何度か仮眠を繰り返しながら、18時間後、スバル47号はスバルⅡの間近に迫っていた。
その惑星は大気がほとんど存在せず、地表には赤茶けた大地がどこまでも広がっている。
しかしそんな寂しい見た目にも関わらず、都市の光は星のあちこちに点在していた。
「あれが目的地ですか?」
「そうだ。ここは見た目よりいい星だぞ。」
列車の周囲にはすれ違っていく貨物列車や、入港待ちをしている輸送船の列が見えた。
中には一般の銀河鉄道も走っており、スバルⅢとはまた別の意味で栄えていることが分かる。
「すごく沢山の船が居ますね。」
「ああ、こりゃ入るのに時間かかりそうだな……。」
通信機を手に取り、スバルⅡ側へ繋げた。
「こちら第1055番辺境航路貨物列車スバル47号、入港の許可を求む。」
[スバル47号、保安局の緊急優先権を確認しました。そのまま、グランドベイスンへ向かってください。管制所から追って指示を出します。]
「おっ、りょーかい。」
列車は船の列をごぼう抜きしながら惑星へ接近していく。
「待たなくていいんですか?」
「優先権が付いてたよ。流石はコーイチだぜ。気が利く。」
惑星が近付くと、その地表に大きな構造物が見えてくる。
廃鉱山の巨大クレーターをそのまま都市空間に転用したドーム都市『グランドベイスン』だ。
列車はクレーターの端に空いたトンネルに入った。
行き止まりで停車すると、背後で隔壁が閉まり、周囲に空気が満たされていく。
すると今度は目の前の隔壁が開き、眩しい光が差し込んできた。
「わぁ……空が青い……街も綺麗ですね。」
「人工の光とはいえ、やっぱ空は青い方がいいよな。常時夕焼けはどうも好かん。」
ドームの内側にはとても広い空間が広がっていた。
クレーターの形に沿って沢山の建物が並んでおり、中央の区画からはビル群が伸びている。
列車は途中の貨物ターミナルに降りるかと思いきや、中央のグランドベイスン駅に誘導された。
同じ銀河鉄道でも花形である旅客列車用のホームにスバル47号は入っていく。
色とりどりの洗練された車両が並んでいる中、武骨な貨物列車は正直浮いていた。
[プロキシマ・ケンタウリ行きにケプラー行き……どれも急行や快速列車ばっかりだね。]
「ウチはリタお嬢様専用の特別急行列車で、パラジウム50トンのオマケつきだ。そんじょそこらの路線とはワケが違うよ。」
[なるほど、言われてみれば。]
ホームに停車すると、外では保安局の職員が待っていた。
「銀河鉄道公社の天城警備車掌ですね?事情は橘捜査官から伺っております。後ろの貨車は海賊に狙われたものだとか。それもケラエノ星系から密輸された疑惑があると。」
「そうだ。ここからは頼めるか?追手が来る前にコレの検査をしてほしい。」
「追手といいますと?」
「私兵を連れた企業の連中だ。ぐずぐずしていると、持ってかれるぞ。」
「承知しました。」
職員が手招きをすると、作業員の一団がコンテナに手をかける。
ハッチを開けると、前に見た時と同じように金塊が積み上がっていた。
しかし簡易的な検査機にかけると、金とは違う反応が出る。
「あれ……このインゴット、中身が金ではありません。パラジウムです。」
作業員の報告に皆が目を見開く。
まさに宝の山を前にして、保安局職員も余裕を失ったように見えた。
「こ、これは大変だ……すぐに応援を呼びます。本格的な検査もしなければ。」
「ネコババされないように目を光らせといてくれよ。」
「もちろんです。結果は追って連絡します。」
「おう。」
リタを連れてその場を後にする。
すれ違いで、沢山の保安局職員と警官がホームへ向かっていった。
「……すごい騒ぎになってきましたね。」
「そりゃ全部で2兆クレジットだからな。1本無くなっただけで大ごとだ。」
「このまま何事も無ければいいのですが……それよりどこに行くんです?」
「あの様子じゃ検査にも時間がかかるだろ。先に宿でも見つけてゆっくりしようや。」
「ええ、そうですね。」
駅から無人タクシーで街に乗り出す。
幹線道路に入ると、立ち並んだ高層ビル群が目に入ってきた。
「シグレ、どっかに良い値段の宿はあるか?」
[それなんだけど……上司さんからメッセージがあるみたい。]
「大尉から?」
網膜にエリズからのメッセージを映し出す。
そこには『まさか名家の令嬢を安宿に泊めていないわよね?』という文が。
ギクリと、背筋が凍った。
[で?どーする?1泊2千アトラスクレジットの宿はあったよ?]
「中心街のホテルを取ってくれ……なるべく安いやつ。」
[おっけー、けどこのシーズンだと、どこも埋まっちゃってるね。]
シグレの言葉にホッと息を吐く。
「そうか……ならしゃーないな。適当にビジネスホテルでも……。」
[あ!あったよ!セントラルホテル!スイートルームが空いてる!]
「……値段は?」
[6万クレジットだよ。アトラスクレジットなら18万だね。]
「高っ!?」
その値段に愕然とする。
そっとリタへ視線を向ければ、彼女は驚くわけもなく平然としていた。
「な、なあ……ちなみになんだが、旅行とか行ったことあるか?」
「はい、家族でなら。」
「最後に行った場所は?」
「えっと……インディ星系です。そこの別荘に。」
「インディって……まじか、七色星系に別荘……!?」
[わーお。超高級リゾートじゃん。]
また別の意味で愕然とする。
どうやら目の前のお嬢様は予想していたよりも、遥かに金持ちだったらしい。
18万という数字を聞いても平然としているわけだ。
「……分かった。シグレ、このお嬢様に相応しい宿にしてくれ。」
[おっけー。セントラルホテルを予約するね。]
「や、やっぱり待て。それは1人分だけで俺は安宿に……。」
その時、新しくメッセージが送られてくる。
今度はコーイチからだった。
内容を要約すると『安全を考慮して、彼女から片時も離れるな』というもの。
「ぐっ……ならツインの部屋をひとつだけで……。」
更にメッセージが追加で送られてくる。
今度はエリズとコーイチの双方からだった。
片や『ちなみにだけど、宿代をケチるために未成年と同じ部屋に寝るとか……しないわよね?また縛られたいなら別だけど。』と。
そしてもう片方が『レオ、俺はお前に縄をかけたくない。分かっているよな?』と書かれていた。
まるでこの場面を見られているかのような、的確すぎるメッセージに冷や汗をかく。
「……シグレ、お前か?お前がリークしたのか?」
[誓って違うよ?まあ、レオの思考は単調だからね。ああいう頭の良い人たちから見れば、行動パターンくらいお見通しなんでしょ。]
「うるせえ、誰が単細胞だ。」
「あはは……レオンさんには良い保護者が居るんですね。」
「ああ、ちくしょう……否定できないのが悔しい。シグレ、部屋を2つだ。」
[はーい。]
シグレが決済を行うと、聞き慣れた電子音が端末から車内に響き渡る。
貯金の過半数が消し飛んだ音だった。