機関車の周囲は、再び無重力と真空に支配されていた。
ウインチから伸びたケーブルを宇宙服のカラビナに装着すると、磁力ブーツで機関車の側面を
敵の姿はガス惑星の影に浮かび上がっていた。
暗闇の中に光るスラスターの光が4つほど。
製造元や型式はバラバラだったが、どれも民間では一般的な化学ロケット艇だった。
双眼鏡で覗けば、全ての船が船体各所に推進剤の増槽を追加で取り付けている。
短い航続距離を無理やり伸ばしているのだろう。
「ありゃまあ、どうしてそんな全身爆弾みたいな装備にするかねぇ……シグレ、行けるか?」
[交差軌道を計算中……終わった。射出準備完了。]
「そっちのタイミングで撃ってくれ。」
[了解。]
ヘルメットからシグレの声が途切れると、寝台車の後ろに接続された戦闘車両が起動した。
短胴式のタンク車のようなそれは、頂点のハッチを開くと、数百の鋼球が詰まった面制圧用の電磁投射装置を展開させる。
そのびっしりと穴の空いた面が敵に向けられた。
直後、穴の奥が短く青い光を放った。
音は一切なかったが、わずかな衝撃だけが機関車を通して伝わってくる。
[交差まであと……4、3、2……。]
シグレのカウントダウンが切れる。
双眼鏡越しに見えたのは、扇状に打ち出された鋼球の網へ敵の小型艇が突っ込む光景だった。
3つの船が一斉に姿勢を崩し、空気や燃料を勢いよく撒き散らしながらスピンする。
そして虚空に3つの爆光が発生した。
「お見事さん。」
[元歩行戦車を舐めないでほしいね。こんなの朝飯前。]
「でも爆発は3つだけだ。あと1つは?」
[探してる。それより破片が飛んでくるから、早く車両の影に隠れて。]
「はいよ。」
爆発の破片が高速で飛来し、散弾のように列車のあちこちへ着弾する。
全てシールドで防いだとはいえ、肝が冷えた。
「被害は?」
[無し、ただシールド減衰率がちょっと上がっただけ。]
「そうか。残りの1隻は?見つかったか?」
[探してるけど……居ないなぁ。スラスターの光が見えない。多分切ってるのかも。]
その瞬間、ゴン!と、小さな衝撃が列車に走った。
何事かと屋根の縁から車両の下を覗き込む。
長い編成のちょうど真ん中あたり。
コンテナ車両の腹にビタリとくっ付いた2本の磁力アンカーが見えた。
[やられた!連中、下から来てたみたい!取り付かれた!]
「あれは……7両目か?」
[うん!連結器を破壊する気かも!]
「くそっ……少なくとも素人じゃなさそうだな。」
[敵の船が減速してる!乗り込んでくるよ!]
小型艇が使い捨てロケットを逆噴射し、凄まじい光が視界を埋め尽くす。
眼球インプラントが自動で光量を調整すると、すぐそこに迫る敵艇が見えた。
[衝突する!何かに掴まって!]
「了解……ぐっ!?」
小型艇が衝突し、列車全体が激しく揺れた。
敵艇は反動で列車から離れていくかと思えば、船底からアームを展開し、貨車を包み込むように保持してくる。
そしてハッチが開き、中から海賊の構成員が現れた。
「お出ましだ。援護を頼む。」
[了解、けどこっちの残弾は100発弱だからね。]
「しょっぱい経費だよ……悲しくなってくる……!」
姿勢を低くしながら、貨車の継ぎ目を渡っていく。
背後では機関車の屋根から新たに固定機銃が顔を出していた。
[降りたのは6人、船に1人か……。]
シグレは照準を敵兵に合わせると、躊躇なく発砲を始めた。
地上なら轟音が鳴っていただろうが、今はただ銃口が光り、薬莢とベルトリンクが吐き出されるだけで、何も聞こえない。
しかし実際に、口径が12.7mmの巨大な弾丸が発射されており、早速敵の1人を吹き飛ばした。
[1人倒した。あと6人。]
「ナイス、俺は裏から行く。間違っても小型艇を誘爆させるな。」
[そっちこそね。]
小型艇が載っている7両目の貨車の腹側へ降り立つ。
そして縁越しに表の側を覗き込むと、そこに居た敵兵へショットガンを向ける。
寝そべるような姿勢で、片手は近くのパイプを掴む。
「動くな……動くなよっ!」
引き金を絞ると、銃口から火花が弾けた。
放たれたフラジブル弾——脆い鉄球で構成されたそれらは、敵の宇宙服に直撃した。
鉄製の装備には弾かれたが、手足の布地やヘルメットのガラス部位は容易く貫いた。
その向こう側の血肉も。
だが銃声がしないおかげで、敵はすぐに気づかない。
その間にコッキングを済ませると、別の敵を撃つ。
だが流石にバレたようで、次に見えたのはこちらへ向けられるいくつもの銃口だった。
「やべっ。」
慌てて掴んでいた手を離し、ショットガンを撃つ。
反動で後ろに下がり、射線から逃れると、腰のポーチから虫除けスプレーを手に取った。
「ジェットパックがほしいよ……。」
腰に繋がったケーブルを握り、スプレーを噴射する。
空中から車両の底部に張り付くと、今度は先程と反対側へ飛び出す。
そして未だに自分を探している敵兵の背中へ散弾を叩き込んでいった。
発光が4回ほど続いた時、そこには敵の遺骸だけが浮いていた。
「クリア、母船の方はどうなった?」
[もう逃げてる。一目散に。]
「意外と呆気ないな。」
[ちなみにさっきの衝突で軌道がズレたから、到着が2日遅れることになったよ。]
「まじか……またアイツに説教されるな……。」
[けど海賊を倒せたから良かったじゃん。もしかすると、懸賞金が貰えるかも。]
「しまった。何人か顔面を潰しちまったよ……DNAデータが保存されてる奴だといいんだが。」
貨車に降り立つと、海賊の遺体が流れないように紐で繋ぐ。
するとその時、ガス惑星の影を抜けて、恒星の光が列車を照らした。
視界の端、海賊の小型艇のハッチに人影が映る。
[あっ、そういえばまだ船に1人……。]
「居るじゃねえか!」
すかさず傍の死体を掴み、盾代わりに自分の前に持ってくる。
そして懐から閃光手榴弾を取り出すと、小型艇の中へ投げ入れた。
艇内で強烈な光が立て続けに発生すると、爆光に構わず突入する。
敵は目をやられたのか、狭い艇内でもがいていた。
「おい、おいって……ああ、聞こえないのか。」
[オープン回線に繋いだよ。多分、会話出来るはず。]
ショットガンの銃口でヘルメットをつつく。
「おい、聞こえてるか。下手なマネはすんなよ。」
そう言うと、相手はビクリと動きを止める。
ヘルメットのガラス越しに見えたのは、幼な気な顔つきと金色の長い髪だった。
「子供?しかも女かよ。」
「う、撃たないでください!ただの雇われパイロットです!金塊のことなんか知りません!」
「……は?金塊?」
思わず眉をひそめる。
海賊がわざわざ7両目だけを狙ってきた理由が、ますます分からなくなった。
何故なら、金は値打ちのある鉱物ではないからだ。
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