祝・追放 11   作:高見南純平

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第453話

「このように状況によって、攻防バランスを変化させることが最大の利点です。ですが……このデモンストレーションだけだと、持ち味が最大に伝わらないと感じたので、無理を言って特別な協力者を要請しました」

 

 サイフウの言葉が落ちた瞬間、会場がざわめいた。期待が一気に膨らみ、視線がステージ袖へ集まる。ララクも流れに合わせてそちらを見る。

 

(特別ゲスト? ……って、え?)

 

 静かな足音とともに現れた人物を見て、ララクの目が止まる。

 

「プロフェッサー?」

 

 眼鏡をかけた知的な男性、プロフェッサーモドム。クエストで関わった研究者が、何事もないようにステージへ上がってくる。観客席から拍手が広がり、彼は軽く手を上げて応じた。その仕草には余裕があり、この場に立つこと自体が自然であるかのようだった。

 

「皆様ご存じの通り戦闘ユニットの第一人者プロフェッサーモドムに来ていただきました」

 

 紹介と同時に、モニターが切り替わる。青白い魔力パネルが展開し、情報が整理された形で浮かび上がった。

 

【PROFILE:PROFESSOR MODOM】

 

【EDUCATION】

 インテグラル学院 魔導工学コース 首席卒業

 卒業研究「魔力圧縮媒体におけるエネルギー損失最小化理論」

 

【AFFILIATION】

 トレンドタワー研究所 第2開発セクション

 戦闘ユニット設計主任

 

【CORE WORKS】

 ・多脚支援ユニット「グラヴィスフレーム」開発

 ・対大型拘束機構「バインドセル」設計

 ・魔力循環補助機構「エコーライン」試作

 

【AWARDS】

 王都工学連盟 技術功績賞

 戦術装備開発コンペティション 最優秀賞

 実験ユニット部門 特別評価賞

 

【NOTE】

 現場適応型チューニングおよび即時設計能力に優れる

 複数の未公開プロトタイプを保有

 

 文字情報に加え、横には設計図の断片が浮かぶ。関節を持つ多脚ユニットのフレーム、展開する拘束機構、流動する魔力回路。そのどれもが洗練され、無駄がない。

 

 ララクはその画面と本人を交互に見る。呼ばれているとは聞いていたが、こうして目の前に立たれると印象が違う。研究者としての重みが、そのまま空気に出ている。

 

 ステージ中央に立つプロフェッサーモドム。隣にはロッドを構えたゼマ、少し下がった位置にサイフウ。観客の視線が一点に集まり、次の展開を待っている。空気が張り詰めていくのが分かった。

 

「学園祭なんだから、学徒とコラボしてみるのも一興、二興と思いましてね。私の研究発表にも、対戦相手がいたほうが歓声があがるというもの。それではお披露目しましょう、最新型限定的自立二足歩行戦闘ユニット・ガルアークです」

 

 プロフェッサーモドムの声が落ちた瞬間、ステージ脇の装置が作動する。圧縮された魔力が解放され、白い煙が噴き出した。視界が一時的に遮られ、ざわめきが広がる。

 

 次の瞬間、その奥から影が現れる。

 

 一歩。

 

 もう一歩。

 

 煙を割るようにして姿を見せたのは、人型のユニットだった。自らの足で地面を踏みしめ、ゆっくりと前へ出る。その動きは機械的でありながら、どこか生き物のような重心移動を伴っていた。

 

 会場の空気が変わる。

 

 周囲には可動補助魔力が満ちている。淡い粒子がユニットの関節付近に集まり、見えない力が動作を補助しているのが分かる。空中から糸で引かれているような、滑らかで無駄のない挙動。それでいて、足音は確かに地面へ重さを伝えていた。

 

(あれが最終調整のアーク)

 

 ララクは目を離せなかった。

 

 かつて対峙した時の姿が脳裏に浮かぶ。外装のない銀色の素体。剥き出しのフレームと関節がむき出しになり、無骨で荒削りな存在だった。それはそれで力強さがあり、純粋な戦闘機構としての迫力があった。

 

 だが、今は違う。

 

 全身が青緑のアーマーで覆われている。装甲は流線的に整えられ、各部の接合部も滑らかに処理されている。関節の可動域を確保しながら、無駄な隙間がない。光を受けて表面が静かに反射し、内部構造の強化と外観の洗練が同時に成立していた。

 

 遠目には、人が戦闘用スーツを着込んでいるかのように見える。胸部、肩、脚部にかけてのラインは人体に近く、頭部ユニットも視覚センサーを内蔵したフェイスのような形状をしている。完全な機械でありながら、人の輪郭をなぞっていた。

 

 観客席から声が上がる。

 

「え、動いてる……自立で?」

 

「二足であそこまで安定するのかよ」

 

「限定的ってレベルじゃないだろ、あれ……」

 

 研究者たちの間からも低い唸りが漏れる。

 

「関節制御どうなってる……?」

 

「補助魔力込みでも、このバランスはおかしい」

 

「フレーム強度と応答速度が噛み合ってる……完成度が高すぎる」

 

 学生たちも息を呑んで見つめている。目の前で起きていることが、まだ現実として飲み込めていない様子だった。

 

 人の形で、自立して動く戦闘ユニット。

 

 限定的とはいえ、それは未だ実現されていない領域のはずだった。

 

 ガルアークはステージ中央で静止する。わずかに姿勢を調整し、重心を安定させる。その動き一つで、内部の制御精度の高さが伝わってくる。

 

 場の視線がすべてそこに集まる。

 

 次に何が起きるのか、誰もが理解していながら、言葉にはしなかった。空気が張り詰めたまま、静かに震えていた。

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