「このように状況によって、攻防バランスを変化させることが最大の利点です。ですが……このデモンストレーションだけだと、持ち味が最大に伝わらないと感じたので、無理を言って特別な協力者を要請しました」
サイフウの言葉が落ちた瞬間、会場がざわめいた。期待が一気に膨らみ、視線がステージ袖へ集まる。ララクも流れに合わせてそちらを見る。
(特別ゲスト? ……って、え?)
静かな足音とともに現れた人物を見て、ララクの目が止まる。
「プロフェッサー?」
眼鏡をかけた知的な男性、プロフェッサーモドム。クエストで関わった研究者が、何事もないようにステージへ上がってくる。観客席から拍手が広がり、彼は軽く手を上げて応じた。その仕草には余裕があり、この場に立つこと自体が自然であるかのようだった。
「皆様ご存じの通り戦闘ユニットの第一人者プロフェッサーモドムに来ていただきました」
紹介と同時に、モニターが切り替わる。青白い魔力パネルが展開し、情報が整理された形で浮かび上がった。
【PROFILE:PROFESSOR MODOM】
【EDUCATION】
インテグラル学院 魔導工学コース 首席卒業
卒業研究「魔力圧縮媒体におけるエネルギー損失最小化理論」
【AFFILIATION】
トレンドタワー研究所 第2開発セクション
戦闘ユニット設計主任
【CORE WORKS】
・多脚支援ユニット「グラヴィスフレーム」開発
・対大型拘束機構「バインドセル」設計
・魔力循環補助機構「エコーライン」試作
【AWARDS】
王都工学連盟 技術功績賞
戦術装備開発コンペティション 最優秀賞
実験ユニット部門 特別評価賞
【NOTE】
現場適応型チューニングおよび即時設計能力に優れる
複数の未公開プロトタイプを保有
文字情報に加え、横には設計図の断片が浮かぶ。関節を持つ多脚ユニットのフレーム、展開する拘束機構、流動する魔力回路。そのどれもが洗練され、無駄がない。
ララクはその画面と本人を交互に見る。呼ばれているとは聞いていたが、こうして目の前に立たれると印象が違う。研究者としての重みが、そのまま空気に出ている。
ステージ中央に立つプロフェッサーモドム。隣にはロッドを構えたゼマ、少し下がった位置にサイフウ。観客の視線が一点に集まり、次の展開を待っている。空気が張り詰めていくのが分かった。
「学園祭なんだから、学徒とコラボしてみるのも一興、二興と思いましてね。私の研究発表にも、対戦相手がいたほうが歓声があがるというもの。それではお披露目しましょう、最新型限定的自立二足歩行戦闘ユニット・ガルアークです」
プロフェッサーモドムの声が落ちた瞬間、ステージ脇の装置が作動する。圧縮された魔力が解放され、白い煙が噴き出した。視界が一時的に遮られ、ざわめきが広がる。
次の瞬間、その奥から影が現れる。
一歩。
もう一歩。
煙を割るようにして姿を見せたのは、人型のユニットだった。自らの足で地面を踏みしめ、ゆっくりと前へ出る。その動きは機械的でありながら、どこか生き物のような重心移動を伴っていた。
会場の空気が変わる。
周囲には可動補助魔力が満ちている。淡い粒子がユニットの関節付近に集まり、見えない力が動作を補助しているのが分かる。空中から糸で引かれているような、滑らかで無駄のない挙動。それでいて、足音は確かに地面へ重さを伝えていた。
(あれが最終調整のアーク)
ララクは目を離せなかった。
かつて対峙した時の姿が脳裏に浮かぶ。外装のない銀色の素体。剥き出しのフレームと関節がむき出しになり、無骨で荒削りな存在だった。それはそれで力強さがあり、純粋な戦闘機構としての迫力があった。
だが、今は違う。
全身が青緑のアーマーで覆われている。装甲は流線的に整えられ、各部の接合部も滑らかに処理されている。関節の可動域を確保しながら、無駄な隙間がない。光を受けて表面が静かに反射し、内部構造の強化と外観の洗練が同時に成立していた。
遠目には、人が戦闘用スーツを着込んでいるかのように見える。胸部、肩、脚部にかけてのラインは人体に近く、頭部ユニットも視覚センサーを内蔵したフェイスのような形状をしている。完全な機械でありながら、人の輪郭をなぞっていた。
観客席から声が上がる。
「え、動いてる……自立で?」
「二足であそこまで安定するのかよ」
「限定的ってレベルじゃないだろ、あれ……」
研究者たちの間からも低い唸りが漏れる。
「関節制御どうなってる……?」
「補助魔力込みでも、このバランスはおかしい」
「フレーム強度と応答速度が噛み合ってる……完成度が高すぎる」
学生たちも息を呑んで見つめている。目の前で起きていることが、まだ現実として飲み込めていない様子だった。
人の形で、自立して動く戦闘ユニット。
限定的とはいえ、それは未だ実現されていない領域のはずだった。
ガルアークはステージ中央で静止する。わずかに姿勢を調整し、重心を安定させる。その動き一つで、内部の制御精度の高さが伝わってくる。
場の視線がすべてそこに集まる。
次に何が起きるのか、誰もが理解していながら、言葉にはしなかった。空気が張り詰めたまま、静かに震えていた。