彩葉に男の幼馴染がいたっていいじゃない   作:ザワザワする人

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感想いつもありがとうございます!!
歌詞使用のガイドラインに違反してしまっていたらしく、ちょっとの間消えてました。
迷惑かけてごめんなさい~。




さよならは望月と共に

2030年の9月12日は、思いの外すぐにやって来た。

午前零時を過ぎた瞬間に、迎えが来るかと思っていたのはどうやら私だけでは無かったようで。

 

「朔夜……?」

 

「お、彩葉か。コーヒー飲む?」

 

「………うん、ありがと」

 

私はとりあえず、リビングのソファに腰かける。

数分経って、二人分のマグカップを持った朔夜がソファに腰かけた私の隣に座る。

 

「熱いから気を付けてな」

 

手のひらから伝わる温かさが、今は妙に嬉しかった。

 

「もう今日なんだよな~……」

 

「そうだね」

 

そんな適当な返事しか、今の私は返せなかった。

 

しばらく、二人とも言葉を失ったまま、静かなリビングに身を置いていた。

 

窓の外には、まだ深い夜が広がっている。

 

街灯の淡い光がカーテンの隙間から細く差し込み、床に細長い影を落としていた。

 

時計の秒針が、規則正しく時を刻んでいく。

 

その音が、いつもよりずっと大きく聞こえた。

 

「……眠れなかった?」

 

朔夜が、マグカップから立ち上る湯気をぼんやり眺めながら尋ねた。

 

「うん。朔夜も?」

 

「まあな。さすがに今日は」

 

そう言って、朔夜は小さく笑う。けれど、その笑顔はいつもより少しだけ硬かった。

きっと、私と同じように、平静を装っているだけなのだろう。

 

「かぐや、寝てるかな」

 

何となく口にすると、朔夜は即座に首を縦に振った。

 

「ぐっすりしてたよ。ちょっとだけ覗いたけど」

 

「……そっか」

 

想像しただけで、思わず笑みがこぼれる。

 

その姿があまりにも容易に浮かんで、少しだけ肩の力が抜けた。

 

けれど、胸の奥に沈んでいる重たいものまでは、消えてくれない。

 

「朔夜」

 

「ん?」

 

私はマグカップを両手で包み込みながら、恐る恐る口を開いた。

 

「怖く、ない?」

 

聞いた瞬間、自分でも子どもみたいな質問だと思った。でも、聞かずにはいられなかった。

朔夜は少しだけ視線を落とし、それから素直に頷く。

 

「怖いよ」

 

その答えに、胸の奥が少しだけ軽くなる。

自分だけじゃない。その当たり前のことが、今はとても心強かった。

 

「……そっか」

 

「かぐやがいなくなるとか、正直まだ想像できないし」

 

朔夜はコーヒーを一口飲んで、静かに続けた。

 

「だから、考えないようにしてる」

 

「考えないように?」

 

「ああ。今は、今日をちゃんと終わらせることだけ考える」

 

その言葉は、いかにも朔夜らしかった。

先のことを必要以上に憂うより、目の前にあることを大事にする。そういう人だ。

 

「卒業ライブ、絶対成功させる」

 

「そうだね」

 

「かぐやに、最高だったって言わせてやる」

 

「絶対、自分から言うよ」

 

「それもそうか」

 

二人で、小さく笑った。

その笑い声は、静かな部屋の中で柔らかく溶けていく。

 

「私は……ちゃんと笑えるかな」

 

ぽつりと零れた言葉は、自分でも驚くほど弱々しかった。

 

朔夜は、少しも迷わず答える。

 

「無理なら無理でいいだろ」

 

「え?」

 

「泣くなら泣けよ。かぐやの前なら、なおさらな」

 

その言葉に、胸の奥がじんわりと熱くなる。

 

「……朔夜も?」

 

「たぶん」

 

「たぶんじゃないでしょ」

 

「高確率で」

 

「それ、ほぼ確定でしょ」

 

「言うな~」

 

朔夜も笑う。

 

月明かりが照らす横顔を見ていると、不思議と安心する。

 

怖い気持ちは、なくならない。

 

寂しさだって、きっと消えない。

 

でも、それでいいのかもしれない。

 

大切だから、怖い。

大切だから、寂しい。

 

そう思える相手がいること自体、とても幸せなことなのだと今なら分かる。

 

今だからこそ言えるのかもしれないけど。

 

私はマグカップを口元に運び、少し冷めたコーヒーを一口飲んだ。

 

苦味と温かさが、ゆっくりと体の中に広がっていく。

 

隣には朔夜がいる。

 

それだけで、ほんの少しだけ前を向ける気がした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あっという間に、朝が来て、昼は過ぎ、太陽が沈んで夜がやってきた。

俺らは、配信部屋でライブの準備を始めていた。

かぐやは鼻歌交じりで、いつも通りといった感じだった。

 

「…………え?」

 

ふと彩葉が出した声に、俺は振り返る。

部屋一面を見渡すとかぐやが、いなかった。

 

「「かぐや!!!!」」

 

「何?」

 

机の下から、ひょっこりとかぐやが出てきた。

いるんかい……ビビらすなっての。

 

「何してんだ、そんな所で」

 

「ん?これが落ちてたから拾ってた」

 

かぐやは人差し指でくるくると銀色のブレスレットを回していた。

 

「驚かさないで」

 

「彩葉、心配性~。はい、これあげる」

 

かぐやは、ついさっき拾いあげたばかりのブレスレットを彩葉に差し出した。

 

「ヤチヨが言ってたんだ。こういうのは大切な人にあげなさいって。だから、彩葉!朔夜は何かパクリ持ってるしいいでしょ!」

 

「パクリて、まぁめっちゃ似てるけど」

 

「…………ありがと」

 

彩葉は丁寧に、それを両手で受け取ってから右腕につけた。

 

ピピピピ

 

それと同時に、俺がかけていたタイマーの音が鳴った。

 

「そろそろだな」

 

「おっけい!じゃあ三人で手、繋いでいこ!」

 

「なんでまた……」

 

「いいからいいから!」

 

そうして俺らは三人で輪を作り、そして同時に瞳を閉じた。

 

 

 

 

 

 

ライブ会場の控え室で、俺と彩葉は本番が始まるのを待っていた。

 

(集中……集中……)

 

彩葉はここまでの期間で新曲を作り上げた。

その期間、俺は何をしていたかというと特訓である。

黒鬼の全員とのぶっ続けの稽古試合。なんとか全員に五分五分で勝てる程には持って行けた。

 

かぐやは先程、ヤチヨが特設ステージへと連れていった。

今頃、KASSEN仕様のステージに目ん玉を飛び抜かしているだろう。

ちなみに、俺とヤチヨ監修である。

ステージ作るなんて初めてだったからテンション爆上がりしたのは、彩葉には秘密。

 

「ただいま~☆」

 

何の前触れもなく、ヤチヨが現れる。

もはや慣れてきたな。

 

「お帰りヤチヨ、かぐやは?」

 

「喜んでたよー。燃える!ってさ」

 

「「そっか。ありがとヤチヨ」」

 

「どいたしましての、板挟み~☆」

 

飛び切りのウインクを決めて、空間に星を飛ばすヤチヨ。

……ウインクなんて恥ずかしくないんだろうか。なんで俺だけ恥ずかしがってんだこれ。

 

「………もし私がヤチヨだったら、かぐやは帰りたくないって言ってくれたのかな」

 

……ま~た、彩葉は……。

 

「…………え?」

 

ほら、ヤチヨだってビックリしてるじゃん。

 

ってな訳でべしっ!

 

俺の伝家の右チョップが彩葉の頭に命中した。

 

「い、痛!」

 

「な~に言ってんだ彩葉」

 

「だ、だって…………」

 

彩葉は言葉を詰まらせる。

視線は床に落ちたまま。

俺は小さくため息をつく。

 

「彩葉」

 

「……なに」

 

「かぐやがここまで楽しそうだった理由、分かるか?」

 

彩葉は少しだけ考えて、首を横に振った。

 

「俺たちがいたからだよ」

 

「……」

 

「帰る場所があるから、思いっきり前に進めたんだ」

 

彩葉の肩が、ぴくりと揺れる。

 

「ヤチヨとライブしたりすんのが楽しくなかったわけじゃない。でも、それとは別だ」

 

俺は彩葉の額を、軽く指で弾いた。

 

「かぐやにとっての帰る場所は、ずっと俺たちだったんだよ」

 

「……朔夜」

 

「だから、そんな顔するな」

 

俺は笑う。

できるだけ、いつも通りに。

 

「かぐやは絶対こっちに帰ってくる。帰りたくて仕方なくなるくらい、最高のライブにしてやればいい」

 

彩葉は目を瞬かせる。

それから、ふっと笑った。

その笑顔で、さっきまで胸を締め付けていた俺の不安が少しだけ和らいだ。

 

その時、控え室に開始五分前を知らせるアナウンスが響く。

空気が、一気に引き締まった。

俺は立ち上がり、彩葉に手を差し出す。

 

「行くか」

 

彩葉はその手を見つめて、迷わず握った。

 

「うん」

 

その手は少し冷たかったけど、握り返す力はしっかりしていた。

 

「かぐやに、最高だったって言わせようぜ」

 

「自分から言うよ、絶対」

 

「それもそうだな」

 

扉の向こうから、もう歓声が聞こえる。

俺たちは顔を見合わせ、同時に笑った。

今日が、最後じゃない。

これは、かぐやの新しい始まりだ。

そして俺たちの、大切な一日だ。

 

「行こう、彩葉」

 

「うん、朔夜」

 

俺たちは、光と、かぐやが待つステージへと歩き出した。

 

 

 

 

『何という急展開!突如ツクヨミに現れたフリーダム、超新星のかぐやの卒業ライブ!泣いてる場合じゃないぜ、最後のファンサだ!目に焼き付けろぉ!!』

 

かぐや推しを公言する忠犬オタ公が、泣くなって言いながら明らかに涙交じりの怒声を響かせる。

KASSENフィールドに詰めかけたファン達も、歓声を吐き上げる。

そして、会場とモニターで閲覧しているツクヨミの住人達の興奮が最高潮に達し、ステージに幾千ものスポットライトが灯された。

 

「みんな、ありがと~!!」

 

今日の主役の、かぐや姫のご登場だ。

 

「今日でお別れなんだけど、悲しくとか、しんみりとかはしたくないんだ!みんなでお見送りしてハッピーに卒業させて!」

 

かぐやの呼び声にファンがコールで返し、それと同時に空間を突き破るかのように空に数百の花が咲き乱れる。

うわ~お。あの白タイツ集団が、揃い踏みだ。

 

「さぁ、盛り上げてこうぜ!!」

 

「………勝つだけだ」

 

「けっこー面白そうじゃん」

 

俺の後ろから、黒鬼の三人が声を上げる。

 

「かぐやちゃーん、いぇーい!」

 

「かぐや~見て見て~!」

 

綾紬と諌山も、元気に彩葉の隣からかぐやに声は上げる。

 

『鬼あちー!!かつて鎬を削った黒鬼が、かぐやのラストライブに駆け付けたぞ!!』

 

観客の人たちからしたら予想外のゲストに、更なる大盛り上がりを見せる。

綾紬と諌山の声はかぐやには届かなかったけど。

 

「「かぐや」」

 

リアルで隣にいる俺達は別だ。

彩葉が、目を開けて、肩に手を乗せ、かぐやの耳に口を近づける。

 

「ライブの余興と思ってよ。私達は私達で精いっぱいやるから。万が一、勝っちゃったら…………」

 

「はいはい、パンケーキ何段をご所望ですか?」

 

「朔夜、彩葉…………」

 

かぐやも俺らのように、瞼を開いた。

暗い部屋で、オレンジ色に光る眼を合わせ、かぐやは俺達の手に自分の手を重ね、

 

 

「そっか……そっか……みんな自由だ!!」

 

 

ひまわりの様な笑顔でそう言った。

 

 

 

 

 

その笑顔が、どうやら合戦の合図のようだった。

敵の白タイツはどうやらミニオンのようで、俺らの様なプレイヤーは別にいた。

まさしく七福神を形どり、どこか神聖さすらある。

 

だが、ちゃんとルールはKASSENに従っているようで残機もある。

なら、俺らに勝ち目は十分ある。

俺と乃依は櫓に乗り込み、初手の白タイツを追っ払う。

俺らの中で遠距離攻撃が出来るのは、俺と乃依だけだし責任重大だ。

 

 

「きもいな~あいつら」

 

「ほんとにね」

 

 

会話はそれだけで終わった。

乃依の矢と、俺の銃弾がツクヨミの夜空を埋め尽くす。

ある程度の掃討が終わると、本命の七福神が表に出てくる。

 

「乃依、朝日さんの方行け」

 

「りょ」

 

黒鬼は、三人の方が強い。

俺もそれは分かってる。

俺も櫓から離れて、人型の月人に近づいた。

 

「こっちのルールでやってくれるなんて優しいじゃん」

 

俺が話しかけても、そいつは最初黙っていた。

その代わりなのか、シンバル型の武器を振り回してくる。

 

「なんでかぐやを連れて帰ろうとする?お前ら仕事できないん?」

 

俺が煽り続けていると、そいつの動きは更に激しくなった。

でも、それはただの隙だな。

ちょっと戦った感じ、こいつらは身体能力でごり押してくるタイプだ。

技術はほぼない。

なら……。

 

こつん

 

銃を上手く空中で操作し足払いをかけると、そのままひっくり返った。

 

「ワンキル」

 

「陬丞?繧願?!!!!」

 

頭を打ち抜くと、そいつはよく分からん事を口にしながら光となって消えていった。

 

(な~に、言ってんだか)

 

俺は一旦、櫓に戻り再び制圧を始めた。

 

 

 

 

 

 

何発撃っただろうか。

何人の白タイツを打ち抜いただろうか。

 

(くっそが………ジリ貧もいいとこだな………)

 

どれだけ引き金を引こうが、無尽蔵にあの月人は湧いて出てくる。

綾紬と諌山は落ちた。さっきの復活で、乃依と雷さんの残機ももう無くなった。

俺、朝日さん、彩葉はまだ一つだけ残機があるけど、敵の七福神の残機はこちらの倍近くある。

 

「陬丞?繧願?!」

 

「陬丞?繧願?!!」

 

あとなんか俺へのヘイトがえぐい。

常に大量の白タイツと複数体の七福神が、俺を狙い続けてくる。

 

「俺はかぐやじゃないんですけどぉ!!」

 

俺が空中を飛べなかったらマジで秒で残機がなくなっていた。

あとお前ら七福神普通に飛ぶなや!俺のアイデンティティが!

 

「いやでっか」

 

逃げていた俺の前に巨大な獣が唐突に出現した。

 

(やっべ当たる!)

 

慣性のままに、俺がその怪物に当たる事はなく。

 

「おらぁぁぁ!!!」

 

朝日さんの怒声が響くと同時に、巨大獣は空の彼方へと飛んでった。

ここまでの力は朝日さんには、それどころかどのプレイヤーにもない筈だ。

じゃあ、一体どうやって………。

 

『チートモードだぁ!たった今、ブラックオニキスの帝アキラ、雷、続いて乃依にもチートモードの使用が確認されました!!』

 

チート……?

朝日さんが乃依にやらせようとしてたのは、これだったのか。

チートモード。ツクヨミ側から自動的に赤BANを食らい、全てを失う可能性すらある。

 

(俺は乃依に何させてんだ………)

 

あの時、準備と言ってもここまでの事をするとは思わなかった。

嫌がっていた乃依を、俺は冗談交じりで軽くお願いして……。

 

 

(勝つ………)

 

 

もう、それしかない。

俺は急停止して、後ろから迫ってきていた二体の七福神へと接近する。

二体の武器は、琵琶と錫杖。

遠距離から最大出力で吹っ飛ばすのが最適でも、こいつらの反射神経じゃ避けられる可能性が高い。

同時に、ゼロ距離で最大出力。それしかない。

 

「かかってこいよ」

 

俺の言葉を理解したのか、二体は同時に俺へと迫ってくる。

左から琵琶が、右から錫杖が迫る。

 

「はっやいな、おい!」

 

ギリギリで回避を続ける。

反撃はしない。少しのクールタイムでもタイミングを逃す可能性がある以上、使えない。

 

(こいつら、もしかして………)

 

回避している中で、一つの疑問が生じる。

 

(釣るか)

 

俺はわざと、左腕を体の前へと突き出した。

二体は、俺の体を狙わずにただその左腕を切り落とそうと動いてくる。

 

(やっぱりな)

 

こいつらは俺の左腕を狙ってる。

左腕ってよりかはこのかぐやのに似てるブレスレットだろうけど。

 

(やりやすい事、この上ないね)

 

「欲しいなら、くれてやるよ」

 

俺は左腕を、わざと大きく突き出した。

二体の七福神が、まるで吸い寄せられるみたいに同時に飛び込んでくる。

 

琵琶が唸り、錫杖が閃く。

狙いは、完全に俺の左腕。

 

「単純すぎんだろ」

 

俺は左腕を引き、身体を半回転させ、体ごと上下をひっくり返す。

二体の攻撃は空を切り、その勢いのまま互いの懐へ入り込んだ。

俺は空中で逆さまになりながら、あっけらかんに取られた二体を笑う。

 

「今だ」

 

両の銃口を、それぞれの額へ押し当てる。

距離、ゼロ。

 

「ダブルキル」

 

金色の光となり、二体の七福神は消えた。

けれど、

 

「……っっ!」

 

地面から、体を積み重ねてきた白タイツに俺は頭を掴まれた。

そいつからもさらに白タイツは上がってきて、抵抗虚しく、俺の体は完全に固定される。

クールタイムは、終わってない。

 

「くそが」

 

リスポーンが終わったであろう巨大獣の赤い槍によって、俺の体は貫かれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

KASSENのリスポーン時間は、撃破数、生存時間に比例して伸びる。

残り三十秒。

 

「彩葉!ここはいい!行け!!」

 

「━━━━っ!」

 

KASSENのリスポーン待機時間では、プレイヤーは空中から全ての場所を観察できる。

チートモードを使用した雷、乃依も大軍に敗れ、復活はもう出来ない。

かぐやの元へと妹を送らせる為、酒寄朝日は殿を務めた。

 

「…………かぐや」

 

が、その努力も虚しく、酒寄彩葉は月人に囲まれ足を止めた。

かぐやもまた、月人に囲まれ、歌を終える。

一人の月人が、かぐやの前に跪き、誠意を表した。

 

残り十五秒。

 

「はるばるようこそ」

 

「逃げちゃってごめん。でも、すっごい、すっごい楽しかったんだ」

 

顔を上げた月人の月人に感情はない。

そしてかぐやは、一歩ずつ歩みだす。

実体化された光る雲に乗り込み、七福神、月人、そして相棒の犬DOGEを引き連れて。

ゆっくりと空へ、ツクヨミの月へと向かい。

 

残り五秒。

 

「雷さん!あの仕掛けは!!」

 

「……あそこだ」

 

リスポーン待機空間からの神代朔夜の叫びに、雷は寡黙に答えた。

 

残り三秒。

 

「最高の卒業ライブでした!!」

 

残り二秒。

 

「いっぱいお土産もらっちゃった!みんなありがとう!!」

 

残り一秒。

 

空中から桃が降り、神代朔夜は残機0で復活する。

誰もが、かぐやに注目しその存在に気づかない。

誰もが、敗北を認め、動けない。

 

雷霆の如き速度をもって、神代朔夜は加速し、ある一地点へと向かう。

目指すは先ほど雷が示したあの場所へ。

 

(ここ!!)

 

神代朔夜は自らの真下の地面に、弾を撃ち込んだ。

 

 

 

ドォォォォォォン!!!!

 

 

 

爆発が、更に爆発を呼び、辺りに粉塵が舞い、爆風が広がる。

その爆風を自らの武器で受けながら、神代朔夜はまさしく爆速的な加速を可能にした。

 

 

「かぐやぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」

 

 

もっとも、近づこうが何も出来ない。

かぐやの周囲には、大量の敵がいる。

それらに抗う術を、雲への接近の為に武器をほとんど消費した神代朔夜は持ち得ていない。

そうであっても、神代朔夜は自らの体を動かし、光る雲へと追いついた。

 

 

 

「クソが!離せ!!」

 

 

それは慈愛かあるいは侮辱か。

月人は神代朔夜の両手両足を固定し、かぐやへの道を開いた。

 

「………朔夜~。そんなにかぐやに会いたかった~?」

 

「ふざけんな!俺は勝ちに来てんだよ!!」

 

かぐやのこぼした笑みに、神代朔夜は怒りを隠せない。

そこには無力な自分への怒りが大部分である事は言うまでもない。

 

「…………ありがとね、朔夜」

 

かぐやは、そう言って笑う。

その笑顔はいつもと同じように、明るく、眩しく、かぐやらしさで溢れていた。

 

「……何笑ってんだよ」

 

「朔夜が、すっごい顔してるから」

 

「うるさい」

 

月人に押さえられ、膝立ちにされながら、神代朔夜は顔をしかめる。

悔しさも、怒りも、寂しさも、全てを隠さず公にしながら。

 

「ねえ、朔夜」

 

「……なんだ」

 

「動かないでね」

 

「は?」

 

そっと、かぐやの指が朔夜の前髪をかき上げる。

 

柔らかな唇が、朔夜の額に触れた。

 

しかしその温もりは、焼き付くように深く朔夜の脳に残った。

 

「——っ」

 

朔夜の目は大きく見開かれ、顔には興奮を示すように赤く頬を染めていく。

 

「な、なにして——」

 

朔夜が言い終わるより早く、背後の月人が静かに手刀を落とした。

 

「……は?」

 

視界が揺れ、月人が手を放し、朔夜は前へと倒れる。

崩れ落ちる朔夜を、かぐやがそっと受け止めた。

 

「……ごめんね」

 

「……かぐ、や……」

 

かすれた声を最後に、朔夜の意識は闇に沈んだ。

ツクヨミ内ではログアウトの動作が行われ、現実では眠りについた。

かぐやは現実で、眠りにつかされた朔夜の頭を優しく撫でる。

 

「おやすみ、朔夜」

 

現実で、改めてかぐやは彩葉へと話しかけた。

 

「…………彩葉」

 

呼ばれても、彩葉に返事はできない。

喉が詰まって、声にはならない。

かぐやは困ったように笑い、そっと彩葉を抱きしめた。

 

「ありがとね」

 

その一言で、彩葉の肩が震える。

 

「……っ」

 

「彩葉がいたから、私、ここまで来れた」

 

抱きしめる腕に、少しだけ力がこもる。

 

「ずっと、大好き」

 

彩葉は何かを言おうとした。

 

だが結局、一文字たりとも出てこなかった。

 

ただ、かぐやの服をぎゅっと掴むことしかできない。

 

かぐやはそんな彩葉の手を優しく外し、両手でそれを握りしめた。

 

「泣かないで、とは言わない」

 

その言葉に、彩葉の涙は一気に溢れた。

 

「でも、笑ってくれたら嬉しいな」

 

かぐやは最後まで笑っていた。

 

ひまわりみたいに。

 

ツクヨミの世界で彩葉は、その場から動けない。

 

手を伸ばすことも、呼び止めることもできない。

 

ただ、見上げるだけ。

 

かぐやは高く、はるか遠くに昇っていく。

 

最後に大きく手を振った。

 

「みんな、大好き!」

 

その声が、夜空に響く。

 

そして、光は月へと向かっていった。

 

小さく。

 

さらに小さく。

 

やがて、完全に見えなくなる。

 

静寂だけが残った。

 

彩葉はその場に崩れ落ちる。

 

隣には、眠ったままの朔夜。

 

「……かぐや」

 

名前を呼んでも、もう返事はない。

 

それでも胸の中にぽっかり空いた穴は、あまりにも大きかった。

 

夜空の望月だけが、ただ静かに輝いていた。

 

 




ちなみにここで、この作品は三つのルートに分岐します。
一つは今回の。
二つ目は、メリーバットエンド。
三つ目は、どちゃくそにバットエンドです。
完結したら書くと思います。
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