さて、
その日から飛行機が上空を飛ぶと警察官が笛を吹くようになったのと、心臓に悪い防空警報に
その娘の名はソフィ・スパージョンと言い、名前だけを聞いてもインテリな雰囲気がしていた。
都会っ子が屋敷に来ると聞いて、リリーローズは居ても立っても居られず、本棚からありとあらゆる本を引っ張り出した。
「とっ、都会の女の子は、知識が貪欲なのよ! きっと私たちの話も興味をもって貰えるはずだわっ。な、何から話せばいいかしら? 切り裂きジャックの話? それともスウィーニー・トッド!?」
幸か不幸か、わたしとの出会いが一種の成功体験になったらしく、都会っ子=オカルトに理解があると認識し始めたらしい。
リリーローズはソフィがやって来るまでの1週間を興奮気味に過ごした。前日の夜はシャーリーと共に『話さなくてはいけないことリスト』なるものまで制作し、
そして
具体的にはベイカー・ストリート駅から
その日は晴れていたので、デヴァルー家の専属運転手が乗用車で出迎えた。車は時折パンッと音を立てながら、石造りの家々を抜けて、地平線の先まで続く道を進み、湖水地方の
15分ほど進めば門が見えて来るだろう。
オールド・ミンスター・ハウスは古い時代の修道院が元となっているジャコビアン様式の屋敷で、横に長いのが特徴だった。部屋数は五十前後あるらしいが、実際に使われているのはその半数程度で、立ち入り禁止の場所も多くある。屋敷の側に生えた巨大な
乗用車は使用人たちが立ち並ぶ玄関前に到着した。長女リリーローズと次女シャーリー、そして三女のヴィクトリアも横に並び、
車から降りて来たのは
老執事のホーキンズ氏がリリーローズに挨拶を
「や、やったっ。う、上手く話せそうっ」
とガッツポーズ、鼻息荒く
普段はまったく人と関わることを
その決意を感じ取ったのであろう、シャーリーは姉に向けて小さく拍手をして『応援しているぞ』と合図を送った。ただヴィクトリアに関してはリリーローズに
その後、夫人によってソフィの到着を祝す茶会が開かれた。つつがなく終わった後、夕食まで時間があったので、ヴィクトリアを除くわたしたち4人で庭園を見て回ることになった。
刺すような
木々の間から冷たい風、揺れる
蒸気と霧に
そしてリリーローズはギクシャクとしゃちこばりながら、言った。
「あの……、宜しければ、ソフィと呼んでも良いかしら……?」
「もちろん。もちろんですわ」
ここまでは良い雰囲気に思えた。だが、どうした事だろう。これらの景観はリリーローズにとってありきたりなものでしかないからだろうか、ソフィが退屈している今がチャンスと思い、
「じ、実はね、知っているかしら。こ、この屋敷は
出し抜けに亡霊がどうだ殺人事件がどうだと
「じ、実はロッジに入ったことがあるのよ。
話がノッて来たのだろう、やがてよく分からない単語まで飛び出して、リリーローズはマウンティングをとり始めた。そこから先はソフィも不味いパイを食べた時のような顔をしていたが、その日は結局、リリーローズは最後まで彼女の気持ちを察する事ができなかった。
・スウィーニー・トッド
フリート・ストリートの殺人理髪師。愛人と一緒に死体をパイに混ぜ込んで売り捌く。
・ジャコビアン様式
17世紀ジェームズ1世時代に流行した建築様式