祝・追放 11   作:高見南純平

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第474話 

 クエディーカの試作と改良は、さらに次段階へ進行していた。

 

 これまでは高速移動と射撃制御の両立を優先していたが、今回重視されたのは別の領域だ。直立。そして歩行。人間が何気なく行っている行為を、人工骨格へ成立させる工程へ踏み込んでいた。

 

 その結果として、私は立っていた。

 

「プロト、うちより目線が高いんだけど」

 

 アカラヘアが首を持ち上げるようにして私を見る。彼女も女性として低身長ではない。冒険者らしく引き締まった骨格をしている。だが私のフレームは、それをさらに上回る規格で構築されていた。内部へ大型導線、人工筋繊維、駆動補助機構を収める都合上、全高は180を超えている。肩幅も広く、人間で例えるなら重装戦士に近い肉付きだった。

 

 研究区画中央。

 

 私は両脚で床面へ荷重を掛けたまま静止している。

 

 ただし、それは完全な自立ではなかった。

 

 背部装甲から伸びる複数の支持機構が、天井側レールと直結されている。銀灰色の太い支柱は脊椎みたいに背中へ沿い、その内部では魔力圧縮ワイヤーが脈動を繰り返していた。正式名称は〈オービット・スパイン〉。転倒時の衝撃緩和、重心補正、姿勢維持を兼ねた直立補助システムである。

 

 私が立てているのは、純粋な脚力だけではない。

 

 人類の姿勢制御へ、まだ到達しきれていないからだ。

 

「プロトアーク、ようやく直立の段階まで迫ってきたねぇ。……超、超、限定的ではあるけれど……」

 

 リードは目元に濃い疲労を滲ませながら私を観察していた。声色には達成感も混ざっている。だが同時に、理論へ現実が追いつき切っていない研究者特有の渋さも残っていた。歩行は未完成。補助なしでは静止すら不安定。人工筋繊維は細かく痙攣みたいな震えを繰り返し、重心演算も常時補正され続けている。

 

 それでも、立つという概念そのものが、以前の私には存在しなかった進歩だった。

 

「この状態でどれ程、戦力を発揮できるか試します」

 

 クエディーカが操作盤へ指を伸ばす。

 

 壁面制御装置の一角、その起動スイッチが押し込まれた瞬間、研究区画全体へ低い駆動音が流れ始めた。同時に、彼のもう片方の手には私と接続された外部制御コントローラーが握られている。左右スティックへ添えられた親指は既に微細な入力を始めており、各ボタン上には次動作待機中の指先が浮かんでいた。

 

『ホログラムを展開します』

 

 機械音声が静かに響く。

 

 すると床面へ刻まれていた魔力回路が淡く発光し、その光が空間へ滲み出るように広がっていった。粒子化した魔力は空中で輪郭を編み上げ、骨格情報を構築し、その上から肉体の質感を貼り付けるみたいに立体を形成していく。

 

 最初に生成されたのはスライム型。

 

 続いて棍棒を持つゴブリン型。

 

 さらに四足の狼型まで形成される。

 

 どれも半透明でありながら異様な存在感を持っていた。足元では魔力粒子が霧みたいに漂い、赤く発光する眼球だけが異常な鮮明さで空間へ浮いている。研究用投影というより、別空間から魔物だけ切り抜いて移植してきたみたいな不気味さがあった。

 

 この戦闘投影システムの名称は〈グリムグリッド〉。

 

 単なる映像投影ではない。接触衝撃、擬似損傷、魔力干渉、圧力反応まで再現可能な高負荷型戦闘演算システムだった。

 

「クエディーカくん、そのホログラムはダメージ発生が可能な一級システム。だから、出来るだけ回避して破壊するんだよ」

 

「承知の上」

 

 短く応じた直後、クエディーカの指先が滑る。

 

 その入力に合わせ、私の右脚へ瞬時に出力が流し込まれた。人工筋繊維が束単位で収縮し、床面へ重量が沈み込む。同時に〈オービット・スパイン〉が背部から姿勢補正を行い、傾きかけた重心を強制的に固定した。

 

 その瞬間、真正面に展開されていた狼型ホログラムが低く唸りながら跳躍する。

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