彩葉に男の幼馴染がいたっていいじゃない   作:ザワザワする人

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感想、毎話毎話ありがとうございます!



決戦準備

 

 

花火から帰ってすぐに、かぐやはライバーの引退と卒業ライブを発表した。

そして同時に、俺がかぐやのチャンネルを引き継ぐ事に決定した、というよりされた。

 

SNSはすぐに反応を示し、驚き、悲しみ、引退の撤回を求める声でごった返した。

真相を語ります系や、陰謀論を絡ませる動画までが広がっていった。

俺が妊娠させたみたいな動画を上げてたやつは、ファンの通報により消し飛んだ。

 

かぐやはそれらの声に対し、「楽しかったけど、これでおしまい!」で通した。

俺は、それをずっと隣で見ていた。

 

彩葉の方には、綾紬や諌山からの連絡があって。

俺の方にも、同級生からめちゃくちゃ連絡があった。

でもかぐやがああ言った以上、俺らに言える事はない。

 

『だいじょぶだいじょぶ!心配すんな!』

 

そんな空元気じみた返信をする事しか出来なかった。

夏休みは一目散に過ぎ去っていき、始業式が行われ、学校がまた始まった。

学校が終わった後はアルバイト。

 

「神代く~ん!!どうしよ!誤発注でカボチャ400注文しちゃった!!もうキャンセルできないって!!!おしまいだぁぁぁ!」

 

「ごめんなさい!店長!!!私のせいでぇぇぇ!!」

 

「お、落ち着いてください!カボチャならそれごと器に使えばいい感じに消費できますって!俺、レシピ考えてくるんで!」

 

変わらない。変わらない日常の筈だ。

 

「おつかれした~……」

 

そう言えば、かぐやがいなくなったら、家はどうしようか。

あんなにでかい家も、もう要らなくなるだろう。かぐやの配信道具も要らなくなるし。

結局、あのアパートに帰ってくるのだろうか。

 

「…………まじか、俺」

 

俺が足を止めたのは、この前着付けをしてもらった和服屋さんの前だった。

三人でいつのまにかかぐやに写真を取られた大鏡に、俺が移っていた。

それはどこか、昔の、遥か昔の俺に似ていた。

 

 

俺が幼かった頃。

俺の両親は、事故にあった。

その時、俺は小学生一年生だった気がする。あんま覚えてないけど、父さん達と一緒にいなかったっていうのはそういう事なんだろう。

その時の俺は、死っていうのがよく分からなかった。

死んだらどうなるのか。そもそも死ぬってなんなのか。

 

それからなんだか世界が怖くなって、一年くらい今のじぃちゃんの家に籠っていた。

びっくりするくらい、何の気力も起きなくて。

 

朝起きて、ぼんやりして。

昼になって、ご飯を食べて。

夜になって、また眠る。

 

じいちゃんは、何も言わなかった。

学校へ行けとも、外に出ろとも。

ただ、毎朝同じ時間に起きて、俺の分までご飯を作ってくれた。

 

「ほら、冷めるぞ」

 

俺は無言で席につき、無言で食事を食べた。

じいちゃんも、余計なことは聞かなかった。

でも、いつもそこにいてくれた。

 

ある日、縁側でぼんやり庭を見ていた時だった。

 

「朔夜」

 

じいちゃんが、俺の隣に座った。

 

「……なに?」

 

「散歩、行くか」

 

「やだ」

 

「そうか」

 

それだけ言って、じぃちゃんは立ち上がる。

……でも、玄関で靴を履く音が聞こえた時、なぜか胸がざわついた。

 

「……まって」

 

気づけば、俺はじぃちゃんに追いついてそう言っていた。

じいちゃんは振り返らず、

 

「おう」

 

とだけ答えた。

 

外は、思ったより眩しかった。

 

風が吹いて、草の匂いがした。

 

世界は、俺が閉じこもっている間も、何も変わらず回っていた。

 

それが少しだけ、悔しかった。

 

散歩の途中、小さな公園の前を通った。

 

子どもたちが笑いながら走り回っていた。

 

その声を聞いた瞬間、胸がぎゅっと締めつけられた。

 

俺は足を止めた。

 

「……お父さんとお母さんは、もうかえってこないんだよね」

 

俺は足を止めて、初めて自分からその事実を口にした。

じいちゃんも足を止める。

少しだけ間を置いて、静かに言った。

 

「ああ」

 

「なんで…………」

 

それだけ言った途端、涙が溢れた。

 

止まらなかった。

 

声を上げて泣いた。

 

じいちゃんは、何も言わなかった。

 

ただ、俺の頭に大きな手を置いて、何度も何度も撫でてくれた。

 

その手は、ごつごつしていて、温かかった。

 

泣き疲れて、しゃくりあげながら歩き出した時、じいちゃんがぽつりと言った。

 

「生き残ったやつには、生きる責任がある」

 

「……責任?」

 

「立派に生きろってことだ。お前の分も、お前の父さん母さんの分もな」

 

その言葉は、すぐには理解できなかった。

 

でも、不思議と胸に残った。

 

それから少しずつ、俺は外に出るようになった。

 

学校にも戻った。

 

最初は怖かったし、しんどかった。

 

でも、そこには彩葉がいた。

 

「だいじょうぶ?」

 

その一声が、どれだけ嬉しかったか分からない。

 

じいちゃんは毎朝変わらず朝飯を作ってくれた。

 

「ほら、冷めるぞ」

 

その一言に、何度救われたか分からない。

 

鏡の中の自分を見つめる。

 

あの頃の俺は、もういない。

 

でも、確かに俺はここにいる。

 

じいちゃんに支えられて。

 

彩葉に支えられて。

 

たくさんの人に支えられて。

 

そして今は、かぐやがいる。

 

「……諦めらんねぇなぁ……」

 

鏡の中の俺にそう言って俺は歩き出すと、ピロンとポケットから通知音が鳴った。

 

 

 

 

「…………ねぇ、かぐや」

 

私が恐る恐るで声を出したというのに、かぐやは寝っ転がりながらじゃんけんで蟹と遊んでいた。

 

「チョキー。これはあいこー、運が良かったな」

 

「卒業ライブするんだよね」

 

「するよー。さあ、次が最後の勝負だ。何が出るかな、何が出るかな」

 

「新しい曲……作る?」

 

「え!?」

 

途端にがばりと起き上がるかぐや。

 

「マジ!?いいの?新曲、作ってくれる?」

 

「うん、いいよ」

 

「やひゃふ~!!やほやほっ、ひゅ~!!」

 

防音の効いたマンションに引っ越してきてよかった。

かぐやは狂気じみた顔で、万歳三唱をかました。

 

「うまくできるか分かんないけど、どんなのがいい?」

 

「あの途中で終わってた曲!」

 

「え?」

 

イメージを聞いていたつもりだけど、まさか曲自体を指名されるなんて思わなかった。

 

「ほら!これこれ!」

 

かぐやがモニターを突き破る勢いで指さしてきたのは、『タイトル未定(彩葉と共作)』

 

よりによってこれかと、胃袋がずくんと重くなったけど

 

「わかった」

 

私は深く、自分に応えるように頷いた。

 

 

 

 

「じゃあ……ちょっと集中するから」

 

かぐやにそう宣言して、私は自室に籠る。

鍵盤にゆっくりと指を添えてから一呼吸。

思うままに走らせると、心地よい高音が躍り出る。

 

━━━形無しで成功するのはホントに一握りや。楽しんでる場合やあらへん。

 

母にそう言われてから、ずっと封印してきたピアノ。

でも、本当にその言葉だけが、ピアノから離れた理由だったのだろうか。

 

━━━彩葉。

 

低音のリズムに紛れるようにお父さんの声が聞こえてきた。

鍵盤に触れると、いつもお父さんを思い出す。ピアノの音はお父さんの声だ。

鍵盤は、お父さんの指。

その上に引く赤い布は、お父さんの髪の毛かな?

お父さんはピアノを弾く私の横でいっぱいお話を聞いてくれた。

 

ピアノに触れるという事は、死んだお父さんの思い出と向き合うという事だ。

幼い私はそれが怖かったのかもしれない。

そんな私を開放してくれたのは…………。

 

『音楽は、自由に楽しむんだろ?』

 

『確かに!ヤチヨのライブも楽しかった!!』

 

両の指が、勝手に速度を上げていく。

 

ねぇ、お父さん。私、大切な人ができたよ。

とってもかっこよくて、とっても優しくて、ずっと隣にいてくれて、私を支えてくれる人。

とっても可愛くて、とってもだらしなくて、優しくて我儘で、腹が立って、笑顔をくれる人。

 

ねえ、お父さん。聞こえてる?

 

私はお父さんの事を何も知らない。

一緒に過ごしたのは数年だし、記憶の中ではいつも笑っていて、誰かの為に心を砕く姿ばかり。

そういう所は今の朔夜に似ているけれど、お父さんは怒ったり悲しんだり、苦しそうな姿は終ぞ見せなかった。

 

「ねぇ……お父さん」

 

指を止めると、無音を奏でて、部屋には沈黙が広がった。

 

私、もう大事な人を失いたくないよ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

俺は、彩葉にメールで呼ばれてツクヨミ内のミーティングルームに集まった。

俺以外にも、綾紬と諌山。黒鬼の面々まで。

そしてさらにさらにはヤチヨまで。

 

俺は彩葉がかぐやの事について話しだすのを止めなかった。

分かってた訳じゃないけど、そんな予感はしていたから。

 

「かぁ~~、かぐやちゃんが本当に月のプリンセスとは…………分かるっ!」

 

朝日さんは何を言ってるんだ。分かるんかい。

 

「ヤチヨ、あいつらのログインを止める事は出来ないか?」

 

「…あ、調べてみたけど、どっからアクセスしてるかも分かんないの。ごみ~ん」

 

ツクヨミの管理人であるヤチヨですら無理となると、その線は諦めたほうが良いな。

 

「じゃあ、ライブも中止してかぐやちゃんが一生ログインしなければいいんじゃない?」

 

「ライブはやる」

 

俺は綾紬の提案に即答した。

 

「朔夜?お前らしくないな。言葉強いぞ」

 

「あ、すみません朝日さん。綾紬、ごめん」

 

「別に私はいいけど……なんで?」

 

「なんでここにかぐやがいないと思う?かぐやは帰る気まんまんなんだ。それをかぐやに言ったとしても、かぐやは是が非でもライブをやると思う」

「それに、彩葉がせっかく作曲してくれてんだ。かぐやに歌ってもらわなきゃだし」

 

あ、これ言わない方が良かったかも。

彩葉がなんかこっち見てくるけどスルーで行こう。

 

「ツクヨミなら好都合じゃない?」

 

俺の隣に座ってた乃依が発言した。

 

「彩葉は、その為に俺達を呼んだんだろ。任せとけって。宇宙人だろうが、なんだろうがここに来た時点で一番強いのは俺達だ。力ずくで叩き潰す。あいつらが月に帰らせたくなくなるまでな」

 

朝日さんは、一人だけこの空気感の外側にいるようだった。

常に、余裕があるというか大人って感じだ。

 

「「俺(私)もやる」」

 

俺と彩葉の声が重なって、心臓が少し跳ねた。

彩葉と目を合わせて、頷きあう。

 

「「……お願いします」」

 

出来る限り深く、俺と彩葉は頭を下げた。

 

「よっし!じゃあ準備だな、乃依」

 

「え~あれ?めんど~」

 

朝日さんの感じだと、なにか仕掛けがあるのだろうか。

そして、それを乃依は面倒くさいと考えている。

この一瞬で俺のIQ54万が、弾き出した答えは……。

 

 

 

「リーダーはぜった「頼む乃依!!お前がいないとダメなんだ!!!」…………」

 

 

 

必死にお願いする!!

 

「あ、あの……さっくー…………ちか//」

 

この真剣なまなざしでも無理なのか。ならば!

 

ガシッ!!

 

「お前が必要だ!!…………だめ、か?」

 

乃依の両手を俺の両手で抱きしめる!!

どうだ!お願いされてる感が強まっただろう!!

そして出し惜しみにかぐやのお願いの仕方をコピー!涙ウルウルである!

 

「っっ……!!分かった!やる!やるから!!ほら帝!行くよ!」

 

ふっ完全勝利。

 

「あらま~」

 

「神代君、すごいね…………」

 

「「……………………」」

 

なぜか若干二名から絶対零度な視線が来た気がするが、多分気のせいだろう。

ここにいる全員、優しいし。

 

 

 

 

 

 

その後、それぞれがそれぞれの考えの元、ログアウトしていった。

最後に残った俺もログアウトしようとしたけれど。

 

「さ~くや」

 

ヤチヨに呼び止められた。

そう言えばヤチヨはさっきの会議中、ずっとどこか上の空だったような気がする。

 

「ブレスレット、似合ってるね~」

 

「…………え?」

 

ヤチヨが指さした俺の腕を見ると、そこには銀色のブレスレットが輝いていた。

現実の物は、基本的にツクヨミには持ち込めない。

ツクヨミはそもそもヤチヨの管理下であり、危険物などを排除しているらしい。

 

「ヤチヨが認めたって事か?」

 

「ん~?なんの事~?」

 

(ヤチヨはこれについて何か知ってるのか?)

 

「なぁヤチヨ………」

 

「朔夜の疑問には、答えられないかも。ごめんね」

 

ヤチヨに人差し指で唇を押えられて、俺の質問は遮られた。

ヤチヨは、いつものふにゃっとした笑みを浮かべたまま、俺の腕をじっと見つめた。

 

「でもねぇ、それはとっても大事なものだよ」

 

「……誰にとって?」

 

「朔夜にとって。かぐやにとって。彩葉にとって。………月にとっても」

 

さらっととんでもないことを言うヤチヨ。

 

「いや、月って」

 

「月は月だよ~」

 

答えになっていない。

ヤチヨはくるりと背を向けると、長い白髪を揺らした。

 

「そのブレスレットは、繋ぐもの。離れていても、見えなくても、ちゃんとそこにあるって証明してくれるもの」

 

「……繋ぐ」

 

「だから、なくしちゃだめだよ」

 

珍しく、ヤチヨにしては冗談めかさない声音だった。

俺は自然とブレスレットに触れていた。

ひんやりとした感触が、皮膚越しに伝わる。

 

「あとね」

 

ヤチヨは振り返る。

その笑顔は、どこか少し寂しそうだった。

 

「かぐやの事、絶対に笑って送り出してあげて」

 

「負けたらの話……だよな」

 

「…………うん」

 

「……分かってる」

 

「ほんとに~?」

 

「ほんとだよ」

 

「ならよし!」

 

一瞬でいつもの調子にヤチヨは戻る。

 

「じゃ、管理人は忙しいのでこれにて失礼!王子さま!がんばってね~!」

 

「誰が王子だよ」

 

俺がツッコむ頃には、ヤチヨの姿はもう消えていた。

一人になったツクヨミのロビーで、俺はしばらく立ち尽くす。

 

「……姫を守るくらいなら、やってやるよ」

 

そう呟いて、俺もログアウトした。

 

 

 

 

 

 

 





「ちゃんと、渡してくれたんだ………」

「…………良かった~…………」

「…………()()()()()()()…………」

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