アカラヘアのその発言に、クエディーカは過敏なほど鋭く反応した。
「シンクロの段階が、僕とアカラヘアさんの意識融合を……? ……!!」
次の瞬間、クエディーカの視界が大きく歪む。実験室の無機質な壁面、魔力モニター、光る演算盤。その閉鎖空間が、水へ絵具を垂らしたように崩れ、別の景色へ置き換わっていった。濁流が流れる灰色の川。捻じ曲がった黒樹林。熱気で揺らぐ赤砂の荒野。それぞれ異なる環境が無理やり縫い合わされた異様な大地で、大気にはモンスターの咆哮が幾重にも反響している。
そこへ現れたのは、岩塊じみた外殻を持つ四脚獣〈グラベルファング〉。背中から触手状の蔦を噴き出す樹木型巨獣〈モルドバイン〉。さらに、羽根ではなく刃状結晶を広げて飛翔する大型飛竜〈クリスタレイス〉まで空を覆い始めた。
「グルルルルルルルル!!」
「ギィィィィィィィ!!」
異常な咆哮が脳内空間へ重なった瞬間、クエディーカの混乱と連動するように、プロトアークである私の機体が急激な変形を開始する。右腕部装甲が内側から裂けるように展開し、内部フレームが高速回転。赤熱した魔力導線が火花を散らしながら接続され、圧縮駆動刃を形成していく。
「なぜ、モンスターが……! っぐ、武装が……勝手に……!」
白銀色の長剣〈ブレイドコンバージョン・ヴァルザリオン〉。
さらに左腕側では砲身ユニットがせり出し、複数の魔力加速レールが唸りを上げながら連結される。大型銃撃形態〈ガンコンバージョン・ゼルハウザー〉。どちらもスキルではなく、内部格納兵装を強制展開する試作型変形機構だった。
クエディーカからすれば、現実と脳内の境界が完全に濁っていたはずだ。だが同時に理解もしていたのかもしれない。この異常空間こそ、アカラヘアが冒険者として積み重ねてきた記憶、その断片だということを。
「クエくん、落ち着いて。たぶんこれ、うちの記憶側が流れ込んでる」
響いたアカラヘアの声は冷静だった。しかしその言葉とは裏腹に、クエディーカの動揺へ引っ張られるように、私の機体は戦闘態勢へ移行していく。
グラベルファングが地面を砕きながら突進した瞬間、私の右脚が床を蹴り抜いた。重量級の機体とは思えない加速で滑り込み、ヴァルザリオンが横薙ぎに閃く。高振動刃が岩殻へ触れた途端、激しい破砕音が実験室へ響き、巨体が真横から断裂した。
しかし、その斬撃は脳内だけでは終わらない。
現実側の実験室では、電子柱が斜めに切断され、青白い電流を撒き散らしながら崩落していた。床を走る魔力ケーブルが焼き切れ、制御盤から火花が吹き上がる。
「っぁあ!? 隔壁まで斬れてるじゃないかぁ!!」
リードが悲鳴混じりに叫ぶ。
だが停止しない。
上空ではクリスタレイスが刃翼を広げ、高速回転しながら急降下してくる。クエディーカの緊張が跳ね上がった瞬間、ゼルハウザー側の魔力炉心が過剰発光した。
「キィィィィィィィィ!!」
圧縮された魔力が砲身内部で暴走寸前まで膨れ上がり、次の瞬間、ゼルハウザー先端から白熱した閃光が炸裂した。空気そのものが押し潰されたみたいに研究室全体へ衝撃が叩きつけられ、壁面装甲が内側から爆ぜ飛ぶ。吹き荒れた衝撃波で工具や観測機材が宙へ跳ね上がり、電子柱の青白い光まで激しく明滅した。
「アカラヘアさん、今度は僕の補助を……!」
「やってる! でもクエくんが反応すると、こっちまで連動して動くんだって!」
今度はモルドバインが大量の蔦を地面へ叩きつけながら接近してくる。蛇みたいに蠢く蔦群が全方向から絡みつこうと迫った瞬間、クエディーカの危機反応へ引っ張られるように、私の機体が低姿勢で滑り込んだ。
ヴァルザリオンが暴風じみた軌道を描き、蔦をまとめて切断する。さらに左腕のゼルハウザーが至近距離で連射され、炸裂した魔力弾がモルドバインの胴体を内側から吹き飛ばした。
その結果、現実側の実験室では床面が大きく抉れ、砲撃の衝撃波で観測装置が壁へ激突していく。魔力モニターは破裂し、天井照明が連鎖的に砕け散った。
「自身を! アークを制御するんだ2人とも! 戦闘出力が現実側まで完全連動してる!」
リードの声が響く頃には、実験室全体が半壊寸前まで追い込まれていた。同期しすぎた意識が、脳内戦闘を現実挙動として再現してしまっているのだ。
つまりこの時、アカラヘアとクエディーカは、プロトアークを操縦していたわけではない。
完全に、プロトアークとして戦っていた。