<Infinite Dendrogram><SUBM>単独討伐RTA風 作:菌床
ロレーヌ女学院の寮で一人の少女が動画を見ていた。
ユーリと呼ばれる彼女が見ているのは<Infinite Dendrogram>の動画で、その投稿者のサイトには胡乱なタイトルが並んでいた。
【祝<UBM>一〇〇体討伐記念〜有金全部使ってみた黄河編】
【墓標迷宮完全攻略〜深層崩落させたら管理AIに説教された件について】
【レジェンダリア風俗レビュー〜人間範疇生物人型編】
【情熱大陸カルディナ〜大砂漠に響く音楽教室】
【ぶっちぎり料理対決グランバロア編〜お前の味覚をデストロイ】
【天地危険人物一覧表対処法付き〜マスター編】
【不毛の土地を緑化してみた〜デンドロ世界考察対談付き】
チャンネル名は【神チャンネル】。
配信者はモヒカンゴッド。
<Infinite Dendrogram>内で各国を放浪しながら配信をする超級だ。
このゲームを配信しているマスターはかなり居るが、その中でも超級の配信者は二人しかいない。
【大預言者】モヒカンゴッドは、多くのクランメンバーを率いる【嫉妬魔王】と違い活動こそ単独だが、複数の国を巡って様々な配信をしているため人気は劣らない。
犯罪者で多くのクランメンバーを纏め、悪魔の格好をしている【嫉妬魔王】。
ギリギリ国際指名手配はされず、天使の姿をしたエンブリオを連れている【大預言者】。
色々と正反対な二人は何かと比較されることが多い間柄だが、関係は案外良好なようでコラボ企画をする事も多い。
クリスマスには【グレイテスト・ワン】を装飾して、クリスマスパーティーを開いている動画を上げていた。
モヒカンゴッドの動画だが、内容は多岐にわたるため分類するのが難しい。
<UBM>の討伐に始まり、特典武具を使った企画、コンサート、世界考察、【グレイテスト・ワン】を働かせることで大規模な作業も出来るため、毎度何をするか分からず視聴者を楽しませる。
特に再生回数の多い墓標迷宮の事件は、管理AIが出張ってくるという異常事態にトレンド入りしていたほどだ。
視聴者が引くほど説教されて凹んでいる強面のモヒカンの姿は、ネットの玩具として拡散されてSNSで使いまわされている。
こういった相手は画面越しに見る分には面白いが、直接関わり合いになりたく無いと思わずにはいられない。
だが、その願いが叶うことはなかった。
ユーリ……ユーゴー・レセップスは、カルディナのとある都市で邂逅する事となる。
◆
商業都市コルタナでユーゴーは聞き込みを行っていた。
彼は現在黄河から持ち出された秘宝、<UBM>が封じられた珠を探す依頼の協力者として活動中だ。
現在は師匠である【撃墜王】が市長の元へ協力を要請しに行っており、その間に珠が関与している可能性のある情報を調べておくように指示されていたのである。
「最近あった不審な事ねぇ、特に思いつかないが……あ、そういえば。最近浮浪者を全然見ないね」
「浮浪者や道端の死体を見なくなったことくらいだな。まあ、今の市長はまともだし、そのおかげなんじゃ無いか?」
「そうさなぁ……確かこの前夜中に浮浪者の死体を回収してる奴を見かけたくらいか。市の回収業者じゃ無さそうだったし、死霊術師もあんな浮浪者の死体なんかコソコソ集めないだろうし」
聞き込みをする中で集まった情報の大半は関係なさそうだったが、浮浪者や孤児の死体が無くなって居るという情報は気になった。
今回探している珠は使用者に『健やかなる生と、新たなる永遠の命を与える』とされる。
健やかなる生はまだしも、新たなる永遠の生という部分が死体にさえ適応されるなら何らかの関係が有ると見た方がいいのかもしれない。
死体を運んでいたという人物の情報も手に入ったし、師匠と合流しようと考えていた時の事。
隣を歩く彼のエンブリオ、コキュートスのキューコが突然立ち止まった。
「どうしたのキューコ?」
「あっちのほうから、だれかがきょうかつされてるこえがする」
現在のコルタナは、前市長の汚職が判明し新たな市長が就いている。
今の市長は汚職とは無縁の人物だが、その地位についてから間もなく、都市全体の問題を解消し切れてはいない。
特に前市長と繋がりがあったにも関わらず、その地位を失わずに罪を逃れた者達との政治闘争によって改革は牛歩のごとく進まない。
そのせいで治安もまだ悪く、人気の無い路地裏に迷い込めばゴロツキに身ぐるみを剥がれる事もしばしば。
自分たちには関係のない事で、依頼を優先すべきかもしれないが、このまま放って置くのは後味が悪い。
そう考えたユーゴーにキューコは忠告する。
「このさき、すごいさつじんすうのやつがいる。いままでで、まちがいなくいちばん」
「だとしたら尚更放っては置けない。行こう、キューコ!」
そう言って駆け出したユーゴーは、柄の悪い三人組が幼女と父親らしき親子を取り囲んでいる場面に遭遇した。
如何にも悪党といった風貌の三人組に、前にも似たような事があったなぁ、と既視感を感じる。
ユーゴーはいつでもマジンギアを出せるように準備し、悪党達へ声を発する。
「マイ──」
「ヒャッハー!「そこまでだ!」」
声が被った。
ユーゴーが自分の向かいにある路地に目を向けると、そこには一人の偉丈夫が居た。
顔全体を覆うメカニカルなマスクに、トゲトゲの肩パッド。
質のいい黒い鎧の上から、汚れ一つない真紅のマントを靡かせている。
そして左手の甲には指さす天使の紋章がある事からマスターと分かるだろう。
だがユーゴーが最も注目したのは、その頭にある
そう、世紀末風覇者風な格好に、三下のようなモヒカンを生やした男が立っていたのである。
「ヒャッハー! こんな昼間から悪行三昧とは、神であるこの俺が許さん!」
悪党共の元締めみたいな格好をした男が、自分を神と言いながら現れるという奇怪な状況に、その場の全員が硬直した。
困惑する全員を置き去りに、そのモヒカンは親子とチンピラの間に立ち塞がる。
「何だテメェは!?」
「ヒャッハー! 俺を知らないとはモグリだな。仕方ない、ヒントを出していくから三回以内に当てるんだぞ」
「はぁ?」
突然始まったクイズ大会にその場の全員が強制参加させられた。
◆
「それで、最終的に暴漢達が全員美少女にされたと」
「はい、とんでも無い絵面でした」
体が粘土のように攪拌され、美少女に作り替えられていく様は正気を削る光景であり、場合によっては年齢制限が入る事だろう。
軽くトラウマモノの光景を見せられたユーゴーは、暫く夢に見そうだと項垂れる。
モヒカンゴッドの動画では、挑んできた相手や犯罪者相手に同じ事をしている場面はあったが、途中の体が作り替えられるシーンはカットされていたので知らなかったのだ。
そして、その話を聞き終わった相手は、手で顔を覆いながら天井を見上げた。
「マジかぁ、あのモヒカンが来てるのは想定外だったなー」
合流場所のカフェで落ち合った彼女、【撃墜王】AI・I・CAはそうぼやく。
いつも飄々として掴みどころの無い彼女が、本気でめんどくさそうにしているのは珍しい。
二人の間で何かあったのか気になったユーゴーは思い切って聞いてみる事にする。
「師匠はあのモヒカンと知り合いなんですか?」
世紀末覇者風な格好に、自称神でモヒカンで、常にヒャッハーしてる不審者。
自分の師匠もかなりの変人だし、同じ超級でもある。
もしかすると、深いコミュニケーションでもした間柄なのかと気になった。
色魔の師匠であれば、美少女や美青年に相手を作り替える変態モヒカンとの相性もいいかも知れない。
ユーゴーの脳内では、サバトの如き狂宴に耽溺する二人の姿が浮かび上がっていた。
「知り合いってほどじゃ無いよ、アタシがまだ皇国に居た時に関わる事が多くてね」
モヒカンゴッドはゲームを開始してから暫くは皇国に所属していた。
アクシデントサークルでレジェンダリアから飛ばされ、せっかくだからとそのまま居着いたのである。
その間モヒカンゴッドは隠すことなく【グレイテスト・ワン】を使用しており、活動期間が短くともかなり有名になっていた。
その時に偶然フランクリンと遭遇し、【グレイテスト・ワン】を解析させて欲しいと頼みこまれたのだ。
様々な調査の結果、無尽蔵のエネルギーを生成する無形の動力炉を搭載している事が判明はしたのだが、その技術を解析することは叶わなかった。
だが、その際マジンギアの戦闘テストとしてAR・I・CAは【グレイテスト・ワン】に挑んでおり、手痛い敗北を喫していた。
当時はまだ第六形態であり、マジンギアの性能が低かった事を加味しても忘れ難い出来事だ。
そして、何よりも。
「あのモヒカンのエンブリオ、アタシの天敵なんだよね」
「天敵……ですか? 師匠は攻撃が通じる相手なら大抵何とか出来る筈では?」
「ほら、アタシのエンブリオは『危険を予知する』エンブリオでしょ。それに対してアイツは『状態異常をバフとして判定させる』エンブリオ。バフは『危険』じゃないから、予知も出来ないって訳」
如何な『危険』をも察知する事ができても、そもそも『危険』では無いモノは対象外となるのは当然のこと。
故に、AI・I・CAにとってモヒカンゴッドは、天敵中の天敵と言えるのだ。
神から予言の力を授かったカサンドラは、神との同衾を拒否した事で誰からも信じられなくなる呪いを受けた。
ならば神の意を告げる天使を相手にするのは、元の逸話からしても相性が悪くなるというものだろう。
『未来を視る』者と『正解にする』者の差がそこにあるのだ。
「そもそもアイツと相性がいい奴自体が存在しないけどね。まあ、しいてあげるなら【獣王】か【兎神】、あとは王国の【抜刀神】辺りかな。何かされる前にぶっ殺す! ってタイプじゃ無いと無理」
名を挙げられたのはどれも超々音速機動を可能とする猛者ばかり、むしろ彼らと相性がいい相手こそ限られるだろう。
「まあ、それも不意打ち出来れば、の話だけどね」
少なくとも、戦闘態勢に移行した【大予言者】を殺せる相手は片手の指で数えるほどだろう。
自身のクランである<セフィロト>なら【地神】と【砲神】ならば可能性があると踏んでいる。
或いは、似た戦闘スタイルの【疫病王】を倒して見せた“超級殺し”ならば打倒しうる可能性もあるかも知れない。
「……よし、あのモヒカンの話は置いとこう。もし珠狙いなら勝ち目ないから、狙ってないものとして行動方針決めるよ」
考えても仕方が無いことは考えるだけ無駄。
ということで珠に関与していそうな情報を擦り合わせていく事にする。
「で、市長なんだけど、アレはほぼほぼシロだね」
この都市に訪れて最初に疑ったのは現在の市長だった。
珠の性質的に権力者は喉から手が出るほど欲しがると考えたのだが、どうやら前市長と違い永遠の命を求める人柄では無い。
健康にも気を遣っているし、家族仲も良好で、悩みといえば前市長の残した複数の負債があるが、それも時間の問題でしか無い。
むしろ面倒な火種を早く回収して欲しそうで、全面的な協力を向こうから申し出てきたくらいだ。
既に捜索隊を編成しており、今回の事件を口実にして厄介な犯罪者紛いの商人達を検挙する腹づもりなのだろう。
<UBM>を封じた珠、しかも黄河との国際問題にしかならない品が都市に有るとなれば、反対派を黙らせて強硬な捜査も押し通せる。
これを機に都市の風通しをしたい、其方の捜索にも協力するから、こちらにも武力要員として<超級>の力を貸して欲しいと暗に伝えてくる程度には強かさもある。
アレは共食いでは無く、互いに利益を与え合う事で裏切りを選択肢から排する商人だ。
「そういう訳で、地道な捜査は向こうに任せよう。ユーちゃんが調べてくれた不審者の情報も今送ったとこだから、数のゴリ押しで直ぐに身元が洗い出されるだろうし」
後は捜索隊からの報告を待って動くつもりの彼女。
自分は武力要員であり、地道な捜査は性に合わない事もあって気を緩めていた。
適度に精神を休ませる事も仕事のうちであると知っているのだ。
そんな彼女の精神を一気に緊張せる話題が、ユーゴーの口から出て来るまでは。
「師匠、珠とは関係ないかも知れませんが少し気になることがあって……」
「何? もしかして、あのモヒカンが何か言ってた?」
あのモヒカンは意味不明な言動をする事が多く、突拍子も無い陰謀論めいた事を言う事がある。
大抵は気にしなくていいのだが、時として未来を知っているのでは無いかと思わせる事があり、後から思い返すと事態を予期していたとしか思えない。
まさか本当に預言者なのでは無いかと信奉するティアンや、面白がってモヒカンの言葉をまとめた本を執筆したマスターもいる。
なまじ議長という存在を知っているからこそ、あのモヒカンも近しい力を持っているのでは無いかと思わされてしまう。
まあ、所詮はそれらしい事を沢山言って、偶然当たった部分だけが強調されているのだろうと理性は告げているのだが。
「いえ、それが……」
ユーゴーの話とは、キューコが感じ取った同族討伐数の事だ。
キューコは同族討伐数に応じて対象を凍らせるスキルを持ち、それ故にその数値を体感的に感じ取れる。
先ほど路地で親子を助けた際、キューコはこれまでに無い莫大な数値を感じって居た。
ユーゴーも最初は暴漢達かと思っていたが、キューコ曰く彼ら……彼女らでは無かったそうなのだ。
ならば【大予言者】モヒカンゴッドかと考える。
“絶命宣告”という物騒極まる通り名を持つならば、かなりの数を殺害しているのでは無いかと。
しかし、キューコがモヒカンから感じ取った同族討伐数は三桁。
ギデオンの決闘ランカー達と同程度であり、かつて皇国の決闘王者だった事を加味すれば妥当と言える。
そうなれば残るのは……。
「最初は親子だと思ってたんですけど、マスターとティアンですし。マスターの方は舌足らずな子供だったので、おそらくティアンの方かと」
キューコは二人の距離が近すぎて、どちらが大量殺人者なのか判断が付かないと言って居た。
しかし、ユーゴーはあの子供が大量殺人鬼とは思えず、ティアンの方を疑がっていたのだ。
キューコに詳しい話を聞こうにも、体調がすぐれない様子で紋章に戻って休んでいる。
暫くはこのままの状態がつづくだろう。
凶悪犯罪者の可能性があるため、一応師匠に報告しておいた方が良いだろうと考えていたユーゴーだったが、師匠の顔を見て事態の深刻さを察する。
「ユーちゃん、直ぐにその二人を探しに行って。多分、ユーちゃんなら物凄く相性が良いから」
「は、ハイ!」
見た事もないほどに真剣な師匠に驚きつつも、直ぐ様店を出て捜索に向かおうとする。
だが、その時──都市全体を大きな揺れが襲った。
「「!?」」
直ぐに店を飛び出した二人は、揺れの原因を目撃する事になる。
それはあまりにも不可思議な光景だった。
街中の至る所から、白い噴水が発生している。
それは屋根を超えて噴き上がり、雨のように都市の至る所へ降り注ぐ。
否、それは
ユーゴーは足元に落ちてきたそれを見て、背筋が凍る感覚を味わう事になる。
「これは……蛆虫!?」
そう、
あまりにも気色の悪い光景を前に、悲鳴が漏れそうになるのを必死で堪える。
「何ですかコレ!? 師匠、どうしたら……!」
「──ああ、コレ下水道か」
慌てるユーゴーとは違い、歴戦のマスターである彼女は冷静に状況分析をおなっていた。
そうして分かったのは、おそらくこの蛆虫の大元は下水道に存在するという事。
そう、蛆虫が噴き出している箇所は下水道の点検のために造られた入り口、地球でいうマンホールからだ。
それしてそれは最悪の展開でもあった。
「これはマズったな〜。あからさまな条件特化型、しかも下水道に潜まれてるんじゃ手出しがし難い」
AI・I・CAは分類するなら個人戦闘型だ。
高い機動力を活かした空中戦によるヒットアンドウェイが主軸であり、広範囲殲滅は得意とするところでは無い。
一応環境汚染型の広域殲滅は可能だが、民間人がいる状況で使える手札では無い。
「取り敢えず上から様子見て来るから!」
そう言って愛機を取り出して空に飛び立つ。
心地良い音色が響き渡るが、眼下に広がる光景は地獄絵図だった。
街中で白い丘が出来ており、それら全てが蠢き人を取り込もうとしている。
このまま放置すれば、間違い無く都市そのものが飲み込まれるだろう事は未来視が出来なくとも理解出来るだろう。
「もう手遅れって事で使おうかなぁ。でも、効くかどうか微妙なんだよね」
彼女が持つ広域殲滅を可能とする特典武具は、放射線に近い呪いを無差別に撒き散らす効果がある。
出力次第ではこの都市を死の土地に出来るが、自分自身も巻き込む関係上、大量のリソースを取り込んだ古代伝説級<UBM>の命を削り切れるかは怪しい。
そんな事を考えながら蛆虫の山を攻撃しつつ飛んでいると、この状況で蛆虫以外と戦闘している存在を見つけた。
「何あれ……?」
それは巨大な骨の竜だった。
だが、骨である以外にも特徴的な点があり、それは長大な刃の如き尻尾だ。
恐るべき速度と切れ味を持つ刃を振り回し、その余波で周囲の建物が切り刻まれ更地になっている。
だが、見るからにアンデッドのその竜は、何かを守るようにその場から動かない。
そして、骨の竜と戦っているのは一人の幼女。
二振りの斧を振り回し、音速の数倍の速度で動き回り、骨の竜へ向けて縦横無尽に攻撃を叩き込んでいる。
だが、何よりも驚愕すべきは、骨の竜に体を両断されても次の瞬間には万全の状態で蘇っている事だ。
死の定義を変貌させる怪物が都市に溢れている中で、滅びを否定する超級と、死を積み重ねる超級が殺し合っていた。
「あれは【殺人姫】と【冥王】……!? 不死とアンデッドが殺し合うなんて冗談きついって。取り敢えず【冥王】は放置で、ユーちゃんは【殺人姫】の所に誘導しとこう」
【冥王】は行動指針的に現状敵になり得ないが、【殺人姫】は嵐のように手がつけられない災害だ。
この状況をこれ以上滅茶苦茶にされては堪らない。
それに、ユーゴーならば【殺人姫】の天敵になりうる存在、遊ばせて置く余裕は無いのだ。
「こういうのはあの変態の得意分野だってのに、もしかしてログアウトしてる?」
こういった敵味方入り乱れる状況での広域殲滅こそ、【大預言者】が得意とする局面。
あのモヒカンならこのような状況になれば呼ばなくても勝手に来る筈、それが無いという事はログアウトしているのか。
最悪の結果を想定しつつ、僅かな可能性に賭けてとある場所へ向かって飛翔する。
「多分だけど、あそこに居るならこの状況にも気づいてないかも!」
皇国に居た頃から彼女はモヒカンと関わる事が多かった。
だが、それは何もモヒカンゴッドが<叡智の三角>と協力していたからでは無い。
趣味が似通っていたため、自然と遭遇する事が多かったのだ。
「どれどれ〜〜、居た!」
目的の建物に着いた彼女は、センサーの特典武具で内部をスキャンする。
そして、店の一箇所に複数の熱源が密集している事を確認した。
「全く人が真面目に働いてるのに、──羨ましい事してるんじゃ無いッ!」
そう言って建物の天井を吹き飛ばす。
吹き飛んだ天井から最上階の一室を覗き込むと、甘い匂いが漂って来そうなほどの桃色空間が広がっていた。
其処には肌着で絡み合う美女達と、その中心に居るモヒカンと天使。
「ヒャッハー!? 何事!?」
「主よ! あの機体に居るのは多分女性です! また何かやらかしたんですか!? 痴情のもつれに巻き込まないで下さいよ!」
ここはどこかというと、この都市最大の娼館である。
外部の音が漏れず入る事もない密室性の高い部屋、そこでお楽しみしていたから外部の異変に気が付かなかったのだ。
自分が働いている最中に遊び呆けていたモヒカンに、羨ましさから青筋を立てるAI・I・CA。
爆殺したい衝動に駆られるが、殺ろうとしたら先に自分が殺される可能性が高いことと、周りの美女達を巻き込むと考えたことで踏みとどまる。
「外見て外! マジで大変な事になってるから! こういうのはソッチの得意分野でしょ【
「オーケー、大体分かった」
そう呼ぶとモヒカンは完全武装を《瞬間装着》で身につける。
それはいつも通りの世紀末ファッション。
とても預言者とは呼ばない姿だが、今は何よりも頼もしく感じる。
この男が居る以上、
「ヒャッハー! 蛆虫か、汚ねぇ奴らだぜぇ!」
モヒカンゴッドが壁を指さす。
すると壁が砂のように崩れ去り、都市と部屋を隔てていた物が無くなる。
そこにあった地獄絵図を見て、モヒカンゴッドは不機嫌そうに吐き捨てた。
「ヒャッハー! この神が【
それは予言、否、不確定な予言などでは無い。
これこそは神託。
絶対不可避にして、絶対遵守の命令なのだ。
「ヒャッハー! 汚物は消毒だぁぁ!!」
◆
商業都市コルタナの上空を一機のマジンギアが飛行している。
機体の銘はブルーオペラ、【撃墜王】が駆る愛機である。
美しい音色を響かせながら飛翔する機体から都市を見下ろしているのは、事の顛末を見届けるためだ。
「全く、いつ見てもデタラメだなぁ」
そう呟く彼女の眼下では、光の粒子が舞っていた。
その光は蛍の様に雅であり、天へ昇る魂の様に荘厳にも見える。
これはモンスターが死んだ時にリソースに分解される現象。
だが、その現象が街全体を覆う規模で一斉に発生しているのだ。
今都市を包んでいる光の粒子は、
都市の下に広がる広大な下水道に潜み、増殖して一気呵成に都市を呑み込もうとした古代伝説級<UBM>は、全ての群体ごと纏めて【即死】させられたのだ。
しかし、それほどの強力な【即死】効果が都市を包む規模で展開されているにも関わらず、住民にはなんの影響も与えていない。
完全になんの影響も受けておらず、体内に潜り込んだ蛆虫さえも消え失せている。
これを成したのは《予言》というスキルの力だ。
【占師】というジョブがある。
ステータスはMPとSPが良く成長し、バフ・デバフに状態異常を扱える多芸なジョブだ。
付与術師系統と呪術師系統の中間のような性質を持ち、使い方は式神に近い不思議なジョブである。
そして【占師】のスキル《予言》は、自身で任意の効果を設定して発動させることができる。
自由度がかなり高いが、ティアンにもマスターにも使おうという者は現れなかった。
何故なら、燃費が悪い上に使い勝手が最悪なのだ。
例として【付与術師】と同じ量のバフを与える場合は、範囲次第だが最低でも数倍の消費と
長大なチャージ時間を設定することで、ようやく同じ下級職程度の強化を施せる、それが【占師】。
本来なら戦う場所を予め把握しておき、複数の条件を課した上で何日もチャージしてから様々なバフ・デバフを与える運用をする。
そのため、ログアウトする必要のあるマスターではまともに運用する事は難しく、例えとしてその場で亜竜級モンスターの群を【即死】させようとするならば、【地神】並みのMPを必要とするだろう効率の悪さ。
予め戦闘するタイミングを把握していなければまともに運用することも出来ないクソジョブだが、それを活用できるマスターが現れたのだ。
そう、あらゆる耐性を素通りするガブリエルの《福音》と組み合わせれば、
勿論デバフや状態異常に限った場合だが、それでも凶悪性は変わらない。
蝿を殺せるか怪しい程度の効果しかなく、危機察知能力に優れた相手でも認識しずらいほどの力で防ぎ得ない死を齎す。
まさしく、神の如き理不尽さと言えるだろう。
モヒカンゴッドの《予言》スキルレベルEX故に自由度も高く、今回は【デ・ウェルミス】のみを対象とした【即死】【封印】の二重状態異常を都市全体に対して展開していた。
そのため【デ・ウェルミス】は、賦活能力を発揮させる事も出来ず、何も分からないまま死亡したのだ。
本来ならばこれ程の規模に《予言》を展開する事は難しい。
だが、モヒカンゴッドはメインジョブレベル一五〇〇を超えるステータスと、複数の特典武具による莫大で無尽蔵のリソースを持つ。
そのため、この規模での《予言》を連続して可能としているのだ。
「状態異常をバフ……祝福として扱わせるなんて、ホント神様みたいな性格してるよ。悪魔以上の傲慢さだね」
未来を見通す瞳を持つ彼女は、選んだ未来を正解にする男をそう評した。
◆
『ヒャッハー! 相変わらず不景気な顔をしているな。どうだ、一緒に夜の街にでも……あ、いい、そう……』
『ヒャッハー! 珠が目当てのものじゃ無くて落ち込んでいるお前に、この神が神託を下してやろう』
『汝ウィンターオーブへ向かうべし! お前が求める物は無いが、お前に救える命があるだろう!』
『ヒャッハー! 聖職者の護衛依頼でも見繕って向かうが吉だぜぇ!』
『──それと、これを渡しておこう。何かって? そりゃお前、風俗店のサービス券。あ、要らない? そう……。じゃあ市長への紹介状書いとくよ……』