかという、不確定要素しかないけど。
必ず、救ってみせる。助け出してみせる。
「ご忠告、ありがとう。でも……」
「貴女も、この世界に生きる命の一つですわ」
「……っ!」
「ですから、どうか──」
「……イヴ?」
頭を下げて頼み込んでいたところだった。
草原を踏み締める足音と共に、「彼」はやってきた。
そう、ビルドダイバーズの続編にして、奇跡の裏で悲劇に見舞われた──
「ヒロト! なんでもないよ、この人とちょっとお話ししてただけ。そうだよね?」
「え、ええ……ごきげんよう」
「……『鬼狩りの
クガ・ヒロトことヒロトくんは、警戒心たっぷりに私へと問いかけてくる。
そう、オーガを倒したせいで、私には妙な二つ名がついてしまったのだ。
なんだよ蛮族って。いや否定できないけど。
「用、というほどのことでもありませんわ。たまたま近くを通りかかったので、おしゃべりしていただけですもの」
「……どうかな。君のその口調、ロールプレイだし」
うっ。
次作主人公からの好感度が低すぎる。
確かにGBNで本性剥き出しにしたのはあまりにもよくなかったけど、私はなんとかヒロトくんも救い出したいのに!
「本当だよ、ヒロト。この人は……」
「危険な人だ。イヴに近づけたくない」
ゴミを見るような目で、ヒロトくんは私を睨め付けてくる。
正論で人を殴るのはやめろ!
古今東西正論パンチが人を幸せにしたことはないってマリーダさんも言ってたのに!
「でしたら、私を信用するかしないかで白黒つけませんか?」
「……つまり?」
「ガンプラバトル。貴方が勝てば私は今後イヴ様には近づきませんし、このエリアにも来ない。私が勝てば、イヴ様の言葉を信頼していただくという条件で」
これ以上なくホビーアニメな提案を、私はヒロトくんへと持ちかけた。
でも、これが一番わかりやすい。
ヒロトくんがイヴと顔を見合わせると、イヴは小さく頷いて、続きを促した。
「ヒロト、コアガンダムも戦ってみないとわからないって、そう言ってる」
「……イヴが言うなら。でも」
「……はしたない言葉は自重いたしますわ」
と、いっても、トップフォースの「AVALON」に入っている猛者を相手にどこまで我慢できるかわからないけど、出来る限り内なるチンパンを抑え込まねば。
フリーバトルの申請を出して、ヒロトくんに受諾してもらったところで、私たちは再び相見える。
成り行きでのバトルだけど──こうなったら、全力でやるしかない!
なんの光ぃ!