彩葉に男の幼馴染がいたっていいじゃない   作:ザワザワする人

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境界線の向こう側

じぃちゃんとばぁちゃんに軽く挨拶をしてから、俺はひとまずとある家に行くとした。

 

ピンポーン

 

呼び鈴が鳴り、その返答を待つ短い間でも汗が首筋を伝った。

 

インターホンから声が聞こえる事はなく、そのまま玄関を開けて、件の人は出てきた。

 

「顔を合わせるのは久しぶりやね。朔夜君」

 

「お久しぶりです。紅葉さん」

 

俺はそのまま家へと上がった。

そのリビングは、昔とそんなに変わらなかった。

 

「変な事言って、すみませんでした」

 

「あ~あの事?別にええよ。気にしてへん」

 

「いや、でも」

 

「じゃあ何?あんたは隣にいれへんの?」

 

「……いえ、います」

 

「ならええわ。行きたい所が他にあるんやろ?はよそっち行き」

 

何年かしたら彩葉もこんな風になるんだろうか。

こちらの言い分を全て見透かすような、そんな瞳で、そんな声色だった。

 

「失礼しました」

 

「今度は彩葉と来てな」

 

「…………善処します」

 

紅葉さんに別れを告げて、俺は本来の目的地に向かった。

獣道を辿り、山を登り、川を下り、橋を渡った。

多分、父さんも母さんもそうしていただろうから。

 

 

「着いた……」

 

 

神代家、合葬墓地

 

そう書かれた木の板に、俺は深くお辞儀をして、父さんと母さんの墓を探した。

神代家は古くから続いている家系らしく、その数は膨大だった。

二時間程たって、ようやく見つかった。

 

俺は近くに置かれていた桶を借り、水を汲んだ。

柄杓も一緒に持って、墓前へ戻る。

 

まずは、墓石の前にしゃがみ込み、周囲に落ちていた枯れ葉や小枝を拾い集めた。

長い間誰も来ていなかったわけではないだろうが、それでも風が運んできたものはいくつかある。

 

それを脇へ避けると、柄杓でゆっくりと水をかけた。

墓石の上から、流れるように。

何度か水をかけ、手で表面を軽く撫でる。ひんやりとした石の感触が、掌に伝わった。

 

「……久しぶり」

 

自然と、そんな言葉が漏れる。

続けて、花立ての古い水を捨て、新しい水に入れ替えた。持ってきた花を丁寧に挿し、線香に火を灯す。

 

風に消えないよう、手で覆いながら。

 

煙が細く、空へと昇っていく。

 

俺は線香を香炉に立て、静かに手を合わせた。

 

目を閉じる。

 

山の音が聞こえる。

 

風が木々を揺らす音。

 

川のせせらぎ。

 

鳥の鳴き声。

 

その全てが、やけに鮮明だった。

 

何を言えばいいのか、最初は分からなかった。

 

久しぶりすぎて、話したいことが多すぎて。

 

でも結局最初に出た言葉は、とても単純だった。

 

「……ただいま」

 

口にすると、不思議なくらい胸の奥が軽くなった。

 

それから色んな事を話した。

 

まずはやっぱり好きな人が出来た事。

 

色んなランキングで二位を取れた事。

 

色んな友達が出来た事。

 

有名人の護衛だってできた事。

 

子供を育てる経験をした事。

 

月から来たやつと戦った事。

 

語り出してはキリがない。

 

そんな思い出たちをゆっくりと、言葉にして伝えた。

 

オレンジ色に空が染まり出して、ようやく時間がどれだけ経ったが分かった。

 

「そろそろ帰らないと」

 

立ちあがって、再び墓石の文字と目が合った。

 

 

 

 

 

 

 

 

神代 八千代(やちよ)

 

神代 (みつる)

 

 

 

 

 

 

 

「俺を、()()()()()()ありがとう」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………できた」

 

睡眠と食事以外の時間をほとんど注いで、それは完成した。

 

「お父さん、ありがとう」

 

出来たばかりの、まだ脈動している曲を抱きしめて立ち上がった。

窓を開け、月明かりに照らされているバルコニーに裸足で進む。

かぐやから受け取ったブレスレットを両手で抱えて、夜の空気を吸い込んだ。

 

「━━━昨日の続き━━━喋りたかった━━━くだらんくても━━━ちょうどよかった━━━本音を聞かせて━━━━ただ叶えてみたいから━━━」

 

何度も何度も繰り返して歌い続けた。

 

月のかぐやを思いながら。

 

三人での日常を思いながら。

 

いつのまにか、二人で歌っていた。曲覚えがいいね、かぐや。

 

かぐやと一緒に歌っていた。空耳じゃない。確かに聞こえる。

 

笑っている。駆け出している。歌おう、何度でも。

 

私はまた歌い始めた。

 

「何、この声……?」

 

聞こえる筈のない、三人目の声が聞こえてきた。

 

何だ、これは。私とかぐやだけの世界に入り込む、三人目の声。

 

誰の声だ、なんて思わない。

 

私がこの声を間違える筈がないから。

 

でも、どうして彼女の声が。

 

 

「え…………?」

 

 

また別の、四人目の声が聞こえてきた。

 

少し私達より低くて、頼りのある声。

 

もちろん、聞き間違える筈がない。

 

 

「━━━━━あ」

 

 

その時、夜空に星が流れた。

 

誘われるように私の頭にも流星が走る。何個も。何個も。

 

それは無数の閃きとなり、頭の中を隅々まで照らし出す。

 

おかしいと思っていた。最初からずっと。

 

音楽を捨てた筈の私が、なぜ彼女の曲に魅かれたのか。

 

彼女の曲は、なぜここまで深く私の心に染み込んだのか。

 

彼女はなぜ、私の作った曲と同じメロディを歌っていたのか。

 

そしてなぜ、いつもこの先の運命を知っているかのように、静かに笑ったのか。

 

全ての『なぜ』が一つに収束し、

 

 

 

 

 

「ヤチヨ……」

 

 

 

 

 

私は、私の女神の名を呼んでいた。

 

 

 

 

 

 

「ヤチヨは最近どじょう掬いを練習してるんだー。すっごい面白い踊りだから紹介するね~。じゃ、いくよ。あ、それっ♪あ、よいしょ♪」

 

ツクヨミに潜ったのは、かぐやの卒業ライブ以来だった。

 

往来のモニターにはいつものように、ヤチヨの配信が映し出されていた。

 

笑ってる人もいるけど、あれは再放送だ。

 

私には、分かる。

 

やっぱりヤチヨ()()何かあったんだ。

 

確かめようにも電話もメールも通じない。

 

…………朔夜にも、通じない。

 

「━━━ん?」

 

何だ、今の。視界の端で何かが動いた。

私に気づいたように逃げていく。咄嗟に追いかけた。

 

「待って!なんであんただけで!」

 

こんなに早く動けたのか。袋小路に辿り着いてようやく止まった。

 

「どこにいるのか、教えて」

 

私はようやく止まったFUSHIに向かって尋ねた。

 

「…………」

 

FUSHIは黙ってこっちを振り返った。

口を噤んだままじっとこちらを見つめ返してくる。

返事をするつもりはないようだ。なら、結構。

 

「自分で探すよ」

 

そう言って、踵を返すと

 

「ばかたれ」

 

ようやくFUSHIが口を開いた。

 

「どこを探すって?」

 

「教えてくれないなら、世界中」

 

「…………目を開けてみろ」

 

瞼を開くと、

 

「こっちだ」

 

何で?FUSHIが、部屋にいる。

 

スマコンのAR機能がONになっている事にすぐ気がついた。

 

考えている暇はなく、部屋着のまま追いかけて外へ飛び出した。

 

角を曲がり、坂を下り、電車を使ってまで、私をとあるマンションの一室にまで導いた。

 

鍵は、開いている。

 

ゆっくりと扉をあけると。

 

 

「お、来た」

 

 

じっとりと籠った熱と同時に、幼馴染の声に迎えられた。

 

「さ、朔夜!?連絡出てよ!!」

 

「ごめんな。ちょっとの間出れなくて」

 

ちょっとじゃない。

朔夜が出ていってから、ずっと何を送っても反応してくれなかった。

 

そんな私の心配を無視して、朔夜はFUSHIに声を掛ける。

 

「ありがとな。FUSHI」

 

朔夜は、ここが分かっていたのだろうか。

もしかして、実家に帰るっていうのも全部嘘?

ヤチヨの居場所も、もしかしたら…………。

 

「彩葉。疑問は尽きないだろうけど、落ち着け」

 

朔夜は、私をなだめるように声を掛ける。

 

「ここから、ツクヨミに入れ」

 

FUSHIは、急かすように私達に声を掛けた。

私は、朔夜に右手を握られる。

 

「……彩葉、一緒に行こう」

 

「…………うん」

 

また、隣だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………」

 

そこは、初めて見る部屋だった。

 

無数の灯篭が鈍く光っており、微かに聞こえる風音から相当な高階層である事が分かる。

 

特別で居心地がよさそうで、でも少し寂しい部屋。

 

誰かの私室なのだろう。

 

多分、今目の前で背を向けて座っている、誰かの。

 

 

「…………かぐや」

 

 

長い髪を床に広げた後ろ姿が、かぐやに見えた。

 

かぐやに、似ていた。

 

でも、振り返ったのは。

 

 

 

「ヤチヨ」

 

 

 

━━━だった。

 

私は、私の中で天啓の様に舞い降りたバカげた推論をツクヨミの歌姫に投げかけた。

 

 

「ヤチヨはかぐやなの?」

 

 

「…………」

 

「変なことを言ってるのは分かってる。でも………」

 

ヤチヨは驚いたように目を丸くした後、薄く微笑んだ。

そうしてゆっくりと立ち上がる。

 

「今は昔━━━」

 

そして、語った。

 

「月に帰ってばりばり社畜してた、えらえらかぐや姫のところに歌が届きました。それは仲良し三人の為に作られて、仲良し三人だけの歌」

 

私の歌だ。

 

「かぐや姫は大喜び。それで、もっかい地球に行こ~って爆速ですっかり片づけて、引き継ぎもかんりょ~」

「ただ、地球の時間では大遅刻。でも安心。月の超テクノロジーは時間も越えられます。でも、もう少しの所ででっかい石に当たっちゃったの」

 

…………。

 

「いや~やっぱりタイムトラベルとなると制御が激ムズでね~。舟は致命的なダメージを負って、難破寸前。ヘロヘロでたどり着いたのは、8000年前の地球でした」

 

…………。

 

「壊れた舟の僅かな力で、同行してた犬DOGEだけが体を得ました。たまたま近くを泳いでたウミウシになれたのです。かぐやはウミウシを通してだけ、世界と交流を持てました」

 

━━━私は、何を聞かされているのかよく分からないまま、立ち尽くしていた。

私の隣をちらりと見る。

朔夜は全部を見透かしたような目で見ていた。ただ、ヤチヨを見ていた。

 

「時は経ち、人は見えないものを形にし、多くの人とつながる力を手に入れた」

「それは月の世界と少し似ていて、かぐやは初めて、魂だけの自分が世界と関わる可能性を知りました」

「そして…………仮想世界ツクヨミの歌姫として再び彩葉と出会える事が出来ました」

 

…………私と?それって…………。

 

「うん、()()()

 

「じゃあ、朔夜とは…………」

 

「俺は、ツクヨミが出来る前、小さい頃にヤチヨと会ってた」

 

朔夜がここにきてから、初めて口を開いた。

 

「…………朔夜とは、もう会ってたの」

 

「つってぇ~、これじゃあ手放しでめでたしめでたしとはならないか~~~。やっぱ♪」

 

おちゃらけたように笑った。いつものヤチヨみたいに。

 

 

 

 

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 

 

 

()()()()()()()()()()?」

 

「…………ん~?」

 

ヤチヨは首をコテンと傾げて、分からない風にする。

 

「なんで…………私には会いに来てくれなかったの?なんで朔夜だけ…………分かったの?」

 

もうヤチヨはかぐやという事にしよう。

一旦それで確定しよう。じゃあなんで。

 

 

()()()()()()()()()()()()()?」

 

 

また同じ疑問をヤチヨにぶつける。

 

答えたのは、ヤチヨじゃなかった。

 

FUSHIでもなかった。

 

私の隣にいた朔夜自身だ。

 

ふぅ~~……………………」

 

朔夜は大きく息を口から吐いて、吸い込んだ。

 

そして、少しヤチヨの方に歩いた。

 

振り返って、私の方を見る。

 

 

「彩葉」

 

 

「…………うん」

 

 

朔夜のまっすぐな瞳に、私は頷きを返した。

 

 

 

「結論から言う」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「俺は、月人だ」

 

 

 

 

 

 

 

 

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