「何これ」
「金グゴブリン討伐です!金がガッポガッポだぁ!」
「違う、そうじゃない。何で金色の、その、文字を持ってゴブリンが逃げ回ってるんだよ」
「細かいことは気にしちゃいけません!」
「気にしちゃダメかぁ」
金色の『グ』を持ったゴブリンが街の周囲に突如現れる。
「あ、そっち行った!」
「逃げ足速っ!金持ってるくせに!」
「『グ』を盾に使うな!変な使い方すんな!」
街の広場は、突如現れた金色のゴブリンたちによってちょっとした戦場と化していた。
と言っても、流血沙汰にはならない。彼らは基本的に逃げ回るだけで襲いかかってくるわけではないからだ。
ただ、その逃げ方が妙にウザい。
「あいつ、『グ』を投げてきたぞ!」
「文字がブーメランみたいに戻ってきた!?」
「うわっ、足元に『グ』を置いて躓かせようと……」
「こいつら想像以上に『グ』の使い方が上手い!」
プレイヤーたちの困惑と感心が入り混じった声が飛び交う。
「えぇ…………これがイベント?」
レイは腕を組みながら、目の前で繰り広げられる文字通り、『文字通り』な光景を眺めていた。
「そうですよ!倒すと結構な額のゴールドを落とすんです!」
ヘイルは既に戦闘態勢。手には片手剣が握られ、目はキラキラと金に輝いている。
「金策ってやつか」
「そう!ただこのゴブリンたち、倒すのがちょっと難しいんですよね……すばしっこいし、『グ』で攻撃を防いだりするし」
「『グ』が防具になるのかよ」
「なんかこう……絶妙にカバーするんですよね」
彼女の言う通り、金色のゴブリンたちは手にした「グ」の文字を実に巧みに扱っていた。
時には盾のように構えて攻撃を弾き時には投擲武器として使い、時には地面に置いて障害物にする。
その一文字が、まるで多目的ツールのように機能している。
「いや、濁点が浮かんでるのは何なんだよ」
金グゴブリンが持つ『グ』の濁点は『ク』に付属するように浮いており、時折その濁点を投擲物のように投げている姿も見受けられる。
頭が痛くなりそうになるレイであるが、一応ゲームの中だと無理やり納得した。
「ゴードンたちは?」
「もう追いかけてます!私たちも行きましょう!」
「わかったわかった」
ヘイルに引っ張られるようにして、レイもまた金色のゴブリンを追いかける群れの中に加わった。
「そっち行ったぞ!」
「挟み撃ちだ!」
「待って、その『グ』でまた防がれるって!」
プレイヤーたちの連携も、なかなか決まらない。
金色のゴブリンたちは知能が高いのか、あるいは単純に逃げのAIが優秀なのか絶妙なタイミングで攻撃をかわし、時に反撃まがいのちょっかいを出してくる。
「あ、今度は二体で『グ』を合わせてきた!」
「合体技かよ!」
二体のゴブリンがそれぞれ持っていた『グ』を合わせ、なぜか一時的に大きくなったそれで周囲のプレイヤーをまとめて吹き飛ばすという荒技を見せた。
「なんかもうゴブリンってより文字使いの達人みたいになってないか……」
「レイさん!こっちにも来ました!」
ヘイルの声に振り向くと、確かに一匹の金色のゴブリンがこちらに向かってきていた。
手に持った『グ』をくるくると回しながら、挑発するような仕草を見せている。
「あいつ……私が相手だ!」
ヘイルが飛び出そうとした瞬間。
「まあ、俺がやるよ」
レイが一歩前に出た。
「え?でもレイさん武器ないし……」
「こういうのはな」
レイは片手を軽く上げた。
その指先に、パチリと小さな火花が散る。
「ちょっとした電気ショックで十分だ」
次の瞬間。
ビリッ!
「グギャッ!?」
金色のゴブリンが手にした『グ』ごと感電し、その場で痙攣しながら倒れた。
「……え?」
ヘイルが目を丸くする。
「な、なに今の!」
「ちょっとした魔法みたいなもんだ」
「雷魔法!?でも詠唱も杖もなしで!しかも威力調整完璧だし!」
「まあ、慣れてるからな」
レイはこともなげに言いながら、倒れたゴブリンが消滅、その後にドロップした金袋を拾い上げる。
「ほらよヘイル」
「え、いいんですか!?」
「俺は別に金を求めてるわけじゃないからな」
「レイさん太っ腹!ていうかやっぱり強キャラじゃないですか!」
「これくらいで強キャラ扱いされてもな……」
周囲のプレイヤーたちも、今の一瞬の出来事にざわついている。
「今の見たか?」
「雷魔法であのゴブリン一撃……」
「しかもノーモーションだぞ」
「どんなビルドだよ……」
レイはその視線を軽く受け流しながら、ヘイルに言った。
「他にもいるんだろ?手伝うよ」
「いいんですか!?」
「どうせ暇だしな」
「やった!じゃあバンバン行きましょう!金ガッポガッポです!」
「がっぽがっぽ……」
レイは苦笑しながらも、次の金色のゴブリンへと視線を向ける。
ゲームのイベントというには妙にチグハグで、けれど妙に楽しいこの空気は嫌いじゃなかった。
かつて、仲間と戦ったような思い出がレイの記憶から呼び起こされるが、すぐに消えていった。
既に仲間は居ない。