万博に行ってきました☆   作:永多真澄

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作戦会議とアルバイト

「……どうするよ」

 

「もうこれは、行くしかない、って感じっスね」

 

 ようやく絞り出した僕の声は、我ながら実に情けなかった。

 しかし後輩は、がぜんやる気を出したらしく意気揚々と応えた。どんな人間性してんだ。

 

「それを認めたくないから悩んでるんだよ僕は」

 

「でも、少なくとも万博に行く未来は確定してるじゃないスか?」

 

「そうなんだよなぁ……」

 

 僕は椅子に深く座り直し、両手で顔をこすった。

 正直、だいぶ怖い。SFってホラーも内包してるんだなってことを、今日ほど実感したことはないってくらい怖い。

 だけど、ここまで来ると「万博に行かない」という選択肢のほうが、むしろ不自然に思えてくる。お膳立てされている感覚というか……なんというか、ここで頑として行かなかったらそれはそれでシナリオが打ち切りになりそうな恐怖がある。そうなった時にどうなるのかはわからないが、多分いい結果にはならないだろう。あれ僕いつの間にアイデアロール成功した?

 ともあれ、写真の中の僕たちは万博会場に立っている。

 なぜ? たぶん、歴史を元に戻すために。

 

「……よし」

 

 僕は盛大に嘆息した。それから仕切り直すように強く膝を叩いて、顔を上げた。

 

「作戦会議をしよう」

 

「ヒュウ、そう来なくっちゃ!」

 

 後輩が、ぱっと顔をほころばせた。いや、ほころばせたというにはだいぶキマった笑顔だな……。

 

「テンション上げるのはいいが、まずは現実的な話をするぞ。こいつの仕様を整理する」

 

 僕は机の上のタイムマシンを指差した。

 この我関せずという顔でずっとヴーンヴーン唸ってるコイツだ。何の意味があるのかしれない青白い光が、相変わらず明滅している。

 

「後輩。お前、開発者なんだから説明しろ。わかってる範囲で全部」

 

「了解っス」

 

 後輩は机の対面にわざわざ周り、タイムマシンの横に立ってプレゼンでも始めるように咳払いをした。

 

「では、《TIME MACHINE 1.0》の現時点で判明している仕様を説明するっス」

 

「無駄に発表会っぽいな」

 

「ふっふっふ、そこは大事っスから」

 

 後輩は得意げに胸を張り、まず、側面にある複雑なダイヤル群を指差した。

 

「まず、このタイムマシンは“指定した物体”を時間移動させるっス」

 

「指定した物体というと?」

 

「はい。マシン周囲のものをなんでもかんでも一緒くたに飛ばすんじゃなくて、“これを飛ばす”って対象を決める必要があるっス」

 

「そのダイヤルで?」

 

「このダイヤルで」

 

 僕が懐疑的な色を多分に含む声で尋ねた。後輩は自信満々に応えた。

 ダイヤルは大小あわせて十数個、さらに切り替えスイッチまでついていて、さながらカーステレオのお化け。あるいは航空機の計器盤のようだ。素人目にみて、どう操作すればどうなるのかが微塵も分からない。

 

「これがまた、ものすごくややこしいっス。対象の質量、形状、位置関係、たぶん電磁的な何か……そういうのを総合的に指定しなきゃいけないっぽいんスよ」

 

「ちょっと待て、ぽいってなんだよぽいって」

 

「作った私にも完全にはわかってないっス!」

 

「製造物責任法!」

 

「でも操作はできるんで無問題っス。今のところ操作できるの私だけっスけど」

 

「絶対に家電メーカーには就職するんじゃねぇぞ」

 

 こういうやつがユーザインタフェースの壊滅的な家電を作り上げちゃうんだ。もっとユーザフレンドリーな設計をさア!

 後輩は気にせず続けた。

 

「次。さっきも見せましたけど、時間移動先もダイヤルで調整するっス。これで年、月、日、時、分、秒で合わせて、最後にこの実行ボタンを押す」

 

 後輩は、側面の赤いボタンをぺしっと叩いくふりをした。やめろよびっくりするだろうが。

 形状が大型機械の緊急停止ボタンのそれだから、見るたびに不安になるんだよな。一般業務で押すもんじゃねぇからそれ。

 

「一連の操作には、だいたい一分くらいかかるっス。なので、とっさに『やばい逃げろ! 五秒前に飛べ!』みたいな芸当は無理っスね」

 

「そんな局面に直面してたまるか」

 

 スパイ映画じゃないんだぞ。いやほんと、そういうの勘弁だからな僕は。

 

「あと、時間移動した対象は、実行ボタンを押した瞬間に忽然と消えたように見えるっス。スッと。マジでスッと」

 

「そんなボディランゲージで表現されてもな。それで終わりか?」

 

「あー。あと、場所の移動は原則できないっス」

 

「場所の移動?」

 

「要するに、今ここにある物を、今ここから別の場所へ飛ばすことはできないってことっスね。時間しかいじれないっス」

 

「でもお前、昨日実験したときは位置ずれしたって言ってたよな」

 

「そ―なんスよねぇ。なので原則っス。少なくとも、意図的に場所移動を発生させるってのは、私はまだできてないっス」

 

「開発者のセリフかそれが。……つまり、1970年の万博会場に行きたいなら、まず現代の万博記念公園まで行かなきゃならない、ってことだな?」

 

「そういうことっス」

 

 なるほど。そうすると厄介な問題が一つ浮上してくるな。

 顎をこねる僕をよそに、後輩は次に、マシンの底面を持ち上げた。

 

「あと、こいつ単一電池四本駆動っス」

 

「は?」

 

「単一電池四本っス」

 

「……世界を揺るがす機械の電源が、そんなファミリー向け家電みたいな感じでいいのかよ」

 

「いや~、エコっスね」

 

「エコで片づけていい問題じゃねぇだろ」

 

「実用面もぬかりないっㇲ。乾電池は1954年から市販されてるっスからね。現地調達も可能っス」

 

「くっ、意外と考えられてる」

 

 どうしよう結構理にかなっててなんも言えねぇ。電池ボックスの蓋を開けるとしっかり単一電池が四本入っていて、このあまりにも生活感のある光景が、一周回って怖い。どんだけ省電力なんだそのマシンは……

 

「で、最後に」

 

 後輩は机の脇に立てかけてあったベルト付きのフレームを持ち上げた。

 

「可搬式っス。背中に担ぐためのオプション付き」

 

「やっぱそれ、背負う前提だったのか」

 

 周囲四面のうち一面だけ何も操作部がない面があると思っていたら、オプションの背負子を取り付けるためのアタッチメントだったらしい。

 

「抱えて運ぶよりは断然楽っス。そう言えば写真でも先輩が担いでたっスね」

 

「未来の僕、ほんとに苦労してるな」

 

 とりあえず、これでマシンの概要は見えた。

 僕は大きくため息をつくと、ホワイトボードにマシンの概要を箇条書きにしていく。

 

・指定した対象を時間移動させる

・場所の移動はできない

・操作は後輩にしかできない

・設定に一分必要

・単一電池四本駆動

・可搬式。背負子のオプション付き

 

「こんなとこか。……なんか、改めて整理するとつくづく異常な機械だな」

 

「いやぁ、SF研の夢が詰まってるっスね」

 

「7割がた悪夢だよ」

 

 まぁ、残り3割にロマンが詰まっているのは否定しきれないところではあるが……。僕は腕を組み、後輩に向きあった。

 

「さしあたり、考えられる問題点は四つだ。一個ずつ潰していこう」

 

「っス」

 

「まず第一。生き物を送って大丈夫なのか」

 

 後輩が、あー、と口を開けた。

 

「未確認っス!」

 

「元気に言うなバカ。人間で試す前に、そこは確認必須だろ」

 

「でも写真に写ってるっスよ? だいぶ安全証明では?」

 

 うっ、痛いところを。

 

「……写真に僕たちが写ってるのは、確かに証拠にはなる。でも、決定的な証明とはいいがたいだろ。写真に写ってるからって、五体満足で時間移動出来たって保証にはならない。未来の僕たちは1970年に着いた瞬間ものすごくひどい目に遭ってる可能性もある」

 

「うーん、可能性としてはないとはいいがたいっすね。臓器とか取りこぼしてても外見上はわかんないっス。こわぁ」

 

「怖いのは僕も同じだ、っと」

 

 僕は立ち上がり、戸口に立つ。

 

「どこ行くんスか?」

 

「ちょっと借り物にな」

 

 

◆ ◆ ◆

 

 

 三十分後。

 僕は理工棟の別フロアから、実験用マウスを一匹くすね――じゃない、極めて短時間の一時的な学術借用として確保してきた。

 

「いや、かっぱらってきたんスよね?」

 

「細かいことは言うな」

 

 机の上に小さなプラケースを置くと、マウスは鼻をひくひくさせながらきょろきょろしていた。体重計で精密に重さをはかり、記録しておく。

 ごめんな、うらむなよ。僕は確認用に用意していた腕時計をマウスに巻き付ける。

 

「過去に送ると観測できないから、未来に送ろう」

 

「何秒後にするんスか?」

 

「三十秒後だ」

 

 僕はストップウォッチを構えた。

 

「あんまり長いと帰ってこなかった時に心が折れそうだしな」

 

「確かに」

 

 後輩がへらっと笑ってから、ダイヤルに手を掛けた。

 僕には何をどうしているのかさっぱりわからないが、彼女の手さばきは精密で、表情も心なしか真剣だ。対象指定、時間指定、微調整。たしかに一分近くかかる。

 

「よし。対象、マウス。移動先、三十秒後」

 

「頼むから無事でいてくれよ……」

 

「押すっスよ」

 

 僕は小さく頷くいて、マウスに巻き付けた腕時計の時刻を確認。17:00ちょうど。ストップウォッチを起動する。後輩が赤いボタンを押した。

 次の瞬間、プラケースの中のマウスが――消えた。

 

「うおっ、消えた!?」

 

「とりあえず、第一段階は成功っスね」

 

 本当に、忽然と。

 煙も音もなく、まるでそこだけ切り抜かれたみたいに、マウスの姿がなくなる。

 僕と後輩は無言で空っぽのプラケースを見つめる。

 時計の秒針がやけにうるさい。

 

「……二十秒くらい経ったか?」

 

 ストップウォッチを見る。まだ十秒も経っていない。

 

「先輩、カウント早いっス」

 

「心拍数が上がってるから体感時間が変なんだよ……!」

 

 はやる気持ちを何とか抑え、ストップウォッチとプラケースの間を何度も視線が往復する。

 十秒。五秒。三、二、一――

 

 ぽん。

 

 ほんとうに、ぽん、という感じで、マウスが元の場所に現れた。

 

「きたきたきた!! 成功っス!」

 

「マジかよ……!?」

 

 マウスは何事もなかったようにひげを震わせ、ケースの中をうろうろしている。少なくとも、見た目に異常はない。視力その他感覚器の異常もなさそうだ。

 巻き付けた時計を確認する。時刻は17:00ちょうどのままだ。つまりこのマウスは、三十秒先の未来へ生きたまま移動したのだ。

 僕と後輩は顔を見合わせた。

 

「生物の時間移動、可能っスね」

 

「ほんとに可能なのかよ。まて、体重は?」

 

「……変化なし。臓器の取りこぼしとかはないっぽいっス!」

 

「マジかぁ……」

 

 やっておいてなんだが、時間旅行という荒唐無稽な与太話に急に現実味が増してきてすこぶる怖い。見てこれ鳥肌立ってるもんな。

 とりあえずマウスは元の場所に戻すとして、これで「生き物を飛ばしたら即死する」という最悪の一線は越えないことが証明されてしまった。マウスもホントは解剖とかして調べたほうが良いんだろうけど借り物だし、そもそも僕らに動物医学的な知見はない。

 

「第一の問題、解決っスね」

 

 後輩がドヤ顔で指を一本立てた。僕は頭を抱えたくなるのを堪えて、次の問題点を提議する。

 

「次の問題だ。仮に僕たちが1970年へ行けても、当時の貨幣がない。新札なんて使えないからな。それに万博の入場券だって持ってない。開幕直後なんて相当の競争率だろ。どうやって手に入れるか……」

 

「あ、チケットはいらないっスよ」

 

 後輩はマウスのケースを抱えながら、あっけらかんと言った。

 

「は?」

 

「先輩、四次元的に考えるんス。万博記念公園の中から直接跳べばいいんスよ。パビリオンで入場券の提示を求められることは無いっスからね」

 

 僕はその場で数秒固まった。

 つまり後輩の言いたいのはこうだ。現代の万博記念公園の、できるだけ当時の会場中心部に近い場所まで行き、そこから1970年へ時間移動すればいい。園内に入ったあとなら、時代が変わろうが座標はそのままだ。チケットの心配は不要。

 ようするに、キセルをしようというのだ。普通に犯罪である。良い子は真似しないように。

 しかし「四次元的に考えろ」はハプニングのフラグのような気もするが……この際気にしないでおこう。ともあれ、僕はその悪魔の誘いに乗った。

 

「……お前、悪知恵だけは天才だな」

 

「ふふん、褒め言葉として受け取るっス」

 

 後輩はドヤ顔で胸を張った。頼むから新聞に顔が載るようなことはするなよ。

 

「でも、擬装用に当時の服なんかも買わなきゃだろ。緊急時の物資の現地調達も考えないといかん。その金はどうする?」

 

 僕が問うと、後輩は待ってましたとばかりにニヤリとした。

 

「そこも考えてるっス」

 

「ほう」

 

「硬貨っスよ、硬貨。500円玉以外、基本的にそんな変わってないじゃないっスか。だから、1970年――昭和45年以前に発行された硬貨をかき集めて持っていくんス。で、現地の銀行か郵便局に行って、『硬貨を両替したい』って言えば、当時の紙幣やら使いやすい硬貨にしてもらえるはずっス」

 

 後輩が淀みなくつらつらと述べるものだから、僕は思わず感心してしまった。

 

「……お前、冴えてるなぁ。そういうところ無駄に頭が回るの、ほんと何なんだ」

 

「心はいつでもタイムトラベラーっスからね」

 

「ずっと考えてたってことね」

 

「そうともいうっス」

 

 まあ、理屈は通っている。硬貨さえ集められれば、完全に無一文で放り込まれるよりはだいぶマシだ。

 

「第二の問題も、なんとか解決か」

 

「チョロいもんっス」

 

「調子に乗るなよ。次。こいつはかなり大きい問題だ」

 

 僕は調子づく後輩を半目で睨んでから、3本目の指を立てた。

 

「1970年へ行ったとして、何が太陽の塔爆発の原因なのかわからない」

 

 僕はなるべく意味深長に言ったものの、後輩はきょとんとした顔で答えた。

 

「そんなもん現地で調べるんスよ」

 

「即答だな」

 

「だってそれ、今ここで考えてもわかんないじゃないスか」

 

「いや……それはそうだが」

 

「原因不明なら、現場で探るしかないっス。ガス系統なのか、人為的な工作なのか、未来から来た私たちがやらかすのか、それとも別の要因なのか。行かなきゃわかんないっス。刑事は足で稼ぐんスよ」

 

「刑事になった覚えなんぞないわい」

 

 と、口をとがらせては見たものの、嫌になるほど正論だった。返す言葉が見つからない。僕は深々とため息をついた。

 ここまで来ると、堀はもうほぼ埋まっている。生物の移動は可能。旧貨幣への対策も万全。原因調査は現地でやるしかない。

 そして、残る最大の問題は――。

 

「あとは――交通費だな」

 

 僕が四本目の指を立てると、後輩が真顔で頷く。

 

「場所移動はできないので、まず現代の万博記念公園まで行く必要があるっス」

 

「ここから大阪まで往復で幾らくらいかかるよ」

 

「ざっくり3万円は見るべきっスね」

 

「……高ぇ」

 

「……高いっス」

 

 僕たちはそろって遠い目をした。

 手元の懐事情を思い出す。いまの僕の所持金は、たしか四千円ちょっと。財布の中身ではない。貯金通帳の中身の話だ。これでも独り暮らしの苦学生なのである。仕送りの増額などを打診したらそもそも仕送りを打ち切られるだろう。現在の生活費にプラス3万は、相当にきついと言わざるを得ない。

 それはどうやら、後輩も似たようなもののようだった。

 しばしの重い沈黙。膨れ上がる皮算用と迫る現実の圧力。

 その重みに耐えかねたように、しかし決然と、後輩がきっぱりと言った。

 

「バイトしましょう」

 

 僕も顔を上げた。

 

「それしかないか」

 

「それしかないっス」

 

 たしかに、それしかない。

 大阪まで行くための軍資金。現地で使うための余裕。ついでに硬貨を集める元金も必要だ。時間旅行はロマンかもしれないが、現実は現金である。

 

「よし。今日から一ヶ月を、バイト強化月間とする」

 

 僕は腹を決めて、気持ちを切り替えるように言った。

 

「おおー!」

 

「12月、資金が溜り次第大阪へ行くぞ」

 

「了解っス!」

 

 こうして、僕たちの奇妙な作戦は、意外にも地味なところから始まることになった。

 

 

◆ ◆ ◆

 

 

 その後の一ヶ月は、想像以上に修羅場だった。

 

 僕は居酒屋のバイトのシフトを増やした。

 週三が週五になり、下手すると週六になった。皿を下げ、ジョッキを運び、唐揚げを揚げ、酔っ払いに絡まれ、終電ぎりぎりで帰る日々。

 もちろん昼間は大学に行く。放課後にSF研に行く時間を犠牲にした分、昼飯時などに後輩とつるむ機会が増えた。

 

「先輩、目の下のクマすごいっスよ」

 

「うるさい。これは歴史を救う者の勲章だ」

 

「テンションもおかしくなってるっス。作戦前にぶっ倒れたら元も子もないっスよ?」

 

「それは……本当にそう……」

 

 一方、後輩は後輩で、恐ろしい手段に出た。

 

「私はスマートにレポート代筆で稼ぐっス」

 

「闇バイトじゃねぇか」

 

「ふっ、需要と供給っスよ」

 

「最低だなお前! ……ちなみに一本幾らから?」

 

 最低なりに需要は本当にあったらしく、後輩は理工学部の一部で謎の代筆屋として暗躍し、僕の何倍もの速度で金を積み上げていった。

 もちろん僕は表向き知らないふりをしたし、僕が必死に稼いだバイト代の何割かが後輩の懐に流れたのはここだけの話である。

 

「友達割とかは特にないっス!」

 

 ……にべもないとはこのことだった。

 

 

◆ ◆ ◆

 

 

 一ヶ月後。

 

 僕たちは部室の長机の上に、それぞれの稼ぎ出した軍資金を並べた。内訳は以下のとおりである。

 

僕  29,000円

後輩 125,000円

------------------------

合計 164,000円

 

「……お前、ドンだけ荒稼ぎしたんだよ」

 

「ふふふ、企業努力っス」

 

「その企業、今すぐ監査入れたほうがいいと思う」

 

「教授に目ェ付けられたんで既に廃業してるっス」

 

 後輩はけらけらと笑った。

 

「ま、これで大阪までの交通費と、向こうでの予備費、硬貨の元金もなんとかなりそうっスね」

 

「主導権、完全にお前に握られたな……」

 

「先輩にはせいぜい馬車馬のように働いてもらうっス。ま、奴隷っすね」

 

「奴隷解放運動を叫びたい気分だよ」

 

 とはいえ、軍資金がこうして用意できてしまったのは事実だった。後輩は封筒をまとめて鞄にしまうと、やけに晴れやかな顔で立ち上がる。

 机の上にはタイムマシン。ノートにはメモ書きだらけの作戦案。そして、手元には大阪行きのための金。僕たちはもう、引き返せないところに来てしまった。引き返すのはもったいないと思う程度には働いてしまった。

 

 もう、冗談では済まない。

 

 後輩は僕のほうを見た。

 目が、いつものようにぎらぎらしている。だけど前より少しだけ、覚悟の色が混じっていた。

 

「先輩」

 

 後輩は、まっすぐに言う。

 

「行きましょう、大阪へ!」

 

 その言葉を聞いた瞬間、僕は胸の奥がひやりとするのと同時に、どうしようもなく腹が決まっていくのを感じていた。

 

 ――太陽の塔がまだ爆発していない時代へ。失われた未来を取り戻すために。

 

「……おう」

 

 僕は、しっかりとうなずいた。

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