「プロフェッサー・モドム。私の話を聞いたのならば、あなたなら咀嚼できたはずだ。いずれ完全に心身共にアークと同居し、そして脳波が破壊されるリスクがある」
黒衣の怪人が低く警告する。しかしガルアークは止まらない。青白い装甲を軋ませながら、一歩ずつ研究室の奥へ踏み込んでくる。そのたびに床へ重い振動が走り、砕けた扉の破片が細かく跳ねた。
「そうですプロフェッサー! すぐに同期を解いてください!」
ララクも声を荒げる。だが返ってきたのは、奇妙なほど落ち着いた声だった。
「ああ、私も自我を、今まで蓄積された研究知識も熱意も失いたくはない」
「なら、どうして自分から暴挙をっ!」
「回収するためさ。プロトアークをね。回想を振り返る限り、その怪人さんは自分自身に否定的なようだ。完全自立制御の貴重な成功品だというのに」
「失敗作に決まっているだろう、この知能は」
怪人が即座に切り返す。するとガルアークの双眼が細く光量を変えた。
「んん、やはり真逆の思考のようだ。君をとことん調査させてもらう。そして安定化させて、世に送り出そうじゃないか」
その声音には恐怖より歓喜が混じっていた。未知の理論へ到達した研究者特有の熱狂。長年追い求めてきた答えが、ようやく手の届く場所へ現れた。その興奮が、金属音混じりの声越しにも滲み出ている。
「プロフェッサー・モドム、研究を急ぎ過ぎです。こんな暴力的な事をしなくても、きっと……」
ララクは怪人を見る。しかし視線を向けられた黒衣の怪人は、静かに首を横へ振った。
モドムの言う通りだ。
この怪人は、自分自身を危険物として扱っている。もし捕獲を拒否するなら、力づくになる可能性は高い。
「このシンクロ状態の動作確認、そして今の私なら圧倒的戦力で怪人を捕獲できる。この機会を流すわけにはいかないんだよ、ララクくん!」
ガルアークがさらに接近する。装甲の隙間から青白い魔力光が脈打ち、指先の関節部では駆動音が低く唸っていた。その姿は完成された兵器なのに、同時に研究者自身の執念を纏った怪物にも見える。
「ボクは……、まだ全てが追いついていないけど……、彼は、怪人は敵ではない。それは間違いないと思えます。彼の中に、きっと悪意は一切ない。3人の方の、思いを辿っているだけなんです」
「っふん、同情したか。それもまた人の優れた点だ。だがララクくん、君も力で怪人を捕縛しようとしていただろう。それは優れた知能製品だが、人権はないんだ。阻んでくれるなよ」
「どうしてなんだプロフェッサー。話を聞いただけで、自分を実験台にして。なぜそこまで盲目になれるんだ」
その問いに対して、ガルアークは静かに顔を上げた。発光する双眼の奥に、ララクは研究者ではなく、友人を失った男の執着を見た気がした。
「同情、いや切磋琢磨してきた研究者への尊敬か。あいつは、リードはこの怪人の中にさえいないのだろう。ならば、その無念を、あいつの研究到達地点を、私が叶える。そのために今日この日まで、研究を磨いてきたんだ! これは私とプロフェッサー・リードの友情ゆえの奇行なんだ!」
モドムには見えていたのかもしれない。
爆炎に消えた研究室。
理想を語っていたリードの背中。
人が死なずに冒険できる世界を、本気で実現しようとしていた研究者の姿を。
本来なら平和のために積み上げられるはずだった人型戦闘ユニット研究。その願いが今、歪んだ熱量へ変わり、怪人とララクの前へ暴力として立ちはだかっていた。