「行くの!!」
「行かない!!」
「絶対行く!!」
「行かない!!」
俺はヤチヨに引っ張られながらも、ソファに抱き着いて離れなかった。
しかし相手は、俺が痴漢とか危ないからと腕力をなかなかに強化したヤチヨ。
それに対してこちらは、研究所に籠りまくってきた一般月人である。
力の差は歴然であって。
「いやぁぁぁぁぁ!!!」
「れっちご~!!」
「かぐやぁぁぁ!!彩葉ぁぁぁ!!!」
「「いってら~」」
俺の叫びも虚しく二人から、スルーを決められた。
「表彰式なんて、行きたくないぃぃぃぃぃ!!!!」
□
「ほわ~!見て見て朔夜!!ほんとに飛んでる~!!」
「あんまり騒がずにな……ファーストクラスといえども……」
俺は現在、太平洋の真上を飛んでます。
目的地はアメリカ。ニューヨークだそう。
なんで曖昧なのかというと、ヤチヨに連れてこられたから。
「ん~美味し~!!」
「ファーストクラスともなると機内食すらめっちゃ美味しいな……」
「朔夜~これあげる~」
「はい、あ~ん♪」
「あ~ん………なんだ、美味しいじゃん」
「うん!朔夜にも共有したかった!」
その笑顔を見ながら、俺は紙ナプキンを一枚取った。
「ほら」
「ん?」
「口元」
「あ」
ヤチヨが慌てて拭こうとする前に、俺が先にヤチヨの唇を軽く拭き取った。
「子供っぽ~」
「む~!朔夜だって偶にそうじゃん!」
「それは……この前の話?」
「あの時の朔夜はも~かわゆし!!いとかわゆしだった!!!」
「う、うるさい。そもそも、あれは意識も小っちゃい頃になってたし………」
俺は視線を逸らしながら、水を一口飲んだ。
するとヤチヨが、にやぁっと笑う。
「あ、照れてる」
「照れてない」
「いや照れてる。耳赤いもん」
「機内が暑いだけ」
「へぇ~?」
ニマニマしながらこっちの顔色を窺ってくるヤチヨ。
「でもほんと可愛かったなぁ~」
「やめろって……」
「乃依お姉ちゃん~って甘えてたし」
「うわぁぁぁぁやめろぉ!!!」
ヤチヨが楽しそうに笑う。
俺はぐったりしながらシートへ沈み込んだ。
「なんで配信アーカイブ残ってるんだよ……」
「私はめちゃくちゃ見返したけど?」
「見るなよぉ……」
「えへへ、だって激レアなんだもん」
そう言いながら、ヤチヨは機内食のデザートを口へ運ぶ。
「ん~!これ美味しい!」
「どれ?」
「これこれ!」
差し出されて、俺はヤチヨから一口もらう。
「あ、美味しい」
「でしょ~?」
そんなことを話していた時だった。
ヤチヨがふと、俺の顔を見て目を丸くする。
「朔夜」
「ん?」
「ほっぺついてる」
「え?」
俺が反応するより早く、ヤチヨはさっき俺が使っていた紙ナプキンをひょいっと取った。
「じっとしてて?」
「いや自分で」
「いいからいいから♪」
軽くヤチヨに頬を拭われる。
その距離が近くて、一瞬だけ言葉が止まった。
「はい、とれた~」
「……ありがと」
なんとなく視線を逸らしながら礼を言う。
するとヤチヨは、手に持ったナプキンを見て。
「?」
そのまま何気なく、自分の口元を同じナプキンで拭いた。
「………………」
「………………」
ヤチヨも、俺も、固まる。
「え、これ……」
「………………」
「か、間接………キ………ス………」
「っ────!?」
理解した瞬間、俺もヤチヨも一気に顔が熱くなった。
「な、なななな……!」
「わ、私そんなつもりじゃ……!」
「いや分かってるけど……!!」
やばい。
意識した瞬間めちゃくちゃ恥ずかしくなってきた。
ヤチヨも顔を真っ赤にして、ぶんぶん手を振っている。
「ち、違うの!ほんと無意識で……!」
「いやだから分かってるって……!」
「でも間接……」
「言うなぁ!!!」
声を出し過ぎて、前の席の人が振り返った。
………ごめんなさい。
ヤチヨは顔を真っ赤にしたまま、小さく笑う。
「……えへへ」
「なんで笑うんだよ……」
「だって、朔夜めっちゃ照れてる」
「照れるだろ普通に……」
「ふふ、かわいい」
「うるさい……」
俺は完全に顔を隠すように窓の方を向いた。
その横で、ヤチヨはずっと楽しそうに笑っていた。
□
「……でっか」
会場へ到着して最初に出た感想が、それだった。
ニューヨークの中心部。
ガラス張りの超巨大ホールは、外から見ても意味が分からないくらい広い。
世界中の企業ロゴ。
行き交うスーツ姿の人達。
飛び交う英語。
はっきり言ってアウェーもいいところだ。
「すごぉ~……」
ヤチヨがきらきらした目で辺りを見回す。
「ほんとに映画みたいだねぇ」
「まぁ、世界規模だからな……」
俺は受付で貰ったパスを首から下げながら、小さく息を吐いた。
そのままスタッフに英語で案内され、自然に受け答えする。
ヤチヨも隣で普通に会話へ混ざっていた。
俺達は月人。他言語に適応するなんてお茶の子さいさいなのである。
だからと言って………。
「『──Mr. Sakuya!?』」
「うわっ」
会場へ入って数分。
もう既に三人くらいに囲まれていた。
名札を見た海外企業の関係者が、次々と話しかけてくる。
「『あなたがツクヨミの拡張システムを?』」
「『信じられない、あれほど低遅延で世界同期を実現するなんて』」
「『論文を読んだよ。特に感覚共有領域の圧縮理論が──』」
「え、あ、どうも……」
英語は分かる。
会話も問題ない。
問題ないんだけど。
「距離近っ……」
海外の人達は、ぐいぐい来る。
しかも相手全員テンションが高い。
技術オタク特有の見つけた瞬間捕獲みたいな熱量がすごい。
「朔夜すご~い」
ヤチヨが横で楽しそうに笑っていた。
「他人事だと思ってるだろ」
「だって実際すごいもん!」
「『そちらの女性は……』」
ふと、一人の男性がヤチヨを見る。
金髪。
年齢は三十代くらい。
かなり整った顔立ちだった。
「『ツクヨミのオリジナル設計者だろう? 会えて光栄だ』」
「あ、ありがとうございます~!」
ヤチヨがにこっと笑う。
すると今度は別の女性まで来た。
「『あなた達、本当にすごいわ』」
「『今日の後、食事でもどう? VIPラウンジを予約してるの』」
「お?」
ヤチヨがきょとんとする。
「『ぜひ二人で』」
「『……いや、できればあなただけと』」
空気が少し変わった。
俺は、一瞬だけ黙る。
ヤチヨは、あんまりそういう空気に慣れてないのか、普通に首を傾げていた。
「え? ご飯?」
「『その後、夜景も案内できる』」
「『ニューヨークは初めてだろう?』」
「ほへぇ~」
完全に分かってない。
……いや、分かってない訳ではないか。
ただ、そういう対象として見られてるって意識が薄いだけだろう。
でも。
なんか。
なんか嫌だった。
「ヤチヨ」
「ん?」
俺はそのまま、ヤチヨの手首を軽く掴む。
「行くぞ」
「へ?」
突然引っ張られて、ヤチヨがぱちぱち瞬きをした。
「『あれ、待ってくれ』」
男性が呼び止めようとする。
その瞬間。
俺は振り返って、わりとハッキリ言った。
「Sorry. My wife gets nervous around many people. 」
「…………oh」
「……I see」
周囲が妙に納得した顔になる。もういいや。
「え」
ヤチヨだけが固まっていた。
俺はそのまま歩き出す。
「ちょ、朔夜!?」
「いいから」
「いやいやいやいや待って!?」
会場の端まで来たところで、ヤチヨが顔を真っ赤にして俺を見る。
「い、今……!」
「適当に言っただけ」
「て、適当って………//」
「一番話早そうだったから……」
「そ、それはそうかもだけどぉ……!」
ヤチヨは完全に挙動不審だった。
耳まで真っ赤で、視線が泳ぎまくっている。
「……嫌だった?」
俺が聞くと。
ヤチヨは、一瞬だけ目を丸くして。
それからぶんぶん首を振った。
「や、い、嫌じゃないけど……!」
「じゃあよし」
「よくないよぉ!!」
でも繋がれた手は、ヤチヨの方から離さなかった。
むしろ。
ぎゅ、と少しだけ強く握り返される。
「…………」
「…………」
その感覚に気付いて。
今度は俺の方が、ちょっとだけ黙った。
「……朔夜?」
「いや……なんでもない」
少しだけ熱くなった耳を隠すように、俺は視線を逸らした。
その横でヤチヨは、嬉しそうに静かに笑っていた。
□
巨大ホールの照明が、ゆっくりと落ちていく。
ざわついていた会場も、自然と静まり返った。
中央ステージの天井近くまで伸びる超大型スクリーンに、ひとつのロゴが映し出される。
《TSUKUYOMI》
会場中から拍手が起こった。
「……うわ」
「すごぉ……」
隣のヤチヨも、少し圧倒されたように目を丸くしている。
世界各国の企業関係者。
研究者。
投資家。
開発者。
その全員が、今スクリーンを見上げていた。
司会者が壇上へ上がる。
「『本年度、世界技術革新賞』」
「『受賞プロジェクト──《TSUKUYOMI Global Synchronization Project》』」
スクリーンへ映像が流れ始める。
日本国内限定だった仮想世界。
そこから世界規模へ広がっていく映像。
多言語リアルタイム同期。
感覚共有。
タイムラグ補正。
超低遅延通信。
世界中の人間が、同じ月を見上げている。
「『このシステムは、単なるゲームではありません』」
「『国境を越え、人々の感覚そのものを共有する新しいコミュニケーション技術です』」
《Created by Yachiyo》
《Expanded by Sakuya》
ツクヨミを世界基準で同期したのは、おおよそ一年前。
ヤチヨが入って地球にきたもと光る竹、つまりツクヨミノサーバーをちょちょっといじったら、なんか出来た。
拍手がさらに大きくなった。
「…………」
ヤチヨが、隣で小さく息を呑む。
自分が作った世界が今、世界中へ広がっている。
その実感が、ようやく湧いたのかもしれない。
「『創設者、八千代氏』」
「『そしてグローバル拡張開発責任者、朔夜氏』」
「『どうぞ壇上へ』」
「うわほんとに行くの!?」
「ここまで来て逃げない」
「朔夜も嫌がってたじゃん!」
「今でも嫌だよ」
でも呼ばれた以上、行くしかない。
俺達は並んでステージへ上がる。
スポットライトが眩しい。
会場、広すぎ。
人、多すぎ。
「ぅ゙……」
「朔夜、顔死んでるよ?」
「緊張してんだよ……」
「珍し」
「うるさい」
そのやり取りに、近くの海外スタッフが小さく笑った。
壇上中央で司会者がマイクを向ける。
「『まずは八千代氏。ツクヨミを生み出した理由を教えてください』」
ヤチヨは少し驚いたあと。
でも、すぐ柔らかく笑った。
「『……寂しかったから、です』」
「『
ヤチヨは、まっすぐ前を見る。
「『だから作りました。みんなで帰れる世界を』」
静かな拍手が広がった。
俺は隣で、それを聞いていた。
ほんとにヤチヨらしいなって思う。
司会者は感心したように頷き、今度は俺を見る。
「『では朔夜氏。あなたは何故、それを世界へ広げたのですか?』」
「…………」
ヤチヨが少し緊張した顔で、でもどこか落ち着かない様子でスクリーンを見上げていた。
自分の作った世界が。
今、世界中に広がっている。
その事実に、まだ本人が一番驚いてるみたいだった。
だから俺は、小さく息を吐いてマイクを持つ。
「『……理由なんて、そんな大したものじゃないです』」
「『最初にツクヨミへ入った時、単純に思ったんです』」
「『すごい世界だなって』」
スクリーンには、ツクヨミの夜空が映っている。
ミラーボールみたいな月。
どこにいても騒がしい街。
世界中のユーザー達。
「『感覚共有も、同期技術も、全部意味分かんないくらい完成度高くて』」
「『なのに作った本人は、なんかできた~みたいな顔してるし』」
「えっ」
ヤチヨが横で小さく声を漏らした。
会場から笑いが起きる。
「『でも、中へ入ると分かるんです』」
「『この世界は、すごく優しいんです』」
俺は少しだけ、ヤチヨを見る。
『太陽が沈んで、夜がやってきます』
『でも、その恰好じゃぁ~つまらない!!』
今でも、初めてツクヨミに入った時の事は覚えてる。
「『誰かと同じ場所に居られるように作られてる』」
「『遠くても、一人にならないように』」
「『……だから』」
「『こんな良い世界、日本だけなの勿体ないなって思った』」
ヤチヨの目が、少し大きくなる。
「『もっと色んな人に知ってほしかった』」
「『この世界を作ってくれた誰かの事も』」
「『ただ、それだけです』」
会場中から、大きな拍手が湧き上がった。
ヤチヨは完全に固まっていた。
ヤチヨは耳まで真っ赤にしながら、視線を逸らす。
でも口元だけは、どうしようもなく嬉しそうに緩んでいた。
□
表彰式が終わったあとも、会場はずっと騒がしかった。
取材。
写真撮影。
企業関係者からの挨拶。
「『ぜひ今後共同開発を──』」
「『あなた達の理論は次世代規格になり得る』」
「『TSUKUYOMIの欧州展開についてぜひ』」
「うぅ……」
「朔夜、顔が完全に限界だねぇ」
「人多い……」
俺はぐったりしながらヤチヨを俺の後ろへ引っ張る。
するとヤチヨがちょっと笑った。
「さっきまで壇上であんなカッコいいこと言ってた人とは思えないけど?」
「別にカッコつけたつもりないし……」
「私はドキッとしたけど?」
「……っ」
さらっと言われて、言葉が詰まる。
ヤチヨはそんな俺を見て、楽しそうに笑っていた。
その後なんとか取材地獄を抜け出した俺達は、ホテルへ戻る前に少しだけ外へ出た。
ニューヨークの夜。辺りには誰もいなくて。
高層ビルの灯り。
ネオン。
遠くを走る車の音。
でも不思議と。
二人で並んで歩いていると、騒がしさより静けさの方が強く感じた。
「わぁ……」
ヤチヨが橋の手すりへ身を乗り出す。
川面に、街の光が揺れていた。
「綺麗だねぇ……」
「ん」
夜風が少し冷たい。
でもヤチヨはずっと楽しそうだった。
「ヤチヨ寒くないか?」
「うん。大丈夫だよ」
そう言いながら、ヤチヨは夜景を見上げたまま目を細める。
橋の向こう側。
ガラスの高層ビル群が、夜空へ突き刺さるみたいに並んでいた。
「……今日さ」
「ん?」
「嬉しかった」
ヤチヨが小さく言う。
「みんな、ツクヨミ知ってくれてた」
「まぁ世界規模だしな」
「うん。でもね」
ヤチヨは、少し照れたみたいに笑う。
「朔夜が、あそこで言ってくれたのも……嬉しかった」
「…………」
思い返した瞬間、ちょっと恥ずかしくなる。
「……あれは、まぁ本音だし」
「えへへ」
ヤチヨが嬉しそうに笑う。
夜風で、ヤチヨの髪が少し揺れた。
今日ずっと思ってた。
会場でも。
壇上でも。
取材の最中でも。
ヤチヨは、ずっと楽しそうだった。
自分の作った世界を、誰かが好きになってくれてる事。
そこへ入った人達が、笑ってる事。
それを本気で嬉しがっているように見えた。
「…………」
ヤチヨは、きっと根本はかぐやと変わらない。
誰かを笑顔にしたい。
ここだけは、何年経っても変わらない。
ツクヨミだって、そういう世界だった。
「……朔夜?」
気付けば、ヤチヨの事を見ていたらしい。
不思議そうに、こっちを見返してくる。
夜風が髪を揺らした。
橋の向こう側には、無数の灯り。
川面へ滲んだネオンが、ゆらゆら揺れている。
その景色の中でヤチヨだけが、やけに綺麗に見えた。
会場でヤチヨが楽しそうに笑ってた顔を思い出す。
自分の世界を好きになってもらえた事を、心から嬉しそうにしていた。
多分ヤチヨは、この先も変わらない。
ずっと、こんな風に笑うんだと思う。
「…………」
その隣に。
これから先も、いたいと思った。
ただ自然に。
当たり前に。
ヤチヨが他の誰かへ向けていた笑顔を。
これから先も、一番近くで見ていたいと思った。
「……今日さ」
「うん?」
「会場でヤチヨが話しかけられてるの見て、なんか嫌だった」
「えっ」
ヤチヨが目を丸くする。
「別に取られる訳じゃなかったと思うんだけど」
「…………」
「隣にいるの、俺がいいって思った」
ヤチヨの耳が、一気に赤くなった。
繋がった手が、少しだけ震える。
俺はその感覚を確かめるみたいに、指を絡めた。
「だから」
夜風が吹く。
街の光が、水面で揺れていた。
「これから先も、ずっと隣にいてほしい」
ヤチヨが小さく息を呑む。
その動作すら、今はなんだか愛おしくて。
俺は、そのままヤチヨを見つめる。
「俺と………」
震えた言葉は、俺の白い息と一緒に流れて。
それで、ほんの少しそれがヤチヨに届いた。
心臓の音がやけにうるさくて。
でも、ちゃんと言葉にしたかったから。
本当に、ゆっくり言った。
「結婚してくれ」
「………………」
ヤチヨの白い肌は、寒さのせいか。それとも頬の熱さのせいか。
とても赤かった。
それはヤチヨの白い前髪を綺麗に彩っていて。
そこから覗いた瞳には、夜景の光が反射していた。
「…………っ」
何かを言おうとして。
でも上手く言葉にならないみたいに、ヤチヨの唇が小さく震える。
絡めた指先が、きゅっと強くなった。
その熱だけで。
もう十分なくらい、伝わってきた。
橋の下を流れる水面が、ネオンを滲ませている。
遠くのクラクション。
冬の風。
白い吐息。
その全部が、今だけ妙に遠い。
世界規模の表彰式を終えた夜なのに。
世界中の人間から拍手を浴びた後なのに。
今、俺の視界にはヤチヨしかいなかった。
「……うれし、い……」
消えそうなヤチヨの声は確かに、俺へ届いた。
ヤチヨが俯く。
長い睫毛の隙間から、夜景の光が零れた。
泣きそうなくせに。
口元だけは、どうしようもなく緩んでいて。
「……っ」
ヤチヨが、小さく息を呑む。
ふわりと、胸元へ飛び込まれた。
柔らかい髪が首元へ触れる。
ぎゅう、と服を掴む指先が、少し震えていた。
「……うん」
下から聞こえた声は、泣き笑いみたいだった。
「ゆめじゃない……」
抱き締め返した瞬間。
ヤチヨの身体が、少しだけ力を抜く。
ずっとここへ帰ってきたかったみたいに。
街の灯りが、川面で揺れる。
まるで世界中の星が、地上へ落ちてきたようにまぶしかった。
遠くで、船の汽笛が鳴る。
ニューヨークの夜景は、映画みたいに綺麗だった。
でも多分。
今の俺には。
腕の中の方が、ずっと眩しかった。
「……さくや」
胸元へ顔を埋めたまま、ヤチヨが小さく呼ぶ。
「ん」
「ねぇ」
その声が、少しだけ震えていた。
俺は何も言わず、続きを待つ。
するとヤチヨは、俺のコートを握る指先へもう一度力を込めた。
「私ね」
白い吐息が、ゆっくり夜へ溶ける。
「ずっと、朔夜といる未来が当たり前だと思ってた」
「朝起きたら居て」
「一緒にご飯食べて」
「ツクヨミの話して」
「くだらない事で笑って」
「一緒に配信したりして」
胸の奥が、やけに温かくなる。
「でもね」
ヤチヨが、ゆっくり顔を上げる。
瞳が潤んでいた。
夜景の光が混ざって。
泣きそうなくらい綺麗だった。
「ちゃんと言われたら、駄目だった……」
「…………」
「嬉しすぎて、心臓いたい……」
そのままヤチヨは、少し困ったみたいに笑う。
「朔夜って、たまにそういうの真っ直ぐ言うから……」
ヤチヨは、少し背伸びした。
額が、こつんと触れる。
「今更かもだけど………」
近い。
呼吸が混ざるくらい。
「……大好き」
冬の夜。
その言葉だけが。
びっくりするくらい熱かった。
「朔夜が、大好き」
街の光が滲む。
川面で揺れるネオンが、やけに綺麗だった。
ヤチヨの睫毛が、ゆっくり伏せられる。
夜風が吹いた。
白い吐息が重なって。
触れた唇が、少しだけ震えて。
二つ重なった熱は、しばらく離れなかった。
???「いぇ~い!
???「ぐぎぎ………」
???「……(そっか……そうだよね)」
IFバットエンド見たいっすか?
-
黙れ、純愛しか認めんぞ
-
来い!来てみろ!かかってこい!!