祝・追放 11   作:高見南純平

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第454話

「これから、10分間の模擬戦闘を行いたいと思います。クリティブロッドを装備した冒険者ゼマ・ウィンビー対ガルアーク。その戦闘能力を誇示したいと思います」

 

 プロフェッサーモドムの宣言と同時に、会場が一気に沸き上がる。歓声が重なり、視線はステージ中央へ集まりきった。発表という枠はすでに外れ、純粋な戦いへの期待だけが場を満たしている。

 ララクはその熱気の中で、ひとりだけ冷静に状況を見ていた。

 

(ゼマさん……模擬とはいえ、性格的に全力本気だよな。アークに、しかも最新式の……勝算はあるよな?)

 

 ゼマの実力も、サイフウの研究も疑ってはいない。だがガルアークに対しては別だ。かつて相手にした素体ですら、自分と互角に渡り合ってきた。今、目の前に立つのはそこからさらに完成度を上げた機体。単純な性能差で押し切られる可能性も十分にある。

 

 ステージ中央で、両者が向き合う。

 

 ゼマはクリティブロッドを軽く回し、手に馴染ませる。対するガルアークは静止したまま、内部で調整を続けている。足裏が地面を正確に捉え、重心がわずかに前へ移る。膝、股関節、肩の各軸に沿って魔力が流れ、可動補助が滑らかに働いている。青緑のアーマーは光を抑え、無駄な反射をしない。関節の継ぎ目はほとんど目立たず、動作の隙を極限まで削っている。頭部のセンサーが淡く点灯し、ゼマを捉え続けていた。

 

 ステージ端でカライジが操作を終えると、ゴングの音が響く。

 

「ゼマ先生、冒険者の可能性を示してくれ」

 

「新武器実装してくれたんだ。惨敗なんて、恥っこい事はしないよ」

 

 短いやり取りのあと、ゼマが一歩踏み込む。それに呼応するように、ガルアークも前へ出る。足が地面を押し、関節が連動し、滑らかに距離が詰まる。観客のざわめきが自然と引き、視線が二人の間に固定された。次の動きが、そのまま戦闘の流れを決める位置に来ていた。

 

 先に動いたのはガルアークだった。踏み込みと同時に地面が深く沈み、圧縮された力が一気に解放される。次の瞬間には距離が消えていた。一直線の加速、無駄のない重心移動。青緑の装甲が空気を切り裂き、衝撃波のような風圧を伴って拳がゼマの胸元へ正確に伸びる。その軌道は迷いがなく、初撃から仕留めに来ていた。

 

「トライデントに巻き戻し!」

 

 ゼマが叫び、クリティブロッドへ魔力を叩き込む。内部構造が一瞬で再構築され、先端が弾けるように三つ又へ分岐する。そのまま滑り込ませるように前へ差し込み、自身と拳の間に割り込ませた。直撃寸前の拳が三叉の一本に接触し、力の流れが変わる。衝突の衝撃が腕を震わせるが、ゼマは手首を返し、軌道を横へ逃がす。拳はわずかに逸れ、頬をかすめる風だけが残った。

 

「おいおいおい、いきなり重い攻撃してくんなよなぁ。心が折れるだろうがぁ!」

 

 返す間もなく、次の拳が迫る。ガルアークは踏み込みを止めない。地面を押す力が連続し、距離を潰しながら左右の打撃を途切れさせずに叩き込む。拳が空気を裂くたびに低い唸りが生まれ、観客席にまで圧が届く。

 

「近接戦闘モード継続。ターゲット反応速度、高水準。圧力維持を優先」

 

 低く機械的な音声。関節が滑らかに連動し、補助魔力が各軸に沿って瞬時に出力を調整する。踏み込み、回収、次の動作への移行が一切途切れない。人の動きに似せているはずなのに、精度と再現性が異常な域に達していた。

 

「速いけど……、単純なラッシュだ」

 

 ゼマは笑いながらロッドを回す。三つ又の先端が高速で軌道を描き、拳の進路に触れる瞬間だけ角度を変える。受け止めない。流す。逸らす。衝撃を面ではなく線で逃がし、体へ届く力を削る。足は止まらず、横へ、後ろへ、弧を描くように位置を変え続ける。地面を踏むたびに土がわずかに舞い、足跡が連続して刻まれていく。

 

 ガルアークがさらに踏み込む。肩が入り、至近距離から短い打撃が放たれる。わずかな予備動作から放たれる拳は、距離の近さゆえに回避の余地を削る。

 

「距離ゼロ、打撃優先。衝撃伝達効率、最大化」

 

「喋ってくれるのはありがたいけど、意味がよく分からん!」

 

 ゼマはロッドを縦に差し込む。三叉の中央で衝撃を受け、腕に重みが乗る。だがそのまま沈まない。体をひねり、軸をずらし、受けた力を流しながら前へ押し出す。次の瞬間には突きへ転じていた。三つ又の先端が一直線に伸び、鋭く空間を切り裂く。

 

「ほら、反撃の【刺突】!」

 

 ガルアークは最小限の動きで上体をずらす。ほんのわずかな角度変更。それだけで突きは空を切る。回避と同時に脚部の出力が上がり、再加速。間髪入れずに次の拳が迫る。動作に無駄がない。すべてが最短で繋がっている。

 

(アークは近接メインだ……武器の質はあのロッドだって最上品。あとはゼマさんの反射神経が通用すれば……)

 

 ララクの指先がわずかに動く。補助魔法の発動が頭をよぎる。だが止める。目の前の攻防は、外から手を入れるべき領域ではない。

 

「回避パターン解析中。対応アルゴリズム更新」

 

「私に慣れてきたって? あいにく、この武器は無限の可能性だから」

 

 攻撃の密度がさらに上がる。拳が連なり、空気が裂け、連続した衝撃が重なる。それでもゼマは崩れない。三つ又の先端で軌道を削り続け、わずかなズレを積み重ね、致命の一撃だけを確実に外し続ける。距離はほとんどゼロに近い。互いの呼吸が触れそうなほど詰まっている。

 

 その均衡が、次の瞬間に崩れた。

 

 ゼマの足がわずかに下がる。同時にロッドへ流し込まれる魔力の質が変わる。内部構造が即座に応答し、長さが滑るように伸びた。

 

「ここだっ!」

 

 足元を狙う一閃。伸びたロッドが地面すれすれを走り、ガルアークの支点となる脚部を払う。補助魔力で安定していた重心が、下から崩される。接地していた足が浮き、わずかにバランスが崩れた。

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