「パチパチパチ。すんごい、躍・進・劇」
研究区画の端で大仰な拍手を鳴らしながら、アカラヘアが感心したように口を開けていた。驚愕と達成感が半分ずつ混ざったような表情だったのだと思う。彼女は最初期段階から私の開発へ深く関わっている。骨組みだけで固定されていた時代も、人工筋繊維を埋め込まれた直後の不安定な稼働試験も、姿勢制御が成立せず床へ転がり続けていた期間も知っていた。
だからこそ、今こうして試験区画を高速滑走し、射撃まで成立させている光景には、単なる技術進歩以上の重みがあったのだろう。
電子柱の隙間を抜けた私は、減速制御に合わせて〈グライドチェア・MkⅡ〉の駆動輪出力を段階的に落としていく。床を削るみたいに滑っていた車輪は研究区画中央で静止し、側面排熱孔から白い熱気が細く漏れた。内部で循環している導電結晶の余熱だけが、まだ淡く脈打っている。
「中型ユニットは初めて作成と改良をしたけれど、かなりの好成績。……この競技が正式に存在しないのが残念、ですが」
クエディーカはコントローラーを握ったまま、複数のモニターへ視線を走らせていた。丸眼鏡のレンズには高速更新される数値群が映り込み、旋回負荷、姿勢補正率、入力遅延、照準誤差が絶え間なく切り替わっていく。
車いす射撃レース。
もし搭乗者が普通の人間なら成立しない試験だった。両手が武器で埋まれば、車輪操作が不可能になる。だがこれは外部出力型の遠隔制御だからこそ実現できる。私自身の姿勢制御、駆動輪の挙動、射撃照準、それらを同時並行で処理し続けなければ成り立たない。しかも高速移動中にだ。
研究というより、神経接続型の競技に近かった。
「クエくんは、ユニットレースとかにも出てるんだよね。ビルドもオペレーションも得意なんて、ゆうちゅうゆうちゅう」
アカラヘアは楽しそうに笑いながら近寄ると、そのまま手の甲でクエディーカの丸刈り頭部を撫で始める。短く刈られた髪は少しざらついていて、その独特な感触が妙に気に入っているらしい。クエディーカは露骨には嫌がらず、ただ少しだけ視線を細めた。
「発展途上ですよ、僕なんか。プロフェッサー・リード、やはりこの人体ユニットは精巧で芸術的な完成度です」
研究机の向こう側では、リードが疲労の滲む顔でデータ群を追っていた。以前みたいに興奮を爆発させるというより、積み上げてきた仮説が数値として定着し始めている現実を、静かに噛み締めているような空気だった。
「はぁ、君もプロフェッサー呼びのままか。……確かに段階1の時に比べれば、今は数値で言うと10以上の段階まで到達してると思う」
そう漏らしながら、リードは私の関節可動ログを拡大表示する。歩行そのものはまだ未完成だ。だが旋回補助、姿勢維持、外部制御による戦闘行動、それぞれの精度は以前とは比較にならないほど向上していた。
「労働して、この子雇用したかいがあったね~」
「私にとっても、これほど実戦に近い方式で結果を出せたのは至極の幸いだよ。けれど……このままだと跳躍はできないし、細かい移動には向かないね」
リードの目線が研究区画の電子柱群をなぞる。高速滑走は可能。射撃も成立している。だが階段、瓦礫、不整地、急停止からの方向転換。人間が無意識で処理している動作群は、まだ私の内部では再現しきれていなかった。
「歩行を目指しますか。人体へ限りなく酷似させていく」
クエディーカの視線は私自身というより、内部構造へ向いていた。人工筋繊維の配置、重心制御、関節可動域。彼はもう機械を外見ではなく構造体として認識していたのだと思う。
「君と私の脳力と知識を合致させれば、きっと未来は光り輝く」
「……む。うちも眩いでしょ」
アカラヘアが頬を膨らませながら横槍を入れる。
そこで初めて、リードの口元が少しだけ緩んだ。
「当然だ。君は影の支えを通り越した、太陽光そのものだよ」