<Infinite Dendrogram><SUBM>単独討伐RTA風 作:菌床
どうしてこうなってしまったのだろう。
そうして思い出すのはこのゲームを始めてからのこと。
映えるかな、という軽い気持ちで<SUBM>に手を出し、よく分からない内に倒した事になってしまった時。
修羅の国で<SUBM>を倒し、その特典武具を持っていることがバレた時を想像すると恐ろしくなり、討伐のお祭りが終わるまでログインせずに過ごしたこと。
下手にパーティーを組んでバレたく無いからソロでクエストを受ける事にし、荷物運びの依頼を受けて目的の村まで旅したこと。
そしてその村が襲われていたこと。
(ハッ! うち走馬灯見てた!? 避けられない死の予感って奴!?)
アルトは隠密スキルを使用しながら物陰に身を隠してた。
村を襲っている相手はマスターだが、数が多く装備からして相当な強さであることが分かるため、何も手出しできずに隠れていたのだ。
(襲ってるのはマスターだよね。ていうか頭って呼ばれてる人見たことがあるような……)
少し考え込んだアルトは、自国の情報を調べた時に見たのだと思い出した。
それも、修羅の国天地における実力者、決闘ランキングに載っていた相手だという事を。
(思い出した! 確か決闘ランキング十位の人。名前は覚えてないけど壊すことが得意そうなジョブとエンブリオだった筈……)
今村を襲っているのは修羅の国天地における決闘ランキング十位、【粉砕王】餓鬼道戯画丸。
他国ならば決闘ランキング上位五位には食い込むであろう猛者だ。
彼の率いる野盗クラン<六道混沌>は度々ティアンを襲っており、合戦の合間を狙って犯罪を繰り返すため未だに犯人として特定されていない。
人間と同程度の思考能力を持つとされるティアンを相手に殺しを躊躇わない犯罪者集団、アルトはそんな無法者達の狩場に迷い込んでしまったのだ。
どうすれば良いか分からず、無意識のうちにあやとりをしてしまう。
「あん? お頭、そこに誰か隠れてますぜ。反応からしてマスターですね」
「!?」
本来ならば【忍者】に就いているアルトの隠密を見破ることは難しい。
しかし、ここにいるのは一人一人がエンブリオという特殊な力を持つマスターの集団。
探知能力を有するエンブリオであれば、下級職であるアルトの隠密を見破る程度造作も無いとさことだろう。
「はんっ、コソコソと隠れてる辺りどうせ雑魚だろう。さっさと始末しとけ」
「へへっ、身包み剥いで売り飛ばしてやる」
幾人かの<六道混沌>ほマスター達が隠れているアルト目掛けて近寄ってくる。
焦りのあまり、ジェムの中に居る存在を呼び出す事を考慮するが、今後の天地での生活を考えると踏ん切りがつかない。
完全に冷静さを失い、手が自然とあやとりをしそうになる。
しかし、幾らアルトが焦っても相手は待ってくれない。
「っておい、アイツ女だぜ! しかもレベルも低い初心者だ!」
「マジかよ! ……でもマスターだと自害で逃げられるから楽しめねぇだろ」
「馬鹿、見逃す代わりにストリップショーさせるんだよ!」
「なっ天才かお前!?」
その言葉を聞いた他のメンバーも集まり、下卑た笑みを浮かべながらアルトを取り囲む。
こうなってはもはや隠密スキルは何の意味もない。
アルトは完全に逃げ出すタイミングを失ってしまった。
「あわわわわ!? あわわわわ!?」
「怖くないから出ておいでぇー」
「一緒に楽しい事しようぜぇ」
「自分見抜きいいっすか」
「ヒャッハー!」
「そうそうヒャッハー……ヒャッハー?」
完全に悪役にしか見えない<六道混沌>のマスター達の中に、突如として世紀末な雄叫びが混ざり込む。
自分達の中にモヒカン居たっけ?
そう疑問に思ったマスター達が声のしたほうを見る。
村の屋根の上にその男は立っていた。
トゲトゲの肩パッドを付け、黒い鎧の上から真紅のマントを靡かせる偉丈夫。
凄まじい外見のインパクトを誇る姿だが、何よりも目を引くのはその頭。
顔全体を覆うメカニカルなマスクから飛び出した、
世紀末救世主伝説から迷い込んだが如きファッションの男が雄叫びを上げていた。
(((何だコイツ……!?)))
その場に居た全員が困惑して停止する。
だが、中でいち早く反応したのは餓鬼道戯画丸。
彼は突如現れたモヒカンの全身が特典武具で武装されている事を認識した事で臨戦体制に移ったのだ。
「何者だテメェ!?」
「ヒャッハー! 俺が誰かだと? 無知蒙昧な奴だが仕方あるまい、教えてやろう──俺は神だ!」
(((何だコイツ……!?)))
自称神のモヒカンにこの場に居る全員の心が再び一つとなる。
何よりも困惑させられるのは、一切の《真偽判定》が反応しない点だ。
眼前の男が《真偽判定》を無効化するスキルを持っていなければ、本心から自分を神だと思っている異常者ということになる。
その事実に気づいた<六道混沌>のマスター達は1D3のSANチェック。
そんな状況を見かねたのか、モヒカンの横から緑髪をボブカットにした少女が現れた。
「主よ、彼らは主の名前を聞きたいのではないでしょうか?」
その少女は天使だった。
比喩表現ではなく、背中から白い羽を生やした天使。
彼女はモヒカンの横をふよふよと飛びながら助言する。
「成る程そういうことか、全く紛らわしい奴らだ、反省しなさいよね」
モヒカンはナチュラルに人の責任にしていった。
「ヒャッハー! ならば名乗ってやろうではないか! 俺の名前はモヒカンゴッド! 【大預言者】の座に就く神である!」
「なっ!?」
その名前を聞いた野盗のマスター達は驚愕した。
何故ならばその名前は特別な意味を持つからだ。
【犯罪王】を始めとした数多の指名手配犯を監獄に叩き込み、討伐した<UBM>の総数は数知れず。
そして最大の武功は、<SUBM>の単独討伐。
それこそが占師系統預言者派生超級職【大預言者】の座に就き、超級エンブリオに到達した超級。
──モヒカンゴッドなのだ。
<六道混沌>の間にどよめきが広がるが、それも仕方ない。
天地という修羅の国において超級の力を知る彼らからすれば、眼前のモヒカンはどう足掻いても勝てる相手ではないのだから。
「なっ、どうしてお前がこんな所に居やがる!? こんな辺鄙な村に一体何の用があるっていうんだ!?」
餓鬼道戯画丸からすれば、そんな大物がこんな寂れた村に来る理由が分からない。
もしや自分達の悪事がバレて指名手配でもされたのかとも考えたが、罪として裁けないラインの行動を心がけていた筈だと更に悩む。
そんな餓鬼道戯画丸に対して、モヒカンゴッドが言った言葉は意味不明だった。
「ヒャッハー! それは予感がしたからだぜ!」
「はぁ?」
「ヒャッハー! だから予感だ。ここに俺が来るべきだという直感が働いたのだぜぇ!」
「んんん、遠距離探知スキルか? それとも、お前のエンブリオは未来予知みたいなことが出来るってのか?」
「──神の行動に理由を求めるな。不敬だぞ」
モヒカンゴッドから放たれる圧に、その場に居た全員が萎縮する。
圧倒的なレベルが齎す生物としての格の違い、それを否が応でも実感させられたのだ。
理解不能、人地及ばぬが故の神だというならば、このモヒカンの精神は神に近しいのかもしれない。
一拍置いてモヒカンゴッドから威圧感が消え、雰囲気が先ほどまでのふざけたモノに変わる。
「ヒャッハー! という訳で、今からお前らを全員デスペナルティにするぜぇ!」
「なっ、おい待て! ここはまだどこの大名の領地にもなってねぇ! 俺達は何の罪もない、指名手配もされてないんだぞ! ──そ、そうだ、俺達を見逃してくれるなら分け前をやるよ。金だけじゃねぇ、この女なんてどうだ? かなりの上物だ、俺達が居なくなった後でナニをしたって誰にも分かりゃしねぇぜ!」
そう言って餓鬼道戯画丸は捕まえていた女を持ち上げて見せる。
今回の略奪が失敗に終わっても、超級を敵に回す事に比べれば遥かにマシだと考えて嘆願する。
むしろ、定期的に供物を献上して後ろ盾になってもらえれば最上だとも考え、自分達は使える存在だとアピールする目的があった。
相性はあっただろうが、それでも<SUBM>を単独討伐したということは一つの国家に匹敵する武力を有しているということ。
それが後ろ盾になれば、自分達のクランはさらに躍進出来ると考えていたのだ。
それを見たモヒカンゴッドはマスクの眼光を赤く光らせる。
「ヒャッハー! 神に対して金と女を献上するとは心得てる奴等だぜぇ」
「──な、なら!」
「だが断る」
「はぁーー!?」
上手く乗せられたと思ったのに、その目論見が崩れて動揺する。
眼前のモヒカンは意味不明な相手だが、今一つだけ確定したことがある。
それは超級が自分達を倒すつもりだということだ。
「クソッ! オイコラテメェ動くんじゃねぇぞ! 俺が不審な動きをしたと判断した時点でコイツを殺す!」
そう言って捉えていた女の体に自身のエンブリオで紋章を刻もうとする。
彼のエンブリオは触れたものを爆弾にするスキルを持つ、それを女へ使用して爆弾に変え、モヒカンゴッドへ対する人質にするつもなのである。
彼はすでに超級と戦う決意を決めたのだ。
だが、彼のエンブリオが発動することは無かった。
それだけではない、
(う、動けねぇ!? 喋ることも瞬きも出来ないだと!?)
「ヒャッハー! 俺の射程範囲に入った時点でお前らは詰んでいるんだぜ! 取り敢えずその女は避難させとくか」
「ひゃっ」
そう言うと餓鬼道戯画丸の手が緩み、地面に降ろされた女の体が勝手に動いて離れていった。
本人も自分の意思に関係なく動く体に驚いており、その様はまるで操り人形のようだ。
いや、実際に彼女には【傀儡】の状態異常が付与されている。
「ヒャッハー! お前らストリップショーが見たかったんだよな、俺が見せてやるよ」
「え、主はショタ以外の男もイケるのですか!?」
「ヒャッハー! ちょっと黙って居ようなガブリエル。……ごほん、あらよっと」
モヒカンゴッドが指を鳴らした瞬間、<六道混沌>のメンバー全員の装備が崩れ落ちる。
アクセサリーも鎧も武器も、全てが風化してして即座に崩れ落ちた。
これと同じ状態異常に【劣化】があるが、比較にならない速度で装備が破壊されている事に驚愕する。
多額の金を支払って手に入れた装備品、それは死んでも蘇るマスターにとっては命より重く、瞬きひとつ出来ない<六道混沌>のメンバーが脳内で悲鳴を上げる。
「ヒャッハー! 何全裸見せつけてんだ気持ち悪……死ね」
「主が全裸に剥いたのに……哀れな」
次の瞬間、<六道混沌>の全員が【即死】した。
熟練のマスター達が、何の抵抗もすることができずに壊滅したのだ。
その光景を見ていたアルトには何が起こったのか分からなかったが、少なくとも女の人を逃していた辺り言動はおかしいが秩序よりのマスターなのだろうと判断する。
とんでもなく強い相手が敵対することが無さそうで安堵した。
「ヒャッハー! もう大丈夫だぜぇパンピー共! 怪我人がいるなら治療してやるから名乗り出なぁ!」
「主よ、治療が終わり次第近くの大名に頼んで彼らを指名手配して貰いましょう。あそこの大名は【式姫】の件で我々に借りが有りますし、直ぐに動いてくれることでしょう」
「ヒャッハー! 賊は監獄行きだぜぇ!」
目の前で父を殺され、拷問されながら式神の素材にされそうになっていた所を助けた姫が、近くの領地を治る大名になっている。
モヒカンゴッドが彼女に掛け合えば、デスペナルティがあけるまでに指名手配されることだろう。
「ヒャッハー! そこに隠れてるマスターも出て来て大丈夫だぜぇ!」
「あ、ありがとうございます! 囲まれた時はもうダメかと思いましたぁ!」
そう言って頭を下げるアルトを見て、モヒカンゴッドは気分を良くしてで上機嫌に笑う。
素直に感謝してくる相手に対しては、素直に好意を持つのがこのモヒカンの習性だ。
そうして軽く挨拶をした後、モヒカンゴッドは村人の治療を開始した。
複数の特典武具を使用し、殺されたティアンの死体を修復し蘇生していく。
その様に村人達は何度も感謝を伝え、モヒカンの方も自分を讃える者達に気をよくしている。
アルトは今の内に依頼の品を届ける事にする。
届け先の村長も蘇生されており、無事に送り届けたことでクエストも完了することが出来て一安心。
そうして街へ戻るために村を出ようとすると、背後から声をかけられた。
「ヒャッハー! ちょっと待ちなぁ!」
「は、はいぃぃ!? 何でしょうかぁ!?」
そこに居たのはモヒカンゴッドだった。
一体何故呼び止められたのか分からず困惑するアルト。
相手が相手なだけにテンパってしまうのも仕方がない事だろう。
もしかしたら、「ヒャッハー!助けたんだから何か礼をしてもらおうか、ぐへへへへ!」などと言われるのではと緊張する。
「ヒャッハー! この辺りで合戦が始まるから、初心者の一人旅は危険だぜぇ! 良かったら目的地まで送って行ってやろうかぁ!?」
「え!? いやそんなの悪んじゃ、初心者だからお礼出来るようなお金もアイテムも無いですしぃ……」
「ヒャッハー! 初心者には優しくするのが上級者のマナーだから気にしなくて良いぜぇ! 新規が定着しないとコンテンツが廃れるぜぇ!?」
モヒカンゴッドは自分だけの箱庭でままごとに興じる趣味は無い。
様々な思惑と信念が入り混じるからこそ、この世界は面白いと考えている。
故に、新しい風を起こす可能性を持つ初心者には基本的に優しいのだ。
「そういう事なら、よろしくお願いしちゃおうかな!」
「ちょうどワンちゃんも戻って来た様ですし、早速乗り込むとしまうしょう」
「ワンちゃん?」
何だか可愛い名前だな、と思いつつ人が乗れるほどの大きな犬を想像するアルトは、もし良かったら撫でさせてもらえないかななどと思っていた。
しかし、いつの間にか巨大な影が自分達を覆ってい事に気がついた。
「──はえ?」
恐る恐る見上げると、そこには一〇〇メテルは有ろうかという巨大なガーゴイルが佇んでいる。
その存在から発せられる威圧感に意識が遠くなるような錯覚を覚えるアルト。
巨大ガーゴイルはゆっくりと跪くと、その巨大な手を差し出して来た。
まるでここに乗れとでも言うように。
「えっ、ちょ、あのこれ──」
「ヒャッハー! 早く乗った乗った! ワンちゃんは見た目は派手に怖いがいい奴だぜぇ!」
「また<UBM>を狩って来たのですか、いい働きですねワンちゃん」
ワンちゃんなんて可愛い名前からは想像出来ない超常の存在。
その手のひらに載せられたアルトは借りて来た猫のように大人しく正座している。
これなら合戦の合間を抜けていく方が気が楽だったかもしれないと思いながら、しかし今更下ろしてくださいと言う程の度胸もなく恐怖で震えていた。
「ねぇこれ搭乗者を守る仕組みとか無い感じ!? だとしたら風圧が大変な事になるんじゃ!?」
「ヒャッハー! ワンちゃんはその辺器用だから心配ないぜぇ!」
ワンちゃんと呼ばれたガーゴイルが重力を切り裂く翼を広がると、全身から赤いオーラが発生する。
そのオーラは色を透明に変えると膜のように広がっていき、外部からの風や飛翔物を弾く防壁となる。
膜の内側は飛行機の内部のように気温も一定で安全な空間へと変貌した。
「ヒャッハー! 出発だー!」
「出発ですー!」
「あわわわわわわ!?」
巨大なガーゴイルが飛び立つ。
こうして天地の辺境にて、一つの冒険が始まるのであった。