足を払われた瞬間、ガルアークの重心が浮く。支点を失い、わずかに宙へと持ち上がる。その姿を見たゼマの目が細まった。
(グレグリーライノとの戦闘でも感じてたけど……二足歩行って、結構弱点じゃない?)
迷いなくロッドを引き戻し、そのまま円を描くように振り回す。遠心力が一気に乗り、先端に光熱が集まっていく。空気が焼ける匂いとともに、淡い光が軌跡を引く。
「【ホーリーインパクト】スパイクチューン!」
同時に【可変形】が発動する。三つ又だった先端が収束し、膨張し、突起を生やした棍棒型へと変形する。圧縮された質量と熱が一体となり、上から下へ一直線に振り下ろされる。回避の余地を与えないタイミングだった。
「悪いなゼマくん。少々小細工だが、試作段階ゆえの産物と許して欲しい」
プロフェッサーモドムがわずかに視線を動かす。その瞬間、ガルアークの全身に走る補助魔力が一気に強まり、空中にあった機体が不自然に横へ滑った。左へ、引き寄せられるように位置だけがずれる。踏み込みも予備動作もない、強制的な移動。
「!? (ノーモーションで避けられた!?)」
振り下ろされた一撃は空を切り、棍棒が地面を叩きつける。鈍い衝撃音とともに土が弾け、わずかな振動が足元から広がった。
(動作補助の魔力の影響か。人の動きを無視した強制的な行動が可能、か)
サイフウは即座に結論へ辿り着く。補助の域を超えた介入。それでも成立している以上、これは戦闘技術だ。
ガルアークは着地と同時に体勢を整える。脚部が地面を捉え、間髪入れずに前へ出る。
「回避成功。反撃フェーズ移行」
踏み込みと同時に拳が放たれる。重い一撃がゼマの側面を狙い、空気ごと押し込んでくる。ゼマはロッドで受けるが、衝撃を完全には流しきれない。腕に重さが乗り、体がわずかに押し返される。
間を置かず、二発目。角度を変え、下から打ち上げるような打撃が重なる。受け流しの軌道が乱れ、足元が揺れる。
ガルアークは距離を詰め続ける。逃がさないように圧をかけ、打撃を連ねる。一発ごとに負荷が蓄積し、ゼマの防御が徐々に押し込まれていく。流れは確実に、ガルアーク側へ傾き始めていた。
「【オートヒーリング】!」
ゼマの全身に淡い光が走る。血に濡れた肌へ魔力が染み込み、裂けた箇所がじわりと閉じていく。鈍く残っていた痛みが押し戻され、呼吸が強引に整えられる。だが回復は追いつかない。癒えた端から叩き込まれる衝撃が、体の奥へ蓄積していく。
「攻撃継続。耐久値減少を確認。圧力維持」
ガルアークの踏み込みが続く。地面を押す力が連なり、距離を詰めたまま重い拳が叩き込まれる。肩へ入った一撃でゼマの体が流れる。骨に響く衝撃。それでも倒れない。
ロッドを差し込み、角度を変え、体ごと衝撃を逃がす。受けきれない分は、そのまま食らうしかない。血が腕を伝い、地面に落ちる。それでも足を止めず、次の一撃に備える。
観客席から音が消えていた。誰もが息を呑み、目の前の光景に見入っている。ララクは拳を握りしめた。
(さすがゼマさん……回復と気合と根性で乗り切ろうとしている……! だけどこれじゃあロッドの性能が……)
横を見る。サイフウはマイクを手に、まっすぐ戦闘を見据えている。押されている現状も含めて、すべてを見届ける視線だった。ガルアークの打撃はさらに重なり、ロッドでの防御が追いつかない瞬間が増えていく。ゼマの体が小さく弾かれ、足元が揺れる。それでも崩れない。
「クリティブロッド、強度と対応力共に優れた品に仕上がったと自負していました。しかし冒険者は、自分よりも格上の相手と戦う事もあります。自然界と常にレベルが均衡しているとは限りません。だからこそ、使い手の信念が必要なのだと感じました」
静かな声が場に広がる。その最中、ゼマの動きが変わる。
「近寄んなぁ!」
ロッドを大きく振り回す。遠心力を乗せた一撃が空気を唸らせ、ガルアークの前進を一瞬止める。その隙に後方へ大きく跳び、距離を強引に切る。全身が光に包まれ、回復の魔力が傷を繋ぎ止める。荒い呼吸のまま、それでも視線は揺れない。
「モンスターへの恐怖、痛みを負う事への覚悟。冒険者は常に死線。強き信念をもった者が扱う事で、優れた武器は真価を発揮すると考えます」
サイフウの声が続く中、ゼマは地面を強く蹴った。土が弾け、一直線に加速する。傷を抱えたまま、迷いなくガルアークへ向かって走り出した。