織斑一夏は天才錬金術師   作:佐為苦露譜洲

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今回過去編です。


第5話 過去と一夏

一夏は家族とともにヨーロッパの片田舎へと来ていた。あいにくその日は豪雨で外に出るのもままならないほどであった。

 

「うわぁすげぇ雨だな」

 

春十が外を見ながら呟く。その顔はどこか楽しんでいるようにも怖がっているようにも見えた。

 

一夏たちがいる場所のすぐ近くには大きな川が流れている。その川が溢れると一夏たちのいる場所などすぐに水の中になるだろう。周りの男たちがいきなり慌てて外へと飛び出していった。その様子を見て千冬が、

 

「どうやら川が危ないらしいな。私たちも避難しよう」

 

と言い出した。一夏も春十もその意見に賛成で、何も文句は言わずに千冬の後を追って外へと出た。

 

外はかなりの風と雨で、立っているのがやっとだった。

 

川岸には男たちが必死になって壁を錬成しようとしたり土嚢を積み上げたりしていたが、そんなものは一瞬にして崩されるだろう。

 

そんな中ふらりと一人の女性が川岸に出てきた。その人は軽い足取りで土嚢でできた堤防の前に立つと両手を合わせた。

 

「危ないですよ。離れていてください」

 

「そりゃ俺のセリフだ‼︎ここはもうじき決………」

ヒゲの男が女性に注意をするが女性は全く気にせず両の手のひらを地面に叩きつける。

 

「………壊………」

 

その瞬間、轟音とともに大地から巨大な壁がせり上がってくる。その大きさは川の流れに沿って遠くまでつ続き、かなり頑丈そうに見えた。

 

「なっ‼︎」

 

これほどの規模の錬成物はごく稀に束がつくっていたが、一夏は錬成陣を書かずに錬金術を行使したことに吃驚した。春十は特に何がすごいのかよくわかっていないようだ。大きさについてもだ。

 

「あ、あんた何者だ。こんなバカでけぇの一瞬で……」

 

女性はその質問に対してにっこりと笑って、

 

「通りすがりの主婦です」

 

と、答える。しかしすぐ吐血して担架で運ばれていった。

 

(スゴい………。これなら………)

 

一夏は心の中で決意する。

 

 

 

 

 

 

 

小さな病室で女性は横たわっていた。その女性はイズミ・カーティスという名前で、観光のためにきていた。隣には巨体の男性がいてその人はイズミの夫のシグ・カーティスというそうだ。2人は肉屋を営んでいて現在は日本で店を開いているらしかった。

 

「おばさん!俺を弟子にしてください‼︎」

 

一夏は二人の周りにいた大人達を押しのけてそう言った。

 

イズミは一瞬にしてベッドを持ち上げ投げつける。一夏はそのベッドの下敷きになった。

 

「おばさんちょーーっと耳が遠くて聞こえなかったなァ。も一回言ってくれるゥ?」

 

イズミは般若のような顔をして脅迫してくる。

 

「て、訂正です。弟子にしてくださいお姉さん」

 

お姉さんのところだけを無駄に強調する。

 

「こら、一夏いきなり何を………」

 

後ろに控えていた千冬が一夏を止めようとしてくる。

 

 

「俺、錬金術の腕をもっとあげたいんです‼︎お願いします‼︎」

 

「ダメだ。私は弟子を取らない主義だしそれに店もあるからすぐに日本へ帰らなきゃならない」

 

「弟子にしてください‼︎俺も日本に住んでいるんで店のことは木にする必要はないと思います‼︎」

 

実に自分勝手なことだがまだ一夏は幼かった。

 

「錬金術の腕を上げて何がしたいの、あんたは!」

 

やはりイズミはそこを聞いてくる。一夏はずっと心の中に秘めていたことを言う。

 

「家族を守りたい‼︎」

 

堂々と言い切る。

 

「………両親の許可は?」

 

イズミの態度から見て先程までのように明確に拒否するような態度ではないと一夏には分かった。

 

その質問に対しては一夏ではなく千冬が答える。

 

「私たちに親はいない。今は私がこの子の保護者となっています」

 

その返答にイズミはマズイことを聞いたと思って後悔の色を顔に出す。そのまま一夏の顔を見ると決意の色の瞳があった。

 

「───────どうにも弱いね」

 

イズミはため息をつく。

 

「1ヶ月!とりあえず1ヶ月だけ借り修行ってことでこの子を私に預けてくれますか。本当に錬金術の腕を磨くに値するか………この子の才能を見極めさせてください」

 

「もし才能無しと判断したら?」

 

「すぐに帰らせます」

 

「あの……それで仮修行に合格したら……」

 

「そのまま本格的に修行、だね」

 

イズミは完全に一夏を弟子として取るつもりらしい。だがその前に自分が教えるに値するか見極める、ということのようだ。

 

「千冬お姉ちゃん。俺、絶対に1ヶ月じゃ帰らないから」

 

「言うと思った。頑張ってこい」

 

千冬は必死にこらえているけど今すぐにでも泣き出しそうだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その後一夏は別による場所があると言ってイズミの生まれ故郷であるアメリカに連れてこられた。どうやらイズミは日系アメリカ人らしい。だがアメリカにいたのはほんのわずかで、すぐに小型の船で小さな島まで連れてこられた。

 

「えっと、あの、まさかとは思うんですけど………」

 

「そう、ここは無人島だからね。水あり、食料あり、だけど電気無し、井戸なし、雨を防ぐ家も無し、多分猛獣はいない」

 

そう言ってイズミは一夏に大型のサバイバルナイフを渡す。

 

「この島で1ヶ月、1人で生き延びなさい」

 

にっこりと笑って宣告してくる。この時ばかりはイズミの笑みは悪魔の笑みに一夏は見えた。

 

「あ、その間錬金術使うの禁止ね」

 

「な、なんだそりゃーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!」

 

「1ヶ月経ったら迎えに来るから」

 

そう言ってイズミは船に戻る。

 

「なっ……ちょっ‼︎」

 

「一は全 全は一」

 

イズミが振り向きざまにそう言う。

 

「1ヶ月で答えが見つからなかったらおねーちゃんのもとへ送り返すからね。じゃっ‼︎」

 

そう言ってイズミの乗る船はどんどん遠くに離れていく。その間一夏はボーゼンとして何もできなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

夜になり一夏は周りから大きめの葉をちぎってきて地面にひき、そこに寝転んでいた。

 

「………これってなんか役に立つの?」

 

イズミに出された『一は全 全は一』の答えをさがすことが試験を突破するための方法だが、それは無人島で考える問題なのか一夏には理解できなかった。

 

一夏は以前千冬から無人島で生きるためのサバイバル訓練を強制的にやらされたことがあるため1ヶ月間を生き延びることは容易であった。そのため一夏にとって今一番やるべきことは風雨を防ぐことができる家の捜索もしくは作製。この島の見取り図を作ること、その2つであった。

 

(ま、明日からでもやればいいさ。今日はもう寝よう………)

 

 

 

 

 

深夜、ふと物音がして一夏は目が覚めた。寝ぼけ眼で起き上がるとそこには月光をバックに筋骨隆々の不思議な仮面をかぶった男が立っていた。その男はおもむろに棍棒らしきものを振り上げると一夏に向けて叩きつけてきた。

 

「なっ、なんっ……」

 

一夏は後ろに飛ぶことでそれを避けた。だが男は追撃をしてくる。横に棍棒を振ったり、左手で地面を殴りつけてきたり。

 

全てをギリギリ避けた一夏だが背後には木があり、これ以上後ろには行けなくなった。

 

「ここ、俺の島。よそ者殺す!」

 

男はそう言って左手で先ほど地面を殴った時に掴んだ木の根を握りつぶした。

 

(なんか武器ないか⁉︎)

 

一夏は応戦するために手頃な得物をさがす。ナイフで抵抗してもいいがまだ一夏にはそんな勇気はない。一夏はすぐ近くにあった頑丈そうな木の棒を手に取ると構えた。

 

「来いよ、返り討ちィィィィィィィィィ⁉︎」

 

男はそんな木の棒関係ないと言わんばかりに棍棒を振り下ろし木の棒を粉砕する。

 

「おりゃぁぁぁぁぁぁぁぁ‼︎」

 

一夏は飛び上がって男の顎を蹴り抜く。男は少しだけふらつくもののすぐに立ち直る。だが一夏はその隙を逃さず全力で逃げ出す。

 

 

 

 

 

 

「猛獣いないって言ったくせにもっとヤバいのいるじゃないか」

 

時間はすでに夜明けになっていた。一夏はひたすら走り続け完全に男がどこにいるのかわからない状況だった。

 

そこで一夏は腹ごしらえをすることにした。かつて千冬から教わった簡単な罠でウサギを捕まえてそれを食べた。多少の躊躇いはあったものの弱肉強食だと自分に言い聞かせた。

 

 

 

 

 

その後風雨を凌げるであろう木の洞を見つけていた。そこに島で見つけた果実などを溜め込むことにした。その周りに侵入者を感知するようにトラップを仕掛け、男が近づかないようにした。

 

晩飯として魚を食べることにした一夏は手頃な木で釣竿を作った。魚は簡単にかかり、火を起こして焼いた。だが突如として男が現れる。

 

「また来たーーーー‼︎」

 

男は一夏を蹴ってくる。それを避けた一夏だが、男が足でたった今自分が食べようとしていた魚を掴んでいるのを見た。

 

「あ‼︎返せ‼︎」

 

一夏は男の腹に飛び膝蹴りを入れる。が、男は難なく受け止めて一夏を投げ飛ばす。男は一夏を片手で持ち上げ木に叩きつける。

 

「俺の島だ。出て行け‼︎」

 

「ここを出て行ったら修行がダメになっちゃう………‼︎」

 

男は腕に力を込め一夏を気絶させようとする。そのまま一夏は抵抗できずに気絶した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うげー、あの野郎………。あと28日‼︎絶対に諦めない‼︎」

 

 

 

一夏はその後の生活を男との格闘を繰り返したり、魚を効率よくとるために網を作ったり、食べられるキノコとダメなキノコの選別をしたりして過ごした。食料は常日頃から洞に溜め込んでいたので飢えることはなかった。

 

 

 

 

 

 

 

無人島生活開始から25日ほど経った時点で一夏は男とまともに闘りあえるほどに成長していた。

 

 

 

 

「目に見えない大きな流れ───それを「世界」と言うのか「宇宙」と言うのかわからないけど、俺だってアイツ(春十)だってその流れの中のほんの小さなひとつ。全の中の一。だけどその一が集まって全が存在する。この世は想像もつかない大きな法則に従って流れている。その流れを知り分解して再構築する………。それが錬金術」

 

一夏はその中で一種の悟りのようなものをひらいた。それが正解なのかどうかは一夏にはわからない。

 

 

 

 

 

 

 

 

「約束の日だ。『一は全 全は一』の答えを聞こう」

 

イズミが来た時と同じ船に乗ってやってきた。一夏はイズミの前で正座しながら堂々と言う。

 

「全は世界、一は俺!」

 

イズミはその答えを聞くと笑い出した。

 

「あはははははははははははははは、よろしい。本修行に移ろう」

 

「よっしゃぁぁぁぁ‼︎」

 

「船に乗りなさい。すぐに日本へ帰るよ」

 

船に乗り込んだ一夏だが背後から誰かが近づいてくることに気がついた。その人物は今まで散々一夏を襲ってきた男だった。男は一夏の後ろにどかっと座り込んだ。

 

「うわぁ‼︎なんでここに⁉︎」

 

「や、ごくろーさん」

 

慌てる一夏とは対照的にイズミは軽い口調で話しかけた。

 

「………………………は?」

 

「そいつ肉屋(うち)の従業員」

 

一夏の気の抜けた質問に対してイズミはサラッととんでもないことを言った。

 

「あっはっはー。1ヶ月もよく耐えたねー!俺メイスンってのよろしくねー。どう?いい演技してたでしょ俺」

 

メイスン仮面を取るとぼーっとしている一夏の手を取って振り回した。そのままベラベラと自分のことをしゃべったが一夏は聞いてなどいなかった。

 

「万が一死なれちゃ困るから見張りにね」

 

「だったらなんで攻撃させるんですかーっ‼︎」

 

「馬鹿たれ!人の一生は短いのに1ヶ月も無駄にできるか!精神を鍛えるにはまず肉体から!お得な1ヶ月だったでしょ!」

 

うなだれる一夏を尻目に言葉を続ける。

 

「これから正式な師匠としてびしびし教えるからね。覚悟しなさい」

 

そうして一夏は身だしなみを整えてイズミの店がある日本へと向かった。そこで一夏は何度も死線をさまようことになる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ただいま〜」

 

一夏は半年後、修行を終えて家に帰っていた。

 

「一夏ァァァァァァァァ‼︎あぁ一夏‼︎よく帰ってきてくれた‼︎元気だったか⁉︎怪我は⁉︎寂しくなかったか⁉︎お姉ちゃんは寂しかったぞぉぉぉぉぉぉぉぉ!」

 

一夏が家の中に入った途端に千冬が飛び出てきた。

 

「ち、千冬姉。落ち着いてくれ。怪我とかは一切ないから」

 

春十は先ほどからずっと部屋にこもっており出てくる気配は全くない。

 

「一夏ァァァァァァァァ‼︎どうした⁉︎お姉ちゃんと呼んでくれないのか⁉︎」

 

「そこはどうでもいいだろ」

 

「うぅん、なんか悲しいな。それで修行はどうだった?」

 

「修行………………ヒィッ‼︎」

 

千冬に修行のことを聞かれた途端に震えだす。

 

「何かあったのか?まぁいい。一夏、これから一週間、24時間体制で私のそばにいろ」

 

「うぇーい」

 

ここで歯向かうともっと面倒くさいことになることを知っている一夏は抵抗せずにその言葉に従う。

 

一夏はその日、半年前の日常に戻ることとなった。

 

 

 

 

 

 

side千冬

 

 

千冬は携帯電話を取り出し電話をかける。相手はワンコールで出た。

 

『もすもすひねもす〜。どうしたのちーちゃん、こんな時間に』

 

相手は篠ノ之束。現在はどこかへと姿を眩ませているが千冬は連絡先を知っていた。

 

「束、一夏がとてつもない拒絶反応を示した。おそらく修行で何か怖いことがあったのだろう。私は明日あの人たちの店に行く」

 

『ちーちゃん、私も行く。いっくんを怖がらせるなんて凡人のくせに生意気なことをする奴もいたもんだ』

 

そんな内容の会話をする2人であった。

 

 

翌日、イズミとシグの店に千冬と束が殴り込みに行った。一夏はこのことを知らない。

 

「イズミさん。あなたに決闘を申し込む‼︎一夏を怖い目に合わせた復讐だ‼︎」

 

千冬は一番に叫んだ。堂々と復讐だと言ったことはイズミにとって驚愕だった。

 

「あの、千冬さん。私は一夏に師匠として教えただけで復讐されるようなことは何も………」

 

「知るか‼︎一夏に修行のことを聞いたら震え始めたのが証拠だ‼︎」

 

そう言って千冬は木刀を持ってイズミに迫る。イズミはその突撃を円を描くようにして受け流し千冬を投げる。その一瞬の攻防に千冬は何もわからずに敗北した。

 

「………は?」

 

「それで、そっちの人はどうするんだい?」

 

そう言ってイズミは束をみる。

 

「す、すごいね。ちーちゃんをこうも簡単に倒しちゃうなんて………私は錬金術で勝負する‼︎」

 

「そうか。ならここは狭いから別のところに行こう」

 

そう言って未だに何があったか理解していない千冬を引きずってイズミと束は河原に行く。

 

「それじゃあ、行くよ‼︎」

 

そう言って束は錬成陣を書き地面を変化させイズミに角柱を複数飛ばす。その速度はかなりのものだった。

 

「ふーん、なかなかやるね」

 

そう言うがイズミは全く動じず、束の錬成したものの数倍の規模のものを作り出し迎え撃つ。

 

「え⁉︎ちょっ‼︎キャァァァァァァ‼︎」

 

束はなすすべもなく敗北する。

 

「さーて、あんたら2人にはお仕置きが必要みたいだねぇ」

 

鬼の顔でそう言うイズミ。その日千冬と束の悲鳴が町中に響き渡った。

 

 




束の錬金術の腕としてはアームストロング≧束ぐらいです。

次回はリンが出るかもです。凰鈴音ではなくリン・ヤオの方です。
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