祝・追放 11   作:高見南純平

2 / 47
第442話 

 グレグリーライノの側面、その中腹より奥。外層の解体がまだ続く中で、そこだけは別の流れで進んでいた。

 

 切り開かれた跡はあるが荒れていない。肉と皮膚の層は無理に断ち切られた形ではなく、順序よく分けられ、奥へと細い道が通っている。削り出すようなその経路は、解体というより採掘に近い精度を持っていた。

 

 先頭にいるのはレッツタ。手にした磁力制御器具をわずかに傾け、内部の反応だけを拾い上げている。刃は使わない。磁場によって硬質成分を浮かせ、肉の層から分離させていく。

 

「角はもう外にあるしな……あれも候補ではあったけど」

 

 ぽつりと呟きながら、校庭の端に転がされた角の位置を一瞬だけ意識する。

 

「でも今回は違う。あの時の動き、全身で変形してた。角だけで完結してる感じじゃなかった」

 

 磁場の出力をわずかに上げる。奥の反応が変わる。

 

「だったら分散か、中にまとめてるか……どっちかだけど、外に残す意味は薄いな」

 

 レッツタはそのまま一歩踏み込む。肉の層が静かにずれ、内部への空間が広がる。

 

 そのすぐ横で、カライジがピッケルを構えたまま動く。露出した硬質部分を軽く叩き、余計な突起を削る。力任せではなく、レッツタの進行に合わせて形を整えるような動きだった。

 

「このあたり、硬質成分が偏ってる。防御じゃなくて、包む配置……中に何かあるときの形だな」

 

 磁場を絞り、反応の強い部分だけを浮かせる。その隙間に器具を滑り込ませ、さらに奥へ。

 

 カライジはその動きに合わせ、ピッケルで支点となる部分だけを的確に崩す。崩しすぎれば全体が歪む。だが削らなければ進めない。その境界を見極めながら、余計な負荷を逃がしていく。

 

「流れも揃ってる。全部、中心に向かってるな。隠してるつもりでも、こういうのは消せない」

 

 レッツタの視線は一点に固定されたまま、思考だけが先へ進んでいく。

 

「この密度、この集まり方……たぶんこの下だな」

 

 磁場をさらに集中させる。肉の奥で、わずかに異質な反応が現れる。

 

 今までの硬質組織とは違う、安定した存在。周囲の影響を受けず、そこだけが固定されている。

 

 レッツタの手がわずかに止まる。

 

「……あ、これだ」

 

 その一点を中心に、周囲の層を慎重に分離していく。磁場の出力を落とし、余計な干渉を避ける。

 

 カライジも動きを合わせる。ピッケルで周囲の支点だけを削り、圧が一点にかからないように逃がしていく。

 

 静かに、確実に空間が開いていく。

 

 そして、その奥。

 

 肉の層に守られるようにして、それは存在していた。

 

 淡く光を放つ紋様。周囲とは明らかに異なる質感で、そこだけが静かに輝いている。

 

 グレグリーライノの内部、その奥。削り出された通路の先で、空気の質が変わる。圧は均一に整い、外側のざわめきが遠のく。中心に近い領域特有の静けさが広がっていた。

 

 レッツタは手を止め、器具を持ち替える。

 

「ここからは磁力だと雑になるな……紋章に触れたら終わりだし」

 

 取り出したのは試作品。名を「マナライン・トレーサー」。魔力そのものを探知し、反発と吸着で干渉する装置だ。起動と同時に、淡い波が周囲へ広がる。

 

 次の瞬間、見え方が変わる。

 

「……やっぱりある」

 

 肉の奥に、無数の線が浮かび上がる。血管のように分岐し、絡み合いながら流れている。物質ではなく、魔力の通り道。そのすべてが一定の方向へ収束している。

 

「供給ラインだな……全部、中心に向かってる」

 

 レッツタはその流れを追いながら、出力を細かく調整する。魔力に触れないよう、反発で空間だけを押し広げる。

 

 その横でカライジが動く。ピッケルを握り、流れを避けるように硬質層を削る。直線ではなく、わずかに反る軌道。魔力の線を傷つけないように、道を整えていく。

 

「この密度……隠してるつもりでも、偏りは消せない」

 

 流れは徐々に太くなり、重なり、一つの束へと変わっていく。

 

「この先だな」

 

 試作品の反発を一点に集中させる。最後の層が、触れられることなく静かに押し開かれる。

 

 わずかに生まれた隙間。その奥に、異質な静けさがある。

 

「……あった」

 

 淡く光る紋章。複雑な線が絡み合い、内部で魔力を循環させている。そこへ、今もなお流れが集まり続けているのが見える。

 

 レッツタは距離を保ったまま操作を続ける。

 

「触らずに囲って、そのまま引く……これなら壊れない」

 

 反発と吸着が働き、紋章の周囲だけがゆっくりと浮かび上がる。

 

 カライジは即座に周囲を削り、流れを避けながら空間を広げる。ピッケルの一撃ごとに、余計な圧が逃がされていく。

 

 破壊ではなく、抽出。

 

 その工程の中で、紋章は完全に姿を現す。

 

 グレグリーライノの中心。その核が、確かな光を放っていた。

 

 紋章を中心に据えたまま、レッツタは「マナライン・トレーサー」の出力を維持する。反発と吸着で包み込むように固定し、周囲の構造ごとゆっくりと切り離していく。

 

 カライジのピッケルが最後の支点を崩すと、重みが抜ける感覚が走った。

 

「……いけたな」

 

 引き出されたそれは、想定よりもはるかに大きい。紋章単体ではなく、魔力の流れごと保持された塊。内側で淡い光が脈打ち、確かな機能を保っているのが分かる。

 

 レッツタはしばらく無言でそれを見ていた。

 

 苦労して辿り着いた中心。その結果が、今、手の届く位置にある。

 

 カライジも静かに息を吐く。

 

 達成感だけが、そこに満ちていた。

 

 〇空き

 

 第6校庭の端、簡易的に並べられた机と椅子。その一角を占拠するように、ゼマとララクは腰を下ろしていた。手元には学食の皿がいくつも並び、完全に観覧席の空気になっている。

 

「やっぱり来て正解だったな。ほら見ろ、あれ」

 

 ゼマがロッドを軽く揺らしながら、視線を奥へ向ける。

 

「紋章、あのサイズで回収できるなら……強化、ほぼ確定だろ。しかも質もいい。流れ保ったままだし」

 

 声には抑えきれない高揚が混ざっている。

 

 ララクはパンを手にしたまま、校庭を見つめていた。

 

「すごいよな……完全に授業の域、超えてる」

 

 ぽつりと漏らしながら、自分は動いていないことに気づき、少しだけ視線を逸らす。

 

「なんかさ、見てるだけってのも……落ち着かないな」

 

 指先がわずかに動く。けれど、すぐに止まる。

 

 その先で、生徒たちが声を上げている。成功を分かち合い、次の作業に移る。その表情はどれも明るい。

 

 ララクはそれを眺め、ふっと息を吐いた。

 

「……でも、いいな。ああいうの」

 

 ゼマは口元を緩める。

 

「だろ。ちゃんと繋がってるって感じするよな」

 

 賑わう校庭を前に、2人はそのまま静かに食事を続けていた。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。