更新遅くなってごめんなさい!!
「ほら彩葉」
朔夜から差し出された手を取って、私は立ち上がる。
そして改めて向き合う。
ヤチヨと。
「「ヤチヨ」」
「あはは~二人共そんな怖い顔しないでよ~」
ヤチヨは、私と朔夜の手を取って微笑んだ。
「ただのおとぎ話、あんま深く考えないで。とにかく今は再会をお祝いしましょ~~☆」
そのまま私達は、ヤチヨにバルコニーに連れていかれる。
まるで、もう考えないようにお願いするように。
「ここからの眺めが、ヤチヨはホントに好きなの」
随分と高い所にある部屋のようで、ツクヨミの夜景が一望できた。
風が私達の頬をくすぐって、ヤチヨの髪が美しく揺れた。
「なんで………」
ヤチヨの右隣、私の反対側にいる朔夜が声を
「なんでヤチヨは笑ってるんだ」
口を嚙みしめ、ヤチヨと繋いでない方の拳を握りしめているのが、私でも分かった。
それが、ヤチヨに対しての怒りではない事は当たり前に分かった。
「それがヤチヨだから」
答えを用意していたと、思わせる速度でヤチヨは返した。
それはヤチヨ自身の逃避であって、また真実なんだろうなと思った。
「でもね…………」
ヤチヨはツクヨミの夜景を見たまま口を紡いだ。
ヤチヨの指の震えが、私達の手に伝わる。
「ハッピーエンド、連れていくって約束したのに」
ヤチヨの指の震えは、ヤチヨの腕にも広がり。
「彩葉の歌を聴いて、戻ってきたのに」
肩に伝播し。
「ごめん、ドジっちゃった」
そして言葉を振るわせた。
「キラキラのかぐや姫は、もうおばあちゃんです」
それでもヤチヨは笑っていた。
私達から手を放し一歩、身を引いて。
涙を一滴だけ、目尻に浮かべても、笑っていた。
「かぐや」
私が名を呼ぶ前に、朔夜がその名を呼んだ。
私と朔夜の考えている事は一緒だと、分かっていたから私はほんの少し開けた口を閉じる。
「約束、したよな」
約束。
朔夜と、かぐやがした約束。
「…………」
ヤチヨは、何も言わない。
「俺も。かぐやも。忘れてる訳ないだろ」
「…………」
「
朔夜の言葉に、ヤチヨはびくりと肩を震わせた。
「あの時、かぐやが言ったんだ。ずっとって」
「俺が人の事言えたもんじゃないけど、勝手に約束を破るな」
「俺も彩葉も、八千年ごときで嫌いになるか」
朔夜は、私の方を見ない。それは信頼で、友愛で、確信だ。
私の考えなんて、全部分かって、今この瞬間の空気を纏めてくれる。
「だから、先ずは聞かせろ」
その美しい涙を目いっぱいにためたヤチヨは、細い指でそれを払って問う。
「…………なにを?」
「八千年。何があったか、全部」
「ええ?」
「絶対、俺ら二人は寝ない」
「……無茶言うねぇ~」
その笑みは、ほんの少しだけヤチヨが若返ったように見えた。
□
ヤチヨが出現させた昔、彩葉が住んでた部屋で机を三人で囲んだ。
なぜか少しばかり広かったのは、俺のパソコンが置いてあったからかもしれない。
俺とかぐやは、俺の部屋ではずっとパソコンの前で話してたから。
「んじゃ、まずは縄文人と魚を取った話から!えっとね~…………」
それから、色んな事を話された。
二日程、ぶっ続けで話し話されヤチヨに気すら使われた。
「おやすみなさいよ、彩葉、朔夜。死んじゃう」
俺の方も当然限界だが、関係ない。
まだまだと、俺と彩葉は同時に応える。
「ネムッテ!ネムッテ!」
「あっちゃ~、ヤチヨの方が眠る時間だ。じゃ、お休み~」
FUSHIのアラームに打ち切られ、プッツリと糸を切られたようにヤチヨは眠った。
寝息はないけれど、瞼は閉じていて意識もないようだ。多分、寝てる。
「ヤチヨの活動限界時間は52時間だ。充電とアップデートと記憶の整理の為に定期的にスリープ状態になる必要がある」
ヤチヨの体に飛び乗って、FUSHIが言った。
「………ヤチヨってこんなにおしゃべりだったんだね。いつも聞いてもらうばっかりだったから知らなかったよ」
彩葉が、優しい視線でヤチヨを見ながら呟いた。
「……ほんとに、ずっとけらけら笑っててな」
それから二人で重い頭を振って、眠るヤチヨの横に座った。
二人で、優しくヤチヨの頭を撫でた。
愛でるように、労わるように、そして俺は謝るように。
「……笑い話ばっかじゃないだろ」
八千年とちょっとで、作り笑いなんて覚えてしまったらしい。
そんなの月の頃だってしなかったのに。
「ねぇ、FUSHI」
「…………」
「ヤチヨが隠してる事、あるんだろ?」
「…………」
俺と彩葉は交互にFUSHIに問いかける。
思慮深いウミウシはすぐに答えなかった。長い長い沈黙を挟んでようやく口を開く。
「……ヤチヨが何も言わなかったのなら、それは……」
「見せて」
「俺達はかぐやの全部を見る」
「人の体で、耐えられるか分からない」
「「問答無用」」
そこからまた、FUSHIは黙り込む。
けど今度の沈黙は迷っている風には見えなかった。
「ヤチヨは……さっき久しぶりに、本当に嬉しそうだったんだ」
「そだな」「うん」
俺と彩葉は同時に頷く。
「行くぞぉぉ!!!!!」
FUSHIの目が赤く光って、レーザー光線みたいなのが飛び出した。
それが、積み木を崩すように部屋を壊していった。
そして、俺の身体は落下をはじめ━━━━
『ヤチヨ、どっかにいるんでしょ?出てきて…………助けて…………』
あっという間にかぐやの意識と同化し、八千年前の地球へと飛び込んだ。
□
かぐやは、俺の想像以上の日々を送っていた。
まず着地に失敗して、『擬態』が出来なかった事。
俺らは元々ただの思念体だ。だから、舟がその環境に最適な体を用意する。
それに失敗したかぐやは、そこら辺のウミウシの犬DOGEへと意識を転換した。
俺の着地が上手くいったばかりに、こういった事が起こるなんて全く俺は知らなかった。
そのせいで序盤がだいぶキツかった。
ずっと舟の中で一人ぼっちのかぐやでいるだけで、胸が締め付けられた。
けれどウミウシになってからは、大変そのものだった。
人間の歴史をカレンダーにすると、ほとんどが火と叫びと血の赤で染まる。
正しくその言葉の通り、人が死に、殺され、そしてそれをただ。
あぁそうだ。忘れてた。
どうやら俺のいない月の世界というのは相当に面白くないものだったらしい。
なぜだろうか。
俺は月の皆に声を掛けていたつもりはあるけど、別に世界まるごと変えようとしてた訳じゃない。
考えても多分、結論は出ないのだろうけど。
かぐやが、好きになった人もたくさんいた。
かぐやは、命を賭して生きる人たちの覚悟を愛してしまうようだったから。
それが、かぐやの傷を深めたのは言うまでもない。
自分が別の選択を取っていれば。上手く導いていれば。
そんな後悔が、かぐやの中には溢れていた。
人は戦争と共に、色んな技術を進歩させていった。
俺は学校で習っていたけれど、もちろんかぐやは歴史なんて知らない。
ここ百年程の人類の進歩に、驚きを隠せない様だった。
かぐやが思い描いた仮想世界がツクヨミの事だとかぐや自身が気づいた時、やっと俺はこの世界が輪廻している事に気が付いた。
そうして、かぐやは彩葉と出会える事を確信したようだった。
かぐやがバーで知り合った男の人は、優しかった。
はっきり言って、正倉院に忍び込むとかいう中々にえぐい事をしでかしていたのはビックリしたけれども。
それでも、彼がいなければこの世界自体が成立していなかったのだから、感謝はしてもしきれない。
「一緒に来ないか」
そう言われた時に、かぐやは応えが勝手に浮かんできたようだ。
「約束が、あるの」
そう答えたかぐやを残して、その人は祖国に帰った。
「極上のワインは時間が経つほど深まる。悪い事ばかりじゃないさ」
その言葉と、彼が誤魔化す時にする片方の口角を上げる笑い方が、
□
それから、ヤチヨはとある人間に会いに行った。
CIAの彼が、舟を託した人物だった。それは、べつにかぐやの知り合いという訳ではない。
かぐやの知り合いはそもそもまだ生まれてすらいないのだから。
「初めまして」
かぐやの拙い発音が、分かっていたようにそっくりその人は返した。
「初めまして」
その人の苗字は、神代だった。
神代 満。俺の父さん。俺を拾ってくれた人。
若かった。大学生のようにも見えたけれど、よく分からなかった。
老いたCIAの人から話を聞いていた父さんは喋るウミウシを受けいれ、そしてかぐやの言う通りにした。
東京に部屋を借り、専用機材をバンバン買い、そして電気代を払う契約を不動産と電気会社の人ろしていた。
「あなたは多分一年以内に死んでしまう」
「そうですか」
「…………驚かないの?」
「喋るウミウシの方が興味がありますね」
「……そっか」
かぐやは何かを決めたように、口にした。
「あなたの元に、月から一人の子供が降ってくる」
かぐやはブレスレットを通して、俺の着地点がだいたい分かっていたのだろう。
かぐやがそう言ったという事はこれも輪廻の内の確定事項なのだろう。
俺の父さんに、かぐやが俺を拾うように言うことは。
「なるほど?」
「その子を、どうにか育てて欲しい」
「ますます分からない依頼ですね」
「断る?」
「CIAの爺さんから言われてるんですよ。あなたには命を尽くして身を捧げろって」
「だから、改めて言うよ。
「俺はあなたの事が好きです。結婚してください」
「…………無理かも」
「そうか、分かりました」
「あ、あっさり!」
「別に受けてもらえるとは思っていなかったので」
…………もしかしたら、俺の父さんは変人かもしれない。
それから、ちゃんと父さんは俺を拾った。
そして、かぐやと二人で俺を育てた。
仲良く、まるで夫婦みたいに。
次第に、その時間制限が迫る事すらも忘れて。
「そう言えば、自分はどうやって死ぬんですか?」
「それは、分かんない」
「そうですか。健康検診は問題なさそうですし、事故死ですかね」
なんの危機感も抱いていないようだった。
自分がもう少しで死ぬというのに。
「そうだ。ヤチヨさん。私の墓にはあなたの名前も刻んでいいですか?」
「いいけど……なんで?」
「なんとなくです」
そうして父さんは亡くなった。
暴走して歩道に乗って来た車に引かれて、即死だったそうだ。
だから、遺書を書く暇も無かった。
俺が見た遺書は、かぐやが書いたものだったらしい。
そう思うと、あのパンケーキのお願いは可愛く思えてくる。
かぐやがやって欲しくて書いたってことになる。かわいい。
そうして、俺は今のじぃちゃん達に渡されたということらしい。
それからかぐやはツクヨミを作った。
初めて俺に護衛を頼むときに、あんなに心臓バックバクなのはちょっと面白かった。
□
「お~ほんとに来た」
「…………」
「まぁまぁ座って座って」
かぐやの記憶の追走はさっきちょうど終わった。
意識は俺の元の身体に返される筈なのだが………。
俺は促されるままポツンと置いてあった机の反対側に座る。
「お酒、飲む?」
「飲めないわ」
「あ、まだ高校生か」
カシュっと缶を開け、父さんは酒を飲んだ。
「いや~朔夜も大きくなったなぁ~」
父さんは俺を眺めてそう言った。
そう言えば、こういう風に面と向かい合う事は少なかった気がする。
覚えてないだけかもしれないけれど。
「そもそもここどこ?」
「父さんにも分かんないかな、それは。ヤチヨさんが準備してくれたってのは確かだけど」
「…………そっか」
会話は長くは続かない。
父さんは、またビールを飲んだ。
「ブレスレット。ちゃんともらったんだな」
「あぁ………うん」
「いや~良かった良かった。あの人たちは本当に何も知らないからな。忘れないかとここでドキドキしてたんだよ」
「何も話してないの?」
「そうだよ。普通に育って欲しかったからね」
「そっか……ありがと」
「親として当たり前だよ。先に死んじゃったのはごめんな」
「父さんは悪くないだろ。そもそも俺を拾ってくれたし………」
「拾った、か。……いや、俺からすれば、お前は俺の息子だったよ」
その言葉が、俺の胸にじんわりと染み渡る。
全部思い出してから今まで、どこかで「拾われた子」という意識があったのかもしれない。
それを、父さんはあっさりと、何の衒いもなく否定してくれた。
「ヤチヨさんには色々と難しいことを言われたが、お前を育てるのは、別に難しいことじゃなかった」
「……いや、難しくなかったのは、お前が素直な良い子だったから、かな」
「……お世辞でも嬉しいよ」
柄にもなく、口元が緩むのを感じた。
こんな風に、父さんと向かい合って話す機会なんて、二度とない。
「本当にそう思ってるよ。俺が死んでしまって、寂しい思いをさせたのは悪かった。だけど、朔夜はきっと、どんな環境でも強く生きていける子だと思っていた」
「……俺は、ずっと父さんに頼ってたかも」
正直な気持ちだった。俺の中で、父さんは常に生きている存在だった。
「はは、そうか。それなら俺も、お前の中で生き続けられたってことだな」
父さんは、俺の頭をぽん、と軽く叩いた。
その温かい手が、なぜか妙に嬉しくて、温かくて、安心するような感触だった。
…………そっか。かぐやもこんな気持ちだったんだ。
『ん~~~!!!』
俺の頭の中で、嬉しそうに頭を撫でられるかぐやが浮かんだ。
「もうすぐ、お前の意識も元の場所に戻るだろう。ヤチヨさんのことを、頼むぞ」
「……うん。分かってる」
「それと、彩葉さんのこと
「!?……なんで彩葉のこと」
思わず、素っ頓狂な声が出た。
「俺は、朔夜の未来を見てきたんだからな。……なーんて」
父の笑顔が、少しずつ霞んでいく。部屋の輪郭も曖昧になり、風が吹くように空間が揺らぎ始めた。まるで、砂の城が崩れていくかのように。
「じゃあな、朔夜。元気で」
その声が遠ざかると同時に、俺の意識は急速に引き上げられていくような感覚に襲われた。
身体が、元の世界へと戻っていく。
目を開くと、そこには彩葉の心配そうな顔があった。
「どした…………彩葉」
「「どしたじゃない!!!」」
二人分の怒号が聞こえたかと思ったら、ヤチヨが覗き込んできた。
「ヤチヨ……起きてたのか」
「朔夜もやっぱりバカ…………死んじゃうよ…………」
涙交じりに、ヤチヨが言葉を漏らす。
そんなヤチヨを見て俺は。
「ごめん………気づいてあげられなくて」
ヤチヨを抱きしめた。
「ふふ…………彩葉と一緒」
「い、言わないでよヤチヨ!」
どうやら彩葉も俺と同じ事をしていたらしい。
でも、今は離れたくない。離したくない。
「ん……」
片方の手で、ヤチヨの頭にそっと触れた。
八千年経っても、その温かさはやっぱり変わらないようで。
「ん~……」
心地よさそうに、俺の肩に頭を乗せた。
そして、そっと呟いた。
「また、朔夜のパンケーキ食べたいな…………」
その瞬間、俺の頭を通して、体に何かが通った。
そして、全部分かって、覚悟した。
このお話は終わってない。こっから。こっからだ。
「彩葉、ヤチヨ」
まだ終わらない。終わらせない。
ハッピーエンド。
いや、そんなんじゃ足らない。
ガキっぽいけど、これでいい。
「超ハッピーエンド…………」
「ん?」
「え?」
二人の声が、遠くから聞こえるみたいだった。
俺の頭で、この瞬間ロードマップは完成した。
もう迷わない。
だから、父さん。ちゃんと見ててくれ。
「ちゃんと付き合ってくれよ!!超ハッピーエンドまで!!!」
朔夜パパは月の技術によって、ふよふよしてる意識としてツクヨミにいました。
だから彩葉の事も知ってます。
ですが脳の大部分が死んでしまっている為、朔夜に干渉は出来ず、朔夜から見る事も出来ません。
ただ、見守ってただけなのです。
次の話でめっちゃ未来行きます。