彩葉に男の幼馴染がいたっていいじゃない   作:ザワザワする人

8 / 32
今回で、朔夜の武器説明を入れました。
分かんない事とかナニコレ?ってところあったら感想にお願いしますぅ。
お話の感想もお待ちしてますぅ。



矛盾

 

校舎の外では、真夏の太陽が容赦なく地面を照りつけていた。

 

コンクリートの校庭は白く光を反射し、見ているだけで熱が伝わってくる。

 

空はやけに高くて青くて、雲はほとんど流れていない。

 

風も弱く、たまに吹き込むそれも、涼しさよりは熱気を運んでくるだけだった。

 

そんな中、学校という場所だけが、時間から少し取り残されたように静まり返っている。

 

普段なら生徒たちの声や足音で満たされている廊下も、今はがらんとしていて、誰かが歩けばその音だけがやけに大きく響いた。

 

開け放たれた窓からは、遠くのグラウンドの土の匂いと、絶え間なく鳴き続ける蝉の声が流れ込んできて、空気の中にじっとりとした重さを残している。

 

どこかの教室で回っている扇風機の低い音が、規則的にその静けさを刻んでいた。

 

夏休みの学校というのは、こんなにも人の気配が薄くなるものだったかと、今さらのように思う。

 

手に持ったプリントの端が、じんわりと汗で湿る。呼び出された理由は聞いていないが、だいたい予想はつく。

 

模試の結果――いつも通りなら、ただそれを受け取って終わるだけのはずだ。

 

毎回同じだ。結果を渡されて、軽く講評を受けて、それで終わり。

 

そして順位も、だいたい同じ。

 

職員室の前で立ち止まり、規則正しく三回ノックをした後に入室する。

 

「失礼しま――」

 

「神代!!すごいじゃないか!」

 

俺の言葉を遮るように、担任の声が飛んできた。

 

「……は?」

 

顔を上げると、担任が答案をひらひらさせながら、珍しく分かりやすく上機嫌な顔をしている。

 

「今回の模試、かなりいいぞ。学年トップだ」

 

意味が、入ってこなかった。

 

「……トップ?」

 

先生へと聞き返した声が、自分でも妙に平坦だった。

 

「ああ。だからつまり」

 

担任が少しだけ間を置いて、こちらを見る。

 

「今回は酒寄を抜いた」

 

言葉にされて、ようやくその事実が頭に入って来て形を為した。

 

(……抜いた?)

 

頭の中で、いつもの並びが浮かんだ。

 

それが、ひっくり返る。

 

……はずなのに。

 

「……へぇ」

 

出てきたのは、そんな気の抜けた一言だった。

 

嬉しい、はずだ。

今まで一度も取れなかった一位。

ずっと上にいた相手を、初めて越えた。

 

それなのに――

 

(……なんだこれ)

 

胸の奥が妙に静かで、ざわついていた。

達成感も、高揚も、ほとんどなかった。

どこかに突っ張り棒が引っかかっているように、違和感が全身を襲った。

 

「ほら、見てみろ」

 

受け取って、点数を見る。

確かに高い。いつもよりも、ほんの少しだけ。

 

「どうした?あんまり嬉しそうじゃないな」

 

「いや……」

 

言葉に詰まった。

嬉しくないわけじゃなかったと思う。

でも素直に喜べる感じが、その時の俺には無かった。

 

視線を答案から外して、少しだけ考える。

 

(……彩葉)

 

あいつの顔が浮かぶ。

いつも通り、淡々と一位を取って。

たまに「惜しかったね」なんて微笑みながら言ってくる、あの感じ。

 

今回は、それがない。

 

(……いない、から?)

 

ここに彩葉はいない。

結果を聞くリアクションも、悔しがる顔も見れない。

それだけで、こんなにも実感が薄くなるのか。

 

(……いや、違う)

 

もっと別の何かが体にまとわりついて俺の体を侵食していく、そんな感触もあった。

 

「……今日、彩葉は?」

 

ふと、口に出していた。

担任は少しだけ肩をすくめる。

 

「今日は来てないみたいだ。まあ夏休みだしな。酒寄もバイトとかあるんじゃないか?」

 

「……そっすか」

 

答案を見下ろす。

 

一位。

その事実だけが、やけにこの世界から浮いている。

 

(……こんなもんか?)

 

ずっと、欲しかったはずの場所なのに。

 

「……まあ、いい経験だ」

 

担任がそう言って、書類に目を落とす。

 

「次もこの調子で頑張れ」

 

「……はい、ありがとうございました」

 

短く定型文の返事をして、答案を持ったまま職員室を出る。

 

廊下に出た瞬間、蝉の声が一気に耳に流れ込んできた。

 

窓の外は、変わらず真夏の光景。

 

(……違うな)

 

一位を取った。

 

それは確かだ。

 

(………なんか、気持ち悪い)

 

心のどこかで、はっきりとそう思った。

 

 

 

 

 

 

『さぁさぁ今回の大会もそろそろ終幕の時間です!!!』

 

『実況は忠犬オタ公で』

 

『解説は乙事照琴でお送りしてま~す!』

 

『終ぞ訪れた決勝戦!!百名の猛者達を退けてきた強者二人ぃ!!』

 

『東~!!その姿、実力ともにまさしくいぶし銀!!此度に手に入れるのは輝かしい黄金か、それとも手から溢れる白銀か!!』

 

『ヤチヨカップの順位は現在、ドンピシャ100位!!』

 

『さっくー!!!!!!』

 

『うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!』

『頑張れさっくー!!!!!!』

『結婚してぇぇぇぇ!!!!』

 

っし。よく分かんないコメントが聞こえたけど、集中集中。

 

『西~!!Black onyXのメンバー!地雷は出せないけれど、その姿はまさしく地雷系!!1F猶予の精密射撃を可能にするその手腕に、誰もが恐れおののくぅ!!』

 

『ヤチヨカップはBlack onyXの集計なんでぶっちぎりの一位!!!』

 

『乃依~~~~!!!!』

 

『うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!!』

『頑張れ乃依ちゃん~~~!!!!』

『俺の事、踏んで~~!!!!』

 

「互いに変なファンもって大変だな」

 

「ん~?結婚の方がやばいんじゃないの~?それより泣く準備は出来た?」

 

「泣くのはそっちだ………って言ったら?」

 

「や~ん。さっくーこわ~い」

 

(………こんの、クソガキが)

 

『お~っと!既にお互いバチバチの様子!!これ以上は口論になりかねません!!ってなわけで会場行きましょう!!!』

 

『勝負はもちろん三本勝負のSETSUNA!!』

 

『両者共に、遠距離武器ですがどう見ますか照輝さん!』

 

『遠距離武器、確かにそうですが両者は無論トップランカー!近距離もそんじょそこらのプロには引けを取りません!!しかし両者の武器的に近接は乃依選手が優勢やもしれません!!』

 

『皆さん一斉に!!』

 

『3!!』

 

『2!!!!』

 

『1!!!!!』

 

『0!!!!!!!!!!!』

 

『さぁ、両者テレポート!!距離はなんとなんと両者の希望により150!今大会ぶっちぎりの最長距離です!!』

 

(………ここ)

 

会場に、爆裂音が響き渡る。

 

『さぁキタキタキタ!!!さっくーの初手特大狙撃ぃぃ!!!地形をもろともしない極太ビームぅぅぅ!!!』

 

『さっくー選手の武器は、いささか特殊!巨大狙撃銃の場合、一発の火力は特大の代わりにクールタイムが設定されています。そのタイム、40秒!!あまりに長い!!』

 

『煙でなんにも見えません!!乃依選手はどうなった~!!』

 

バイク音が響き渡り、煙の中から虎に乗った乃依が出てくる。

 

「髪型崩れるから、それやめてくんな~い?」

 

『こちら余裕の回避!!ぐんぐんと距離を近づけていく!!』

 

(ま、そうなるか)

 

初手のこれで吹っ飛ぶのは、そもそも期待してない。

さぁさぁ金メダル取りに行きますか!!

 

 

 

 

「さっくーの武器って不便だよね~。俺みたいに弓使えば?」

 

「慣れすぎてて他の使えねぇよ!」

 

「………(さっくーの武器は制約が多い)」

 

「しょうがないな~。優しい俺が、弱点全部教えてあげるよ」

 

「1,そもそも制度が分かりにくい。銃まとめて銃作るってそもそも何。まぁこれは完全に俺の感性なんだけど」

 

「2,こっからガチね。クールタイムと威力が反比例曲線。ちょっと分かりにくいけど。全部バラバラの銃になった時、威力は一般兵を倒すのが関の山。でもクールタイムは全部の銃に共通でジャスト一秒。全部銃をまとめた時の真逆みたいな感じだよね」

 

「3,2からして俺達プレイヤーを倒すのにはある程度のクールタイムが必要な銃の数にするしかない。で、それでも10秒は絶対いる。回転数が遅すぎるよね~」

 

全部、戦いながら解説してんじゃねぇよボケ!!

そんな事俺が一番分かってるっての!

 

「んで4,銃はさっくーの周囲だと自由に動かせて、確かに防御に使える。けど防御で受けすぎると銃がおしゃかになって攻撃にすら使い物にならない。弱点まみれの欠陥武器じゃん」

 

「うるせー!銃は男のロマンだろうが!」

 

乃依とやる時、毎回こんな話ながらのは滅茶苦茶うざい。

集中力を切らせるつもりなのか、知らんけど。

 

「はい、俺の勝ち」

 

目の前に中距離から乃依の放った矢が、飛んでくる。

俺はそれを手、もしくわ銃で受け止める事はしなかった。

だって、別の所に気を使ってたから。

 

 

「え」

 

 

「油断してやんの」

 

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「くっそ………」

 

『おっとおっと!!まさかのさっくーが先制した~!!!!』

 

『地中に銃をもぐりこませながら、機会を伺っていたのでしょうか!!!乃依選手のおしゃべりが、敗北を呼びこみました!!!』

 

「欠陥武器に負けてやんの~」

 

「………」

 

『おっと~!乃依選手の眼がやばい!!ぶちぎれてます!!』

 

『これは分かりません!!今度こそさっくーが金メダルを奪取するのでしょうか!!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『さぁ続いて四戦目!!!一本目と三本目をさっくー選手が、ニ本目を乃依選手が取り、現在さっくーが二本。乃依選手が一本!!』

 

『ここ!!ここ乃依選手にとっては一世一代ですよ!!!』

 

『逆にさっくーにとっては玉座に王手!!』

 

『まさしく、接戦です!!』

 

 

右から薙ぎ払い、斜め左上から切り下ろし、下から切り上げ。

乃依の弓はブレードにも変形する。まともに当たったら俺ごとおしゃか。

近接されんのはやっぱきっついな。

 

「………」

 

「………」

 

互いに会話はない。

そもそも、会話してるのがおかしかったんだが。

 

(っ………)

 

乃依が後退してから射撃。三連射。

 

キンキンキン!!!

 

今ので銃が三本ダメになった。

乃依の体をぶち抜くのに、必要な銃数は10は絶対いる。

最大数は50ぴったしで、今の防御で16。

 

(地中からの奇襲はもう使えないし、SETSUNAじゃ空中には飛べない)

 

(正面突破で、穴作る!)

 

地面を蹴る。

限られた銃を展開しながら、一気に距離を詰めた。

 

『おおっと!!さっくー、ここで前に出たぁぁぁ!!!』

 

(ここしかないんでね………)

 

乃依の矢を、一本、二本、三本。

銃で弾く。砕く。逸らす。

 

火花が散る。

 

残りの銃数は、ギリギリ。

 

(通す……!)

 

ほんの一瞬で残りの銃を一か所に盾みたいに固めて、乃依の視界から消える。

 

(んでもって………)

 

『ま、股抜きぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!!!!!!体ごと乃依選手の股を抜いたっぁぁぁ!!』

 

そのまま背後へ。

俺の銃口が、乃依の背中を捉えた。

 

(……取った)

 

引き金に指をかける。

この距離、この銃数。

外すはずがないし、ぶち抜けないはずがない。

 

(終わり)

 

――の、はずだった。

 

「………っ」

 

指が、止まった。

 

ほんの、コンマ数秒。

 

(……なんでだよ)

 

撃てよ。

 

撃てば勝てんだよ。

 

ずっと欲しかった一位。

ずっと越えたかった相手。

 

(……撃て)

 

なのに。

 

(……なんで、こんな)

 

頭の奥に、ふとよぎる。

 

『今回は酒寄を抜いた』

 

『一位だ』

 

(……あの時と、同じだ)

 

胸の奥が、静かで。

でも妙に、ざわついていて。

 

 

 

(これで勝って――)

 

 

 

 

()()()()()()()()()()

 

 

 

 

一瞬の迷い。

 

その一瞬を――

 

「遅い」

 

振り向きざま。

 

至近距離から放たれた矢が、俺の視界を貫いた。

 

『あああああああああああああ!!!!!!』

 

衝撃と共に、視界が白く弾けて体が後ろに吹き飛ばされる。

 

「がっ……!」

 

地面に叩きつけられ、HPがゼロになる。

 

『決まったぁぁぁぁぁぁ!!!!乃依選手!!土壇場で取り返したぁぁぁぁぁ!!!』

 

『さっくー!!今のは完全に取れていた場面です!!!タイピングミスでしょうか!!なぜ撃たなかったのか!!!』

 

ノイズみたいに、歓声が遠くで響く。

 

(……撃てた)

 

分かってる。

 

(絶対、勝ってただろ)

 

それも、分かってる。

 

なのに。

 

(気持ち悪い………)

 

『これでスコアは2-2!!!勝負は最終戦にもつれ込みます!!!』

 

実況が何か叫んでる。

 

乃依が、何かを言ってる。

 

でも、頭に入ってこない。

 

 

 

「すみません………。休憩いいっすか」

 

『お。さっくー選手から休憩の提案です!乃依選手。どうしますか?』

 

「………いいよ」

 

『さっくー選手が休憩を提案し、乃依選手がそれを承諾!これより十五分の休憩とします!!』

 

 

 

一旦、俺はスマコンを外してベットに倒れこんだ。

 

(………俺は何やってんだ)

 

乃依に勝ちたい。この感情は、絶対嘘じゃない。

 

でもあの時の気持ち悪さが、心の底に石を置いて消えてくれない。

 

一位って、そんないいものじゃないのか?

 

プルルル

 

(いやいやいや、な訳ないだろが)

 

いやでもこれも、俺の考えでしかない。

 

(もう………分かんねぇ………)

 

プルルル

 

なんでだ。

 

どうしてだ。

 

理由も分かんねぇ。

 

なんで、俺は泣いてんだ。

 

 

プルルル!!!!

 

 

(あ、電話………?)

 

いつの間にか鳴ってたみたいだ。

 

(か、かぐや………?)

 

発信者を見れば、そこに書かれてあったのは俺が付けた名前。

とりあえず、出てみた。

 

「かぐや?一体どうし」

 

「さくや!!さくや!!やっと出てくれた!!い、いろはが!!いろはがぁぁ!!」

 

「お、おい!声でかい!落ち着け!」

 

「ご、ごめん!!!で、でもいろはが!!たおれちゃって!!!か、かぐやのせいかな………!かぐやがいろはに………無理させちゃったのかな………!!」

 

電話越しでも、かぐやが涙ぐんでいるのは分かった。

 

(でも……)

 

休憩時間は気づけば四分。

これは正式な大会だ。開催者は、ヤチヨじゃなくどこかの会社だって聞く。

これ以上の休憩延長は許されないだろう。

 

()()()()()()()()

 

(俺は………)

 

 

 




唐突の曇らせ。前話との温度差で風邪を引かないようにしましょう。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。