駅で列車から降りると、保安局の本庁へ足を運んだ。
こちらの建物は銀河鉄道公社とは対照的に、威圧感を思わせる黒を基調としている。
中に入ると、厳重な検査設備が待っていた。
「武器や金属物をお持ちの場合はこちらへ。」
「すまないな。」
検査機のトレーに出したのは2丁の拳銃。
警備車掌に支給される官給品の拳銃、
そして予備のリボルバー、個人的な私物である
弾倉とマルチツールの入ったポーチも預けると、金属探知機の門をくぐる。
するとエラー音が鳴り響いた。
元から静かなだけあって、周りの目が一気に向いてくる。
「あ、あ〜……ベルトを外してなかったかな?」
[多分、僕じゃない?]
「そうだ。そうだな。」
腕の端末を外し、もう一度門をくぐる。
今度はエラー音が吐き出されることはなかった。
「銀河鉄道公社の天城さんですね。警備車掌のライセンスを確認しました。銃はお返しします。」
「ああ、ありがとう。」
トレーから荷物を受け取る。
その時、不意に横合いから伸びてきた手がリボルバーを取り上げた。
何事かとそちらを向くと、見知った顔があった。
「これ、ちゃんと使ってくれてるみたいだな。」
「えっ、お前……コーイチか?」
「ああ、久しぶりだな。レオ。」
糊の利いた黒いスーツに、整髪料で整えられた髪。
縁なしの四角い眼鏡をかけた、真面目そのものといった男。
かつて共に戦った戦友、『
彼は敗戦後、すぐに保安局へ入ったが、地方の開発コロニーへ飛ばされていた筈だ。
「ここに居るってことは……まさか?」
「そうだ。功績が認められて、本局配属になったよ。」
「おお!そいつはいい!おめでとう!」
互いに両手を広げ、堅い抱擁を交わす。
格好や立場は違えど、かつての関係はそのままだった。
「ここにはいつ来たんだ?」
「勤務は昨日からだったよ。ようやく引き継ぎが落ち着いたところさ。それより、また海賊を倒しただろう?貨物列車が海賊の撃退なんて、お前くらいだしな。」
「へへ、バレたか。実は倒した海賊が賞金持ちでな。今日はそれで来た。」
言葉を交わしながら構内を歩いていると、ふと通路脇の部屋から一団が出てくるのが見えた。
警官に連行された彼らは私服姿で、どこかみすぼらしい。
視線に気付いたコーイチが補足する。
「あれは密輸の連中だな。多分、受け子だ。」
「密輸?流行ってるのか?」
「ああ、終戦からの急速な復興で、どこもモノが……いや、正確には運び手が足りていなくてな。だからああいう密輸ビジネスが勃興してる。」
「なるほど。ウチの路線だってまだスカスカだし、成長に置いてかれる星も多いってわけか。」
「同情はするよ。中には食料のために密輸するところもあった。」
そう言うコーイチの顔は複雑だった。
「だが、犯罪目的も多いんだろ?」
「そう、大半が脱税か密航だ。特に戦闘の激しかった宙域で起きてる。そこはまだ監視網の復旧が済んでいないからな。」
通路には海賊だけではなく、密航を試みたであろう人々の姿もあった。
彼らは老若男女を問わず、むしろ女子供の割合が多かった。
「あの集団はこれからどうなる?」
「IDの登録地か、その近辺に強制送還だ。スバルⅢの移民申請枠は向こう5年いっぱいだからな。」
「そうか……。」
「これも市民の安全のためだ。仕方ない。」
人の波を抜けたところで、共用スペースのベンチに1人の少女が座っていることに気付く。
見た目からして、未成年だろうか。
何やら深刻そうな表情をしていたが、自分には関係ない上に、何も出来ないからと、視線を逸らそうとする。
だがその直前に、ばっちり視線が合ってしまった。
「……あ。」
少女の目に生気が戻る。
嫌な予感がした。
そっぽを向き、早足でその場を離れようとしたが、もう遅い。
気付けば彼女は回り込んできていた。
「車掌さんっ!助けてください!」
「おいおい、勘弁してくれ。まず俺は車掌じゃない。」
「そんなとぼけないでくださいよ!何日も同衾した仲じゃないですか!」
「なっ、お前何を……!?」
「やだ!捨てないでくださいぃ!」
少女が外套にしがみ付いてくる。
その声色は芝居がかっていたが、指先に込もる力は必死だった。
冗談半分でしがみついているというより、本気で離れまいとしているのが分かる。
背後ではコーイチが眼鏡を光らせていた。
「ほう……これは陸奥室長への貸しに使えるかもしれんな。」
「ち、違う!誤解だ!俺はこんなヤツ……!」
そこまで言いかけて、少女の顔を正面から見た。
見覚えがある。
海賊の小型艇の中で拘束した、あのパイロットだ。
「まさか、お前……。」
「天城車掌、話の続きは別室でやろうか。」
真面目くさった声だったが、コーイチの口角は変に歪んでいる。
「お、お前!分かって言ってるだろ!」
「ブッ……んんっ、早くこちらへ。」
逃げるように道端の会議室へ入る。
しかし悲しいかな。
周囲からは白い目が向けられていた。