銀河貨物列車の警備車掌   作:ゆうぐれ

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第3話 海賊の令嬢①

「レオ、実際のところ、お前は何をやらかしたんだ?」

 

「やらかしてねえよ。コイツの言う同衾ってのは、車両の居住区画で寝たってだけだ。道中で警備隊に引き渡すまでな。」

 

「それでも同じ部屋に寝たんだろう?」

 

「アホ、海賊の隣で寝る馬鹿が居るかってんだ。部屋は複数あるよ。で、その1つにコイツを缶詰にしてた。」

 

「ふむ……期待していたほど面白くはないな。」

 

「おい。」

 

会議室に入ると、適当な椅子へ腰を下ろす。

 

だが少女はまだ外套にしがみついたままで、振り払おうとしても頑として離れなかった。

 

「いい加減離れろって。」

 

「い、嫌です。離したら私のこと、置いていく気でしょう?」

 

「分かった、置いてかねえよ。話くらいは聞いてやるから。」

 

そう言うと、少女はようやく外套から手を離してくれた。

 

「で?どうしてここにいる?普通は拘置所行きだろう?」

 

「えと……釈放されました……。」

 

「釈放?おいおい、雇われとはいえ海賊だろ?なんのお咎めも無いのかよ。」

 

コーイチへ視線を向けると、彼も肩をすくめる。

 

そして懐の端末を手に取ると、少女へ顔を寄せた。

 

「お嬢さん、まずは名前をいいかな?こちらの記録を見たい。」

 

「は、はい……名前はリタです。『リタ・K(ケラエノ)・インドミダブル』っていいます。」

 

リタと名乗った少女は被っていたフードを下ろす。

 

真っ白な白磁の肌に水色の瞳、長い金髪。

 

全体的に色素が薄く、体躯も華奢。

 

どう見たって海賊船に乗るような人物ではない。

 

「ふーん……インドミダブル(不撓不屈)ねぇ……見た目に反してたくましい苗字だこと。なぁ?」

 

軽口のつもりでコーイチを見た瞬間、背筋が冷えた。

 

彼が端末を手に固まっていたからだ。

 

驚愕に目を見開き、言葉を詰まらせている。

 

冷静沈着な親友がそんな風になるのはおかしい。

 

すぐに異常と判断する。

 

「どうした。ヤバい組織でも出てきたか。」

 

さりげなくコーイチの傍へ行き、リタから距離を取る。

 

そして外套の内側、脇のホルスターに手を伸ばし、留め具を親指で弾いた。

 

「待て。」

 

しかしグリップを握る前にコーイチの手がそれを押さえてきた。

 

「すまない。大物が出てきて、少し驚いただけだ。」

 

「大物?」

 

「ああ、ケラエノ星系は知っているか?」

 

「名前だけは。加工産業で有名だな。」

 

「そこの首都星、ケラエノβⅢの開拓を数世代に渡って推し進めたのが、インドミダブル家だ。」

 

「へぇ……えっ。」

 

思わず変な声が漏れてしまう。

 

「嘘だろ?海賊船に乗ってたアイツが……まさかお嬢様?」

 

「彼女のIDは名家のひとり娘を指している。保安局のデータが間違っているはずがない。」

 

「まじかよ……なら圧力がかかったって線もあるか。」

 

「いや、違う……。」

 

コーイチは動揺したように言葉を続ける。

 

「彼女は最初から逮捕されていない。事件記録に残っていないんだ。」

 

「海賊船に囚われていたところを偶然にも保護されたってことか?」

 

「それも違う、リタという名前すら無いんだ。海賊の生存者もゼロという扱いになっている。」

 

「おいおい……。」

 

保安局の捜査記録が改竄されている。

 

それも雑な改変ではなく、最初から何も無かったことにされている。

 

その事実が、コーイチからいつもの冷静さを奪っていた。

 

「大丈夫か?」

 

「……問題ない。こういうのは軍でも経験済みだ。」

 

「そうか。」

 

コーイチの肩を軽く叩くと、リタの向かいに腰を下ろす。

 

「で?そんな箱入りお嬢様が、どうしてケラエノからアトラスに?それも海賊船で。」

 

「えと……それは……その……。」

 

「助けてはほしいが、事情のひとつも話さないってか?随分と身勝手なもんだな。」

 

「うぅ……。」

 

リタは俯き、膝の上で指を絡める。

 

見かねたコーイチが助け舟を出そうとしたが、それを手で制した。

 

「レオ……。」

 

「コーイチ、コイツはお嬢様でも、海賊船を動かしていたことは事実だ。レールガンの弾幕を回避し、貨車にアンカーを打ち込むだけの腕はある。ただのおてんば娘ってわけじゃない。」

 

「だが17の子供だ。」

 

「分かってる。」

 

改めてリタの方へ向き直るが、彼女はすっかり小さくなっていた。

 

だが、目の奥だけは依然として折れていなかった。

 

喉まで出かかった言葉を飲み込み、小さく溜め息を吐く。

 

「せめて、どうして助けて欲しいのかくらいは話してくれ。保安局では駄目な理由も。」

 

「……はい。」

 

リタは消え入りそうな声で話を切り出す。

 

「あの貨物……覚えていますか?」

 

「金塊が載っていたやつか。海賊が狙ってた。」

 

「はい、あれは偽造されています。金ではありません。」

 

「だろうな。塗装が剥げてた。」

 

会話の内容にコーイチが反応する。

 

「待て。偽装って、密輸じゃないか。銀河鉄道からはそんなこと上がっていないぞ。」

 

「ああ、報告してないからな。」

 

「何?」

 

コーイチからの視線が懐疑に包まれる。

 

すかさず、おどけるように両手をあげた。

 

「仕方ないだろ。大尉から黙っとけって言われたんだから。」

 

「陸奥室長が?そうか、あの人が……。」

 

「もういいか?」

 

「ああ……話を折ってすまない。」

 

端末を操作し始めたコーイチを横目に、言葉を続ける。

 

「それで、何を金に偽装したんだ?予想はつくが。」

 

「……お察しの通り、パラジウムです。あれは私たちの星系で採れたものでした。」

 

「50トンのパラジウム……密輸ってレベルじゃねえぞ。」

 

「惑星ひとつ分の重要戦略物資じゃないか。」

 

コーイチは端末でパラジウムの価格を調べる。

 

「1gあたり4万クレジット……また値上がりしてるな。」

 

「えっと、それが50トンだから……。」

 

「2兆クレジットだ。アトラスクレジットに直すと、だいたい6兆だな。」

 

「ろくちょう……!?」

 

およそ身近ではない金額に目を回す。

 

「ま、まさかそれを奪う……いや、取り返すために海賊へ潜り込んだと?」

 

リタはこくりと頷いた。

 

「じゃあ、コンテナを奪えたとして、どうやって海賊から逃げるつもりだったんだ?」

 

「えと……小型艇ごと奪って逃げるつもりでした……。」

 

「ワープも出来ない化学ロケット艇でか?漂流して終わりだよ。」

 

令嬢らしからぬ大胆で無謀な作戦に呆れざるを得なかった。

 

コーイチも同じだったようで、頭に手を当てている。

 

「それはいいとして、いったい誰がパラジウムを君の星から持ち出したんだい?それも銀河鉄道を用いての密輸という形で。」

 

「それは……。」

 

リタは一度口を閉じた。

 

小さく息を吸い、何かを決意したように顔を上げる。

 

「あの、実は私の星は……。」

 

だが、その言葉は最後まで続かなかった。

 

会話をかき消すように、ガタガタと地響きが部屋全体を揺らす。

 

耳を澄ませば、廊下の側から職員の慌ただしい声が聞こえてきた。

 

「何だ?」

 

「地震……ってわけではないよな。」

 

その時、部屋に大きな影がさし込んだ。

 

窓の外に見えたのは建物の上を跨ぐ巨大な宇宙船。

 

なめらかな流線型の船体にデルタ翼を有した、優雅さと高級感を押し出したような船。

 

それを見た瞬間、リタはポツリと呟いた。

 

「……兄様。」

 

「え?兄様って……迎えが来たってことか?」

 

「レオ、船体を見ろ。あのロゴ、インドミダブル家の家紋だ。」

 

「ほーん。良かったな。これで帰れるぞ。」

 

「だ、ダメです!ここで帰っても意味がありません!」

 

リタはこちらを見上げてくる。

 

その双眸には怯えを含みながらも、凛とした強さがあった。

 

「……なら、兄様に直談判しろ。例の貨物を見せて欲しいのなら、俺に言え。まだ積み下ろしはしてない筈……だよな?」

 

「ああ、海賊に襲われたってことで、本来なら明日に検査の予定だったんだが……パラジウムとバレた場合、大ごとになるぞ?」

 

「そこはまあ……頑張ってや。お前のシマだろ?」

 

「まったく、手柄になるとはいえ、また問題を抱えてきたな。」

 

「今回は俺のせいじゃない……って、降りてきたぞ。」

 

話している間にクルーザーは発着場に着陸していた。

 

タラップが展開すると、中から数人の人影が現れる。

 

身なりからしてケラエノの人間だろうか。

 

そして後ろに続くのは黒いスーツ姿の人物と、物々しいライフルを装備した兵士の集団。

 

こちらは役人というより企業の人間に思えた。

 

「……ダメ。」

 

特に後者の一団を目にして、リタはサッと顔色を変える。

 

その細い肩は僅かに震えていた。

 

「大丈夫か?」

 

「に、逃げないと……!」

 

リタの声が裏返る。

 

「逃げましょう!彼らに捕まったらおしまいです!」

 

「予想してたのとは違う兄貴が来たのか?」

 

「いいえ、兄様ではなく、あのスーツの人たちです!あの人たちに見つかったら終わりなんです!」

 

言うが早いか、リタは踵を返して会議室の扉へ飛びついた。

 

「お、おい!」

 

「君!待ちなさい!」

 

コーイチの制止も聞かず、リタは廊下へ飛び出す。

 

後を追わないわけにはいかなかった。

 

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