役目を終えた、やるべき事を全て成した筈なのに胸は苦しみでいっぱいだ。
ここに至るまでの経緯を簡単に振り返ってみる。
俺は地球に住んでいる人間の筈、だった。
ある日、急に異世界に転移したと思ったら雷に打たれて超人的な力を手に入れた。ざっくり言うと身体能力が異常に向上して電気を体から自在に発したり操ったりする能力だ。
その能力を生かしてモンスターを倒したり、あるいは人助けをしたりと充実した生活を送っていた。
だが、ある宗教、その祀られている神が勇者となる子供たちを連れてくるまでは。
種族の垣根を超えて暮らしていた俺と仲間たちの国に一方的に宣戦布告し、血なまぐさい戦いが始まることになった。
俺も親しくなった人たちを守るために戦い、多くを失った。
そこで俺は自分が何者か知ることになった。
雷に打たれた時点で俺は死んでいて、こうして思考している俺はそのドッペルゲンガー。
それも異世界の神を殺すために俺の世界の神々が異世界に誘拐された俺を加工し、作り上げた兵器である事を知った。
異世界に行く前にも因縁がある事を知り、全てが茶番であったと知り、俺は怒り狂うことになった。
全ての因縁にケリをつけ俺は俺という心が不要と感じた神々の前に招集され。
そして俺は、俺を創った神々を殺した。
神が居ない世界はいずれ破綻する、その前に新たな神が産まれるという事を差し引いても俺は許せなかった。
何故なら俺は神を殺す神の兵器、神を殺すのはいっちょ前に上手いんだ。
冗談はさておき、神を殺したのはつい先ほどだ。つまり、神々が居た空間は崩れ、俺もまた何処かへと去らなければならない。
俺は高速移動は出来ても空間跳躍の能力は持っていない。いや、恐らくできるんだろうけどやり方を知らないだけだ。
もう何もすることもない、帰る場所も、無い。
落ちるところまで落ちて、それでもまだ考えることが出来るのなら、後のことは考える。
疲れた、肉体がないのに疲れたと感じるのも人間だった名残なのか。
それとも魂がない癖に心と記憶に残っている人間の感覚が染みついているのか。
白い空間が黒く割れていき、何故存在しているのか分からない重力によって落下していく。
しばらく、もしかしたら永遠に休むことになるだろう。
白から黒へ、そして青と変わる。
…………え?なんで?
いや、もしかしたら異空間的なものは実は黒ではなく青色という先入観から勝手に勘違いしちゃってただけ?
ひゅるひゅると全身で風の音を感じているし、空気の質感は妙に生々しいというか。
落ちている最中になんだか白い靄の中に突入したと思ったら、全身がしっとりしてそのまま突破して落ちていく。
あ、これ普通に現実ですね。神々が創った空間が壊れたら速攻で地上に戻る感じ?
「いくら何でも杜撰すぎるだろおおおおおおおおお!?」
突然の紐無しバンジーに絶叫するが、実際のところ何の問題もない。
魔法や怪異が存在する異世界とはいえヒーローごっこをやっていたんだ、地上への着地は何の問題もない。
しいて言うならば下に誰かいた場合が厄介なことになるかもしれない。
空中で浮遊することも可能であるが、こうして考えている今も落下中なわけだ。変に目撃されて噂が立ち、語り継がれる怪異の様な物にもなりたくはない。
上ばかり見て落ちていたが、下を向いて落ちてみよう。
徐々に地上が見えてくるが、俺が知っている地球のようなビルや近代的な建物は見えない。
その代わりにとても大きな壁で囲われた街と大きな城が見えてくる。
地上から遠く離れた空中とはいえ、賑わっていそうな雰囲気が漂うのが伺える。
視力はいいんだ、だって兵器だからな!
さて、このまま地上に降りるのはいいんだが現地の人たちの迷惑になるのは間違いない。
幸いにも近くに身を隠せそうな森がある。このまま電磁波を纏い磁界を操作して滑空する。原理?あまり深く考える必要なないんだよ。
落下速度を殺しながら滑空し、人目につかないように…………は出来ていないかもしれないがしっかりと森へ落ちていく。
滑空しながらであるためガサガサと木の枝にぶつかりつつ、何とか地面に着地することが出来た。
いやしかし、まさかこんなに早く地上にやってこれるとは思いもしなかった。
こうなったら嫌でも人との交流は避けられないだろう。森の中でひっそりと過ごすにしても不自然な状況を創らないようにするのも難しい。
文明が発展していないという事は、現代の地球からやって来た俺は明らかに異端である技術を使ってしまう。
まあ異世界の『友人』も明らかにオーバースペックな遺物的な道具を作っていたから意義は認めるが、俺自身は兵器としての力を持っていても心は人間そのものだ。
つまり何らかのミスは絶対にする。人間という心は感情でミスを誘発したりうっかりすることもある故に神々は俺の心を消して完全なものにしようとするくらいだからな。
さて、着地自体はほとんど無音ですることは出来たが…………
『グルルルル…………』『ガルル…………』『バウッ!バウウッ!』
木の枝にぶつかりまくった時の音で狼を引き寄せてしまったらしい。
今更だが、この程度の獣は簡単に追い払える…………筈なのに何か違和感を感じる。
パワーを失った訳ではない。そうじゃなければあのまま自由落下してギャグ漫画みたいに地面に落ちた人型ができるか赤いシミが出来るかだ。
感じる違和感、目の前の狼はどう見ても生きてるのに何故か作り物のような気配がする。
毛皮の感じとかもフッサフサなんだけど若干荒いような、俺の目がおかしくなったのか。
「まあいい、来るならかかってこい」
電気ショックで軽くあしらってやろうと軽い挑発をし、狼がまさに飛びかかってくるその時。
「新鮮な人助けイベントだぁぁぁぁぁぁっ!」
誰か来るとは分かっていても、第一声がイカれてるとしか思えない台詞で少女が乱入してきた。
イベント、それが何を意味するか、この時は分からなかった。
異世界で神を殺した俺が、まさかゲームの中に入り込んでいるなんて思いもしなかったのだから。
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