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「あ━━━っ!負けた!負っげっだああああ!!」
「ちょっとかぐや、落ち着いて」
「落ち着けってかぐや」
床に壁に自分の頭に足にお腹に、叩ける場所を全部叩いて悶えるかぐや。
俺はあいつらに負けるのは慣れっこだが、かぐやはそうでもないらしい。
「だってだって、負けちゃったんだよ!かぐやと、彩葉と、朔夜の最強トリオなのに~!!たのくやしかった!!」
たのくやしかった、ねぇ。楽しいとくやしいの合体版みたいなもんか。
かぐやらしい事で。
「俺もたのくやしかったな~」
結局、朝日さんとの賭けは彩葉が勝った事で俺の負け。
その前の朝日さんとのタイマンも引き分け。
最後の雷さんと乃依も相打ち。
それでも、この三人でやるKASSENは心の底から楽しかった。
「三人共、お疲れ様~!!もうちょっとだったのにね~!!」
「でもね、落ち込んでる暇なんてな~いのです!今からお待ちかねの発表タイムなんだから!」
あ~そう言えばそうだったな。
そもそも勝負を受けたのは、かぐやがヤチヨカップで朝日さんに勝ちたかったからで。
必要なのは、劇的勝利だったけども………かぐやらしさはアピールできただろ。
「いと大儀~☆!」
気付けばいつもの服装に身を包んだヤチヨが遥か上空に浮かびあがっていた。
「見ててもとーっても楽しいKASSENNでした。そして、たった今!ヤチヨカップの投票を締め切ったよぉ~。FUSHI、集計お願い!」
FUSHIがよく分からん言葉を言いながら集計を完了させた。
かぐやが勝ってるといいんだけど。
「それでは、ヤッチョとコラボる人を発表ー!」
夜空に巨大なスクリーンが出てきて、棒グラフが伸びていく。
続けて下から順番に凄まじい速さで参加ライバーの名前が発表されていった。
(そういや、俺はどの辺なんだろ)
確かこの前の大会でオタ公が100位って言ってたっけ?
かぐやとコラボしたお陰でもあるんかな。結構ファン層違いそうだし。
「ヤチヨカップの優勝者は~~~☆」
━━━━第三位 ブラックオニキス 新規獲得ファン数101万4221人
(あれま)
会場が有り得ざる結果にどよどよと騒ぎ始めた。
ブラックオニキスは実際、期間中一位を独走してたし皆が一位を取ると思ってただろう。
(かぐやの名前はまだ出てないしワンちゃん一位かも)
俺?どうやら百位にすら届かなかったようで発表すらありませんでした。およよ……。
ん?なんでヤチヨがこっち見て……。
『さっくー………良いよね』『顔もイケメンよな~』『万年二位の人だよね?十分バケモンやんけ』『か、かぐやちゃんをよろしくお願いします………』『い、いろPをよろしくお願いします………』『14:34 さっくーに惚れた瞬間』『さく乃依か………乃依さくか………それが問題だ』『34:19 かっくいい~~』
━━━第二位 さっくー 新規獲得ファン数101万4222人
(うそん………)
「さくや~~~~!!!!」
「いたっ!」
呆気に取られている俺に、かぐやが後ろから抱き着いてきた。
「すごいすごい!!朔夜すごい!!!」
「なんで俺より嬉しそうなんだよ!」
「あはは~朔夜てんさ~い!」
「いやほんと、なんでだよこれ……」
頭を抱える俺の横で、かぐやは完全にお祭り状態だ。ぴょんぴょん跳ねて、腕をぶんぶん振り回している。
「だってだって!二位だよ!?しかも黒鬼に勝ってるんだよ!?」
「一票差だけどな……」
「それがすごいの!!一票差で勝つとか主人公じゃん!!」
いやそんなドラマ性いらんのだが。
でもまぁ胸が変にざわざわしてるってことは……嬉しいって事なのかも。
「さぁてさてさて~☆残るは、栄えある第一位のみっ!」
ヤチヨの声が、会場の空気を一気に引き締める。
さっきまで騒いでいた観客も、今は固唾を呑んで見守っている。
かぐやも、ぴたりと動きを止めた。
「…………」
ぎゅっと、自分の手を握りしめている。
「大丈夫だって」
俺がぽつりと呟くと、かぐやはこっちを見た。
「……うん」
小さく頷くその顔は、さっきまでと違って真剣そのものだった。
「それでは発表するよぉ~!」
夜空のスクリーンが、一瞬だけ暗転する。
次の瞬間――
ドン、と音を立てるように表示された。
━━━第一位 かぐや・いろP 新規獲得ファン数 101万7106人
今日、一番の歓声が爆発した。
俺の隣で、それはもちろんかぐやも。
「やっっったぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!」
特大の叫び声をあげるのだった。
□
「おめでと、かぐやちゃん。彩葉」
朝日さんがそう彩葉に声を掛けるまで、彩葉はずーっとぼーっとしてた。
俺は、かぐやにぶんぶん振り回されてました。
「げっ、やば、結婚!?」
かぐやがやっと朝日さんとの約束を思い出したようで、心の底から嫌そうな顔をしている。
でも多分、朝日さんなら………。
「これじゃ、勝ったとは言えないな。朔夜にだって負けてるし」
「お………。あ~………」
「元々、無理に結婚する気なんてねーし」
「だ、だよな!かぐやも知ってた!」
嘘つけ。動揺して俺の手めっちゃ握ってたくせに。
「じゃ、俺らファンのとこ行くから………っとその前に」
踵を返そうとした朝日さんは、そのまま俺とかぐやの方に近づいてきた。
しかしお目当てはかぐやではないようで、俺の耳元に顔を近づける。
「今度、カフェにでもいこや」
「あ、うっす」
何が話したいのかは知らないけれど、元々は尊敬する先輩だ。
断る理由もない。
「おっと……」
すると突然、かぐやが俺と朝日さんの間に割って入った。
「朔夜から離れて~!!」
「はは、愛されてんな~朔夜。じゃ、またな~」
そういって朝日さんと雷さんは消えていった。
ていうか、かぐやのこれは果たして愛されてるというのか?
かぐやのこれは多分朝日さんへの対抗心みたいなもんだろうし。
可愛いやつめ。頭を撫でてやろう。
「ん~~~!!」
こう見ると犬みたいだな。
……そう言えば乃依がいなかったっけ。
もしかして、俺が自爆なんて戦法を取っちゃったから怒ってんのかな………。
□
「そういや、乃依は来なくてよかったのか?」
「………他意はない。他意はない。他意はない。他意はない……」
「ん?乃依?」
「………さっくーは勝ちたかっただけ。さっくーは勝ちたかっただけ……」
「朝日、乃依は今オーバーヒート中だ」
「オーバーヒートて」
□
「おさんかた~。よきかな~☆」
もろもろの結果発表を終えたヤチヨが、公式の表情を脱いで降りてきた。
どうやら彩葉はろくに声が出ないらしい。
さっきから意味分からん事を口ずさんでます。
「やるじゃねーか、お前ら。まぐれに頼る天才だな」
FUSHIが辛口すぎて俺は泣きそうです。
「んー。でも全然だめったぁ。どうしたら朔夜みたいにしゅばばってドバーンって動けるの?」
「FUSHIをリフティングするのをやめたら教えてやらなくもない」
「は~い!やめま~す」
うちの姫は自由というか、奔放というか、元気というか。
ほら、FUSHIをいじめられてヤチヨだって悲しそうな顔してるぞ。
「………いいなぁ~………」
「ヤチヨ?何か言った?」
「な~んでもないよ~かぐや」
ヤチヨはパンッと手を鳴らして、その場の空気を整える。
「さーて、ここからはクライマックスに向けてハードな展開が待ってるかも」
「このお話を、最後まで見届けてね?」
「運命の荒波に揉まれる覚悟はいいかー?」
「おー!」
かぐやと彩葉はこっからヤチヨとのライブに向けて準備だもんな~大変だこと。
「あ、そうだ!朔夜!パンケーキ!!」
食への探求心凄まじいなおい。
「そうだな~。確か材料はあったし……ログアウトしてから作るかな」
「やった~!!彩葉も食べるよね!」
「え、あ、うん」
彩葉はヤチヨに見惚れてたようで、返事は適当だった。
「パンケーキっ!パンケーキっ~~」
かぐやに手を引っ張られながら、かぐやと彩葉は水色の模様となって消えていった。
彩葉は南無。ヤチヨと話せる機会だったろうに。
「ねぇ…朔夜」
「どしたんヤチヨ」
いやなんか元気なくない?一体全体どうしたよ。
もしかしてかぐやとライブしたくなかったり?ほんとは黒鬼とライブしたかったり?
「ヤチヨの護衛をさ、ヤチヨが頼んだらすぐしてくれたじゃん?」
おう、全然想像と違った。
「まぁうん」
「……なんで?」
「………う~む………」
もう何で始めたかなんて覚えてないな~結構前の事だし。
あ、でも。
「ほっとけなかったから?」
「ほっとけ……ない?」
「知らない人でも知ってる人でも、誰かに物を頼むのってさ。結構勇気いる事だと思うんだよね、俺は」
「物を頼むって事は、それを全部そいつに任せるってことで」
「そんなの余程、信用してる人間にしか出来ないだろし」
「ヤチヨと俺に信用もクソもないんだし、見ず知らずのやつに護衛なんて大役を任せるってのは……よく考えたらヤチヨがおかしいな」
「まぁでも、信じてもらえて嬉しかったんだよ多分」
ヤチヨは、しばらく何も言わなかった。
さっきまでみたいに軽口も挟まず、ただじっと俺の方を見ている。
「……そっか~」
「嬉しかった、かぁ」
「俺もしかして変なこと言った?」
「ううん。全然?」
「朔夜ってさ~。思ってるより、ずっと厄介だよね」
「悪口?」
「褒めてるよ☆」
即答かよ。
「だってそれ、普通の人は出来ないも~ん」
ヤチヨは指を一本立てて、くるくる回す。
「信じられたから応えるって、簡単そうで一番難しいやつ」
「……そうか?」
「そうだよ~。みんなさ、確証が欲しいんだよ」
「裏切られない保証とか、メリットとか、理由とか」
「でも朔夜は、それ全部すっ飛ばしてる」
「…………」
言われてみれば、そうなのかもしれない。
深く考えたことはなかったけど。
「ねぇ」
ヤチヨが一歩、近づいてくる。
「……じゃあさ、
「その時も、同じ理由で動く?」
「内容によるな。死ねとか言われたら断るし」
「あはは、そりゃそうだよね~☆」
「でもまぁ、ヤチヨが本気で頼んできたならどんな事でも真剣に考える」
「……そっか」
今度は、小さく。本当に小さく頷いた。
「それで十分だよ」
「ありがとね、朔夜」
「礼を言われるほどのことか?」
「ううん、言うの」
にこっと笑って、でもその目はほんの少しだけ潤んで見えた。
「だって~ヤッチョは頼るの苦手だから~」
「……そうは見えないけど」
「でしょ?」
小悪魔的に笑うヤチヨ。
やめてくれヤチヨ、その術は俺に効く。
「ほらほら~かぐやがパンケーキを待ってるよ~?行かないでいいの?」
ヤチヨがそう言うのと同時に、俺の頭の上にはかぐやからのDMが複数個浮かび上がった。
「ん。俺もログアウトするわ。またどこかで、ヤチヨ」
俺はヤチヨに手を振りながらログアウトした。
最後にヤチヨが何か言おうとしてた気がするけど……気のせいかな。
や、ヤチヨからの愛が。