パイロットの発言には困惑せざるを得なかった。
確かに金は工業用途が広く、装飾品にも使われている。
しかし値の張る鉱物ではない。
小惑星や鉱山惑星の開発で採掘量は爆発的に増え、技術発展によって採掘や精錬のコストも大きく下がった。
その結果、かつて貴金属と呼ばれたそれも、今では鉄やアルミと大差ない価格で取引されている。
よって、銀河鉄道を襲ってまで奪うような代物ではなかった。
「金を狙ってたのか?この列車の?」
「はいっ……ほ、他の人が言ってました……。」
「シグレ、積荷のデータは?」
[金属類が50トン分、金として登録されてるね。7両目のコンテナ車。]
「ふむ……で?お前さんらはどうしてここに金があると分かってたんだ?俺らでも中身までは知らない場合が多いってのに。」
「え、えと……これです。」
パイロットは2つの小さな端末を手渡してくる。
型は古いが見覚えのあるものだった。
「トラッキング装置?まさか金塊にビーコンを?」
「たぶん……。」
「ふーん、たかが金にそこまでやるかねぇ……まあいい、取り敢えずお縄についてろ。ビーコンを取ってくる。」
パイロットを拘束し、空のコンテナに放り込むと、金塊が入っているであろう7両目に足を運ぶ。
トラス状のフレームに四方を固定された2つのコンテナ。
その片方を開けると、ヘルメットのライトで中を照らす。
見えて来たのは床の半面に等間隔に積まれた金の延べ棒だった。
トラッキング装置の反応を元にビーコンを探すと、延べ棒の1本にビーコンらしき小さな円盤を見つけた。
「まったく……仕事増やしやがって……っと。」
その延べ棒を引き抜き、ぐしゃりと、ビーコンを銃床で潰す。
すると片方の装置から反応が消えた。
もう1つのコンテナにも入ると、同じように仕掛けられていたビーコンを潰した。
「シグレ、ビーコンを破壊した。パイロットは変なことしてないか?」
[うん、海賊らしからぬ大人しさだね。]
「海賊船に乗ってる時点で……ん?」
その時、ふとインゴットの一部が目に入る。
銃床でビーコンを潰し、残っていた破片も剥がした箇所。
そこが何故か銀色に光っていたのだ。
「……コーティングされている?」
ナイフを取り出すと、禿げた箇所を更に削る。
すると表層の金が剥がれて、銀色の面が更に顔を出した。
別の金塊にも同じ処置を施すと、同様に銀色が見えた。
「なあ、延べ棒を別の素材でコーティングすることってあるのか?」
[いいや?まずその延べ棒、表面に24金って刻印があるじゃん。偽装されてるよ。]
「やっぱりな……金にしては多く積まれてるとは思っていたが……。」
改めて金塊モドキの山を眺める。
通常、密度の高い金はコンテナの限界重量いっぱいに積んでも、コンテナの中身はスカスカになる。
金の山だって膝にも届かないくらいの、薄く低いものだ。
だが目の前の山は腰の下くらいまで積み上がっている。
「金より軽くて銀色の、海賊が狙うような価値の高い金属……。」
[パラジウム?]
「おいおい……冗談だろ……。」
シグレの予測を聞いて、声が震えた。
パラジウムは民間の電子産業から宇宙艦隊のエネルギー事情まで、深く関わる重要物資だ。
だから終戦後の今でも、採掘から精製、流通までを中央政府が厳しく管理している。
その影響で闇市場の価値は青天井並みに跳ね上がっている。
もしこの1本を売り払えば、高級スタークルーザーを買ってもおつりが来るだろう。
[どうする?2、3個盗っちゃう?]
シグレによる悪魔の囁きが頭の中にこだまし、グラグラと心が揺れた。
だが軍で散々痛い目を見た経験が、それを押し留めた。
「……馬鹿言え、ロジウムか銀の可能性だってあるだろ。まずパラジウムは銀河鉄道では扱わない。」
[えー、でもわざわざ価値の低いものに偽装するんだよ?きっとパラジウムだって。]
「もう忘れたのか?前もパラジウムっぽいの盗んで、実はルテニウムでしたってオチ。しかも挙句には……。]
[あの人の犬になっちゃったもんね〜。ワンワン!って。]
「い、言うなっ!とにかく!このことは忘れろ。偽造って時点でロクなもんじゃねえ。」
さっさとコンテナの外に出ると、ぴしゃりと扉を固く閉じる。
もうそのことについては忘れることにした。
——少なくとも、今は。