祝・追放 11   作:高見南純平

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第452話

 第3校庭には、すでに多くのギャラリーが集まっていた。椅子はほとんど埋まり、外周には立ち見の列ができている。ざわめきの中に期待が混ざり、この展示が今日の学際の目玉であることは誰の目にも明らかだった。

 

 ステージ裏ではカライジがスタンバイしている。投影機や出力調整を手早く確認し、次の合図に備えていた。

 

 中央には大型モニター。そしてその前に立つのはサイフウ。学生服姿のまま、背筋を伸ばし、マイクを握っている。

 

 拍手が広がる。

 

 その中を歩いて登壇したのはゼマだった。異国の空気をまとい、観客の視線を一身に受ける。手にしたロッドは青白く発光し、内部で流れる魔力が脈動しているのが見て取れた。

 

 サイフウが口を開く。

 

「それでは、【冒険者の可変武器の開発と戦闘利用について】の研究発表を始めたいと思います」

 

 落ち着いた声。無駄のない導入。

 

「まず利用したのはスキル【可変型】。グレグリーライノを解体し、高水準で抽出しました」

 

 同時に、モニターに魔力パネルが展開される。青白いレイヤーが重なり、その上に複雑な設計図が浮かび上がった。

 

 次の瞬間、グレグリーライノの解体スキームへと切り替わる。部位ごとのライン、コア位置、フロー経路が細かく表示される。

 

 サイフウは続ける。

 

「抽出プロセスでは、MPフローの位相ズレを利用したリバースセクションを採用してます。通常の外殻分離じゃなくて、コア側からアクセスして、スキル構造をダイレクトにピックアップしてます。これでロスを最小限に抑えてます」

 

 観客の一部が反応する。理解している者ほど、その手法の異常さが分かる。

 

「抽出後は一度、コンパクト化のために一次コンプレッションをかけて、そのまま可変領域を維持した状態でロッド内部にインストールしてます。従来の固定回路だとレスポンスが遅れるので、今回はフレキシブルな疑似ニューロ回路を新規設計して対応してます」

 

 モニター上の図が変形し、ロッド内部の構造モデルへと移行する。何層にも重なった回路が流動し、形を変えながら一体化している。

 

「この構造によって、ユーザーのMP出力に応じてリアルタイムで形状変化が可能になります。いわゆるアダプティブウェポン化ですね」

 

 研究者たちが頷く。メモを取る手が止まらない。

 

 ララクは腕を組んだまま、その説明を聞いていた。

 

 頭の中で意味を拾おうとするが、単語が連続しすぎて繋がらない。

 

(略称と専門用語すぎて、教養が足りなすぎる……)

 

 久々に、自分の理解が追いつかない領域に立たされていると実感する。

 

 だが、ひとつだけ確かなことがある。

 

 ゼマの持つロッドは、ただの武器ではない。

 

 ゼマが静かにそれを構え直す。青白い光が強まり、内部のMPが応答するように揺れた。

 

 ステージの上で、理論と実戦が結びつこうとしていた。

 

「そして完成したのがこの改良型可変武器・クリティヴロッドです」

 

 サイフウの声が響くと同時に、ゼマがロッドを掲げた。観客の視線が一斉に集まる。元のクリスタルロッドの面影を残しながらも、全体に厚みが増し、芯に詰まったような重さを感じさせる造りへと変わっている。表面にはグレグリーライノの素材が組み込まれ、わずかに荒れた質感が光を鈍く反射していた。内部を巡る青白い魔力が脈打つたび、その存在はただの道具ではないと訴えかけてくる。

 

「んじゃ、【可変形】!」

 

 ゼマが魔力を流し込む。先端が震え、光が走り、構造が解けるように変形していく。一本だった軸が分かれ、3つに広がり、金属音とともに固定された。三つ又の鋭い形状。光を引きながら、先端が空気を切り裂く準備を整える。

 

「武器の先端を増やし、攻撃が当たり面を増やした形、トライデントモードです」

 

「曲芸しま~す」

 

 軽い声と同時に、ゼマがロッドを振る。円を描くように回転し、手から手へ滑り、背中の後ろを通り抜けて再び前へ戻る。三つ又の先端が光の軌跡を残し、風を裂く音が連続する。重量は増しているはずなのに、動きは軽い。踏み込みも浅く、体の軸はぶれない。見ている側の感覚と実際の質量が噛み合わず、ざわめきが生まれる。

 

「重量は元よりも増えてしまい、【可変形】による追加武装でさらに重みを感じますが、先端に絞っているのでこのように熟練の冒険者であれば、問題なく洗練した動きが再現可能です」

 

 動きが止まる。わずかな間を置いて、再び魔力が流れ込む。

 

「スパイクモード!」

 

 分岐していた先端が一気に収束する。3つの刃が中央へ集まり、そのまま膨張していく。質量が一点に凝縮され、巨大な塊へと変わる。表面から突起がいくつも生え、無骨なこん棒の形状が完成した瞬間、場の空気がわずかに沈む。

 

 ゼマは重心を落とし、構えを変える。次の動きは軽やかさではない。踏み込みと同時に振り抜く。空気が押し潰される音が響き、軌道は大きく、重い。振るたびに足元の土が沈み、衝撃が地面を伝ってくる。そして大きく振りかぶり、全身の力を乗せて叩きつけた。

 

 鈍い衝撃音が響く。土が跳ね、細かな粒が舞い上がる。遅れて、足元から観客席へとわずかな振動が届いた。ロッドは地面にめり込むように静止し、その重さだけが場に残る。

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