彩葉に男の幼馴染がいたっていいじゃない   作:ザワザワする人

21 / 35
感想いつもありがとうございます!!
彩葉の脳破壊前にお茶を濁していきましょう。



初めまして

今は昔、地球から遠く離れた月という星に、小さな姫がいました。

 

その御方は大層、可愛らしく、月の民からも可愛がられました。

 

その笑顔に皆が惹かれ、その活気あふれる様子に月の民も元気をもらっていました。

 

ですが、やがてそんな姫も育ち続け、いつの間にか仕事をする年齢にまで至りました。

 

傍から見れば幼子でも、姫は仕事へと一生懸命励む。

 

姫もそのつもりでした。

 

ですが、仕事は姫の想像を遥かに超えて退屈なものでした。

 

姫は、仕事場から抜け出す事が増えました。

 

時には障子を突き破り、時には畳の下に穴を作り、時には変装をしたりもしました。

 

それに困った偉い人々が、とある策を練りました。

 

監視役を付ける事にしたのです。

 

月人の中から最も仕事ができ、最も面倒見の良い者を選び、その者を監視役にする事にしました。

 

「お初にお目にかかります、姫」

 

「よろしく~!!」

 

恭しく頭を下げたその者は、姫に笑顔で迎えられました。

 

「姫!逃げてはいけません!仕事が終わっていません!!」

 

「い~や!一緒に遊ぼ~」

 

姫は自分の仕事を、ずっと一人で行ってきました。

 

隣に、誰もいなかったのです。

 

姫は、ずっと、寂しかっただけなのです。

 

「……仕方ありません。少しだけ、ですよ」

 

監視役は深いため息をつきながらも、姫の差し出した手を取った。

 

その日から、姫は仕事場を抜け出すたびに、監視役も一緒に連れ回しました。

 

庭を駆け回り、池の魚に餌をやり、月の兎を追いかける。

 

監視役は最初こそ困り果てていたが、やがて姫の笑顔を見るたび、叱る言葉も少なくなっていった。

 

「姫、本日はどこへ行かれるおつもりで?」

 

「んー……秘密!」

 

そう言って駆け出す姫を、監視役は慌てて追いかける。

 

月の民は、そんな二人を見て笑った。

 

姫は変わらず元気で、以前よりもさらに楽しそうだったからだ。

 

お偉い方々も、姫の仕事は全て終わっている為、何も言えませんでした。

 

そして監視役もまた、以前より柔らかな表情を見せるようになっていた。

 

けれど、楽しい時間ばかりは続かない。

 

ある日、姫はふと尋ねた。

 

「ねぇ、どうしていつも一緒にいてくれるの?」

 

監視役は少しだけ目を丸くし、それから静かに答えた。

 

「それが私の役目ですから」

 

「役目じゃなかったら?」

 

その問いに、監視役は言葉を失った。

 

姫はじっと、その答えを待っている。

 

やがて、監視役は小さく微笑んだ。

 

「……それでも、私は姫の傍にいますとも」

 

その答えを聞いた姫は、満面の笑みを浮かべた。

 

「そっか!じゃあ、ずっと一緒だね!」

 

その言葉に、監視役は何も返せなかった。

 

ただ、少しだけ耳を赤くして、静かに頷いた。

 

それからというもの、姫は以前にも増して仕事を頑張るようになった。

 

早く終わらせれば、その後に監視役と過ごせるからだ。

 

監視役もまた、姫の隣で支え続けた。

 

仕事を手伝い、時に叱り、時に褒める。

 

二人はいつしか、監視役と姫以上の、かけがえのない存在になっていた。

 

月の夜。見上げると幾千もの星々が、二人を歓迎しました。

 

姫は縁側に座り、隣の監視役へと寄りかかる。

 

「ねぇ」

 

「なんでしょう」

 

「わたし、あなたが来てくれて、本当に良かった」

 

監視役は一瞬だけ目を伏せ、そして優しく笑った。

 

「私もですよ、姫」

 

月は静かに輝いていた。

 

姫の笑顔もまた、それに負けないほど明るく、美しかったという。

 

 

 

 

 

 

さて、ここで一つ困ったことがありました。

 

姫は姫、監視役は監視役。

 

月の民はそう呼んでいましたが、当の二人はそれでは少し味気ないと思っていたのです。

 

「ねぇ」

 

ある日のこと、姫は書物を閉じ、監視役へと顔を向けました。

 

「なんでしょう」

 

「あなた、名前はあるの?」

 

監視役は、一瞬だけ目を瞬かせました。

 

「姫も知っているでしょう?私達に名などありません」

「私は運良く、姫の監視役に選ばれただけに過ぎない存在ですから」

 

「じゃあ、わたしがつける!」

 

なんとも姫らしい提案でした。

 

監視役が止める間もなく、姫は腕を組み、うーんとうなり始めます。

 

夜空を見上げ、庭を見下ろし、監視役の顔をじっと見つめる。

 

やがて、姫はぱっと表情を明るくしました。

 

「さくや!」

 

「……さくや、ですか」

 

「うん!月の夜って感じで、あなたにぴったり!」

 

監視役――もとい、さくやは、その名を口の中で静かに転がしました。

 

不思議と、悪い気はしませんでした。

 

「では、ありがたく頂戴いたします」

 

「やった!」

 

姫は満足げに胸を張りました。

 

けれど、すぐに首を傾げます。

 

「……あれ?」

 

「どうされました?」

 

「わたしのこと、みんな姫って呼ぶよね」

 

確かに、その通りでした。

 

月の姫である以上、それは当然のこと。

 

しかし姫は、どこか不満そうに唇を尖らせます。

 

「さくやだけは、特別な名前で呼んでほしいな~」

 

その言葉に、さくやは目を細めました。

 

「でしたら、姫もお名前を考えてみては?」

 

「え、いいの!?」

 

「もちろんです」

 

姫はしばらく考え込みました。

 

夜空を仰ぎ、星を見つめ、そして自分の胸に手を当てる。

 

「……かぐや」

 

「かぐや、ですか」

 

「うん!なんだか、しっくりくる!」

 

それはまるで、ずっと前からそう呼ばれていたかのように自然な響きでした。

かぐや姫は、満面の笑みを浮かべます。

 

「じゃあ、呼んでみて!」

 

「……かぐや様」

 

「様はいらない!」

 

なかなか難しい注文です。

朔夜は少しだけ考え、それから柔らかく微笑みました。

 

「一度だけですよ……」

 

「かぐや」

 

その一言に、姫の顔は満開の花のように輝きました。

 

「うん!」

 

「改めまして、よろしくお願いします」

 

「こちらこそ、よろしくね、さくや!」

 

二人は笑い合いました。

 

その日から、月の都では、姫はかぐや(様)、監視役はさくやと呼びあうようになりました。

 

もっとも、正式な場では相変わらず「姫」と「あなた」呼びでしたが。

 

二人きりの時だけは違います。

 

「さくやー!」

 

「また逃げるおつもりですか、かぐや様」

 

「違うよ!一緒にお散歩!」

 

「……それを世間では逃げると言うのです」

 

そんなやり取りが、月の都に今日も響きます。

 

名前とは不思議なもの。

 

ただの呼び名でありながら、二人の距離をぐっと縮めてくれるのですから。

 

こうして、かぐやとさくやは、互いにこれまで以上に特別な存在となりました。

 

月が輝く限り。

 

二人の物語も、きっと、ずっと続いていく筈でした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ある日のこと。

 

かぐやは、縁側に座りながら、じっと夜空を見上げていました。

 

「ねぇ、さくや」

 

「なんでしょう」

 

「わたし、地球に行ってみたい」

 

その一言に、さくやの動きが止まりました。

 

「……地球、ですか」

 

「うん!あんなに綺麗なんだもん。きっと楽しいことがいっぱいあるよ!」

 

瞳を輝かせるかぐや。

ですが、さくやの表情は曇ります。

 

「なりません」

 

かぐやは、ぱちぱちと目を瞬かせます。

 

「えー!?なんで!?」

 

「危険だからです。月とは違い、何が起こるか分かりません」

 

「でも、行ってみたいの!」

 

「駄目です」

 

普段なら、少しくらい譲歩してくれるさくや。

 

けれど、この時ばかりは頑として首を縦に振りませんでした。

 

かぐやも、引き下がるような性格ではありません。

 

「さくやのけち!」

 

「けちで結構です」

 

「もう知らない!」

 

ぷいっと顔を背け、かぐやは走り去ってしまいました。

 

さくやは追いかけませんでした。

 

追いかければ、きっと余計に拗れてしまうと分かっていたからです。

 

それから数日。

 

二人の間には、ぎこちない空気が流れていました。

 

かぐやは必要最低限しか口を利かず、さくやもまた、無理に話しかけることはしません。

 

月の民は、二人の様子を見ておろおろするばかりでした。

 

偉い人達は別に仕事は順調なので、文句はありませんでした。

 

そして、さらに数日後。

 

縁側で一人、かぐやは夜空を見上げていました。

 

そこへ、さくやが静かに腰を下ろします。

 

先に口を開いたのは、さくやでした。

 

「……申し訳ありませんでした」

 

かぐやは驚いたように振り向きます。

 

「危険だと思ったのです。あなたに何かあれば、私は……」

 

言葉は最後まで続きませんでした。

 

ですが、その意味は十分に伝わりました。

 

かぐやは、しばらく黙っていましたが、やがて小さく笑いました。

 

「わたしも、ごめんね」

 

「さくやは、心配してくれたんだよね」

 

さくやは、静かに頷きます。

 

かぐやは、にっと笑いました。

 

その笑顔で、さくやは考えていた事を決断するに至りました。

 

さくやは、青く輝く地球を静かに見上げました。

 

かぐやもまた、同じ星を見つめています。

 

そのかぐやの横顔には、憧れと期待が溢れていました。

 

しばしの沈黙の後、さくやはゆっくりと口を開きます。

 

「……かぐや様」

 

「ん?」

 

「私が、先に地球へ参りましょう」

 

かぐやは、きょとんと目を瞬かせました。

 

「……え?」

 

「危険がないか、この目で確かめてまいります」

 

けれど、その決意は揺らぎませんでした。

 

かぐやは数回瞬きを繰り返し、ようやく意味を理解すると、途端に顔をしかめます。

 

「やだ」

 

さくやは思わず小さく笑います。

 

「理由を伺っても?」

 

「だって、さくやがいなくなっちゃうもん」

 

頬を膨らませ、かぐやはそっぽを向きます。

 

ほんの数日前まで、地球に行きたいと駄々をこねていたとは思えない反応でした。

 

「ほんのしばらくです」

 

「しばらくでもやだ」

 

「安全を確かめなければ、かぐや様をお連れすることはできません」

 

「むぅ……」

 

反論できず、かぐやは唸りました。

 

地球には行きたい。

 

でも、さくやと離れるのはもっと嫌。

 

その葛藤が、表情にありありと浮かんでいます。

 

さくやは、そんなかぐやを見て、優しく目を細めました。

 

「必ず連絡しますとも」

 

「絶対?」

 

「ええ、このブレスレットがある限りは」

 

「……すぐ?」

 

「できる限り早く」

 

「約束?」

 

さくやは、そっと小指を差し出しました。

 

「約束です」

 

かぐやは、その指をじっと見つめます。

 

しばらくして、おずおずと自分の小指を絡めました。

 

「……破ったら、月中追いかけ回すからね」

 

「それは恐ろしいですね」

 

「本気だよ?」

 

「ええ、存じております」

 

そう言って笑うさくやに、かぐやもつられて笑います。

 

けれど、その笑顔には少しだけ寂しさが混じっていました。

 

「いつ行くの?」

 

「準備が整い次第……ですかね」

 

「そっか……」

 

かぐやは地球を見上げ、それからさくやへと視線を移します。

 

「早く……ね」

 

ぽつりと零れたその言葉に、さくやは静かに頷きました。

 

「必ず」

 

その返事は、何よりも確かな約束でした。結局、叶う事はありませんでしたが。

 

かぐやはそっと、さくやの肩にもたれかかります。

 

さくやもまた、その温もりを大切そうに受け止めました。

 

青い地球は、まるで二人の未来を祝福するかのように、静かに輝いていたのでした。

 

 




まぁもうかぐやとも幼馴染みたいなもんです。
月の世界は本当は夏祭りのかぐやが言っていたように、クソつまんない世界なんですが……このお話には、ちゃんとそこがおかしい理由があります。次でちょっと話すのでお待ちくださ〜い。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。