「はぁ~……はぁ~……はぁ~……もう無理、我慢できない」
「乃依落ち着け!!!まじで落ち着け!!!おい雷!配信止めろぉ!!」
「………祭りだな」
一体全体、なぜこうなったのかと言うと………。
□
時は遡り、約一時間前。
「さくやっほ~さっくーで~す」
「今回は告知通り。ブラックオニキスの人たちとコラボで~す!!」
『うぉぉぉぉぉぉ!!』
『あつすぎぃぃぃぃぃ!!』
『パチパチパチパチ』
「お~お~朔夜の方でも盛り上がってんな」
「あんまバカにしないでくださいよ朝日さん。で、今日なにするんです?」
「今日は~~これするぞ」
そう言って朝日さんが、浮かんだディスプレイを操作して出てきたのは………。
恐怖の廃校からの脱出………re:destory。
「帰っていいすか?」
「ダメ」
「なんで乃依が止めるんだよ………」
「……さっくーが面白そうだから」
「そう言う乃依だって実は苦手だったり?」
「全然。こういうのはあんまりビビらない」
「またまた~。どうなんです雷さん。ぶっちゃけのところ」
「そもそも驚かないな」
「………そ、そっすか(これもしかしてまずいのでは。こういうのやった事ないの俺だけ?)」
「そんじゃ、さっさとやんぞ!」
「ちょ、俺やりたくな」
俺の静止も虚しく、強制参加。
こうして、脱出するまでログアウトすらできないホラゲー配信が始まった。
始まってしまった。
□
「うぅ………もう建物から雰囲気ある………」
「朔夜ってビビり?」
「分かっててこれやろうと思ってたでしょ………朝日さんは」
「小っちゃい頃からそうだったもんな~」
『知られざる帝とさっくーの過去………』
「色々掘り返さないでくださいよ~」
「何々、気になる」
「朔夜の小さい頃か…………」
「乃依だけじゃなくて雷さんまで興味持たないでください」
ゲームだと分かってても、やっぱり怖い。
どこかの誰かさんが五感を実装したせいで、リアルさがほぼ現実になってしまっている。
「実装したのさっくーだけどね~」
「心読むな」
「うわ、なんか臭っ……」
「カビだな」
「分析しなくていいんですよ雷さん」
「さっくーもう声震えてんじゃん」
「震えてません」
ギィィィィィ………
勝手に突き当たりの扉が開いた。
「朝日さん、お先にどうぞ」
「俺がいっても面白くない。てな訳で朔夜」
「さっくーいってら~」
「え?」
後ろから乃依に押されて、扉の目の前まで来てしまった。
「まっ」
ガンッ!!
「ッッッ!?!?」
突然、俺のすぐ横のロッカーが激しく揺れた。
「びっっっくりしたぁぁぁ!!!」
俺はダッシュで朝日さん達の所に戻る。
「今のは普通に怖いな」
「さっくー声でかい」
ギ……ギギ………。
ロッカーの扉が、ゆっくり開く。
「絶対なんか出る……」
中に入っていたのは、ボロボロのサッカーボール。
「「「「……………」」」」
「なんだよぉぉぉぉ!!!」
「ビビり損」
「でも今の演出はうまいな」
雷さんがロッカーの中を覗き込んだ瞬間。
ボールが、ひとりでに転がった。
コツ……。
コツ……。
コツ……。
俺らを通り過ぎて廊下の奥へ。
「いや追いたくない追いたくない追いたくない」
「行くぞ~」
「待ってくださいよ!!!」
結局、システム上全員でボールを追うことになる。
そして辿り着いたのは、音楽室。
扉には赤い文字。
『ミツケテ』
「嫌な予感しかしない」
「入るしかないっぽいな」
朝日さんが扉を開ける。
──ボォンッ!!
ピアノが、誰も触れていないのに爆音を鳴らした。
「ぃやぁぁぁぁぁ!!?」
「うるさ」
「朔夜の悲鳴で二段構えになってるな」
ピアノの鍵盤は見えない何かが歩くみたいに、順番に沈んでいく。
ポーン。
ポーン。
ポーン。
「いやいやいや無理。ほんとにぃ………」
「……曲になってる?」
乃依が呟く。
不気味な単音の並びは、童謡みたいなメロディになっていた。
すると、教室の黒板に文字が浮かぶ。
『ウタッテ』
「え?」
『ウタワナイト』
「これギミックか?」
「歌えばいいんじゃない?」
「いや誰が!?」
「さっくー」
「なんで!!!」
俺はほとんど泣いていた気がするけれど、なんとか歌いきった。
すると、ピアノの音がすっと消える。
「………おわり?」
すると黒板の文字がするすると消え、新しい文字が浮かび上がった。
『3ー2』
「教室の名前だろうね」
「もう早く終わって………」
半分本気でそう呟きながら、俺は音楽室を出た。
廊下は相変わらず薄暗い。
天井の蛍光灯は、一定間隔でチカ、チカ、と不安定に瞬いていて、その度に景色が途切れるみたいに見える。
歩くたびに、古びた床板がぎし、と鳴る。
その音が静かな校舎にやけに響いて、余計に不安を煽ってきた。
「3ー2って……三年二組?」
「多分な」
「二階の端だ」
「なんで雷さんは知ってるんです?」
「こういう学校は構造が大体同じだ」
雷さんは相変わらず冷静だった。
なんなんだこの人。
怖いって感情ないのか?
「さっくー完全に顔死んでる」
「乃依は逆に元気そうだな……」
「ん。割と平気」
そう言って俺の隣を歩く乃依は、本当にいつも通りだった。
怖がる素振りもないし、むしろちょっと楽しそうですらある。
昔から肝が据わってるやつではあったけど、ホラー耐性まであるとは思わなかった。
「なぁ、乃依………」
「さっくー?」
「手、握っていいか…………?」
「……っ…………はい、いいよ」
「ありがと………」
□
乃依と朔夜が初めて出会ったのは、中三の春だった。
初めて会った高校一年生の朔夜は、今より少し背が低かったのを乃依はよく覚えている。
その頃の乃依は、今よりもっと人付き合いが苦手だった。
知らない人と話すのも得意じゃない。
人混みも嫌い。
愛想がないって言われることにも慣れていた。
別に、それで困ってはいなかった。
一人の方が楽だったから。
その日も、兄に連れられてショッピングモールでの様々な商品の展示イベントへ来ていただけだった。
旅行グッズだとか、料理道具だとか。
雷は楽しそうにしていたけれど、乃依はそこまで興味がなかった。
むしろ、人の多さに少し疲れていたくらいだ。
なのに。
「ちょっと知り合い見つけたから行ってくる」
雷はそう言って、普通に消えた。
「…………は?」
取り残された。
スマホを見る。
充電は残り9%。昨夜充電するのを忘れていた。
連絡も返ってこない。
最悪だった。
人混みから逃げるように歩き、会場の隅にある休憩スペースへ向かう。
けれど、空席はほとんど埋まっていた。
立ったまま小さくため息を吐く。
その時だった。
「……座る?」
不意に声をかけられた。
振り返る。
そこにいたのが、朔夜だった。
黒髪。
少し眠たそうな目。
制服姿なのに、どこか気の抜けた雰囲気。
整った顔をしているのに、本人は全然気にしてなさそうで。
第一印象は、変な人。
知らない相手にそんな自然に話しかける?
警戒する乃依に構わず、朔夜は隣の荷物をどかした。
「ここ空くから」
押し付ける感じでもなく。
座れとも言わない。
ただ、困ってそうだったから、みたいな顔をしていた。
乃依は少し迷ったあと、静かに腰を下ろす。
「……ありがとうございます」
「どーいたしまして」
軽い声だった。
でも、その空気感が不思議と嫌じゃない。
沈黙が続いても気まずくならなかった。
朔夜は無理に話しかけてこない。
でも放置もしない。
その距離感が妙に心地よかった。
「連れとはぐれたの?」
「……兄が消えた」
「あー、それは災難」
「ほんとに」
「弟置いてく兄ちゃんってどうなんだろうな。俺は一人っ子だからよく分かんないけど」
「最低」
「お、結構言うじゃん」
そう言って朔夜が笑う。
馬鹿にした感じじゃない。
ただ自然に笑っていた。
その時。
休憩スペースのすぐ近くで、期間限定ショップの宣伝が流れ始めた。
『本日限定!海外スイーツフェア開催中!』
甘い香りが漂ってくる。
朔夜がそっちを見た。
「……あ、美味そう」
「甘いの好きなんですか?」
「好き。めっちゃ好き」
その反応が少し意外で、乃依は朔夜を見る。
すると朔夜は、少しだけ気まずそうに笑った。
「なんか意外そうな顔してる」
「……してたかも」
「よく言われる」
そう言って朔夜が立ち上がる。
「暇だし見に行く?」
「……知らない人誘います?」
「でも君、暇でしょ」
「……まぁ」
「俺も暇。あ、ってか名前は?」
「………乃依です」
「乃依ね。俺は朔夜。好きに呼んでいいよ。あと敬語抜きね」
妙に自然だった。
警戒心がないというより、断られても別に気にしないみたいな軽さ。
その感じが、不思議と嫌じゃなかった。
結局。
兄から『あと三十分くらい』という最悪な連絡が来たせいで。
乃依はそのまま、朔夜と会場を回ることになった。
スイーツフェアのエリアは思ったより人が多かった。
ショーケースの中には色鮮やかなケーキや焼き菓子が並んでいて、甘い匂いが空気に混ざっている。
「うわ、これ絶対美味いやつ」
朔夜は目を輝かせながら店を見て回っていた。
その姿は、本当に子供みたいだった。
「……高校生っぽくない」
「え、悪口?」
「なんとなく」
「ひど」
そう言いながら、朔夜は楽しそうだった。
結局、限定のシュークリームを二人で買うことになった。
「はい」
「……え?」
「俺の奢り」
「なんで」
「中三だろ?先輩に感謝しなさい~」
そう言って、朔夜は自分の分を受け取る。
乃依は少し迷ったあと、小さく「……ありがとう」と呟いた。
近くのベンチに座って食べる。
シュークリームは思っていたより美味しかった。
「うま~~~」
朔夜が素直に呟く。
その顔があまりにも幸せそうで。
乃依は思わず小さく笑った。
「……そんな美味しい?」
「甘いものは世界救うから」
「大袈裟」
「いやほんとに」
変な人だと思った。
でも一緒にいると、不思議と気が楽だった。
無理に話さなくてもいい。
気を遣いすぎなくていい。
なのに沈黙が苦じゃない。
そんな相手は、乃依にとって初めてだった。
それから二人は、そのまま展示エリアをゆっくり回った。
便利グッズを見て。
試食コーナーで変なお菓子を食べて。
雑貨売り場で妙なクッションを触って笑って。
気づけば乃依は、普通に隣を歩いていた。
初対面のはずなのに。
こんなに自然に誰かと並んで歩けることが、少し不思議だった。
その帰り道。
エスカレーターに乗りながら、朔夜がふと乃依を見る。
「なんかさ」
「?」
「最初より全然喋るじゃん」
「…………」
「もっと怖いかと思ってた」
「……なにそれ」
「いや、でも普通に笑うし」
さらっと言う。
何気ない声で。
でも。
その言葉が、妙に胸へ残った。
乃依は昔から、愛想がないと言われることが多かった。
興味がない事には、ただとことん興味がないだけだったのだが。
怖そう。
話しかけづらい。
何考えてるか分からない。
そういう風に見られるのが普通だった。
なのに。
この人は、笑うんだって言った。
ちゃんと見ていたみたいに。
その時、乃依の胸の奥が、少しだけ熱くなる。
「……そっちは」
「ん?」
「初対面なのに距離近すぎ」
「あー……まぁ」
朔夜は困ったように笑った。
「放っとけないタイプだったから?」
悪気ゼロでそう言う。
乃依の心臓が、今度は大きく跳ねた。
「あれ?もしかして、あの人?」
「あぁ………多分そう」
二人が近づいていくと、雷も二人に気づいた。
「え、雷さん!?」
「朔夜?乃依となんで一緒にいるんだ?」
「そりゃこっちのセリフですって!じゃあもしかして乃依って……」
「あぁ。黒鬼の乃依だ」
「えぇぇぇぇぇぇ!!!偶然~!!」
兄と先ほど知り合った人が仲睦まじくしているのに、乃依は当然、困惑していた。
そこで乃依に一つの解が浮かび上がる。
「もしかして………さっくー?」
「そうそう!俺がさっくー!この前、戦ったよな!俺が負けたけど!」
「そうなんだ………」
「いやまじビックリです!雷さんの弟がまさかこんな可愛いとは!!」
「………………」
乃依は固まった。
“可愛い”。
あまりに、言われ慣れていない言葉だった。
しかも朔夜は、本気でそう思って言っている顔をしている。
からかっている感じが一切なかった。
「朔夜、多分初対面でそういうことは言わない方がいい」
雷が呆れたように言う。
「え、だって実際可愛くないです?」
「……知らん」
「否定しないんだ」
「事実ではあるからな」
「雷さん甘~」
「甘くない」
そんなやり取りを聞きながら、乃依はただ黙っていた。
なんだこの人。
ずっと距離感がおかしい。
でも、不思議と嫌じゃない。
むしろ胸の奥がずっと落ち着かなかった。
「てか、オンラインの時と全然雰囲気違うな~」
「…………そう?」
「うん。もっと怖い感じ想像してた」
「……怖くない」
「今は全然」
朔夜はそう言って笑う。
その笑顔を見た瞬間。
乃依の心臓がまた大きく跳ねた。
自分でも意味が分からないくらい、胸がうるさい。
「乃依、顔赤いぞ」
雷の一言で、思考が止まった。
「…………は?」
「え、ほんと?」
朔夜が覗き込んでくる。
距離が近い。
近い近い近い。
「っ、近い……!」
乃依は反射で一歩下がった。
すると朔夜は少し驚いたあと、申し訳なさそうに頭を掻く。
「あ、ごめん。嫌だった?」
その言い方が、妙に優しかった。
その自然な気遣いに、乃依は一瞬言葉を失う。
「……別に」
「ならよかった」
朔夜は安心したみたいに笑った。
その笑顔が、ずるいと思った。
「じゃ、そろそろ俺らは行く」
雷がそう言って踵を返す。
なぜだかいたたまれなくなって、乃依も慌ててその後ろへ続こうとして。
「乃依」
呼び止められた。
振り返ると、朔夜が軽くスマホを振っていた。
「せっかくだし連絡先交換しない?」
「…………え」
「また大会で当たるかもしれないし」
悪気ゼロ。
本当に自然な誘い方だった。
でも乃依の胸は、さっきからずっと落ち着かない。
「……いいの?」
「? 別に減るもんじゃないし」
軽い調子で言う。
多分この人はこういう言葉を、特別な意味もなく言える。
優しいのも。
距離感が近いのも。
人懐っこいのも。
乃依は少しだけ迷ってから、スマホを取り出した。
連絡先を交換する。
その間も朔夜は、楽しそうに話していた。
「今度また対戦しよーぜ」
「……ん」
「次は負けないから」
「それは負ける人のセリフ」
「うわ言うじゃん」
くすくす笑う朔夜を見て。
乃依はふと思った。
──また会いたい。
その感情が、驚くほど自然に胸へ浮かんでいた。
「じゃあな、乃依」
軽く手を振る朔夜。
乃依も小さく手を振り返した。
乃依は一年も経たずに、静かに、はっきりと理解した。
多分。
あの春の日。
自分はもう、恋に落ちていたのだと。
□
乃依の手は、思っていたより少し冷たかった。
けれど指先が触れた瞬間、不思議なくらい安心する。
さっきまでうるさかった心臓が、ほんの少しだけ落ち着いた気がした。
「……さっくー、子供~」
「うるさい。怖いもんは怖いんだよ」
「認めた」
「認めますよもう……」
半分やけくそで言い返すと、乃依が小さく笑った。
本当に小さい笑い方だった。
でも、繋いだ手から伝わる体温が少しだけ柔らかくなる。
朝日さんが笑いながら先を歩いていく。
俺はなるべく乃依から離れないようにしながら、その後ろをついて行った。
廊下は長く、静かだった。
途中で窓の外を見る。
校庭は霧に覆われていて、街灯もない。
真っ暗な世界がどこまでも広がっている。
現実じゃないと分かっていても、その暗闇には妙な生々しさがあった。
そんなことを考えていた時だった。
──ピタッ。
突然、乃依が足を止めた。
「……乃依?」
「……聞こえない?」
「え?」
廊下が静まり返る。
耳を澄ませる。
すると。
カタン。
どこか遠くで、椅子を引くような音がした。
カタン。
カタン。
ゆっくり。
規則的に。
「うわぁ……絶対嫌なやつ……」
「三年二組からだな」
「行くのかぁ……」
「行かなきゃ進まないだろ」
「ゲームって自由度高いように見えて強制イベント多いっすよね……」
「確かにね~」
話していないと落ち着かなかった。
静かになると、嫌な想像ばっかり浮かぶから。
やがて廊下の突き当たりに、『3-2』のプレートが見えてくる。
扉は半開きだった。
暗い教室の中から、何かを引きずるみたいな音が聞こえている。
ギ……。
ギギ………。
「………………」
普通に帰りたい。
今すぐログアウトしたい。
でも、このゲームは脱出するまでログアウト不可。
誰だこんな仕様考えたやつ。
「さっくー」
「ん……?」
「手、強い」
「え?」
気づけば、俺は乃依の手をかなり強く握っていたらしい。
「あっ、ご、ごめん!」
慌てて力を緩める。
すると乃依は、一瞬だけ目を伏せて。
「……別に、嫌じゃないけど」
ぼそっと小さく呟いた。
「え?」
「なんでもない」
その横顔は暗くてよく見えなかった。
でも耳だけ、少し赤かった気がする。
「……? なんか言ったか?」
「……ほんとそういうとこ」
「???」
意味が分からない。
乃依は小さくため息をつくと、そのまま俺の手を引いた。
「行くから。さっさと終わらせる」
「いや待って心の準備が」
「遅い」
そのまま、半ば強引に3-2の教室へ連れて行かれる。
扉の前。
中は異様に暗かった。
窓際に並んだ机。
黒板。
天井で揺れる壊れかけの蛍光灯。
そして。
教室の中央。
女子生徒らしき
「ぁ……」
思わず声が漏れる。
その瞬間。
バキッ!!!!
女が、ありえない速度で首をこちらへ向けた。
「ぃやぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」
俺は反射で乃依の後ろに隠れた。
「わ、ちょっ、さっくー……!」
「無理無理無理無理!!!!」
「朔夜ほんと面白ぇなぁ」
「朝日さんはなんでそんな余裕なんですかぁ!!!」
俺が叫んだ瞬間。
教室の電気が、ぶつん、と消えた。
真っ暗。
「……………え」
静寂。
直後。
耳元で。
『──みぃつけた』
女の声。
「────────ッッッ!!!!」
□
「あれ?」
「ん?」
蛍光灯はばっちりと付いて、暗闇は消えた。
俺達の前には、とある文字が。
『この先ストーリー上、幼い少年が必要となる為、ランダムでプレイヤーの中から選ばせていただきました。ストーリーを進める場合、リーダーがOKと発音すれば完了となります』
「………………は?」
あまりにも突然表示されたシステムメッセージに、俺達全員の動きが止まる。
さっきまでの恐怖演出とは違う。
無機質な白い文字が、教室の中央に半透明で浮かび上がっていた。
『対象プレイヤー:神代 朔夜』
「えっ」
嫌な予感しかしなかった。
というかもう、名前出てる時点で逃げられないやつだ。
「いや待って待って待って」
俺は慌てて後ずさる。
「幼い少年ってなに!?!?」
「そのまんまじゃね?」
「朝日さんは冷静に解説しないでください!!!」
『草』
『ショタ化イベントきた』
『運営遊んでるだろ』
『さっくー終了のお知らせ』
プレイ中にネタバレ回避で閉じていたコメント欄も見えるようになって、完全に祭りだった。
いや他人事だと思いやがって。
「ちょ、ほんとに嫌なんですけど!?」
「まぁでも、ストーリー進行条件って書いてあるし」
「乃依まで納得しないで!!!」
乃依は口元を押さえながら、じっとディスプレイを見ていた。
その顔は一応平静を装っている。
装ってはいるのだが。
耳が若干赤い。
「……乃依?」
「…………別に」
「いや絶対なんか企んでるだろ」
「何も?」
目が逸れた。
絶対嘘だ。
すると、雷さんが淡々とディスプレイを読み上げる。
「身体データ、音声、身長、言葉遣い、意識を対象年齢へ最適化します……なるほど」
「なるほど、じゃないんですよ!?」
「ちなみに拒否権は?」
「ないっぽいな」
「クソ仕様!!!!」
ぴこん、と新しいウィンドウが浮かぶ。
『リーダー権限を確認』
『OKを発音してください』
全員の視線が、朝日さんへ向いた。
「……………」
「朝日さん?」
「……………OK」
「言うなぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」
視界が真っ白に染まった。
ブツン、と耳鳴りが響く。
身体がふわっと浮くような感覚。
「うわ、ちょ、え、なに、なにこれ……!?」
服が妙に重い。
ほんとに、自分が小さくなってる。
視界が急激に低くなっていく感覚に、心臓が跳ねた。
数秒後。
白い光が消える。
「………………」
静まり返る教室。
俺は恐る恐る、自分の手を見た。
小さい。
指が短い。
服の袖はぶかぶかで、完全にサイズが合っていなかった。
「…………え?」
声も高い。
完全に子供の声だった。
「な、なにこれ???」
混乱している俺の前で。
乃依が固まっていた。
「………………」
「乃依お姉ちゃん?」
返事がない。
その隣で、朝日さんが吹き出した。
「っ、ははっ!!!」
「笑わないでよ!!!!」
「いやっ……ぷっ……無理だろこれ……ははは!!!」
「……ふっ」
「雷お兄ちゃんまで!!」
『かわいい』
『やばい』
『合法ショタさっくー爆誕』
『乃依ちゃん死んでるぞ』
「乃依お姉ちゃん?」
もう一回呼ぶ。
すると乃依は、ぴくっと肩を震わせたあと。
すっ、と顔を逸らした。
「……………無理」
「え?」
「かわいすぎ……」
「えと………」
『出たぁぁぁぁぁ!!!』
『乃依の本音が漏れてる!!』
『顔真っ赤で草』
「乃依お姉ちゃん?」
「……むり、ほんとに」
乃依は片手で顔を覆ったまま、ふらふらと後ろへ下がる。
耳まで真っ赤だった。
「顔赤いよ……?」
「さっくー、上目遣いで首傾げるのやめて……」
「なんで………?」
乃依はもう限界だったのである。
昔から好きだった相手が。
元々顔が良くて。
距離感バグってて。
ただでさえ無自覚に人の心を殴ってくるのに。
それがいわゆるショタとなって、ぶかぶかの姿で、自分の手をぎゅっと握りながら不安そうに見上げてくる。
耐えられる訳が、ないのである。
「乃依お姉ちゃん?………大丈夫?」
「はぁ~……はぁ~……はぁ~……もう無理、我慢できない」
「あ。お………おい!!乃依落ち着け!!!まじで落ち着け!!!おい雷!配信止めろぉ!!」
「………祭りだな」
やっぱ乃依書くのめっちゃ楽しいっす。
んでもって次もさくのいです〜。明日には投稿できると思います〜。
IFバットエンド見たいっすか?
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黙れ、純愛しか認めんぞ
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来い!来てみろ!かかってこい!!